カナタガタリ

すごくダメな人がダメなすごい人になることを目指す軌跡

大河ドラマ「西郷どん」第十六回 「斉彬の遺言」

余談

診療報酬改定があった。

診療報酬というのは要するに診療行為に対する国から医療機関への報酬であって、いわゆる「保険がきくので三割負担」というのは、この報酬の三割を患者が、七割を国が負担しますよという意味である。その改定が、二年おきに行われる。

また同様に介護報酬改定もあった。こちらは三年おきで、すなわち、その最小公倍数である六年ごとに同時改定がなされる訳である。

どちらも四月一日から施行され、医療機関はその対応に追われる。恐ろしいのは、「ま、詳しいことは今後ちょくちょく補足すっから」というのが厚生労働省のスタンスであり、その「ちょくちょく補足」が実務に一切追いついていないという点である(医療機関から国への請求状況を見て実務に即した調整をするため、というのもあるのだろうが)。親方日の丸から確固たる答えがなくとも、改定された診療報酬はいつも通り月締めで月末で区切られ、翌月十日までに請求しなくてはならない。GWだろうがなんだろうがである。結果として、この時期の医療事務担当者はやたらと疲弊する。やさしくしてあげよう。してください。(懇願)

さて今回、訪問歯科では「単一建物居住者」という概念が爆誕した。以前は「同一建物居住者」という考え方であった。……同じじゃね? と思う読者諸賢、あなたの気持ちは正しい。しかしこの二つが全く違う考え方となるのが霞が関マジックである。

前述したように国の保険診療には大きく「診療報酬(医療保険)」と「介護報酬(介護保険)」のカテゴリがある。歯科診療所においては医療保険においてすべての対応がなされるが、(無論保険外はのぞく)訪問歯科診療では歯科が患者さんの方へ訪問するという=患者さんは通院困難である必要があるという必要上、要介護状態である=介護認定を受けていることが多い。こうなると、医療保険介護保険どちらともで報酬を算定する必要がある。(国の決まりである。なのに、二重請求ではないか? と患者さんのご家族から疑念を持たれてしまうこともある)

訪問歯科診療において算定される報酬として基本となるのは、

診療報酬として

歯科訪問診療料1(1,036点)

歯科訪問診療料2(338点)

歯科訪問診療料3(175点)

(同一建物居住者の人数によりどの点数を算定するか異なる)

訪問歯科衛生指導料1 (360点)
訪問歯科衛生指導料2 (328点)
訪問歯科衛生指導料3 ( 300点)

(単一建物居住者の人数によりどの点数を算定するか異なる)

があり、

介護報酬として

歯科医師の行う居宅療養管理指導1(507単位)

歯科医師の行う居宅療養管理指導2(483単位)

歯科医師の行う居宅療養管理指導3(442単位)

及び

歯科衛生士の行う居宅療養管理指導1(355単位)

歯科衛生士の行う居宅療養管理指導2(323単位)

歯科衛生士の行う居宅療養管理指導3(295単位)

(単一建物居住者の人数によりどの点数を算定するか異なる。訪問歯科衛生指導料と同時に算定は出来ない)

が挙げられる。(ものすごーく簡略化して話をしています)

さて戻って、保険診療の世界では

「同一建物居住者」=その日に診療した患者さんがその建物内に何人いるか

「単一建物居住者」=その月に診療した患者さんがその建物内に何人いるか

という定義がなされた。今までは上記の点数はすべて「同一建物居住者」によって判断されていたのだが、今回の改定で「歯科訪問診療料」以外は「単一建物居住者」に改められた。上記各報酬の1~3はそれぞれの定義に当てはまる患者さんが「1名の時、2~9名の時、10名以上の時」で分けられている。

例えば、ある老人ホームにA~Jの10名の訪問診療の患者さんがいたとする。全員要介護状態であった場合、

4/1  ABC

4/8     DEF

4/15   GHI

4/30   J

という風に診察を行ったとすると、今まではA~Hは上記「2」が、Jは上記「1」が算定されていた。「その日に何人診たか」で判断するからだ。しかし今回から、全員が介護報酬は「3」で算定されてしまう。かつ、診療報酬は今まで通りであるというややこしさ。

この「単一建物居住者」という概念が本当にアホだと思うのは、カルテは適時適正な記載が推奨されているにもかかわらず、「月に何人診たか」という考え方をする限り、その月の最終日まで算定内容が確定しないところである。

上記のように、4/29までは「2」で算定していたものが最終日に突如「3」に降り替わるのである。10人分のカルテをすべて入力しなおしである。悪夢か。訪問歯科診療はその性格上、終末期に寄り添うことも多く、患者さんの入れ替わりも頻繁である。このようなことは往々にして起こりうる。

最終日までどちらの点数になるか確定しない、ということは患者さんに請求も出来ない、ということである。訪問歯科診療の患者さんは月締め請求を取っていることも多いが、途中に亡くなられた場合、その時点での支払いを希望されるご家族の方も多い。悲しみに暮れるご家族に、「いや、ちょっとまだ患者さんが増えるかもしれないんで金額がわからないんですよ~」と言えというのか。

