カナタガタリ

すごくダメな人がダメなすごい人になることを目指す軌跡

アリアドネの糸の顕現、あるいは「オカルト・クロニクル」書籍版感想―秋の夜長の怖い本その2

余談

今週のお題「おじいちゃん・おばあちゃん」

自治会の敬老会にお呼ばれされ、大正琴から音を出してきた。(演奏と言えるレベルではなかった)思いのほかしっかりステージが設営されており、その一方でリハーサルもなくヨーイドンであったが懐かしソングをセレクトしたので参加者の皆さんが口ずさんでくださり、救われた思いであった。ギャラという訳ではないが昼食も頂いた。本人自体が魅力的であればよいのだが、そうではないので、こういう時に「何もできませんが一曲位できます」で場を繋げられたらいいなあ、と考えて楽器を始めたので目的が達成できてうれしい。月末はまた別の所で弾く予定がある。やはりダイレクトに自分のしたことに対しての反応が見られる、というのはブログとはまた違った中毒性がある。「反応」が好意的なものが増えるように頑張っていきたいのはいずれも同じであるが。

さて帰り道、他人様の祖父祖母をお祝いして自らの祖母はほったらかしであったので電話をすることにした。といっても祖母宅の固定電話は詐欺か詐欺めいた営業電話が99%になって久しいのでとうとう今年初め解約してしまったのでかけるのは叔母の電話である。叔母が出たのち、祖母がおずおずといった形で電話に出る。筆者は出来うる限りの声で祝賀を述べるが、暫くしてやはり叔母が電話に出、「今日もやはりよく聞こえなかったようであった」と告げた。筆者の声は低く小さく、祖母の耳はここ最近格段に遠くなってきていた。また、「声を聴くぞ」という意欲も乏しくなってきているように思う。ではまた直に顔を見せに行きます、と言って電話を切った。

今年の夏は御存じの通り酷暑であり、祖母―父―筆者と続く「変なところが頑固者」ラインのルーツである祖母はやはりというかなんというかエアコンをなかなか使おうとせず、衰弱しているようであった。もしかしたら今年の夏を超えられないかもしれない、と8月に母から話も聞いたが、なんとか持ち直してくれたようであった。といっても10が100に戻った訳でもなく、せいぜいが30程度であろう。今度は冬がやってくる。祖母は熱い風呂が好きであるからヒートショック現象が実に心配である。

あと何回祖母に会えるだろう。曾孫を見せることは出来るだろうか。少しでも後悔をしないような日々を送りたい。祖母とのことに限ったことではないけれど。

他方妻側の祖父・祖母は義母方がお二方とも健在であり、妻にも電話をするように勧めたが、折悪しく留守の様であった。

義祖父は学校の先生をされていたこともあり、80を超えられても外出されることが多いようである。が、車の免許は今年のお誕生日に自主返納されたようであるから、以前よりは外出が減ったらしい。長年の趣味に碁があるのだが、そのためか碁会所でなくネット碁の方に最近は切り替えられているらしい。碁そのものだけでなく、懐かしきニフティサーブめいた「昭和〇〇年生まれ集合!」といったようなトピックにも参加してやり取りされているようで、筆者の5倍はエネルギッシュである。妻曰く、「女性を仄めかしているのでフレンド申請がめちゃめちゃくるが、私に言わせれば未亡人めいているときとそうでないときがあるので設定の詰めが甘い」らしい。真偽は不明である。

義祖母は東洋工業――現在のマツダ――に勤めた。若き熱血教師であった義祖父がぬ~べ~めいて「よーし! お前ら! ご飯食べに行くぞ!」と生徒を引き連れて家計にダイレクトアタックしても社員時代保有していた東洋工業株のやりくりによって家計を支えたという。極度にカープを愛するタイプの淑女であり、妻のここ最近の心配事には「カープには日本一になってほしいがそれにより心残りをなくしてしまった祖母がすっと往生してしまったらどうしよう」というものがあったりする。野菜を栽培され、変わったところではブルーベリーを作られたりする。干し柿も作られ、実は先程の筆者の祖母の大好物であったりする。

以前も書いたが、結婚する、ということの面白さ、有り難さは普通は下にしか広がっていかない家族が上にも展開していくことだと思う。不詳の義理の孫に、そこここで気をかけてくれる自慢の祖父祖母が増えるなんて、果報者である。

お2人とも筆者の祖母より年下であり、しっかりされていらっしゃるが、妻に言わせればそれでも以前と比べればかなりの変化が見られるということで、ご自愛いただきたいし、(筆者もそうであるが)初孫である妻をもっと頻繁に規制させてご他愛もしていただきたい、と思う。結論としてはそのために明日からまた仕事を頑張ろう、ということになる。

