カナタガタリ

すごくダメな人がダメなすごい人になることを目指す軌跡

「阿房列車」の読めない町に暮らす

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二連続で便乗記事かよといった感じで恐縮である。

記事というよりは長めのブクマコメだと思っていただければ幸いである。

妻がゴールデンカムイにおいて「鯉登少尉」を偏愛していることは以前述べた。今週のヤングジャンプには劇中にも登場した鯉登少尉のブロマイドが付属するという。早速ヤングジャンプ発売日の木曜日朝、最寄りのセブンイレブンにて買おうと思った。なかった。

入荷数が少なかった? 鹿児島の民にとって鯉登少尉ブロマイドが余りにも魅力的だった? そういったことを考えつつ、今度は金曜日に複数コンビニを回った。なかった。これはおかしいぞもしかして合併号などで発売日を勘違いしていたのか? とTwitterをチェックすると獲得ツイートが散見された。最後の書店で問い合わせると、台風の関係で入荷が遅れているということだった。

本日土曜日に何とか手に入った。

台風どうこうではなく、改めてああ、ここは「中央」から遠く離れた場所なのだと実感した。

また先日筆者はついに刀剣乱舞にて陸奥守吉行に極となってもらったが、京都国立博物館では「京のかたな展」が開催され、陸奥守吉行をはじめ多くの名刀が展示されている。が、京都へ行くには路銀も時間も厳しいものがある。

京都と言えばかつて訪れるとき、阿房列車を買って道中で読もうと考えた。kindleにはなく、近隣の書店になく、図書館にもなかった。この町で「阿房列車」を読もうとした時、注文する他ないと知ったときのあの喪失感というか敗北感というか、単純に言えば格差を感じた。

テレビで東京の週末グルメを紹介されてもどうすればいいんだという思いになったりもする。

流通やメディア、SNSの発達で世界は狭くなった。けれどドアを開ければ東京他の大都会に繋がっている訳ではない。かえってそのギャップに苦しめられる時もある。

井の中の蛙が容易に大海を知ることが出来るようになった現在が良いのか悪いのか筆者には判らない。

土方歳三流に言うならば、「しれば迷いしなければ迷わぬオタの道」と言ったところか。

過去の視座にて月見を論ず―― あるいは本日発売「月光バーガー」を食べた話

いきなり引用で恐縮だし読者諸賢においては釈迦に説法かもしれないがこのような記事がある。

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わかる……と思った。思うだけでなくスターを連打したりしていた。

マクドナルド現象、という言葉があるらしい。食事を何にするか決めあぐねているとき、マクドナルドが挙げられると「このままではマクドナルドに決まってしまう」という危機感が煽られ逡巡が急速にヒートアップするのである。

この言葉を知ったとき筆者は衝撃であった。子どものころの筆者にとってマクドナルドはイベントであったから。長じて自ら食を選ぶようになってからも、常に優先順位の高いところにマクドナルドはあった。

筆者はかつて学生時代、53kgであった。大人用でなく、普通の子ども向けのライダーベルトが腰に巻けた。卒業の頃は60kgくらいになり、太ったな、と思っていた。BMIによる適正体重は65kgであった。

学生時代、特に食を絞っていたわけではない。今から思えば中高の部活で補欠なりに鍛えた燃費の悪い筋肉のおかげで消費されていたのだろう。

バイトの帰り、深夜2時。左に折れれば松屋、右ならマクドナルド。今日はどちらにするか――そんな幸福な悩みがあったことは今でも思い出せる。LLセットを頼みまくり、グラスがアホほど貯まったものだ。今からでも間に合う。テキサスバーガーをレギュラー化してくれ。

さて社会人になった。仕事はドアtoドアのデスクワーク。移動は車。帰宅は深夜。食事は移動の合間にとることが多く、必然、ファストフードやコンビニ食が増えた。そして運動はほぼ皆無になった。

太った。いや肥った。記録した体重の最高は86kg。そのあたりで考えることをやめたが、瞬間最大風速は90kgを超えていた可能性もある。エターナルドライバーが悲しく煤けていった。

これはいかん、と一念発起し、まずは根本的な部分ということで転職をすることにした。転職することで、基本的には終業+1時間程度の残業で帰れることになった。21時以降の飲食を極力しないようにした。朝の目覚めは良くなり、体重は74kgまで落ちた。いつの間に出ていたんだ…? こんな明るいところに。

その後責任ある立場についた。プレッシャーで食欲は落ち、そもそも食べる時間が減った。1日食べない日もあった。それでもあまり問題に感じなかった。体重は62kgになっていた。1年半前のことである。

そこで筆者もやはり、まず解禁を考えたのがマクドナルドであった。

でも、それがいけなかった。

訳ではないがなんだかんだでいつの間にか77kgに戻っていた。今は何とか72kgにまで戻したが、適正体重まで10kg近くある。現在の適正体重は63kgである。縮んでんじゃねーか。

ということでマクドナルドからはしばらく距離を置いていた。日頃何でも「どんどんおやりなさい」と言ってくれる度量広き妻も「マックはねえ…今はいいでしょう」と言ったスタンスへ変化していた。(普段はえびフィレオを愛する妻である)また、妻が健康を考え自炊を増やしてくれており、そもそも外食が減っていた。

8/29、たまたま一人で食事をしなければならない時が来た。読者諸賢はお察しの通りこの日は月見バーガー解禁日であった。夏の終わり…秋の訪れ…それはTUBEからのオフコースであり、マクドナルドにおいては月見バーガーの到来なのであった。マクドナルド戦線復帰にこの上ない好機であるように思われた。が、辛抱した。今ではないと。予感というより確信であった。一人のマクドナルド者としての。

そして今日が訪れた。妻は帰省し、筆者は一人食事をせねばならなかった。

――敵は一人……お前も一人。

――何を畏れる必要がある……恐怖を捨てろ……前を見ろ……。

――進め……決して立ち止まるな……!
――喰えば肥えるぞ……逃せば泣くぞ……叫べ、我が名は――
「クーポンの852番お願いします」

「かしこまりました。月光バーガーですね」

――「月光!」

シールが貼っていないほどの盛況ぶりであるようだった。

君なんか写真と違わない? などと野暮天なことを言いそうなのでベールは剥がず側面のみのご紹介となるが、圧倒的肉の説得力があった。満足である。

満足……本当にそうなのだろうか?

華金のこの時間、発売日当日にマクドナルドの新商品……。

なるほど素晴らしい。感動的だ。だが――

誓ったんだよ……。

絶対に食べるってな……。

――……誓い……だと? 誰にだ。

誰でもねえよ……。

ただ俺の――……魂にだ!!!!

卍解・「夜倍王黄金月見宴特大奉天薙刀

という訳でチーズ月見・黄金月見・倍ビッグマック・倍ダブルチーズバーガー・特大ポテナゲというドリームチームを食して夜は更けていくのだった。滑舌が悪かったのか何故か注文した覚えのないマックポークベーコンもあるのだった。黄金月見こいつ、涼しい顔して夜に紛れ込んではいるが隠しきれない朝マック感があるな…(うまい)

 

 連休明けからはしばらく徒歩通勤で頑張ろうと思う。

好きな斬魄刀は「劈烏」、好きな解号は「水天逆巻け」好きな十刃は「アーロニーロ=アルルエリ」好きな単行本は44巻「VICE IT」です。何はともあれ月光バーガーをVICE! いやBITE! 

