カナタガタリ

すごくダメな人がダメなすごい人になることを目指す軌跡

刀剣男士の葛藤、その一つの帰結。あるいは映画刀剣乱舞でとうらぶに触れた人に「活撃刀剣乱舞 9話 元の主」を見てほしい話

余談

公開から二週間ほどたつが、未だに映画「刀剣乱舞」の熱冷めやらず、有り難いことに当ブログのもさすがに峠を越えた感があるが引き続き多くの方に見ていただいているようである。

前回筆者は映画「刀剣乱舞」を鑑賞し、小林靖子女史に興味を持たれた審神者諸賢に対して仮面ライダーオーズ劇場版をお勧めさせていただいた。その後鑑賞いただいた審神者諸賢もいるようで、こんなに嬉しいことはない。

翻って。筆者は特撮を愛し、小林靖子女史を敬愛する人間であるとともに、にわか審神者であることは何度か述べた。

であるならば。今度は特撮勢諸賢に刀剣乱舞の世界の一端に触れていただく案内をするのが筋というものであろう。

ということで、前回も予告させていただいたが「活撃刀剣乱舞 9話 元の主」をご紹介させていただこうと思う。

そうそう、前回ご案内した映画の刀剣男士8振無料配布キャンペーンも2/12まで延長されたので是非マイ本丸も持たれては如何だろうか。サバイブカードを配りまくっているようなものであるから見逃す手はない。

 

本題

ということでここからは段階的に「活撃刀剣乱舞 9話」のネタバレがあります。映画「刀剣乱舞」のネタバレはありません。

紹介を以下の段階に分けさせていただきたいと思う。即ち視聴前のお勧めする理由とあらすじ、視聴後の(筆者の主観が多分に含まれる)解説―というのはおこがましい蛇足――と感想の2段階に分けることで1粒で2度おいしくなればよいな、と思う。特撮勢以外の方に一気に読んでいただいたりとかしても嬉しい。

 

視聴前に―筆者の異常な早口による推薦、あるいは筆者はどの点において映画「刀剣乱舞」を観たとうらぶ未踏の諸賢に対して「活撃刀剣乱舞 9話」を勧める様になったか

舞台は幕末。また違う場所で展開される刀剣男士達のストーリー。

活撃刀剣乱舞」の主な舞台は幕末。ゴールデンカムイでもお馴染み新選組副長・土方歳三(映画の続編があるなら是非幕末を舞台にして副長を山本耕史さん、武田観柳斎八嶋智人さんにやってほしい)の愛刀である和泉守兼定を部隊長とする第二部隊を主として繰り広げられる物語である。他にも剣豪将軍・足利義輝の関わる永禄の変など、映画とはまた違う舞台で活躍する刀剣男士が見られるわけだ。

今回お勧めする9話でも第二部隊が登場する。構成は以下。

和泉守兼定…隊長。前述したとおりもとは土方歳三の愛刀。ちょっと短気なのが玉に瑕。

堀川国広…同様に土方歳三の愛刀。まだ顕現して日が浅く、元の主との関係に折り合いがつけられていない風がある。実は同じ愛刀でありながら兼定とは決定的に違う点がある。

陸奥守吉行…もとは坂本龍馬の愛刀。部隊のムードメーカー。9話の主役と言ってよい。ちなみに筆者の初期刀。

薬研藤四郎…映画にも登場、沈着な姿勢と立体的な殺陣が印象的。あと半ズボン。

蜻蛉切…家康に過ぎたるものと称された名将・本多忠勝が所持したという槍。映画に登場した日本号と並び、天下三名槍と称される。部隊の良心。

鶴丸国永…現在は皇室御物、かつて墓を暴いてまで欲されたという刀。ゲーム本編では未だ実力を隠しているともっぱらの噂。ちなみに妻が最も愛する刀。写しも見に行きました。

説明を見るだけでも凸凹な第二部隊が一体どのように展開していくのか。映画とはまた違う時代、違う刀剣男士の魅力を発掘できるはずである。

各々の本丸の振れ幅、ある種の自由さを楽しむことが出来る

活撃刀剣乱舞」においては、刀剣男士は刀身の状態で時間をさかのぼり、地面に突き刺さってその時代へ顕現する。ちょっと特撮怪獣の巨大化シーンを思い出してしまう演出だが、なかなか格好いい。また、「元の主になるべく会わないようにする」という本丸のルール(というか、気風)がある。いずれも(今のところは)活撃刀剣乱舞の世界独自のものであり、各々の本丸の多様性を認める刀剣乱舞と言うジャンルの懐の広さを実感できることだろう。

