カナタガタリ

すごくダメな人がダメなすごい人になることを目指す軌跡

ばらはあかい、すみれはあおい――IZ*ONEカムバックソング「violeta」感想

余談

IZ*ONEのオフィシャルファンクラブに入会した。アイドルのファンクラブに、しかもできた初日に加入するなんて初めてで、それほど筆者にとってIZ*ONEというグループは特別なものになりつつある。

勿論、カムバックのショーコンも観たし、「HEART*IZ」も配信でガンガンに聞かせてもらっている。

極めつけは表題曲「violeta」である。前作もそうだったが、今回も素晴らしかった。奇跡は二度も続かない。間違いなくIZ*ONEは「本物」であると改めて確信した。

 


IZ*ONE (아이즈원) - 비올레타 (Violeta) MV

既に様々な方々の素晴らしい感想・論評があるので気後れしていたが、折角であるのでMVから感じた諸々を自分の言葉で書き留めておきたい。読者諸賢御推察の通り、あくまで筆者個人の感想であることをあらかじめご承知おき頂くようお願いします。

本題

タイトルについて

タイトルである「violeta」はスペイン語で「スミレ」。スペイン語と言うと最近、サクラ大戦新作のキャラクターデザインを担当され注目された久保帯人先生の不朽の名作「BLEACH」が浮かんでしまうのは世代として仕方のないところである。いいですよね……「グリジャル・グリージョ」……。

ともあれスミレというと日本では「山路来て 何やらゆかし すみれ草」という芭蕉の句が思い出され、先頭に立つわけではない、控えめな美しさを筆者は思い浮かべる。

ちなみに前回、雄略天皇の御歌を紹介したが、そこで女性が摘んでいる「若菜」のように昔はスミレも摘まれ、食用とされてきた。「スミレ」は「摘まれる」の変化したものだという説もあるくらいである。偶然ながら記事が呼応しているようでうれしい。

花言葉は「謙虚」「誠実」であり、また紫のスミレに限れば「貞節」「愛」とファンがアイドルに求める概念が勢ぞろいと言った感じだ。韓国での花言葉は「真実の愛」であるのだとか。残念ながらスペインでの花言葉は筆者の力量では調べられなかった。

後述するが、歌詞を参照するに日韓の花ことばを融合したような「誠実なる愛」をMVでは描いているように感じた。

他方、前回から今回――薔薇からスミレへと考えた時、筆者は表題にも用いたマザーグースの一編が思い出される。

Roses are red,
Violets are blue. 
Sugar is sweet,
And so are you

ばらはあかい、すみれはあおい、さとうはあまい、あなたはいとしい――と言った感じの訳になるだろうか。現代でもバレンタインに添える言葉の鉄板であるらしい。

グローバルアイドルのカムバック曲と考えた時、当然英語圏も意識しているであろうから、この歌も踏まえているのではないかと思われる。

 

歌詞について

浅学の徒であるので自ら韓国語を聞き取り、訳すことは出来ず、(ウォニョンさんからのメールはエキサイト翻訳を用いてどうにかこうにか解釈するのだが)有志訳を拝見した。

ちょっと泣くかと思った。

正しく「ネッコヤ(PICK ME)」の発展形であったからだ。

かつて「私のための光になって」と願った少女たち、すがった少女たちは本作において、「あなたをもっと輝かせてあげる」と応援する側へ転身を果たしている。勿論、それはまず「あなた」が照らしてくれた光があることを前提としながら。

世界が語られる。広い世界のことが。しかしそれでもなお、彼女たちは「あなた」に対して応援を投げかける。「あなただけの私だから」と。

そうなのだ。

あの暑く、熱い夏から半年が経ち、数々の記録を塗り替え、グローバルアイドルとして実績を固めた今でも彼女たちはなお、言ってくれるのだ。

「私は君だけのヒロイン」であると。

応援が反射し、増幅し、拡大する。その幸せな連鎖に含まれることの喜びは無類である。

MVについて

記事によれば、今回のMVは「幸福な王子」をモチーフに作成されたものであるらしい。筆者は初め、Twitterにて「人魚姫モチーフでは?」の方を拝見した。それは大変に素晴らしい解釈で、大いに納得もしたし、今も一つの正解としてそれはあるべきだと考えるが、ひとまず筆者が「幸福な王子」モチーフと言うのを知ったうえでの解釈…というか妄想を書いておきたい。

「幸福な王子」について

「幸福な王子」は有名な童話で、筆者も覚えがあった。同世代の読者諸賢がいらっしゃれば国民的漫画かつアニメであるクレヨンしんちゃんでパロディがあったことをご記憶の方もいるだろう。

