カナタガタリ

すごくダメな人がダメなすごい人になることを目指す軌跡

最高を何度でもー菅原りこさん、長谷川玲奈さん、山口真帆さん卒業公演「太陽は何度でも」感想

早、三人の卒業発表から一月が経とうとしていた。

あの日以来NGTという単語を見るだけで頭痛がするようになってしまったので意識的無意識的にシャットダウンするようにしていたのだが、妻が卒業公演もDMM配信されると教えてくれたので最後にリアルタイムで三人を見られる機会(その時に卒業公演が三人でということを知り目眩に襲われた)だと思い、再びDMMに課金することにした。

相変わらず、定刻には始まらず、その詫びもなかった。少しすると音声のみで山口さんが会場のファン…いや敬意を表してオタ諸賢とするーに対してメッセージを告げているのが聞こえてきた。オタ諸賢の嗚咽が聞こえた。間もなく菅原さんの明るい影ナレが始まり、彼女達のNGTの終わりが始まった。

 M1 Maxとき315号

開幕、まず「本当に三人なんだ…」という気持ちが立ち上がったが、数瞬後にはその素晴らしいパフォーマンスに夢中になってしまった。アイドル百人力×3である。この曲自体もとても好きな曲で、三人がのびのび歌っているのが本当に嬉しかった。Maxとき315号はダイヤ改正により今は存在しない。そしてこの三人のNGT48としての姿も、もう間もなく。


M2 ファースト・ラビット

早速変化球で来たなという印象を受けた。しかし題名の通りの「ファーストラビット」であった山口さんのあえてこういう言い方をすれば「末路」を思い起こしてはっとさせられた。


M3 完璧ぐ~のね

今度は派生ユニットからの一曲と展開を読まさせない。渡辺麻友さん好きを公言する山口さんにふさわしい曲、アイドルのお手本のような振り付けがとても可愛いが、やはり歌詞と運営との対立が重なるようで深読みしてしまう。


自己紹介MC

山口さんてこんなに朗らかに話すし、甘える人には甘えるんだなあというのが改めてわかった。最後になるであろう自己紹介を会場中で受け止めている図が微笑ましかった。

長谷川さんはMCが不安だと言っていたが、起伏もあり落ちもついていて、何より愛嬌と声がよくあと二時間くらいMCでいいなと思った。


M4 おしべとめしべと夜の蝶々

あーっだめだめえっち過ぎますと見ている方が照れてしまうこの楽曲を滑り込ませてくるとは…!

そのギャップによるパフォーマンスの妙はもとより一連の騒動への皮肉も感じられてまたもニクい選曲であった。

 

M5 希望について

そして今度は0048から持ってくる。隙が無さすぎる。以前よりよい歌詞だと思っていたが、長谷川さんが歌うことでさらにその言葉がこちらに向けて飛びかかってくるような曲になっていた。彼女たちは騒動の先に進んでいるのだと確信できる力強さ。激しい動きに声が負けていない。


M6 虫のバラード

千秋楽では歌えなかったこの曲を満を持して菅原さんが歌う。ショートカットにしたのがビジュアルに抜群の説得力を生み出している。これが先程までのぽわぽわガールかと二度見したくなるような魂の絶唱。真実への惑い。NGTは、彼女を一人の歌手にした。人を信じる心に傷をつけることによって。この悪魔の交差点の先に彼女が救われることを願う。

MC

可愛らしい衣装(オサレカンパニーのこの公演用のオリジナル衣装)でやってくる長谷川さん、山口さん。早速おしめしでのキッスを詰問する長谷川さん。開き直って回数が一回少ないことを憤る山口さん、遅れてやってきて件の出来事について淡々と返答する菅原さん。それぞれの個性が増幅させ合ってとても愉快なMCである。三時間くらいやって欲しい。床になって聞いていたい。