あ、これはクォーターパウンダーか。

追伸

食事をおいしそうに撮るのが上手な妻、早く帰ってきて。

BLEACH モノクロ版 44 (ジャンプコミックスDIGITAL)

 

https://twitter.com/iei_premico/status/1041854319845228544?s=19

バーニャ!あるいはゴールデンカムイ15巻感想

ゴールデンカムイ 15 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

ゴールデンカムイ15巻限定版が出るということを知るや否や妻が予約してはや3か月余り、発売日(本日)。何故か筆者は電子版を手にしていた。仕方ないんだ……鹿児島の物流が遅いから…一刻も早く読みたいから…表紙が月島軍曹だから……。こんなことをしたのは戦国無双4以来である(トレジャーボックスがkonozamaでDL版を購入)。

ということで鉄は熱いうちに打て、感想は熱いうちに語れ、ということで咀嚼しきれていない感じではあるがそのままに書き留めることにする。限定版の茨戸アニメについては鑑賞後、項を分けるか、加筆するかで感想を残していきたいと思う。

温度差がすごすぎて眼鏡が曇りそうな巻であった。

※ということでゴールデンカムイ15巻までのネタバレがあります

突然のファイトクラブ

気が付くと肉付きがよくなっている谷垣一等卒を尻目に、(いや、尻を出しているのは谷垣一等卒なのだが)月島軍曹がどの場面でもそつなく立ち回る。杉元は相変わらずアシリパさんが原動力である。鯉登少尉は育ちがよさそうである。(アドリブがきかないともいう)気がついたら脱いでいるから困る。月島軍曹も背は小さいもののさすが職業軍人の体つきである。彼らを見初めた……というと語弊があるかもしれないが、とにかくロックオンした男の名は岩息舞治。また都丹庵士を彷彿とさせる当て字っぽいキャラクターだなと思って調べてみると、「マイケル・ピーターソン」という人物がモデルであるらしかった。(トム・ハーディ主演で映画になったりもしているらしい。)マイケル→マイハル、ピーター→岩(ギリシア語の「ペトロ」はもともと岩、石の意味であるらしい。ためになった)、ソン→息、ということか。よくできている。目がキラキラしている奴はやばい、というのはゴールデンカムイを読む上での合言葉であるが、やはりこいつもやばかった。対峙する杉元もやばかった。錯乱し、スタンドめいたラッシュを繰り出す始末。集英社だからってやっていいことと悪いことがあるぞ。別にそのせいではないが傷ついた(体はぴんぴんしているがメンタルの方が)岩息をメダパニ状態の杉元以外の一行は追いかけそして……バーニャ!

なるほど~バーニャカウダってここからきてるんだな~熱いしな~と思って調べてみたらバーニャカウダというのは北イタリアの郷土料理で「バーニャ」は「ソース」「カウダ」は「熱い」を意味するらしく、特に関係なさそうであった。カウダ!

バーニャ内でのやり取りは岩息にスケベマタギのお株を奪われた感があったが、その後無事チカパシに勃起継承したのは見事だった。脚以外に添えるスタンドもあり安定感抜群の射撃だ。ジュウ~~ってお前。文字通り頭を冷やした杉元も正気に戻るが、マジで妙案とは何だったんだろうか。今んとこ殴り合うための口実にしか思えないが。思いついたら加筆しようと思う。

ヘッドショットは過信するな

場面変わってアシリパ組。色々あったけど、アシリパは元気です。ヴぇあっ。アシリパさんに食べさせてもらいながらヒンナしない尾形、杉元がいれば確実に3回は殺されているところである。ヘッドショットでトドを仕留められず、咀嚼もしきれずいぶかしむ尾形。「強い奴を倒すときは頭を狙うな」と何の気なしにいうアシリパ。そしてそれをどこか冷めた目で見るキロランケ。何気にサボったことで杉元がモチベーションを上げるきっかけを作った白石はなんだかんだキーパーソンである。

地獄への道は善意で舗装されている

そして第7師団である。鶴見中尉はまあ死ぬんだろうけどもその中でも二階堂に殺される確率がかなり高いんじゃないかなあと思っていたのだが(俺に殺させるって言ったのに杉元を殺した/他の奴に殺させたの逆恨み)この感じだとなさそうである。

鶴見中尉が郷土料理の話を相手がしたくなるタイプのフェロモンを醸し出しているのかどうかは知らないが、カネモチ、鮟鱇鍋に続き、いごねりのご登場であった。読者に提示される「真実」が二転三転し、特に咀嚼に時間がかかるエピソードだ。模範的軍人であると思われていた月島軍曹が過去は悪童であったこと、父殺しという衝撃的な過去、そして(例えばこの巻でも143話などの表紙に代表されるように)執拗なまでにファーストネームが明かされなかったことにやはり意味があった、月島軍曹にとって基と呼んでくれる人はかけがえのない人であり、そしてもう(少なくとも彼のそばには)いないということであったという描写にはしみじみと感じ入った。そのヒューマンドラマを狡猾に利用して月島軍曹を掌中の玉として得る人たらし・鶴見中尉の恐ろしさにも。過去編はオールスターの様相を呈して画面が豪華だな、といつも思う。大トリにあの不死身男が親友と出てくるのも前回を踏襲していながらもニヤリとしてしまう。

そういえば月島軍曹の初登場は、外国人との外国語を使った交渉であったな、と今更ながら思い出したりもした。

鶴見中尉は二階堂に殺されそう、と先述したが、同じくらい月島軍曹に殺されそうだな、と今までは思っていた(江渡貝君への仕打ちとかが納得していない感じだったので)が、これはなんだかんだ鶴見中尉をかばって死ぬパターンなのか…と思ったりもした。

今回も3か月待ち望んだ分の満足度は間違いなくあったのだが、困ったことに早速3か月後が待ち遠しくなってしまっている。次は12月。冬の北海道物産展とともに迎え撃ちたい。

蛇足・妻の感想

ああ~月島軍曹を夢女子の皆様が熱烈に支持していたのがなんとなくわかった気がする……。

 

 

 

 

アリアドネの糸の顕現、あるいは「オカルト・クロニクル」書籍版感想―秋の夜長の怖い本その2

余談

今週のお題「おじいちゃん・おばあちゃん」

自治会の敬老会にお呼ばれされ、大正琴から音を出してきた。(演奏と言えるレベルではなかった)思いのほかしっかりステージが設営されており、その一方でリハーサルもなくヨーイドンであったが懐かしソングをセレクトしたので参加者の皆さんが口ずさんでくださり、救われた思いであった。ギャラという訳ではないが昼食も頂いた。本人自体が魅力的であればよいのだが、そうではないので、こういう時に「何もできませんが一曲位できます」で場を繋げられたらいいなあ、と考えて楽器を始めたので目的が達成できてうれしい。月末はまた別の所で弾く予定がある。やはりダイレクトに自分のしたことに対しての反応が見られる、というのはブログとはまた違った中毒性がある。「反応」が好意的なものが増えるように頑張っていきたいのはいずれも同じであるが。

さて帰り道、他人様の祖父祖母をお祝いして自らの祖母はほったらかしであったので電話をすることにした。といっても祖母宅の固定電話は詐欺か詐欺めいた営業電話が99%になって久しいのでとうとう今年初め解約してしまったのでかけるのは叔母の電話である。叔母が出たのち、祖母がおずおずといった形で電話に出る。筆者は出来うる限りの声で祝賀を述べるが、暫くしてやはり叔母が電話に出、「今日もやはりよく聞こえなかったようであった」と告げた。筆者の声は低く小さく、祖母の耳はここ最近格段に遠くなってきていた。また、「声を聴くぞ」という意欲も乏しくなってきているように思う。ではまた直に顔を見せに行きます、と言って電話を切った。