ちなみに計算は筆者の説明ではこれまで以上に難解になってしまうので省くが、「2」をキープできた場合と「3」算定に切り替わった場合では、報酬額で月当たり17,460円の差額が生じる。これは馬鹿にできない数字である。

施設に入居されている患者さんはご家族が遠方にいるケースも多い。治療金額の見積もりを希望される方も少なくなく、しかしやはり見積もりも精確を欠いてしまうというのも何とももどかしい。

また、今回の同時改定では歯科衛生士の居宅療養管理指導に定められた「20分一対一で対面しての指導」という要件が緩和されるのではないか(医療保険の訪問歯科衛生指導料には20分未満の点数があった)という期待がなされていたが、ふたを開けてみると介護に合わせて医療の方も20分が必須となってしまった。20分口を開け続けるというのは特にご高齢の方にとっては結構な苦行である。(勿論口腔内だけでなく様々な指導も含めての20分なのだが)ろくに診もしないで点数を算定することがないように、というのはわかるのだが、熟練した歯科衛生士が10分で行うと点数が算定できず、駆け出しの歯科衛生士がもたもたと30分時間をかけると点数が高い……というのはいかがなものか、と思う。

保険診療、特に介護保険は矛盾に満ちている、と思う。介護保険はケアプランといういわば予算計画書に沿って進められるが、その予算は介護度によって決定される。原則としてその予算内でやりくりをしなくてはならない。(訪問歯科診療はその枠外であるので予算を気にしなくてよいという利点がある)介護度が高い方が無論予算は多い。

忘れられないことがある。ある患者さんは要介護3であり、訪問歯科診療をはじめ数々の介護サービスを経て、状態は改善した。介護度が下がったのである。しかしその結果、今までは組み入れられていたサービスが予算をはみ出てしまうことになった。デイサービスの週当たりの回数は減り、ヘルパーさんの介入も減った。交流が減った患者さんはみるみる状態が悪くなった。これはよくないと保険外のサービスも利用することになった。文字通り保険がきかないのでまるまる費用を患者さん、そのご家族が負担することとなる。少しでも負担を減らしたいと、訪問歯科診療のサービスも打ち切られることになった。口は体の門である。全身状態に呼応するように悪化の兆しが見えていたが、我々にはどうすることも出来なかった。胃に棚を吊ったような気分で半年ほど過ごしたある日、筆者は通勤路の電柱に患者さんのお名前の葬儀案内が出ているのを目にした。あの時の気持ちをきっと筆舌に尽くしがたい、というのだろう。

医療費・介護費が国の歳出の大きな負担になっているのはわかる。けれども、もう少しうまいやり方があるんじゃないか、と思う。日本の頭脳が考えているにしてはあまりにも机上の空論でお粗末ではないか。

次回の同時改定ではいよいよ2025年が目前に迫っている。それまで筆者が生きているか、そこまでではなくとも医療介護関係に従事しているのか、それはわからないが、少しでも良い方向に改定されればと思う。

そんなもやもやした気持ちは診療報酬改定研修会後に駆け込んだ三平ラーメンに大盛というかたちでぶつけられた。鹿児島の味噌ラーメンは貴重である。濃厚だが、しつこくない。厚いチャーシューが嬉しい。

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本題

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余談が、やたらと専門的になった。しかし今回はまーひどい。この大河、政治劇を基本怒鳴りあいだったりナレーションで進めて来たので話がこういう展開になるともう全然役者さんの熱演で押し切るしかないのだというのをまざまざと見せつけられた感じ。あと、相変わらずその回に一気にフラグを詰め込むのでたいへん唐突な感じがしてしまう。橋本左内の決意なんてたいそう立派なんだからもうちょっと前のうちに言っておいた方がよかったのでは。左内がこの大河でしたことって店で客を看病して無駄に目立って、勘違いで機密をべらべらしゃべって、慶喜尊い本を出したくらいじゃないのか。というか斉昭と一緒に春嶽(あのおなかが鳴った人だよ。左内の主君なんだ)も処罰を受けているのだが、そのあたりに全く触れないのも違和感。

月照、艶。こんなに雅な山伏がいるか。原作では吉之助とかなり踏み込んだ感じだそうで、一部層にはその辺りの期待が高まっているようである。吉之助の脂肪に言及したのは自分と彼の死亡を分ける伏線であろうが、他のあれやこれやもそれくらい自然にやってくれたらなあ。

吉之助はいよいよスタンドを発現させるという伝説の大河「コメディお江でござる」の主人公に匹敵する特技を受け入れたが、しかしこの作品の斉彬にお前は何を学んだのだといわれてもお前は何を教えてくれたんだよと言った感じである。生きようと頑張っているけど、次回入水します。デュエルスタンバイ!

 

っていうかマジで出ないのかな吉田松陰……。あ、西郷どんチップスは普通においしかったです。