今回、こちらにて改めて再読させていただいた。

(Copyright (C) 2000 Hiroshi Yuki (結城 浩 様) 

以下、基本的に本記事での「幸福な王子」についての諸々は先程のリンク先のことを言及していると思っていただいて差し支えない。

アンデルセンあたりの童話だと思っていたのだが、作者はオスカー・ワイルドだというから「サロメ」戯曲の人ではないか。驚かされた。小さい頃「薄いから」と言う理由で読んでショックを受けた人は筆者以外にもいるはずである。(薄いから読んどくかシリーズはジキルとハイド、智恵子抄あたりが安パイであると思う。春琴抄は罠。そう言えばこういう話が「バーナード嬢曰く」にあった気がする)

筆者の曖昧な記憶では「王子の銅像に呼び止められたツバメが人々を救いたいという志に感じ入って施しを代わりに行い、越冬できず死んでいく」と言った話で、その切なさが印象に残っていた。

今回再読してみると、絵本では省略されていた諸々がなかなかインパクトがあって面白い。いきなり上流階級への皮肉から入ってくるキレッキレぶりであるし、ツバメに至っては葦に対して熱烈なアプローチをしておきながら難癖をつけて去ると言うかなり度し難い状態からスタートする(このツバメが植物に対して愛を抱くタイプの特殊なツバメなのかと思ったら途中で「今頃仲間たちは蓮の花とイチャイチャしてますよ」みたいなことを言うのでツバメ全般がそうであるらしい)

王子も王子でけっこう「やりがい搾取」みたいなことやってるな……と大人になってから読むと思う。勿論善意で動いているのだが。モデルとなった王子の魂が銅像に宿っているという設定なのも初めて知った。

記憶通り、王子の像の装飾をツバメが人々に施していく。「枯れたスミレ」がタンブラーに挿されている才能ある若者がサファイアを施されるのは象徴的なシーンである。

そしてやはりツバメは越冬できず死んでいく。王子の鉛で出来た心臓が寒さで割れる。(児童向けではツバメの死のショックで割れる)

そして人々はツバメをごみ箱に捨て、みすぼらしくなった王子像を溶かしてしまう。

しかし2人の善行は神が見ていて、天国で幸せに暮らす……というのがあらすじとなる。筆者のイメージの中ではツバメが献身の末死んで終わる、悲しい話であったのでちょっとデウスエクスマキナ的であるが救いがあってほっとした。

「天国」の「王子」ウォニョン、転生する「ツバメ」咲良

それを踏まえてMVを観ていく。金髪になったからこそ余計に清楚さにハッとさせられる宮脇さん、前髪を作ったことが余りにも大成功過ぎるキム・ミンジュさん、ゴージャスな服装に全く負けていない本田仁美さん、黙っていれば彫像のように美しいアン・ユジンさんに続き、チャン・ウォニョンさんのティーン全開、いやもっと幼く見える無邪気な笑みと暖かな風景に口元が緩む。一方、明らかにウォニョンさんのいる場所だけが不自然なほど明るい(他のトーンが暗い)ことが気にかかる。

前述した記事ではIZ*ONE全体が「ツバメとしてサファイアを届ける」役割であるとし、実際そろってのツバメダンスが存在するように「そうである部分」もあると思うのだが、筆者はそれ以外に各々役割が付加されているようにも思えた。

例えばウォニョンさんの役割は「天国に魂を移された生前の王子」であると考える。花畑は天国である。一切の不安がなく、解放された王子の表情は穏やかだ。途中、手を上に伸ばし、一層の笑顔を向けるシーンがあるが、これは同じく天国に居場所を移したツバメが飛んできたのを見つけたのではないかと思う。

他方、宮脇さんは「ツバメの総代」とでも言うべき役割を持つ。サビのゆっくりと広がっていくツバメダンスにおいて宮脇さんがセンターを務めているのが象徴的である。

箱に突っ伏する宮脇さんはそのまま博愛に殉じたツバメが王子像の下で力尽きた姿であろう。その亡骸は冷たい雪に覆われていく……と思いきや花びらが降りしきる。周りは花畑。目を覚ます宮脇さん。きっとウォニョンさんとの再会が待っているはずである。

他の人々はどうか。例えば前作に引き続き短い出演時間ながらバチボコ可愛い姿で今回も視聴者のハートをつかみ、視聴者はどないなっとんねんと製作者の胸倉をつかみたくなる矢吹奈子さんであるが、彼女のいる場所は極端に暗い。これは「幸福な王子」の施される側―例えば子どもたちや支配人―を暗示しているように思える。矢吹さんの目尻に「応援される側」であるスミレのような意匠のメイクがあることが一層そのように感じさせる。花が開くのは文字通り「才能の開花」を示しているのかもしれない。