刀剣男士のあり方がぐっと凝縮されている

活撃刀剣乱舞は1クールの深夜アニメである。1話あたりは約30分。その中に刀剣男士はどうあるべきか、ということを刀剣男士自体が答えを出すという流れがきれいに収まっている。刀剣男士は基本的に元の主の記憶を持ちながら、今は審神者を主とすると言う意味でアンビバレンツな存在である。そのことに揺らいでいるらしい刀剣男士は散見される。思いの強さが付喪神を生んだのであればそれは宿命と言ってよいのかもしれない。その問題が一つの清々しい解決を生むということでも9話を是非お勧めしたいのである。

実質2期1話のようなもので、ここからでも見やすい

9話に至るまでは懸命な読者諸賢の御推察の通り、1話から8話までがあるわけだが、9話は1話完結の体裁をとっており、ここから入りやすいのも勧める理由である。第二部隊ということからも判るとおり、彼らは言ってしまえば2軍的なポジションにある。結成し、苦戦し、第一部隊に助けられ、衝突もしたりし、色々あったけどまた頑張っていこうぜ! というのが超はしょった8話までの展開である。ので9話はリスタートした、言ってしまえば2期1話のようなものであるから、ここから見ても特に問題はないのである。勿論、それまでを見ておくことによってより厚みが増すことは間違いないが、先に9話を見てから肌に合いそうであれば1~9話を再び通る、というルートが映画からとうらぶ世界に入った諸賢には特にお勧めできる流れである。

華麗なるアクションシーン

映画「刀剣乱舞」のアクションシーンも素晴らしいものがあったが、「活撃刀剣乱舞」のアクションも素晴らしい。二次元の強みを生かした動きは必見で、9話においても贅沢な映像美に目が奪われることであろう。

「元の主」あらすじ

以上のおすすめ理由で興味を持っていただいた諸賢の為に軽いあらすじを記載しておく。舞台は幕末……はもう3回くらい言ったのでより詳細に言うと慶応2年1月23日(1866年3月9日)。これでおお、と思う方はさすがであるが、寺田屋事件が今回の話の焦点である。「オイゴト刺せ」でお馴染み薩摩藩士同士討ちの悲劇を生んだ方の寺田屋事件ではなく(この4年前である)、坂本龍馬が襲撃された事件の方である。寺田屋も災難だ。

襲撃されるも辛くも材木置き場に逃げ込み、命をつないだ坂本龍馬……だが、その命を守り、ひいては歴史を守るためにはその経路が今一つ不明であるのが第二部隊の懸念要素であった。そこで陸奥守吉行は自分に任せろ、という。なにしろ陸奥守吉行は事件当時の坂本龍馬の佩刀。当然ルートが分かっている訳だ。

ところが時間遡行軍の奸計により、本来のルートは変更。部隊長である和泉守兼定に釘を刺されていた、元の主――坂本龍馬陸奥守吉行が邂逅してしまう……。

歴史改変は守られるのか。その「結末」を知っている元の主と出会った時、刀剣男士は何を思い、行うのか。是非自らの目で確かめていただきたい。

 

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視聴後――他でもない陸奥守吉行を起用した采配に感服、そして乾杯

活撃刀剣乱舞 9話 元の主」の情け容赦ないネタバレがあります

さて視聴後の方向けの言葉を綴っていきたい。

リフレインの構図が筆者は好きである。冒頭、あるいはごく初期に作品において使われたかつての言葉が再び視聴者に、読者に提示されたとき、世界がまるで色を変えることがある。そう言った感動を例えば「蒼天航路」で、例えば「仮面ライダー×仮面ライダー フォーゼ&オーズ MOVIE大戦MEGA MAX」で筆者は味わってきた。

「土佐じゃあちょっとは知られた名刀ぜよ!」

始め龍馬が、続けて陸奥守吉行が放つこの言葉のリフレインこそが9話の屋台骨と言っていい。

坂本家の家宝として伝わり、坂本龍馬暗殺時の佩刀として知られる陸奥守吉行。

しかし坂本龍馬はその生涯において、1人も斬り殺したことはなかったという。ゲーム本編において、陸奥守吉行は銃を用いている描写がある。これは後述する理由と、自分が敵を打倒したことがないという遠慮、自分が武器として時代遅れと言う気持ちが作用しているのかもしれない。

