カナタガタリ

すごくダメな人がダメなすごい人になることを目指す軌跡

坂下り――NGT48チームG「逆上がり」千秋楽公演(聞き書き)感想

会合を早く終わらせることが出来、家路を急いでいた。妻に早く会いたかったし、チームG「逆上がり」公演を少しでも見たかったのである。

出発が少し遅れたため、録画をもう一度流したのか? という支配人挨拶はさわりだけ見た(妻によるとのち怒りのヤジがあったようで、ファンの気骨を感じたとのこと)。

妻は最初の寸劇の感想を怒りを乗せて送ってきたが、以降は沈黙しており、少なくとも公演は順調に推移しているのだろうと安心して会合に臨むことが出来た。

やっと駐車場に着いたとき、妻から通知が来ていたのに気づいた。

菅原りこさんと長谷川玲奈さんが卒業発表。

一心不乱に階段を駆け上がり、やはり脛を打ち、鍵を開ける手ももどかしく家に飛びいると、妻は呆然として画面を見つめていた。菅原さんが映っている画面を。

菅原さんはどちらかというと「飛び道具」的なお嬢さんで、まっすぐであるが故にトリッキーと言う不思議な魅力があった。「交通安全は危険です」なんて筆者には一生思いつけないフレーズである。

知らないうちに髪を切っていた菅原さんは、涙に目を濡らしながらしかしいつもの様にまっすぐに言葉を継いでいた。

筆者は前にも菅原さんの涙を見たことがある。総選挙にランクインできなかった時だ。その時に彼女の夢がソロコンサートであることを知った。

そして今、彼女はそのソロコンサートを諦めた訳ではないことを話していた。

今となってはとても皮肉なタイトルになってしまったが文句なしの名曲である「世界の人へ」に総選挙圏外メンバーで唯一参加したメンバー。これからのNGT48を担うべきメンバーがいま、「NGT48のりったん」としてのソロコンサートは行えなくなったことをファンに詫びている。

「少しずつ前を向いていきたい」という言葉にNGTの活力の象徴であった彼女がどれだけそのまっすぐさ故に様々な方向から歪められようとしていたのかが感じられ、胸が苦しくなった。

そして彼女が深く深くお辞儀をした後、チームGリーダーである本間日陽さんがまとめの言葉を言おうとした時、

「ちょっと待ってください」

の言葉が発せられた。聞き覚えのある優しく少し揺らぎのある声。

山口真帆さんだった。

更に痛々しくやつれた彼女はそれでもなお美しく、それ故に一層悲劇的だった。

そして彼女は卒業を告げた。

「最悪だ」

筆者と妻はほとんど同時に声を発した。

二、三、言葉にならないうめきを上げた後、山口真帆さんの言葉の一言一句を見逃すまいと画面に目を凝らした。

この段に至ってもなおNGT48を大好きだと言ってくれる彼女に対する、余りにも酷過ぎる大人の裏切りと、それに対する返答としてもはや選択肢が卒業しかなくなってしまった彼女の諦め。ファンへの感謝、最後の握手会と公演出演の告知だった。

ここまで来ても、彼女はNGT48とファンの為に最後の舞台を用意してくれているのだ。

自分のことを支えてくれてありがとう、今後は自分の為に時間を使って楽しい人生を送ってください――身を斬られるような言葉だった。結局こんな結末になってしまった。

「夢の話をしましょう」そう言っている彼女の笑顔。こんなに悲しい笑顔を筆者は初めて見た。

正しいことをしている人が損をする世の中であってはいけない。初めから一貫している彼女の主張はしかし、とうとうNGT48においては受け入れられることはなかった。

けれども彼女はNGT48になれてよかったと挨拶を結んだ。

彼女もまた深々と頭を下げ、本間さんが今度こそ本当に公演を締めた。

長谷川さんと山口さんが寄り添って退出していく。うつろな目で筆者は「長谷川さんは、(挨拶とか)どうだった?」と妻に尋ねた。

「謝ってた……何度も」

妻もまだ出来事を整理しておらず、そう伝えるのが精一杯の様であった。

本間さんの涙の挨拶の間も心は浮遊しており、いつしか配信は終了していた。

妻からぽつぽつと講演の内容を聞いた。

「寸劇はつぐつぐ(妻のNGT48での推しメンの小熊倫実さん)が出ていて……皆キラキラしていて……言い方は申し訳ないんだけどりかちゃん(中井りかさん)のあんな純な笑顔は初めて見たかもしれない……「エンドロール」はKの印象が強いからすごくかわいいエンドロールでびっくりしたけど新鮮でよかった。「わがままな流れ星」、「抱きしめられたら」、「ファンレター」が個人的には特によかったかな……「ハンパなイケメン」の歌詞が完全にまほほん(山口真帆さん)で……彼女がアイドルとして本流であるべきなのにどうしてって足があんまりやせ細っているのもあって泣いてしまった……もちろん、48Gは既存アイドルのカウンターと言うところから始まっているのは判っているんだけどさ……正統派アイドルが冷遇されるのはともかく人として正当な人が弾劾されるってどんな人外魔境だよと思う……でも全体的に本当にいい公演だったしいいチームだなと思った。正直好奇心と言うか、まほほんがどうなってしまうんだろうっていう部分もあって今回千秋楽を観たという所もあったんだけど、もっと早くからこの公演を見たかった……最後の曲が「To be continued.」で……本当にずっとこの瞬間が続いてほしいと思ったくらいだった。そりゃこのチームを解体しますと言われたらブチ切れても仕方ないよ」

続いて山口さんの今後についても「私なんかがするのはおこがましいけど」と言及を続けた。

「まほほんには本当に幸せになってほしい……でも今後例えば素敵な人が彼女の前に現れたとして、きっとあの瞬間、顔を掴まれたことがフラッシュバックしてしまうと思う。それが同じ女性として本当にあり得ないし許せない。一人の女性にそこまでのことをしておいて、疑惑のメンバーは残っていて、こんなのは納得できないよ。「制服が邪魔をする」(AKB48のメジャー2枚目のシングル)からずっと紆余曲折はあったけど48Gを応援してきたけど、さすがにちょっともう……って感じ。でももふちゃん(村雲颯香さん。山口さんが言及した支えてくれたメンバーで唯一NGT48に残留する)が本当に心配だよ……だから今後も動向はみていくけど、もう応援じゃなくて『監視』だよね……」

NGT48には本当のアイドルがいた。そしてそれを、NGT48自体がアイドルとして殺してしまった。全米が震撼するのと同じくらいのペースでAKSは死に続けているが、今また死んでしまった。信頼は下り坂だ。まだ下る余地があったのかと驚かせてくれる。

長谷川さん、菅原さんともに新潟県の出身である。運営はまた一つ新潟に対して償い難い罪を重ねてしまった。大事な娘さんを預けている親御さんたちの心配いかほどばかりであろうかと思う。

最高のアイドルにせめて最高の花道が来月の公演で用意されることを願いたい。