今年の夏は御存じの通り酷暑であり、祖母―父―筆者と続く「変なところが頑固者」ラインのルーツである祖母はやはりというかなんというかエアコンをなかなか使おうとせず、衰弱しているようであった。もしかしたら今年の夏を超えられないかもしれない、と8月に母から話も聞いたが、なんとか持ち直してくれたようであった。といっても10が100に戻った訳でもなく、せいぜいが30程度であろう。今度は冬がやってくる。祖母は熱い風呂が好きであるからヒートショック現象が実に心配である。

あと何回祖母に会えるだろう。曾孫を見せることは出来るだろうか。少しでも後悔をしないような日々を送りたい。祖母とのことに限ったことではないけれど。

他方妻側の祖父・祖母は義母方がお二方とも健在であり、妻にも電話をするように勧めたが、折悪しく留守の様であった。

義祖父は学校の先生をされていたこともあり、80を超えられても外出されることが多いようである。が、車の免許は今年のお誕生日に自主返納されたようであるから、以前よりは外出が減ったらしい。長年の趣味に碁があるのだが、そのためか碁会所でなくネット碁の方に最近は切り替えられているらしい。碁そのものだけでなく、懐かしきニフティサーブめいた「昭和〇〇年生まれ集合!」といったようなトピックにも参加してやり取りされているようで、筆者の5倍はエネルギッシュである。妻曰く、「女性を仄めかしているのでフレンド申請がめちゃめちゃくるが、私に言わせれば未亡人めいているときとそうでないときがあるので設定の詰めが甘い」らしい。真偽は不明である。

義祖母は東洋工業――現在のマツダ――に勤めた。若き熱血教師であった義祖父がぬ~べ~めいて「よーし! お前ら! ご飯食べに行くぞ!」と生徒を引き連れて家計にダイレクトアタックしても社員時代保有していた東洋工業株のやりくりによって家計を支えたという。極度にカープを愛するタイプの淑女であり、妻のここ最近の心配事には「カープには日本一になってほしいがそれにより心残りをなくしてしまった祖母がすっと往生してしまったらどうしよう」というものがあったりする。野菜を栽培され、変わったところではブルーベリーを作られたりする。干し柿も作られ、実は先程の筆者の祖母の大好物であったりする。

以前も書いたが、結婚する、ということの面白さ、有り難さは普通は下にしか広がっていかない家族が上にも展開していくことだと思う。不詳の義理の孫に、そこここで気をかけてくれる自慢の祖父祖母が増えるなんて、果報者である。

お2人とも筆者の祖母より年下であり、しっかりされていらっしゃるが、妻に言わせればそれでも以前と比べればかなりの変化が見られるということで、ご自愛いただきたいし、(筆者もそうであるが)初孫である妻をもっと頻繁に規制させてご他愛もしていただきたい、と思う。結論としてはそのために明日からまた仕事を頑張ろう、ということになる。

本題

余談が、ながくなった。さて秋の夜長に相応しい、知的好奇心を刺激する本を紹介するシリーズの2回目になる今回は松閣オルタさんの「オカルト・クロニクル」である。同名のWebサイトの記事の書籍化となる。出版社は洋泉社さんであり、読者諸賢には「秘宝」シリーズで特になじみ深いかもしれない。丁度この間、実家から持ってきた「特撮秘宝」の横に並べるとンン~実に「なじむ」といった感じである。洋泉社同士は引かれ合う、といった感じである。洋泉社=引力! である。一応言っておきますが洋泉社さんと当ブログは一切関係ありません。

再び余談

さて筆者は実家の自室を傾けてしまった反省から、また利便性の向上から別記事にあるように本の購入を電子書籍メインにして久しいのは以前の記事にもあるとおりであるが、先日ツイッターでハッとさせられたのは「子どもにとって、『家の本棚』がないというのは不幸ではないか」といったような言説であった。わが身を顧みるに、確かに家の本棚というのはとても重要であると思う。それは読書という見果てぬ世界への入り口であり、また超えるべき最初の壁であろう。電子書籍にその役割が果たせないとは思わないが、しかし目の前に物理的に存在するその「圧」はやはり紙書籍にはかなわないだろう。「あれば本が増える」ので今まで本棚を我が家には設置していなかったが、再考の時期が来ているのかもしれない。

再び本題

さて「オカルト・クロニクル」といえばオカルト・クロニクル特捜班と諸兄連合の血で血で洗う抗争の歴史――ではなく書籍版の「まえがき」にもあるように「デタラメや誇張、デッチ上げや捏造」を排した先の「本物の探求」を続けて来たサイトである。

未解決事件、都市伝説、そのほかオカルトな事象。我々の暗い知的好奇心を刺激するそれらは、ネット上ではまことしやかに「真実」が語られていることが多い。

「テレビでは語られていないが、地元では〇〇で決着済み」

「事件後に掲示板で書き込まれた内容によると――」

「この事件は〇〇だってことを知らないなんて情弱」

それらを摂取し、咀嚼した我々は知らないうちに色眼鏡をかけられたまま以降はその物事についてあたり、ことによっては拡散してしまったりもする。

それらを松閣さんは一つ一つ拾い上げ、考察し、そしてまとめ上げる。大変な労力と根気のいる仕事であるが、軽妙なストーリーテリングで開帳されるので読む側としてはどんどんと読み進めることが出来る。そして、自分が普段馬鹿にしていた「ネットde真実」そのものであることを恥じ入る――のは筆者だけかもしれないが、目からウロコをだいぶ落とさせていただいた。

「良栄丸事件」という恐怖の幽霊船があった。

「井之頭公園バラバラ殺人事件」は巨大組織が後ろにいないと不可能な犯罪。見せしめとして殺された。

実は「京都長岡ワラビ採り殺人事件」には難を逃れたもう一人の主婦がいたが犯人によってその後殺されてしまった。

ヤクザの娘を暴行したことにより毎週見せしめにヤンキーが殺されていった。

坪野鉱泉へ肝試しに行った女の子がヤンキーに暴行され、山頂のマンホールに遺棄された。

ヒバゴンは優しい生き物。ていうか猿。

赤城山神社で失踪した主婦は浮気相手と駆け落ちした。傘を差しだしている映像が証拠。

仮に読者諸賢がこれらが真実だと思われているのであれば、早速「オカルト・クロニクル」を決断的購入されるべきである。うろこが落ちることによるダイエット効果も期待されるかもしれない。

勿論、それらをご存じないが興味が引かれるという読者諸賢も購入されるべきである。

構成としては歴代の人気記事+「怪奇秘宝」寄稿記事2件、書き下ろし記事1件となっており、既にオカルト・クロニクルのWebサイト版を丹念に読み込んでいる読者諸賢としてはクッ……アーティストのベストアルバムみたいな構成にしやがって……くやしい……でも買っちゃう……と思ったりちょっと躊躇したりしてしまうかもしれないが、購入する価値は十二分にある。

Webベースの記事は横書きをスクロールし、時にはクリックして次ページへ向かう、という行為がなくなり縦書きで再構成され物理的にパラパラめくることが出来るようになっただけでも有り難く、ディアトロフ峠などメンバーのより詳細なデータが1ページずつでまとめられているなど加筆部分もある。(他方、権利関係の問題かメガテンの「あの場面」が収録されていなかったりなどすることもある。また、諸兄連合にとっては溜飲を下げる画像が収録されていないことに憤りを覚えるやもしれない)