暗殺時の佩刀。

それはそのまま、「最も主君の傍らにありながら、その命を守るという何よりも基本であり重要である役目」を果たせなかったことを意味する。普段の陸奥守吉行に、そういった暗い影はない。しかしやはり元の主を守ることが出来る作戦には心踊らされるし、運命のいたずらで坂本龍馬に会うことで奥底にあったものが顔をのぞかせる。

自分を救った恩人がまさか自分の佩刀とは知らぬ龍馬は陸奥守吉行本人に、その自慢をする。兄上に頼み込んで譲ってもらった名刀であると。

これからの時代は銃だ。龍馬が言う。陸奥守吉行も常日頃言っている台詞である。だが、龍馬は怪我によってこの刀が扱えないと思うと、半身が奪われてしまったように感じるとその言葉を継ぐ。

これは本来の歴史ではない。即ち佩刀でありながら、陸奥守吉行も知ることがなかった龍馬の気持ちをこのアクシデントによって皮肉にも聞くことが出来た。龍馬にとって自分は大切な刀であったということを。それは彼の気持ちをぐらつかせ、いつもの笑顔は消え、禁忌である歴史介入――坂本龍馬との逃避行を提案さえしてしまう。しかし龍馬が聞き逃したのを幸い、陸奥守吉行はすぐに自分を立て直す。

そして守り刀として刀剣男士としての陸奥守吉行は時間遡行軍の前に立ちはだかる。元の主の、そして自らの誇りである刀を構えて。

そしてあの台詞をリフレインさせる。それは敬愛する主人になりきるようでもあり、自らの価値をいとおしむようでもあった。

それでブーストがかかったかのように鬼神の働きを見せつける。

途中、窮地を過去の自分自身――坂本龍馬の佩刀である陸奥守吉行を龍馬から渡され、使うことで脱し、見事陸奥守吉行は歴史を守ることに成功するのである。(この時2振の陸奥守吉行の刀身の反りが違うのは現代の方は火災にあって刀身の反りが浅くなっているためで作画ミスではない)

別れ際、この時代の陸奥守吉行を龍馬に返す際、その傍らに置き続けてほしいと願うのだった。

ゲーム本編でも明るいキャラクターである陸奥守吉行をこの葛藤劇の主役に据えたことがまず素晴らしい。「そんな彼でも、やはり」という思いがあり、効果的である。最後のシーンの彼の台詞、「わしの言うのはただの感傷じゃ」はゲーム本編のある回想を踏まえた後だとより味わい深い。

この9話の出来事を経て、陸奥守吉行は自らを「主人を守れなかった刀」から「主人を最後まで、本当に最期まで見守り続けた刀」へと昇華させることが出来た。死に様を見せつけられた刀から生き様を見届けた刀へと転身できたといってもいい。

先程筆者は龍馬は1人も斬り殺したことがない、と書いた。が、件の寺田屋事件では銃で2人ほど殺しているらしい。後に暗殺されることになる近江屋事件の発端の1つは、その殺人である(龍馬は殺害犯及び逃亡犯であり近江屋事件はその刑の執行である)と元京都見廻組今井信郎は供述している。ゲームで陸奥守吉行が銃を使う理由の1つは龍馬がその有効性を証明したからであると筆者は考えているが、その銃が龍馬の命を救ったことが、結果としてその命を奪われることに繋がるのであれば正しく歴史の大いなる皮肉と言うしかなく、最後の時にその鞘でもって刺客の剣を受けた陸奥守吉行こそがやはり最期まで龍馬を支え続けたというべきであろう。

しかしその陸奥守吉行、寺田屋事件当時に本当に坂本龍馬の佩刀だったかと言うとちょっと怪しい。というのはその年の後半になって龍馬は兄・権平に家宝である陸奥守吉行を譲ってほしいと手紙でねだっているからである。もちろん、我々の知っている歴史が真実とは限らず、寺田屋事件当時は陸奥守吉行が佩刀ではなかったと油断してやってくる時間遡行軍を誘い出すための大いなる偽計の可能性もあるが、この辺りはやはりウソのつき方が映画と比べるとちょっと残念な点ではある。

とはいえ陸奥守吉行にスポットライトを当て、単なる元気キャラ、ムードメーカーではなくしっかりとした陰影を映し出し、よりキャラクターとして深みを出してくれた脚本に乾杯したいし、万雷の拍手を送りたい。

前述の兄への手紙で、龍馬はこう書いて陸奥守吉行を求めている。

「死候時も猶御側ニ在之候思在之候」――死に瀕したときもこの刀が傍らにあれば心強く思えるのです。

刀冥利に尽きる言葉であろう。

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