カナタガタリ

すごくダメな人がダメなすごい人になることを目指す軌跡

願わくばノイズのこだまも聴こえぬはるか先まで走れかし―HKT48兒玉遥さん卒業に寄せて

兒玉遥さんが卒業を発表した。
個人的には指原莉乃さんの卒業イベントにも一切姿を見せなかったため、まだまだ療養に時間がかかるのかなと思っていたので驚いた。
かつてHKT48とは兒玉さんの、「はるっぴ」のことであった。
特徴的なヘアスタイルと幼さはまさしくHKTというニューウェーブの象徴で、当時は本店(AKB48)で手一杯だった筆者はそのエナジー全開ぶりがフレッシュで、頑張って欲しいと思う反面、本店の貴重な選抜枠が削られることを恐れたりもした。


【MV full】 真夏のSounds good ! (Dance ver.) / AKB48[公式]


夏シングル「真夏のSounds good !」でその予想は実現した。(えっ……7年前?)と言っても史上最大人数の選抜人数では芋洗い状態でろくに映ってもいなかったが…(筆者は3’33辺りで辛うじて発見できた)
HKTでの勢力図は結成当時の「はるなつ」コンビ(兒玉さんと松岡菜摘さん)から総選挙等で頭角を表してきた宮脇咲良さんとの「はるさく」コンビが火花を散らし始めていた。なんだかんだで指原さんがHKTにやって来たり多田さんもやって来りもしていよいよHKT48名義の初めての曲、「初恋バタフライ」が発表された。あの島崎遥香さんが大ブレイクするきっかけとなった「永遠プレッシャー」のカップリングだ。


【MV full】 永遠プレッシャー / AKB48[公式]


【MV full】初恋バタフライ / HKT48[公式]


センターは兒玉さんではなかった。宮脇さんでもなかった。その年に加入したばかりの二期生、田島芽瑠さんであった。(このことに関して、NGT48名義曲が誕生したときに暫定センターから降ろされてしまった現研究生の加藤美南さんとそのつらさを共有できる先輩として相談に乗っていたことが今となっては懐かしく思い出される。今回の騒動をどんな気持ちで見ていたのだろう)MVを見るとなるほど納得の透明感、フレッシュさ、センター力を感じる。ここに兒玉さんは、宮脇さんは、「若さ」だけで戦う道を早くも断たれてしまった。そしてそれぞれが女の子から少女へと覚醒し、例えば宮脇さんはさくらたんから咲良さんへ、といわれる脱皮のストーリーを自らプロデュースして見せた。


【MV full】控えめI love you ! / HKT48[公式]


4枚目のシングルにて見事、兒玉さんはセンターを射止め、5枚目のシングル「12秒」にて宮脇さんとダブルセンターを務めた二人はまさしくHKTの顔だった。博多座での抜群のコメディエンヌぶりと、パフォーマンスのはつらつさは今も筆者の目に焼き付いている。兒玉さんと宮脇さん、どちらが欠けてもあの時のHKTのおもちゃ箱的な楽しさ、日々ブラッシュアップされる物事を見ていく喜びは味わえなかったであろう。
二人の切磋琢磨ぶりはしかししばしば、二人のファンの対立や過激な言動を生んだ。兒玉さんのファンが兒玉さんへ、あれは755だったと思うが、兒玉さんが大好きだから宮脇さんより上になって欲しい、といった旨の投稿をした。彼女はそれに答えた。


「そうやって、いつも比べないで。あなたが大好きならそれで幸せだから」


短い文章だが、ファンへの愛とたしなめ、宮脇さんへのいたわり、兒玉さんの優しさが色濃く出た出来事として筆者は強く印象に残っている。そうしてまた、彼女は、彼女たちはどれだけ様々なあるときははっきりとした、あるときは自覚のない敵意や悪意に晒されてきたのだろうと悲しくなったのもまた覚えている。


一年半の間、彼女は療養していた。そうして次の進路が決まった電撃卒業発表に、やはりしっかりとHKT48としての彼女にお別れを言えないファン諸賢の悔しさ、悲しさがちらつくけれども、療養する前、間、そして今になっても吹き荒れる言葉の洪水を端から見るにつけ、けれどやっぱりこうするしかなかったのかもしれない、と筆者は思わざるを得ないのである。きっと誰よりもHKTが好きだといってくれていた彼女こそが無念に違いないと。
筆者は夢想していた。指原さんが卒業し、宮脇さんと矢吹さんが一時離脱したこの状況に兒玉さんが颯爽と復帰することを。HKTの新章の扉を開くのは、いや新章の扉を開くのも、やはり兒玉さんだったんだと、「はるっぴ」だったのだと快哉を上げたかった。残念ながら一切は夢のまた夢であったが、本人の目指す夢を応援したい。


2016年の彼女の総選挙のスピーチを思い出す。前年、17位と目の前で逃した選抜入りを9位という文句なしの順位で手に入れた彼女は、秋元康氏から贈られた言葉だとして「夢はてを伸ばした一ミリ先にある」という言を引いた。一年半あまり、長い「一ミリ」の果てに素晴らしいものを掴めることを祈っている。

次に彼女の声を聞くとき、かつて噛み7とまで言われたいつもの舌ったらずな可愛らしい声なのか、それとも心身が万全というのは滑舌まで含んでいて、女優業に向けて全く生まれ変わっているのか。
どちらなのか楽しみではあるけれど、どちらにせよその時、筆者は改めてHKTのひとつの区切りを、終わりを感じるのだろうなと思う。
お疲れさまでした。