男には地図が必要だ…荒野を渡り切る心の中の「地図」がな
――「スティールボールラン」より
筆者がマクドナルドを偏愛している、ということは既に述べた。
特に大学時代はあらゆる制約を解き放ってやたらとマックしていた。完全オフの日など、前日の夜に四人だかでシェアする用途のドライブスルー用セットを自転車で買いに行って(怒られました)それを都度ぱくつきながら一日引きこもって箱○でゲームをしていたものである。マクドナルドは荒野に似ている。それは荒涼としているということではなく、どこから手を付けたらいいかわからないという意味において。
約束されたレギュラーメニュー、目を引く期間限定商品、数々のサイドメニュー……それらを自分の獰猛な胃袋をどう鎮めて制覇していくか……正しく暗中模索、荒野の中で一粒の白ごまを探すようなもの、ほとんどマザー2である。
その為の地図がかつて筆者にとっては「クォーターパウンダーチーズ」であった。
圧倒的肉の説得力。クォーターパウンダーチーズの前にクォーターパウンダーチーズはなく、そして残念なことに今の所後にもない。
とりあえず生、のようにとりあえずクォーターパウンダーチーズ、が筆者の定番であった。ここを起点に荒野を切り開いていくのがお決まりのパターンという訳だ。
2010年、そこに颯爽と現れたのがテキサスバーガーである。今も思い出す。バイト帰りのバイト仲間と行ったあのマックでの出会いを。それは荒野の地図を手にし粋がっていたワイルド筆者強盗団に保安官(シェリフ)が放った銃弾であった。フライドオニオンの香ばしさ、マックらしからぬ、しかし根底には確かにマックらしさが流れているソース……そのワイルドな魅力に筆者はシャッポを脱がざるを得なかった。だからその次のウェンディーズのなりそこないみたいなニューヨークバーガーには心底がっかりしたものだ。
思えば2010年はその後秋に「レッド・デッド・リデンプション(RDR)」をプレイし、その勢いでマカロニ・ウェスタンにハマるなど荒野めいた年であった。
また荒野と食事の組合せで思い出すのは先日惜しまれつつも亡くなられた土山しげる先生の「荒野のグルメ」だ。これは小料理屋を荒野のオアシスになぞらえてそこでの交流や料理が明日の活力となる……という趣向で、夜九時くらいに読むととてもいい感じの漫画である。筆者は田舎の車社会の人間なので帰りに一杯ひっかけて……というのに憧れがあるので羨ましさがさらに増幅される。
さてなぜこんな話をしたかというと、筆者にとってのオアシスはやはり筆者の近所の(と言っても隣町である)マクドナルドであるからである。前職から取引先が同エリアにあった関係から、取引先と取引先の間が開いたときなどよくお世話になっていた。
引っ越して後、ドライブスルーでの利用が主になっていたが、今回奇しくも「レッド・デッド・リデンプション2」が発売され(残念ながらまだプレイできていない)テキサスバーガーが復活し、色々あってジャンクなものを半端な時間に食べたい、ということになったとき、再びあの保安官(シェリフ)に会いに荒野のオアシスを訪れようと洒落込んだわけだ。
昼過ぎ、店内は落ち着いていた。これはまた別の記事で語ることになると思うが、かざすクーポンを使い、結構溜まっているdポイントでキャッシュレスで決済する。スマホだけで会計がすむのはやはり楽である。諸般の事情で30分も滞在できないので手早いのはありがたい…と考えているうちに出来上がった。ファストフードの名に恥じない手際の良さである。
そうしてヤツはやってきた。いや、ヤツらはやってきた。そりゃどっちか聞かれているのだから食べ比べなくては仕方ないのである。
まずはアイダホである。「君なんか写真と違わない?」してもよくないのでドタマをご紹介だ。はみ出るベーコンが食欲を誘う。以前アイダホバーガーを食べた時はおいしいけどまあ…こいつ大体朝マックだな…という感想であったが、今回のアイダホバーガー2018はハッシュドポテト部分がよりカリカリクリスプになっており、歯触りが楽しく、またソースがしっかり「昼のアメリカンマック」を主張しており、食べごたえがある。
続いてテキサスである。思わず写真を撮るのも忘れまずかぶりついてしまった。お見苦しいところを見せて申し訳ない。
「早撃ち対決だ。1,2,3でお互いに正面を向いて銃を抜く…1、2、(ダァーン!(乾いた銃声)ウッ…貴様卑怯だぞ」といった具合である。荒野では油断した奴から死ぬ!
ともあれテキサスバーガー2018、それはかつての筆者が圧倒された懐かしきフライドオニオンであり、ソースであった。ゆっくりとその荒野の苛烈さをバーガーにしたような味わいが辛ッ
「筆者、まだくたばってなかったとはな…お前のことはクソ親父からよく聞いてるぜ。俺は親父の様に甘かあねえ、失せな、ケツの穴をもう一つ増やされたくなかったらな(撃鉄を起こす)」
それはテキサスバーガーにはなかったパンチあるマスタードの刺激。保安官(シェリフ)は代替わりし、よりスマートに、よりパワフルになっていた。
テキサスバーガー2018は間違いなくおいしい。しかしかつてのテキサスバーガーがクォーターパウンダーベースであったのに対して、今回のテキサスバーガー2018は(おそらく)マックグランベースであり、近似しているがゆえに、思い出の中で理想化されている初代テキサスバーガーがより恋しくなってしまうという点は否定できない。
月並みな感想になってしまって恐縮だが、あくまで「テキサスバーガー2018」という新バーガーを食べに行く、という気持ちで臨むのがいいように思う。コンビニの何度もループする「新商品」に比べればずっと新商品らしいではないか。
2018年の荒野、そこには常に前を見据えるマクドナルドの姿があった。頼もしさを覚えながらもどこか一抹の寂しさがよぎるのは、筆者が老兵になりゆくからであるからかもしれない。