同じくそばで花が咲くラップパート(ルビーのようなという歌詞は今回にも呼応している)からボーカルパートになったものの今一つ譜割りが少なく感じて筆者としては不満なチェ・イェナさんについてはその開花の「監視者」なのではないかと考える。神の使い、言ってしまえば天使である。施しにより開花する花によってその善行を測り、もって王子とツバメの2人を評価しているのでは。

PRODUCE48時代に比べてどんどん目が輝いて全体の魅力も相乗効果で高まっているイ・チェヨンさんは最後のシンプルな服装、台座の上にいる様から「王子像」なのではないか。もはや遥か過去の指標でしかないが、12位と1位の立ち位置が対照的、と言うのは意図としては判り易いと思う。

相変わらずのメインボーカルぶりを発揮、愛嬌にも磨きがかかるチョ・ユリさんの役割はなかなか謎めいている。液体を飲むことが「雪を降らせる」効果があるのか「転生させる」効果があるのか、いずれにせよ何か高位な存在なのではないだろうか。

まさかの復活、地獄から蘇ったラッパー、カン・ヘウォンさんは相変わらずの美貌で殴る力強さを見せつけてくれるが、「王子像の内面・葛藤」を表しているように思える。歌詞の分担もちょうどそういった感じである。

じつはグループバトルでもラップを担当、あの頃と明らかにものが違うミンジュさんは対になる「ツバメの内面」を担当しているように思う。初めに咲良さんの後にカットインしてきたのもそう考えるとうなずける。

かわいいかわいいウンビちゃんことクォン・ウンビちゃんのセレブな格好のハマり具合と言ったらないが、パステル調の衣装でちょっと浮いているような感じがギャップの可愛さにつながるのはさすがである。終盤にどっしりとダンスを見せつけてくれるなど、前作を踏襲した役回りをばっちりこなしてくれる。台座に腰かけ、手にした花に火をつける。「幸福な王子」がみすぼらしくなったことで運ばれる「溶鉱炉」の象徴のように思えた。

前作からキム・チェウォンさんの「悪女っぽい表情」は天下を取れる要素があると考えているのだが、今回は益々素晴らしいものがあった。是非この路線で今後ともお願いしたい。彼女の持っている四角柱は何とも意味深で、最初のシーンでは突き立て影が映る―日時計トケイソウの暗示と考えれば自らの幸せを謳歌しつつ、人の不幸には鈍感な「侍女」であるのかもしれず、あるいは雪の結晶を表していると考えれば残酷なまでに厳格な自然の化身であるのかもしれない。

立てばイタズラ座ればMC、黙っていれば超美人のユジンさんの飛沫を上げながらのシルエットダンスにはしびれた。めちゃくちゃにかっこよく、また、シルエットでも「ユジン君(我が家での愛称)だ!」となるその動きには釘づけだった。シルエット=不確定であり、水辺であることからツバメが持ってくるつもりが幻となった「大海のように青いサファイア」なのかもしれず、同じく白を基調とした衣装であるチェヨンさんが「王子像」であると仮定をしているのだからこれは先程の「ツバメに対しての王子の内心不安な部分」ではなく「激しく燃える人々を救いたいという心」の表れであるのかもしれない。

朝ドラ主演女優さんのような清楚さと益々レベルアップするダンスを我々に見せつけてくれる本田さんはもしかして「サファイア」そのものなのだろうか? あるいは王子の目であるサファイアを前にしてそれを取れと言われた「ツバメの逡巡」であるのかもしれない。

次作への期待

以上、妄言であった。こういったことを書き散らすのは楽しい。楽しみ過ぎて五千字を超えてしまったのでこの辺りにしたい。考察も出来るし、ただ見て美の暴力に打ちのめされるだけでもいいのがIZ*ONEの良いところである。

西洋においてはバラ・スミレ・ユリがセットとされているらしい。であるならば、気が早いが次回のカムバックはもしかしたらユリをモチーフとしたものになるかもしれない。ちなみに花言葉は「威厳」であるらしい。

もし採用されたらユリさんがどんなリアクションをするのか気になる(ちなみに韓国語で花のユリは「ペカプ」といったように発音するらしい)

ともあれ各種コンテンツの日本語字幕などまだまだ今回カムバックの諸々の提供が山積みである。ゆっくりとHEART*IZを堪能しながら待ちたい。

IZONE-HEART IZ Violeta Ver.(輸入盤)