「怪奇秘宝」は筆者が居住している近辺の書店では取り扱いがなく、もだもだしているうちに本書に収録が決定したので購入するタイミングを逃したのだが、(今見たらAmazonで取り扱いがあるじゃありませんか買おうかな)筆者のような人間や、ムックサイズはなかなか置き場が……という方にもおすすめである。オカクロ読者で「ワラビ採り殺人」や「セイリッシュの怪」に全く興味がありません、という方はあまりいないのではないだろうか。

勿論、本書書下ろしである「赤城神社主婦失踪事件」も力作であり、ネットの「定説」を現場検証により覆していく様は推理小説さながらの読み応えである。

また、個人的にはオカルト・クロニクルさんの記事のサムネイル画像がとても好きであるので、裏表紙や帯、白黒ではあるが各章の表紙で物理的に存在している、というのがなんだかとてもうれしかった。オカクロサムネ画像トレーディングカードとかあったら買います。永谷園のお茶漬けに封入してくれたりしないだろうか。

個人的には「熊取町7人連続怪死事件」のサブタイトルはWeb版の「初七日に友が呼ぶ」の方が好きだったなあ、ということ以外は大満足の書籍化であった。是非第2弾、第3弾と続刊を希望したい。

松閣さんは本書にて現実にはアリアドネの糸が、あるいは蜘蛛の糸が存在しないと嘆かれていた。しかし、筆者のようなともすればすぐにドラマチックな仮説に流されがちなオカルト好きにとってオカルト・クロニクルさんはまさしく警鐘を鳴らし、導いてくれるアリアドネの糸であるし、それは書籍化という形で具現化したことで、より存在感と説得力を伴ったように感じる。

蛇足・ぼくのかんがえるオカクロ記事BEST3

ところで今回の出版にあたって収録記事を参照したとき、筆者の考える「オカクロBEST3」は実は井之頭公園の事件以外収録されていなかった。別に異端アピールをするわけではないが、その記事ももちろん素晴らしい記事だと思うので仮に未読の方がいるとするならば是非ご一読いただきたい。そして多数いると思われるWeb版を制覇した読者諸賢においては是非、諸賢の考える「オカクロ記事BEST3」をご教授いただきたい。

第3位(次点より繰り上げ) 毒ガスの香る町―消えた怪人マッド・ガッサー

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スレンダーマンのような「欧米のそういう創作モンスター」と思われがちなマッドガッサー。日本では悪魔絵師金子一馬氏デザインの印象が強いこのマッドガッサーは実在の不審人物であった。マッドガッサーは誰なのか。そのガスの正体は。魅力的な謎が推論の果て恐らくは真実であろう結論に辿り着く記事。

第2位 誰も知らない、世界最長の物語―ヘンリー・ダーガーの秘密

okakuro.org

NHKあたりでやっていそうな重厚なドキュメンタリーを観た気分になる記事。筆者は書きたいものを書きつつ、やはり他者の反応が大好物というか、重きを置いてしまう人間であるので、一人の創作者としてその熱力に敬服させられた。

第1位 青ゲット殺人事件――都市伝説となった事件

okakuro.org

筆者がオカルト・クロニクルさんに辿り着いた思い出深い記事。「赤毛布の男」と聞いてピンとくる方もいるのでは。青ゲットはなぜ赤毛布となったのか。彼は何者で、どこへ消えたのか。はるか明治の事件の資料を収集し、分析し、考察する。自分がただ「こわいなあこのコピペ」と思っていた話に対してそのように向き合う方がいると知って深夜、事件の恐怖に震えながらも敬服したことを覚えている。事件の夜のように寒々とした気分になったところに、結びの一言が刺さる。

以上。そういえば、UFO記事は一切収録されていなかったのでUFO単体の書籍の話が進んでいるのでは……と淡い期待をしてしまったりする。陰鬱な記事を見た後にはヘッチャラ星人に限りますね。(記事アドレスがhead-cha-raなのもポイント)

okakuro.org

オカルト・クロニクル

 

オカルト・クロニクル

オカルト・クロニクル

 

 

 

 特撮秘宝もまさに新刊が出ているではありませんか。

寺生まれのTさんVS事故物件、あるいは「怖い間取り」感想―秋の夜長の怖い本その1

余談

9月になった。冷夏が続こうが猛暑であろうが今年もなんだか時が過ぎるのが早い。相変わらず冷房はほぼつけっぱなしだし(先月の電気代は9000円近かった)日中は30度を超えているが、それでも少しずつ過ごしやすい気温になってきている。豪雨の復興を祈念しつつ内田百閒氏についての記事を書こうと思っているうちにひどい台風で大阪が、地震で北海道が被害を受けた。どちらも訪れたことがある場所であり、そこが非日常に陥っているのにのほほんとしていることで勝手につらくなってしまうが当然そんなことは誰も望んでいないので、とりあえず久々にスシローに行って北海道産のものを食べたりした。

ブログに関しても9か月が過ぎ、先月は「注目記事」にランクインする記事を2つ書くことが出来てうれしかった。やはり昨日よりも、明日よりも、今の記事が一番いい、と言えるようになりたいと思う。他方、「西郷どん」記事はちょこちょこ書いてはいるものの下書き状態から抜け出せていない。本日大政奉還という節目を迎えたので、小出しに更新しなくてはと思う。「はきゅー」の時もそうであったが、批判にはエネルギーがいるのである。お待ちいただいている読者諸賢がもしいらっしゃるのであれば、いま少しご辛抱いただきたい。連休のうちに片付けたいものである。

最近は土日も有り難いことにイベントが多く、また寝苦しかったり逆に冷房がハッスルして寒かったりと睡眠が安定しないこともあってか、先日久しぶりに金縛りにあった。

筆者は霊感というものは一切ない。と思う。金縛りについても年に何回かなることはあるが、それは明らかに一般的に言われている「体は疲れているけど脳は起きている時に起きやすい」という条件をバッチリ満たしているからであって、何か超自然的なことは関連していないと思われる。が、毎回金縛りにあった時は念仏は唱える。

始めに金縛りにあったのは大学生の時で、毎回深夜バイトの後、自室で寝ている時であった。昼夜逆転現象により脳が覚醒しっぱなしになっていることによったのであろう。体は動かず(しびれたような感じである)、目は開けられるような気がするが開けることに何故だか恐怖がある。目をつむってそのまま意識を落とすことにたいへん甘美な誘惑があるのだが、一方でそうなると2度と目を覚ませないという確信に満ちた予感もある。呼吸は苦しく、丁度水の中のようなしんどさがある。当時の下宿先は二部屋あり、寝床と隣室は磨りガラスの障子で隔てられていたが、そちらからひたひたと何かが来ているような気配を感じる――と言った塩梅。念仏を唱えつつ(これは魔除けというよりもそれによって落ちそうな意識を保つという意味合いで毎回唱えている)どうにか体を動かせるようになるとぶわっと汗が吹き出し、心臓は早鐘のよう。慌てて障子の方を向くがそこには当然誰もいない。体が一気に脱力し「何かが出て行った」ような感覚に陥るが、緊張していた筋肉が弛緩した故であろう。霊感のない自分でもなるんだなあ、とぼんやり思ったのを覚えている。その部屋では都合3回くらいなったように思い、いつも障子(自分の背中側)に何かが迫ってくるという気配は同様であった。

社会人になってからはこれまた定番の「上に誰かが乗っているような感覚」タイプの金縛りにも遭遇したが、基本的には(この間あった金縛りも)何かが背中から迫ってくる感覚と、眠りにおちたらそのまま死ぬという強迫観念、が筆者の場合金縛りとしてセットで現れる現象であるようだ。金縛りバリューセットである。ちなみに今、金縛りにあった当時多分ツイートしてたよな~とTwilogで検索しようとしたら見慣れない「現在アクセスできない状態です」という画面が出てきてちょっと怖かったです。こんなの初めて。

