カナタガタリ

すごくダメな人がダメなすごい人になることを目指す軌跡

繋がれた箱の中の愛の撃ち殺し方、あるいは封神演義外伝および覇穹 封神演義最終話までの感想

封神演義全般に対する致命的なネタバレがあります。

封神演義外伝感想

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封神演義外伝」最終話読了後の筆者(イメージ)

こ…これだよ読者が求めていたモノは! といった感じであって、外伝ものに期待するお祭り要素が生かされていた。こんな華やかな場には当然、趙公明がいてしかるべきであるし、太公望は策士であるし、妲己もそれ以上の策士だったりする……というあまりに本編と地続きなまるで連載終了後半年のような違和感ない連続性には改めて驚かされた。太公望が過去の仲間たちに告げた久々の再会へのお礼は、読者たちがそのままキャラクターたちに抱いた気持であったことだろう。

ちなみにゆるキャラっぽい見た目の「羽翼仙」は原典では蓬莱島の仙人。申公豹に唆され、太公望にクレームをつけ、哪吒に煽られ、元始天尊にディフェンスされ、燃燈道人に弟子にされる、というなかなか濃いキャラクターである。その後、原典でも孔宣と対峙し、敗れはするものの孔宣の正体が鳥であることを見抜く、というキーパーソンとなっている。これが藤崎先生のアレンジが加わると怪獣総進撃となるのだからさすがである。

孔宣との別れ際、太公望は悠久の時を生きる彼相手にも再会の約束をする。思えば太公望もまた最初の人としてある種無限の孤独を味わい続けて来た立場であるから、その言葉は重く、またそこに偽りはないことを孔宣も感じ取る。これが主人公であるな、としみじみ感じた。本編において、太公望太上老君にはるか未来、騒乱の果てに何もなくなってしまうことを示唆されるが、もしかしたらあれも孔宣のうっかりだった可能性もあり、今回のことを踏まえ、あの歴史も変わっているかもしれない。断言はできないけれど。導はなくなったのだから。

最初の人残り二人(と、そのスーパー宝具)がしっかりとした描写なく終わってしまったのは残念。神農がほぼほぼ話を進行させる装置であり、意味ありげな表情もセリフも意味ありげなままで終わってしまったのもやや肩透かしであった。ちょっと打ち切り漫画が最後に駆け込みで考えていた設定を詰め込む、みたいに見えてしまったのも重ねて残念。そのあたりまで含めたギャグであり、また今後のさらなる続編への種まきだと思いたいのだが……。またライフワーク的に外伝をやって欲しいものである。

ちなみに最初の人残り二人(燧人・祝融)は伏羲、女媧、神農と同じく古代中国の神であるが、一般的には前漢司馬遷史記」にのっとって伏羲、女媧、神農が所謂「三皇」とされるところを、後漢の班固「白虎通」では伏羲・神農・祝融に、応劭「風俗通」では伏羲・神農・燧人 になっていることを考えると、そこからこの五人を同等の存在として「最初の人」の元ネタとして引っ張ってきたのかなと考えられて面白い。そうなると、西晋の皇甫謐「帝王世紀」では伏羲・神農・黄帝 となっているので、もしまた続編があるとしたら、「もう一人いた危険思想の最初の人」としてラスボスで「黄帝」が出てきても面白そうだなあと思う。

まずは単行本、そして断崖絶壁今何処の復活を切に楽しみにしたい。

 

覇穹 封神演義感想

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覇穹 封神演義最終話視聴後の筆者(イメージ)

覇穹 封神演義の良かったところ

・楽曲がいい(特にOP一期は歌詞まで含め最高。MVフルで見ると途中クレイジーに磨きがかかるのもご愛敬)


Fear, and Loathing in Las Vegas - Keep the Heat and Fire Yourself Up

・背景美術(中国の烈々たる風景、神仙世界がよく表されていた)

・地裂陣の戦闘が詳細に

・声優さんの演技

覇穹 封神演義の悪かったところ

・大体上記以外のすべて

何故目の前の正解を打ち捨ててしまうのか

ぼくは、せつなかったけど、あいつらには、こういった。「いやあ、こりごりだよ……」

 

あのときの王子くん(LE PETIT PRINCE
アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ著、大久保 ゆう氏 訳より引用

あれはもうどれくらい前になるか……封神演義が再アニメ化すると知ったとき、その嬉しさを忘れられない。その時の筆者には素晴らしい原作に沿った丁寧なアニメ化、Twitterトレンド入りするいわし占い、ハンバーグによる初見勢の阿鼻叫喚、趙公明編での突然のアバンでの私立アンニュイ学園、BD特典で私立アンニュイ学園30分アニメ化でざわつくTL、そして2クール(趙公明編終了くらいまで)完走後、続編製作決定に再び湧きたつ古のオタクたち……までが一瞬のうちに幻視されたのだが、残念ながら叶うことはなかった。

覇穹 封神演義は完結した。完結後、筆者は自分の部屋に行き、2時間眠った……ことはその30分後にPRODUCE48が控えていたのでなかったが、うつろな精神が夢に向かって頑張るアイドルたちを見ることでいくばくか回復し、暫くして、沢山のことが失われてしまったことを思い出し、沈痛な気持ちになった。

