カナタガタリ

すごくダメな人がダメなすごい人になることを目指す軌跡

大河ドラマ「西郷どん」第十八回 「流人 菊池源吾」感想

余談

今週のお題「おかあさん」

母は十歳の時父を事故で亡くした。元々、病弱だった母(筆者から見て祖母)は心労も重なりその翌年後を追うように世を去った。

後には祖母(筆者から見て曾祖母)と弟、妹が遺された。祖母は、施設でなく、きょうだいをばらばらに親戚に預けるのでもなく、三人きょうだいを自ら育てることを選んだ。と言って祖母もその時点で六十を超えていたから、日々の生活は母が貴重な労働力となった。

母もまた親の血を引いて決して体が丈夫でなかった。喘息を持病としていた。喘息で息が出来ず、視界がぼやけ、世界と自分を繋ぐ糸が一本ずつ切られていくようなあの感覚は、経験してみなくてはなかなかわかるものではない。

中学を卒業し、学費と、また一刻も早く一家を支えたいという気持ちから、母は看護学校へと進んだ。看護学校の系列へ進めば奨学金は返さなくてもよかったのである。もしかしたら、母や自分が病弱であったことも背中を押したのかもしれない。

そして就職した先に、臨床検査技師でありながら当時は貴重だったパソコンオタ…造詣が深い人材であったために(親父はマシン語を使っていたらしい。ご存知ですか? マシン語。機械とため口で話してんですよ)事務課に異動させられていた父がおり、なんだかんだで母は私の「おかあさん」となったのだった。

おかあさん、いつの間にかおかあさんになってからの方があなたの人生長いんですね。気が付いたら手品みたいに三人も息子がいましたね。

初めて進学のため広島に出てきた時、一緒について来てくれましたね。一人暮らし経験者の先輩として家具をそろえ、最寄りのスーパーで食材を指南し、保存食を手際よく作り、そして最初の講義へ送り出してくれた。

おかあさん、僕はあの時初めてあなたが泣き崩れるところを見ました。正直なところ、それまでは早くあなたと離れて本当の意味での一人暮らしをスタートさせたいぜ、くらいに思っていたのです。僕は講義の内容なんて全く入ってこなくて、そのまま食事をするのも忘れてしまいました。唐突に記念日なので寿司を食べようと思いつき、昼二人で行ったスーパーに行って、三割引きの寿司を買いました。寿司についていた醤油が塩辛くて、鹿児島の味と違って、とりあえず舌をリセットしようと冷蔵庫から昼間買ったお茶を出そうとしたら、サイドポケットに見慣れた鹿児島のさしみしょうゆが入っていました。多分あなたは全てお見通しだったんですね。ここまで早いとは思っていなかったんでしょうけど。僕はもう泣けて泣けて寿司どころではありませんでしたけど。

月日が経って、妻を紹介したとき、初めて娘が出来そうでとても喜んでいましたね。今では無事あなたの義理の娘になりました。震災不況の影響か、僕が最終選考に十二連続で落ちまくって東京他の交通費も馬鹿にならなくなっていて金銭的精神的肉体的に余裕を失い僕が自分を見失っている頃、弟に「東京の私立大学の推薦を蹴らせなければこんなことにならなかったんじゃないか」とこぼしてしまったことがあったそうですね(最近聞きました)おかあさん、私が東京の私立大学の推薦を辞退したのは徹頭徹尾主義の問題であって、また自分が弱いことをよくよく知っていたからです。仮に東京に十八の身空で出てきていれば、今頃生きていたかもわかりません。何より妻に出会うことも出来ませんでした。一切気に病むことはありません。


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おかあさん、最近ではLINEもマスターしましたね。カーネーションに対してベルばらのスタンプを用いるという、世代アピールとと花の関連性を併せ持つ素晴らしいスタンプセンスには畏敬の念すら覚えます。本日は帰れなくてごめんなさい。河原の草を刈っていました。花を贈りつつ、草は刈る。植物に対してアンビバレントな対応をするといえば聞こえはいいですがダブルスタンダードなところがあるのがあなたの息子です。今後ともよろしく。僕は元気です。妻はますます元気です。

 

本題

余談が、ながくなった。いやー大河ドラマ「菊池源吾」第一話「流人」、面白かったですよ。開始前は「島めっちゃ頑張るから」みたいな脚本側の言葉にかつて滅茶苦茶軟禁されていた黒田官兵衛を知っているものとしては一抹の不安があったのですが、少なくとも初回は大満足。視聴者を代弁してくれたというか、今までの部分のB面的な側面があったのがとてもよかった。

奄美大島。それは地上の楽園でもなんでもなく、薩摩本土からひたすら搾取される砂糖地獄の島。そこに住む人々は「民」にカウントされない。本土から来た流人に女性をあてがう風習もある。斉彬が、歴代薩摩藩主が、「最大多数の最大幸福」のために切り捨ててきた土地。残酷なまでの自然の美しさが、仕打ちの過酷さをより一層際立たせる。

菊池源吾は大いに荒んでいる。(実際は薩摩藩としては幕府の追及を避けるため島に死んだことにして「匿った」側面があるのだが今後語られるだろうか。できればそれが明かされて役人たちが平身低頭する展開でカタルシスが欲しい。(だから西ご…菊池源吾にはお給料もしっかり出ているのである)かつて農民の暮らしに涙したものとは思えぬお膳への八つ当たりなどその極地であろう。死するべき時に死ねない、ということは彼にとってそれほど重い。

そんな精神状態で斉彬が島民たちにどう思われていたか知る菊池源吾。正しく世界が反転する思いだったに違いない。あの斉彬の豪奢な衣装も、篤姫お輿入れのあれやこれやも、無論近代化のためのなにもかも、「カライモ! イブスキ! サクラジマ!」でさえも、島民たちの犠牲なくては成り立たない。その事実と、敬愛する斉彬を否定された菊池源吾は疲れからか、黒塗りの高級車には激突しなかったものの、高熱を発する。まあ推しメンの裏垢をいきなり暴露されたようなものだから仕方あるまい。この高熱、おそらくフィラリアで、この後遺症により菊池源吾はおかあさん、いやお袋さんが大変な大きさになってしまったという逸話がある。とぅまの「災い」はもしかしたらそういう形で作用したのかもしれない。

ともあれ菊池源吾は熱が下がって毒気も抜けたのか、島のことを教えてほしいと願うのだった。奄美大島のエメラルドグリーンの海がひたすらに美しい。

一方で橋本左内が粛々と処刑されてしまった。僅かな表情で見事に橋本左内を表現した風間さんは素晴らしい。それだけに、もう少し関係を掘り下げてほしかった。因みにこの二十日後に吉田松陰が処刑されるわけですが、出なさそうだなあ……。あ、サツマンルーレットの被害者こと島津斉興もこの頃だともう死んでいるのでは。

さて次回の島編、なかなか怒涛の展開である。個人的には1クールくらいAパート島、Bパートその頃江戸・薩摩では……というような感じでもいいと思うのだが。

覚えよう・島唄

今回からOPの奄美パートに歌詞が入った。ぜひ覚えてみんなで歌おう。

すらちまいあがれぃ

(大きくはばたけ)

なだこぼさず

(涙をこらえ)

あぶぃてぃ

(叫び出す)

うらんなりゅんちゅんきゅぬ

(散りゆく人々の)

うむいー 

(信念を)

かなむあふりてぃゆぬたむぃじ
(愛が溢れる世界のために)

 引用:見せもす!島の世界|NHK大河ドラマ『西郷どん』