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ちなみに上記下宿は広島市中心部で6畳+10帖で4万円とリーズナブルであったが特に怪奇現象などはなかった。日当たりが悪いので時々気分が暗く(セロトニン、偉大)なったり一度ドアノブをガチャガチャされたことはあったが。後、入居時はコンロがなかったので退去時に感謝のつもりで購入した二口コンロをそのまま置いていったら(管理会社にはお伝えした)後、処分代を請求されたのはちょっと凹んだ。

金縛りという名の筆者の生理現象の話だけで終わっても仕方ないのでせっかくなので物件に関する怖い話を一つしておく。筆者の持つ数少ない自らが体験した出来箏である。

バイトを始めて暫く経った頃、もう季節さえあいまいだがバイト仲間が急病のため、深夜自転車をバイト先へ走らせていた。と、車道を挟んで向かい側の建物に目がいった。白い服を着た黒髪の女性――ようなもの――が建物入り口、集合ポストの横で体育座りなのか、しゃがみこんでいるのか、そういった姿勢をとっていた。髪で顔が隠れていたのか、それとも顔を伏せていたのか、とにかく顔は記憶にない。白い服は薄手で、病院服のような印象があった。明らかに異質だった。生身の人間だとしても、そうでなくても不気味だった。バイト後に恐る恐るやはり反対側から確認したが、その時は影も形もなかった。ちょっと心が不安定な痴話喧嘩カップルだったと思いたい。

 

本題

余談が、ながくなった。読書の秋である。ということで本日、3冊の本を購入した。(kindleの積み本については今は不問としていただきたい)これにもう1冊先日購入した本を加えて、今月は毎週「秋の夜長の怖い本」と題して本を紹介していきたいと思う。

ということで第1回は松原タニシさんの「事故物件怪談 怖い間取り」である。妻がTwitterで話題になっていることを教えてくれ、早速探したのだがなかなか見つからず、本日ようやく手にすることが出来た。あんなに見つからなかったのに、見つかるときは何冊も平積みされているのだから本の縁というのは不思議なものである。

既に8刷まで刷られており、各所で話題であるので今更筆者が言及するのも読者諸賢にとっては釈迦に説法であるが、松原タニシさんは本業は松竹芸能の芸人さんであって「事故物件に住む」という虎穴に入らざれば虎子を得ずを実践されている方である。実家はお寺ということで筆者は「寺生まれのTanishiさん…実在したのか…」と謎の感慨を抱いたりした。

内容は大まかに

・タニシさんの住んだ事故物件

・お知り合いの事故物件

・出張! なんでも事故物件鑑定団

(分類は筆者による)といった感じになっており、ボリュームもあってまた事故物件に住む者同士は引かれ合うなどスタンド使いめいた展開を見せながらアプローチにも変化がつき、飽きさせない。

本書の特色は何といってもタイトルにあるとおり「間取り」であろう。各エピソードには間取り図(時々物件ではなくスポットのことがありその場合は周辺図)が冒頭に挿入され、一見すると普通の間取り図なのだが「黒いシミ」「塗りつぶされた鏡」「歪んだ外枠」「墓石」などしれっと不穏な情報が書き込まれており、ツカミが完璧である。

途中、「どこからでも死ねる部屋」「2年に1回死ぬ部屋」など闇のビフォーアフターかよと言いたくなるようなキャッチフレーズのついた「事故物件間取りギャラリー」もあり全国の間取り図ファン必見である。

文体は淡々としており、シンプルでありながら読みやすい。さすが長年話芸を鍛えている芸人さんだな、と感じる。「話を盛る」ことの逆、無駄をそぎ落とすことで要素が際立ち、間取り図と相まって読者の脳裏にかえってリアルに出来事が立ち上ってくる。怪異に対して推測、考察が最後に入ることもあれば、そうでないこともある。初期の耳袋をイメージして頂いてもいいかも知れない。余韻を残す、というよりは突然ロウソクをふ、と吹き消されたような話の閉じ方はいい具合に不安感を煽ってくれる。

事故物件である、ということは間違いなくそこに死が介在している。その厳粛な事実とライトな文体のギャップが何とも言えず、怪談のような、ドキュメンタリーのようなとにかく他に分類しがたい体験をさせていただいた。因みに筆者が一番ゾッとしたのは「井川さんの部屋」。読者諸賢も是非お読みいただき、「推し間取り」を教えていただきたい。続編の上梓及び松原さんの今後のご健康を祈って結びとする。

事故物件怪談 恐い間取り

 

事故物件怪談 恐い間取り

事故物件怪談 恐い間取り

 

 ちなみに間取り愛好家諸賢(本書を読まれてその傾向が芽生えてきた方を含む)にはこちらもおすすめである。怖くはないです。

間取り図大好き!

 

間取り図大好き!

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天の光はすべて星、あるいはPRODUCE48最終話までの感想とガチ予想検証

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Rollin' Rollin'組で今すぐデビューしてくれ…頼む…。

最終順位の感想と予想検証

さていよいよPRODUCE48が最終回を迎えた。なかなか波乱のある最終順位だったように思う。前回は生放送中にも中間発表があったというように聞いたが、今回は当落線上の四人の順位のみ。これもかなり結果に影響したと思う。前回の予想順位を検証しつつ、感想を述べていきたい。

kimotokanata.hatenablog.com

第12位 イ・チェヨンさん(筆者予想:圏外)

いきなり筆者は敗北を喫したわけである。予想時点ではチェヨンさんは非常に個人的好感度は高いのだが、国民プロデューサー諸賢にはイマイチハマらず、ギリギリで涙をのむであろう……と考えていた。その後、順位発表式前にやたらと好意的な編集が行われたことでかえって脱落がほぼ決定しているゆえの「思い出編集」ではないか? とその予感は高まった。(中西智代梨さん脱落時にそういった傾向があった。というか中西さん株雑誌に連載持っているのか。今知った。)が、それによる「かわいそうベネフィット」「俺が支えなくちゃブースト」が発生したのかまさかの3位に急上昇。そのことで多少油断を生んだか順位は大きく落としたものの、見事デビューした。今までの道のりは決して遠回りではなく、より大きく飛ぶための助走であったことを証明してほしい。今後も宮脇さんと友情を深めていってほしいと思う。


PRODUCE48 [최종회] 앞으로 잘 부탁해 최종 데뷔 평가 무대 180831 EP.12

第11位 キム・ミンジュさん(筆者予想:圏外)

筆者、連敗。前回予想ではカン・ヘウォンさんと傾向が被るため、最終的にはポンコツ並び立たずといった形で日本人練習生との友情や放送分量などの関係でカン・ヘウォンさんの方を筆者は選択したのである。

が、ミンジュさんもまた果敢にセンターに挑戦するなど確実に成長しつつ、美貌を傘に着ず物まねを見事にこなすなどヘウォンさんとはまた違った成長を遂げていた訳である。あいつも100日間頑張った練習生なんだ…侮ってはいけなかった……!