ごっつあん主人公・太公望

策もなしに王宮に突入し、同族を失い、フィーリングで武王を見出し、楊戩に信頼という名のやりがい搾取を働き、戦いの最中に敵の参謀とよくわからない部屋でいちゃつき、やけに作画の良いゴマ団子にしてやられ、父を救おうと必死な黄天化に何か代替案を示すでもなく静かに首を振り、皆がボコった聞仲をおいしく退治した後、なんかすごそうなやつは妲己ちゃんになんかいい感じにしてもらって、バックレた上になんかコスプレをしました。おわり。

なんだこの主人公……。

殷の父(絶賛ネグレクト中)・聞仲

まあなんか殷とは昔から色々あってわしがいないとダメなんだよね。武成王もいれば最高なんだよね。えっ武成王裏切るの…? 周つぶすわ……肩入れしている崑崙ごとつぶすわ……えっ四聖が封神されたの? 舐めプしてたら結構なダメージ食らったし武成王も封神されちゃったけどペガサス編の海馬みたいな感じでかっこよく決めるわ……我々がお空で不毛な戦いを繰り広げている間に地上の大勢は決して殷王朝はもうぼこぼこで紂王は何したかわからんけど何かした副作用によって一気に老いさらばえたけどまあ敬意を表して一礼したからセーフでしょ……朱氏も褒めてくれたし……最後はなんか武成王…飛虎も温かく迎えてくれたし…張奎? 知らない名前ですね……。

なんだこのライバル……。

 

続・何故目の前の正解を打ち捨ててしまうのか

素直に時系列に従ってアニメ化をするという正解が転がっていたのにどうしてこんなことに……。仮に2クールまでという期間ありきだったとしても、その範囲で原作を忠実にアニメ化していれば、きっと多くの支持が集まり、続けての製作が期待できたはずである。それを原作の要である仙界大戦に絞り、でありながらあちこちつまみ食いしたことによって、だれも望まないキメラが出来上がってしまった。というか、時系列シャッフルだとばかり思っていた部分が実は同時進行だったということで、特に聞仲の駄目太師ぶりは言語に絶することになってしまった。

原作では聞仲が封神される(この時点では紂王は妲己も離れている(蓬莱島に行っている)ため有能な君主に戻り殷は安定を取り戻しつつある。その状態の紂王へ聞仲は一礼する)→妲己帰還。抑えに残していた四聖は改造された紂王により封神される→殷再び荒れる→殷周の雌雄を決する牧野の戦い。殷は敗北する→力を失った紂王は一人朝歌へ……この国にもう、王などどこにもいない……。

ということで聞仲封神によっていよいよもってタガが外れ、殷は崩壊へと向かう――考え方によっては聞仲が「我が子・殷のため全力を尽くしていた」ことによってギリギリまで踏みとどまっていたものが決壊してしまうということがよくわかる構図となっているのだが、アニメでは最終話、ボロボロになった紂王と聞仲が対峙することによってこの流れが一切崩壊してしまい、モンスターペアレンツ気味であった原作とは正しく対照的にひたすら殷を放置していたネグレクト野郎と化してしまった。

歴史の道標、というか最初の人関係についてもあーもうめちゃくちゃだよとしか言いようのない状況で、アバンで既に女媧について散々言及しておきながら元始天尊が本編で原作通り「歴史の道標……(キリリィ…オモワセブリィ…)!」するのは完全にもしかしてギャグでやっているのか!? 案件である。最後に「これより封神計画をはじめる……!」とか言われても終わったよ……もう何もかも……っていうか終わらせられていたよ気づいた時には……と空しい思いしかこみあげて来ないのである。最終決戦の説明は一切何もなく、妲己ちゃんのグレートマザーの説明すらなく、よくわからんけど何とかなったんだなということしかわからない。歴史の改変はいけない、歴史の道標を外れ人が自立しなくてはいけない……ということが原作の本筋であったように思うが、このアニメを視聴して生まれるのはもう一度ぶっ壊してやり直したい…という主人公によって否定されたラスボスの思想である。まあそれもアニメでは主人公が否定すらしてくれていないんですけどね。というか仙道達については仙界が消滅して人界に降りてきたところで終わっているからそもそも建前の「仙人のいない人間界」を達成できていないのである。

青い髪の人々への製作者の過剰な思い入れがなければ尺としてももうちょっと何とかなったと思うし、総集編をやらなければさらになんとかなっただろう。思い出したように雷震子ほかを出す意味不明さにはもはや清々しさすら覚える。

夏目漱石は死後、検死解剖された。(ということで東大には今も夏目漱石の脳みそが標本として残っている)この時、弟子代表の小宮豊隆漱石神社の神主の異名を持つ)は何度も卒倒しながらも最後まで見届けたという。筆者がアニメ版を視聴している間、同じような心持であった。今はただ喪に服したい。黄天化のファン諸賢においては課金しないと喪にも服せないというのはさすがにひどすぎると思う。24話。12時間あったら、色々できたな……。

蛇足・原作未読の妻の感想の推移

序盤

妲己ちゃんがかわいい! 原作は結構飛ばされてる? 気になるな~完走したら原作もチェックしよ!

中盤

えっ先週飛ばして無いよね? 混乱してきた…原作読もうかな…意味が分からなくなってきた……。

終盤

暫く封神演義って単語を見たくない……。 騙されたと思って原作を読んで? もう騙されたくない……。(切実)

 

原作は本当に面白いんです!!!!!