M7 ウィンブルドンへ連れて行って

かつて(2012年くらい)筆者はSKE箱推しだった頃があり、その太古の記憶を刺激され勝手ながらジーンとくるものがあった。オリジナル公演でも七曲目であることを踏まえてここに持ってきているのなら恐ろしいことである。名も知らぬ人を応援する歌の主人公は「あなたの夢を見つけてください」と応援する側へエールを送ってくれた山口さんの言葉に重なるものがあった。

M8 残念少女

来たか……! と言う感じ。「彼女たち」に対してお前らがやっている事なんて「アイドルサイボーグ」渡辺麻友が10年前に完璧にパフォーマンスによって消化し、昇華しているんだが今更身を張ってやるなんて馬鹿なの? ギャグなの? というエッジ鋭い批判に真の「残念少女」達はぐ~の音も出まい。妻は小道具がガラケーからスマホに変化していたことに時代の流れを感じていた。

M9 ハート型ウィルス

個人的にはノースリーブスの印象が強いので三人で歌う曲として馴染みがあって良かった。単純に筆者もハート型ウィルス感染していたため記憶があいまいだが、「免疫がなかった」辺りの歌詞をやはり穿って考えてしまい事件の傷が自分にも根深いことを改めて知った。


M10 キャンディー

 

筆者の中ではあみなちやんを思い出す曲。ハート型ウィルスもそうだが小道具までいちいち可愛い。お手本の様なアイドルぶりの中、「女の子は楽天的」というリリックがやはり胃の腑にずぶずぶと沈み込んでくる。


M11 Only today

 昔と何もかもが変わったことを誰よりも知っている三人がまたもメッセージ性の強い曲を容赦なく見る者へ提示してくる。ポップであることが余計にNGT48の異常事態を知らせてくれているように思えた。


MC

前曲の「今日だけは付き合って」に呼応するようにNGTメンバーがやってきてくれた。妻は推しメンである小熊倫実さんの去就を気にしていたので、駆けつけてくれたことにたいそう喜んでいた。卒業するメンバーたちとの思い出を披露するメンバーたちの表情はやわらかで、卒業するメンバーたちの人柄が偲ばれたし、残るということで今後様々な辛苦が予想される中でそれでも来てくれるありていに言えばその「絆」に目頭が熱くなった。最後の曲、「桜の花びらたち」か皮肉も込めて「世界の人へ」辺りを予想していたが……

 

M12 黒い羊

これにはぶち抜かれた。それまでのセットリストは所謂「匂わせ」であったがここにきてど真ん中ストレート剛速球だ。拾う時点でネットニュースが騒然としたのも当然であることだろう。

この曲を山口真帆さんが歌う。恐ろしいことに、それでついにこの曲が完結した様にさえ筆者は思えてしまった。最後のピースは、そうであったのだとさえ。今後本家本元の「黒い羊」を聴いても残念ながら生き様をレペゼンしたこの日の黒い羊に叶うものは今後出て来ないであろうし、出てきてたまるかと思う。こんな曲がアテ書きのように「ハマって」しまうアイドルなんてこの世に一人もいていいはずがないのだ。

けれどもこの曲をパフォーマンスする山口さんは、ゾッとするくらい美しかった。振り付けであるとわかっていても、舞台で突き飛ばされ打ちひしがれる山口さんを見るのは心が痛んだが、それでも目をそらせない鬼気迫る迫力があった。

彼女は間違いなくアイドルだ。パフォーマンスで運営の喉元に匕首を突きつけて見せた。


アンコール

それぞれのオタク諸賢の口上、声は上ずり、言葉に詰まるときもあり、周りからもすすり泣きが聞こえた。さぞや無念だったろうと思う。それでも、もちろんこんなことは許されないけれど、最悪の最悪にまで発展しなかったのはアンコール口上を務めてくれたような良識ある本来的な「オタク」のお陰であるとせめて少しでも彼らの労を称えたい。


EC1この涙を君に捧ぐ

再び0048より。彼女たちは宇宙刑事よろしく一足お先、光の速さで明日へダッシュしていることが伺いしれるセレクトだ。そしてアンコールと言うオタクからの愛にこれほどストレートに答えることが出来る曲であることを、改めて気付かせてくれる素晴らしい構成でもあった。三人の衣装は穢れを払い落としたかのように爽やかにお色直しされていた。