PRODUCE48 [단독/직캠] 일대일아이컨택ㅣ김민주 - Little Mix ♬Touch @댄스_포지션 평가 180720 EP.6

第10位 キム・チェウォンさん(筆者予想:圏外)

筆者、2度あることは3度ある。妻が韓国人練習生で初めから(エンディング妖精のころから)最も推していたメンバー。特にグループバトル評価でのカチューシャ姿が妻を完全に射止めてしまったようである。その後のコンセプト評価もまるでディズニープリンセスの如くであった。モデル雑誌に登場しそうな所謂「女性受け」タイプlevel100といった感じであって、こういった投票ものとはちょっと相性が悪いか……と思ったが見事ランクインを果たした。素の性格は大人しめというのは本当なのだろうか。


PRODUCE48 [단독/직캠] 일대일아이컨택ㅣ김채원 - 트와이스 ♬OOH-AHH하게_1조 @그룹 배틀 180629 EP.3

第9位 本田仁美さん(筆者予想:5位)

筆者の敗北は続く。最終話で言われていたように本田さんは他人と競うというより自分と戦い続けていたように思った。「大福」と言われファンから愛されながらも本人はちょっとコンプレックスに思っていた節がある頬も、韓国人練習生からも「武器」として認められ、自らもそのように使い始めたようであるのは感慨深い。ダンスと可愛らしい歌声で日本人の存在感を大いに発揮してほしい。


PRODUCE48 [단독/직캠] 일대일아이컨택ㅣ혼다 히토미 - I.O.I ♬너무너무너무_1조 @그룹 배틀 180629 EP.3

第8位 カン・ヘウォンさん(筆者予想:6位)

筆者は呼吸するように敗北。本番組での伸びしろ第1位なのではないだろうか。まだまだ伸びる要素もあるだろう。地獄から来た清純ラッパーは見事デビューという蜘蛛の糸を掴んだのである。しかし、デビュー曲でもラップするのだろうか……。


PRODUCE48 [단독/직캠] 일대일아이컨택ㅣ강혜원 - 블랙핑크 ♬붐바야_2조 @그룹 배틀 180629 EP.3

第7位 クォン・ウンビさん(筆者予想:7位)的中!

おう俺は筆者。あきらめの悪い男……。静かにしろい。この的中が俺を甦らせる……何度でもよ……。正直発表時点ではちょっと厳しいかな……とも思っていた(傾向として俺が何とかしなくては! 系の練習生のランクインが続いていたので)が、見事デビューを果たした。「Rumor」の格好良さとゲリラライブのウンビちゃんで~す(はあと)の落差など、最後まで加点要素が安定して出たのが良かったのかもしれない。今回のメンバーでは貴重なお姉さんメンバー。活躍(お守り?)が期待される。


PRODUCE48 [단독/직캠] 일대일아이컨택ㅣ권은비 - ♬Rumor @콘셉트 평가 180817 EP.10

第6位 矢吹奈子さん(筆者予想:2位)

油断したところの敗北はダメージがデカい。加点要素しかなかったように思うのでこの順位は意外。逆に言えばやはり「この子は俺が何とかしなくては!」というエネルギーが向かいにくかったことがこの順位に落ち着いた原因か。勿論デビューだけでも立派な結果であることは間違いないが、もっと高順位を狙えたのではないかと思う。しかし次世代エース筆頭である矢吹さんの活動が制限されてしまうわけだが、HKT48は大丈夫なのだろうか。もしかしたらあともう一つ伸びなかった理由は、そのあたりを気にして無意識に投票にブレーキがかかったのかもしれない。


PRODUCE48 [단독/직캠] 일대일아이컨택ㅣ야부키 나코 - ♬너에게 닿기를 @콘셉트 평가 180817 EP.10

第5位 アン・ユジンさん(筆者予想:8位)

負けたことがあるということがいつか、大きな財産になる。はい上がろう。典型的な「人気があるから自分が投票しなくても大丈夫だろう」で実人気に比べ票数が伸び悩むタイプだと思っていた(事実直前の結果発表ではデビュー圏外に落ちていた)のだが、直前の結果発表がうまいこと火をつけたらしい。是非万能ラッパーとして活躍してほしい。意外と楽屋芸人なのもポイントである。


PRODUCE48 [단독/직캠] 일대일아이컨택ㅣ안유진 - ♬I AM @콘셉트 평가 180817 EP.10

第4位 チェ・イェナさん(筆者予想:10位)

ランクインするとは思っていたがここまで上位とは思っていなかった。8位くらいの発表で半ばあきらめていたりした。直前のパフィーマンスは普段の陽気なキャラクターとは一転して小悪魔的なムーブであり、TLを眺めても明らかにそのパフォーマンス、センターぶりは好評ではあったがしかし上位陣の壁は厚いと考えていたからだ。生放送投票の力のすごさを思い知った1件であったかもしれない。


PRODUCE48 [최종회] 반해버리잖아? 최종 데뷔 평가 무대 180831 EP.12

第3位 チョ・ユリさん(筆者予想:圏外)

イェナさんとどちらかは入る…と思っていたが日本のバラエティのことを考えるにつれ、あとは筆者個人の愛着の差でイェナさんを予想では入れた訳だが、見事ランクインを果たした。アイドル学校時代からの応援が実ってファンも感無量であると思う。そのストーリーの熱量を見誤った筆者の敗北である。あと、単純になんかどんどん美人さんに(可愛い系の)なっていると思う。ボーカルがどのように炸裂するか楽しみだ。


PRODUCE48 [단독/직캠] 일대일아이컨택ㅣ조유리 - 워너원 ♬에너제틱 @보컬&랩_포지션 평가 180720 EP.6

第2位 宮脇咲良さん(筆者予想:9位)

余りにできすぎているストーリーゆえに国民プロデューサー諸賢が反発するのでは? と思ったが、やはり1pickになると今まで培った人気が爆発するのだなということを思い知らされた。総選挙と違い、誰に詫びるでもなく、しっかりお礼を言い、笑顔で締める、しっかりとした挨拶をしてくれたのも嬉しかった。日本人練習生1位としての誇りをもってグローバルアイドルとして頑張ってほしい。個人的には「世界選抜総選挙」で1位となった松井珠理奈さんとPRODUCE48を制した宮脇咲良さんとでいわば王座統一戦のようなガチンコが見たかったが、はじめの一歩の一歩と宮田のようにかなわぬ夢になってしまったのは残念であったが。


PRODUCE48 [단독/직캠] 일대일아이컨택ㅣ미야와키 사쿠라 - ♬다시 만나 @콘셉트 평가 180817 EP.10

第1位 チャン・ウォニョンさん(筆者予想:1位)的中!

終わり良ければ総て良し。やはり国民プロデューサー諸賢も「色のついていないセンターを選びたい」という心理が働いたのだろうか? そうでなくとも完全にウォニョンさんは全編通してPRODUCE48の主人公の一人であったと思うので、そこまで驚きはない。発表日が誕生日というのもさすが持っている、といった感じだ。ただ、3位にチョ・ユリさんが呼ばれたときはさすがにドキドキしたが。(1~3位が宮脇さん、ウォニョンさん、カウンさんの中で決定すると思っていたので)正しくこれからキャリアがスタートするわけで、これだけのメンバーの中でトップに(しかも複数回)立ったことを誇りに思い、自信をもってセンターを務めてほしいと思う。


PRODUCE48 [단독/직캠] 일대일아이컨택ㅣ장원영 - ♬Rollin′Rollin′ @콘셉트 평가 180817 EP.10

結果:完全的中2名、ランクイン的中8名

ということでランクインメンバー予想としては3/4ということになった。「入り口」としてのはたらきを期待したワン・イーレンさんが20位以内に残らず、年長メンバーが3名も落ちたのは衝撃であった。特に後者は「ストーリー」ありきだと考えていた筆者にとってカルチャーショックですらあった。いや、イ・カウンさんは落としたら駄目だろ……山本彩さんが卒業し精神的支柱を失うNMB48に白間さんの伝手で加入してもらってはどうか。典型的な「俺が頑張らなくても誰かが頑張るだろう」を見せつけられたようで胸が痛い。キリンちゃんずで明日にでもデビューしてほしい。

見終えて

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あっという間の3か月弱であった。始めは韓国人練習生の顔と名前が一致しなかったが、今ではずっと一致しなければ別れの時こんなにもつらいことはなかったのに……とさえ思うくらいに皆に愛着がわいてしまった。審査員の先生方にさえ湧いてしまった。また、国民プロデューサー代表のイ・スンギ氏においては初めは「こいついつも立ってねてんな」程度にしか思っていなかったが、適時練習生たちに的確な助言を与えたりオレンジを投げ返してくれたりさすが代表と敬服する次第であった。

とりあえず番組サイドには

・お色直しシーン(ドッキリのメイク紹介シーンでもよい)など未公開シーンの配信

・手紙、練習ノートを合本、翻訳して猿岩石日記よろしく発売する

・IZONE冠番組の一刻も早い製作

を期待したい。残念ながらデビューできなかった練習生諸君にもまた別の形で出会いたいものだ。過去シーズンも別ユニットでデビューした練習生が沢山いるという。心揺さぶられるシーンが多かったPRODUCE48であるが、とうとう泣いてしまったのはTwitterでキム・ナヨンさんの手書きのメッセージを見た時であった。皆それぞれの100日間があった。それはきっと今後場所は違うとしても花開くはずである。天の光はすべて星、「君の星になる」と歌い上げた時点で彼女たちはすでに光り輝く道を歩み始めているのである。例え国民プロデューサー諸賢が光を当てそこなったとしても。願わくば国民プロデューサー諸賢を地団太を踏んで悔しがらせるくらい色んな所でジャジャーン! と現れてビッカビカに輝いてほしい。

私はこの恐ろしいドラマだけは感想を書きたくなかった――「悪魔が来りて笛を吹く」を視聴して

長谷川博己氏が金田一耕助を演じた「獄門島」。そのリブートぶりに度肝を抜かれつつも最後シーンの等々力警部よりの電報「悪魔が来りて笛を吹く」に次作の製作を予感し多くのファンは続報を心待ちにしていたはずである。

果たして、およそ二年後の今年七月末、「悪魔が来りて笛を吹く」が放送された。金田一耕助役に吉岡秀隆氏を迎えて。

それはやはり「獄門島」のように挑戦的な作品だった。筆者は本放送をうっかり見逃し、オンデマンドで視聴して慄いたのち、再放送を見てハッシュタグで他の視聴者諸賢がどのように感じているか、というリサーチも行ったりした。極彩色でありながら陰惨で酸鼻を極め、しかし目を覆う手の隙間から凝視することをやめられないような物語であった。しかしこれを日曜日の昼下がりに放送するなんて攻めるな、NHK。獄門島をオンデマンドで再配信してくれ、NHK。「犬神家」と「八つ墓村」の深読み読書会も。

ともあれ今回の「スーパープレミアム『悪魔が来りて笛を吹く』」を基本として、原作やJET氏のコミカライズなどと比較しながら「悪魔が来りて笛を吹く」の感想をつづっていきたい。

金田一・都会もので作者の横溝正史先生が一番に推す作品

本作は途中、淡路島まで舞台が変わるけれども基本的には都内の椿邸にて話が展開される。金田一耕助というと地方の因習に満ちた事件を解決する探偵、というイメージが強いかもしれないが、こういった都会の事件も彼は多く解決している。それでも前述のような印象が強いのはやはり有名な作品が地方ものが多いからであろうか。

エッセイ「真説 金田一耕助」によると某週刊誌で発表された「金田一耕助ものベスト5」は1位 獄門島、2位 本陣殺人事件 3位 犬神家の一族 4位 悪魔の手毬歌 5位 八つ墓村

ということで、このランキングは田中潤司氏の手によるということだがなるほど見事な選抜であると思う。筆者も全く異論はない。これら全ては前述する地方もので、ネームバリューも高い。必然、金田一耕助が地方の事件を解決する探偵というイメージが醸成されたのもうなずけるところである。ちなみに他にもよくあるイメージの「よく犯人が自殺する」であるが、上記事件での自殺率は……この先は読者諸賢自身の目で確かめてくれ!

その5位に続く事件として、上記エッセイで横溝正史先生自身が挙げているのが「悪魔が来りて笛を吹く」である。都会ものとしては自作で一番と認定している、と言ってよいだろう。

執筆されたのは1951年、事件の下敷きの一つとして使われている帝銀事件からはわずか3年ほどしか経っていない。(ちなみにこの犯人と目される平沢貞通氏が逮捕されたのは奇しくも筆者の誕生日8月21日である)現代であれば自粛(という名の他粛)を要求されそうな事態であるが、実在のマリー・ロジェ事件がエドガー・アラン・ポーに世界初の推理小説を書かせしめたように、実際の事件が作家の創作心を大いに刺激することが当たり前のことであって、現代がむしろ閉塞しているのかもしれない。(椿元子爵の自殺も実際に起きた自殺事件を下敷きにしているといわれる)

そうしたまだまだ戦後の混乱期に――戦争があったからこそ生まれた悲劇として――立ち現れるのが「悪魔が来りて笛を吹く」である。

ちなみに前作「獄門島」では船中で「悪魔が来りて笛を吹く」の電報を受け取ったことになっているが、原作では獄門島事件とはちょうど一年ほどの間が空いている。

原作との相違

先だって「挑戦的な」と言葉を使ったように、今回のドラマ版は原作からかなり大胆なアレンジがある。一番の相違点はやはり「悪魔」が笛を吹かないことであろうか。平成最後の夏、悪魔来れども笛吹けず。タイトル違うじゃん! と思ったのだが、これについては「もしかして今作では製作者の規定している『悪魔』は別にいるのでは? とも思い、これについてはまた項を分ける。筆者は未見であるが、別の映像版でも「悪魔」が笛を吹かない作品があるらしい。その作品では「悪魔」が複数であるからだとか。

しかれどもやはり、「悪魔」が笛を吹くシーンはやはりタイトルの回収であり、そして椿元子爵がその曲に込めた意図が明らかになり、そして何より絵的にとても映えるシーンでもある。今回のキャストでも是非見たかったので無くなったのは残念ではあった。

(原作では章題が第1章が「悪魔が来りて笛を吹く」真ん中の第16章が「悪魔ここに誕生す」最終章が「悪魔笛を吹きて去る」と美しい並びになっているのも素晴らしいだけに何とか笛を吹いてほしかった)

椿元子爵が曲に込めた意図自体は今ドラマ版でも明らかになる。全てが解決したところで新宮一彦が吹いて見せてくれるのである。(しかし片や恩師、片や父の形見の曲であるからとはいえ嫌な思い出のある曲を「吹きましょうか?」と言ったり「吹いてほしい」と言ったりするのは分からない! 文化が違う! という気持ちになる)そこで今回の事件の感傷に浸る……だけではなくこの曲に込められた意図に「気づいてしまう」のがまた名探偵の業である。原作では「悪魔」は皮肉交じりに「どうして誰かに吹かせてみなかったのです」と金田一耕助に言うのだが今回の演出では金田一耕助がそれを自問しているように見え、「名探偵のジレンマ」をまざまざと見せつけられる。