お手紙①

さすがに他のメンバーからとはいかなかったか…と残念ながらも期待の方が大きく聞かせてもらった三人それぞれがそれぞれへ書いた手紙。それぞれの人物像が良くわかる文章であり、エピソードであった。運営については諦めていたが、仕方がないとはいえ距離を取ったメンバーがいることが明らかになるのはやはりつらいものがあった。名前まで挙げないのは武士の情けか、内部崩壊を牽制しているのか。それぞれがそれぞれにとって欠かせない支えとなっていたことがじんわりと伝わってくる温かい文章だった。


EC2 太陽は何度でも

そしてまさかのオリジナル曲。妻と事前に秋元康Pが

①楽曲を書き下ろす

②三人で再デビューさせる

あたりをするのではないかと半ばやけくそで予想したりしたのだが、まさかニアミスするとは。優しく、しかし決して弱くはない曲調と歌詞。もちろんそんなことをするより先にやることが色々あるだろうというのはその通りだと思うのだが、山口真帆さんたち三人がアイドル公演と言う形を以て運営に決別をするのであれば、彼女たちのその熱意には楽曲提供で応えるという秋元康という人の矜持を垣間見せてくれたのだと筆者は信じたいと思う。そういう気持ちに三人がしてくれた。

お手紙②

AKBファンたちは知っている。奇跡は間に合わないことを。けれどそれ以上に、時には間に合うことを知っている。ある年の総選挙で。ある年のリクエストアワーで。そしてその歴史に本日新しい一ページが刻まれた。

村雲颯香 さんの登場である。

山口さんが言及したメンバーの中で唯一NGT残留を決意したメンバー。過酷に生きることは過酷に死ぬより何倍も力がいるという。それは特に現状の「NGTでのアイドル人生」においてはそうであろう。単純に今後は様々な軋轢が四倍になる可能性だってある。けれど彼女は残留し、そして三人に心のこもったユーモアあふれるお手紙を返し、三人はそれに負けないくらいの言葉と、そしてエールを彼女に送った。長谷川さんの「ずっと村雲さんが推しメンでよかった」という言葉にとうとう涙してしまった。

オタク、これがメンを推すということで、信じるということではないですかと。

 

EC3 桜の花びらたち

そうして彼女たちは最後にAKBGの象徴の一つである曲を歌い、桜のように美しく潔く散っていった。

次への指針を残して。

筆者もそんなに劇場公演を観る人間ではないのだが、しかし今回のセットリストは身震いするほど素晴らしいものであった。かつてのHKTコンサートのようなワクワク感があり、もしかして指原莉乃さんがその構成にいっちょ噛みしていたら面白いと思うし、仮に山口真帆さんや菅原りこさん、長谷川玲奈さんたちでこのセットリストを組んだのだとしたら、AKBGはお手本の様なアイドル三人を失っただけではなく、将来の裏方、グループの屋台骨、中核を担うことのできる企画・構成・発想力を持った人材をみすみす手放してしまったということになる。全く同情はしないが。

アイドルは死んだ。運営が殺した。新潟出身の二人が新潟に対して罪悪感を抱くなんて絶対に間違っている。そんな状態でも彼女たちはオタクに感謝してくれて、どこまでも胸が苦しくなる。

始めは野次馬根性でもいい、アーカイブ配信がなされたら是非、「太陽は何度でも」公演を未見の方は観てほしいと思う。誇張でもなんでもなく日本アイドル代表の姿がそこにある。最後の晴れ舞台を目に焼き付けてほしい。

三人の煌めきは観たものの中で永遠に輝き続けるであろうし、その炎が彼女たちの次のステージでより燃え盛ることを期待してやまない。NGT48に所属していたことなんて、彼女たちのヒストリーの中で一行ちょろっと書かれるくらいの些細なことになってしまうくらい前途が洋洋であることを祈る。

またね。

 

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