この演出は今ドラマ版オリジナルの旅館シーンに繋がり、「無力感に襲われる吉岡金田一(かわいい)」であったり、「探偵は明日を生きる訳を見つけるための存在」であるという全てのミステリーの探偵役のエールが見られた点は良かったと思う。

次に大きいのは「悪魔」が自分の正確な出生を知らないという改変であろう。原作では小夜子の死を知った「悪魔」がおこまを問い詰めることにより、己の出生の秘密を知るが、ドラマ版では金田一耕助に告げられるまでそのことを知らない。これにより椿邸に入る理由も「小夜子の死を探るため」という風に変更されている。

この改変によって「あくまで真実を追求し、つきつけてしまう探偵の業の深さ」や「貴族階級と一般階級のどうしようもない認識のずれ」、「全てを取り返しのつかない状態で知ってしまい、自分が知らずに悲劇を再生産してしまっており、実の母にダメ押しされる」という部分で原作よりまさしく劇的な感じにはなっており、クライマックスの盛り上がりとしては素晴らしく仕上がっているのだが、「小夜子の死を探るためなら殺さずに色々聞きだせよ」であったり、「なんで火焔太鼓を砂占いの時に出現させたのか」という疑問が解決しないままになってしまう。玉虫の御前が引き下がった理由も微妙に変わってしまうし、「悪魔ここに誕生す」を何故消したのかもよくわからない。(筆者が見落としているだけかもしれないので説明されていたら教えてください)

秋(実際は左右が逆の「あき」)子の死因及びその秋子への「悪魔」の殺意も異なっている。「秋子をどう扱うか」というのはクリエイターの心を指摘するのか、以前のメディアミックスでもかなり違いがあるようだ。原作では薬の中に毒を仕込まれ、嵐の中それを飲んで狂乱の内に死に至る。漫画版では「悪魔」に抱きついたところを絞殺される。そして今ドラマ版では「悪魔」にめった刺しにされて哄笑しつつ死んでいく。(華子さんも何回か刺してもよかったんじゃないかと思う)原作では母への慕情を捨てきれないのか(大きな意味では秋子もまた被害者ではある)、計画の失敗すら期待しているが、漫画版及び今ドラマ版では自らを「悪魔」にせしめた醜悪な姿を見せられることによって明確な殺意が発露したという違いが見られる。今ドラマ版においては、利彦と長幼が逆転したこともあり、秋子が「悪魔誕生」に至った惨劇を主導していたように思えることもあり、原作とはまた違ったおどろおどろしさを出している。

華子が利彦の死後、解決編において自らの意志を出し始めるのも原作にはなかったシーンであるが、これは過去は抑圧されたままで終わっていたけれど現代にこのドラマをやるこうなるという意味が感じられた。(原作でも利彦の死によりちょっと元気になったような描写はある)

信乃やお種、出川警部などが今ドラマ版では出て来ない。これは尺の為に仕方がないところか。

細かいところではあるが、原作とは違い灯篭の足元に判り易く「悪魔ここに誕生す」と書いてあったのも気になる。結構目立つんじゃないかな。

 もう一つ、今回は原作に倣って元子爵などというように表現したが、劇中ではエピローグまではまだ華族令が廃止されていない気がする(爵名に「元」がついていない)ように思えたがちょっと時期がずれているのだろうか。

キャスティングについて

吉岡秀隆さんの金田一は非常に良かった。ただ、60を過ぎても若々しいらしい金田一が白髪交じりなのは気になるところではあったが……。ヒューマニストではあるものの、謎があると解決せずにいられない、真実を語る前には躊躇するけれども相手が一度要請すると、後は何があっても真実を残酷なまでに叩き込んでくる、事件の解決後は非常な無力感に襲われる、まさしくイメージの金田一耕助であった。

今回は解決編が全体の半分という攻めた構成であったが、吉岡さんの長台詞はすっと入ってきた。解決編に至る際の長い廊下――正しく正気と狂気の境を渡るかのような――をしずしずと歩く金田一耕助のシーンは素晴らしい。

また、何が…何が…なにが…! なにが…ッ! と頭を掻きむしりながら、その背景で同じ「きょうだい」でありながら余りにも対照的過ぎる2組がフラッシュバックするシーンなどは吉岡さんの声でなければあの何とも言えない寂寥感と無常感のコントラストはでなかったであろう。

真相を開示しながら、自分も等しく傷ついていく、自らを依代として託宣を伝える巫女のような金田一耕助であった。

美禰子役の志田未来さんは美禰子役にこんな美人を起用したらダメだろ! という気持ち。しかし原作で痛いほど伝わる意志の強さは良く表現できていた。自ら地獄の蓋を開けてしまう所も。

三島東太郎役の中村蒼さんは「深読み読書会」の犬神家回で記憶に残っていたので今回の起用は嬉しかった。終盤の表情がいちいち心に刺さるいい演技だった。一彦との差別化のためか、原作にある好青年的イメージはあまり感じられなかったが。是非機会があれば多門修をやってほしい。

菊江役の倉科カナさんは画面制圧力がすごすぎる。一筋縄ではいかない飄々としつつその下には冷たく荒涼とした意志が流れている様にはやられた。

筒井真理子さんの秋子は恐ろしい。妖の一字である。

 

本作の悪魔は誰か?

さて記事も長くなってしまったので前述した今ドラマ版の悪魔について私見を述べて終わりとしたい。

勿論、前提としては一連の事件の犯人であろう。

しかし別の視点では?

例えば金田一耕助が現れなければ、帽子を壺に掛けることもなく、今回の惨劇自体が起こらなかった可能性がある。起こったとして、恐ろしい秘密が明かされることもなかった。パンドラの匣を開けにやってきた悪魔が金田一耕助だということが出来はしまいか。

いや、美禰子が変な意地を張って真相を要求しなければ、椿邸の人々が崩壊するまで追い込まれることはなかった。世間を知らない美禰子こそが悪魔ではなかったか。

そうではなく――椿英輔元子爵こそが今ドラマ版における悪魔ではなかったかと見終えて筆者は思うのである。

結果だけ見れば、椿元子爵は自らの手を一切汚さず、それどころか同情を勝ち取って、椿家の家名を汚す「悪魔」とその血脈を一網打尽にせしめたのである。天銀堂事件の汚名すら雪いで。

他人の悪意を転がして自らの満願を成就せしめる――そのまま悪魔の所業と思えるのだが、いかがであろうか。製作者の人そこまで考えてないと思うよ、と言われてしまうとそこまでであるが、どうしても金田一少年のあの事件や京極堂のあの事件を思い出してしまうのである。

あるいは悪魔のトリルのように悪魔が来りて笛を吹くは元子爵が悪魔と出会った末に生まれた呪われた曲であったのかもしれない。

漫画版がおすすめ

今ドラマ版で金田一耕助に興味を持ち、原作の違いを知りたいが小説を読むのはハードルが高い……という方は漫画版をお勧めしたい。長らく絶版であったが最近kindleで刊行された。犯人のモノローグが入り、より分かりやすい構成になっているが、展開自体は秋子の死因以外は原作に準じている。同時掲載の「雌蛭」は金田一耕助が変装する(しかもアロハシャツ)というレアエピソードでこちらも「都会もの」であるのでぜひ押さえていただきたい。

次回の金田一耕助

今後もエピソードごとに金田一耕助の配役が変わるのであれば、是非、濱田岳さんに一度やって欲しい。または風間俊介さんや、斎藤工さんなども結構ハマるのではないかと思う。

 

悪魔が来りて笛を吹く (あすかコミックスDX―名探偵・金田一耕助シリーズ)