本題

余談が、ながくなった。さて秋の夜長に相応しい、知的好奇心を刺激する本を紹介するシリーズの2回目になる今回は松閣オルタさんの「オカルト・クロニクル」である。同名のWebサイトの記事の書籍化となる。出版社は洋泉社さんであり、読者諸賢には「秘宝」シリーズで特になじみ深いかもしれない。丁度この間、実家から持ってきた「特撮秘宝」の横に並べるとンン~実に「なじむ」といった感じである。洋泉社同士は引かれ合う、といった感じである。洋泉社=引力! である。一応言っておきますが洋泉社さんと当ブログは一切関係ありません。

再び余談

さて筆者は実家の自室を傾けてしまった反省から、また利便性の向上から別記事にあるように本の購入を電子書籍メインにして久しいのは以前の記事にもあるとおりであるが、先日ツイッターでハッとさせられたのは「子どもにとって、『家の本棚』がないというのは不幸ではないか」といったような言説であった。わが身を顧みるに、確かに家の本棚というのはとても重要であると思う。それは読書という見果てぬ世界への入り口であり、また超えるべき最初の壁であろう。電子書籍にその役割が果たせないとは思わないが、しかし目の前に物理的に存在するその「圧」はやはり紙書籍にはかなわないだろう。「あれば本が増える」ので今まで本棚を我が家には設置していなかったが、再考の時期が来ているのかもしれない。

再び本題

さて「オカルト・クロニクル」といえばオカルト・クロニクル特捜班と諸兄連合の血で血で洗う抗争の歴史――ではなく書籍版の「まえがき」にもあるように「デタラメや誇張、デッチ上げや捏造」を排した先の「本物の探求」を続けて来たサイトである。

未解決事件、都市伝説、そのほかオカルトな事象。我々の暗い知的好奇心を刺激するそれらは、ネット上ではまことしやかに「真実」が語られていることが多い。

「テレビでは語られていないが、地元では〇〇で決着済み」

「事件後に掲示板で書き込まれた内容によると――」

「この事件は〇〇だってことを知らないなんて情弱」

それらを摂取し、咀嚼した我々は知らないうちに色眼鏡をかけられたまま以降はその物事についてあたり、ことによっては拡散してしまったりもする。

それらを松閣さんは一つ一つ拾い上げ、考察し、そしてまとめ上げる。大変な労力と根気のいる仕事であるが、軽妙なストーリーテリングで開帳されるので読む側としてはどんどんと読み進めることが出来る。そして、自分が普段馬鹿にしていた「ネットde真実」そのものであることを恥じ入る――のは筆者だけかもしれないが、目からウロコをだいぶ落とさせていただいた。

「良栄丸事件」という恐怖の幽霊船があった。

「井之頭公園バラバラ殺人事件」は巨大組織が後ろにいないと不可能な犯罪。見せしめとして殺された。

実は「京都長岡ワラビ採り殺人事件」には難を逃れたもう一人の主婦がいたが犯人によってその後殺されてしまった。

ヤクザの娘を暴行したことにより毎週見せしめにヤンキーが殺されていった。

坪野鉱泉へ肝試しに行った女の子がヤンキーに暴行され、山頂のマンホールに遺棄された。

ヒバゴンは優しい生き物。ていうか猿。

赤城山神社で失踪した主婦は浮気相手と駆け落ちした。傘を差しだしている映像が証拠。

仮に読者諸賢がこれらが真実だと思われているのであれば、早速「オカルト・クロニクル」を決断的購入されるべきである。うろこが落ちることによるダイエット効果も期待されるかもしれない。

勿論、それらをご存じないが興味が引かれるという読者諸賢も購入されるべきである。

構成としては歴代の人気記事+「怪奇秘宝」寄稿記事2件、書き下ろし記事1件となっており、既にオカルト・クロニクルのWebサイト版を丹念に読み込んでいる読者諸賢としてはクッ……アーティストのベストアルバムみたいな構成にしやがって……くやしい……でも買っちゃう……と思ったりちょっと躊躇したりしてしまうかもしれないが、購入する価値は十二分にある。

Webベースの記事は横書きをスクロールし、時にはクリックして次ページへ向かう、という行為がなくなり縦書きで再構成され物理的にパラパラめくることが出来るようになっただけでも有り難く、ディアトロフ峠などメンバーのより詳細なデータが1ページずつでまとめられているなど加筆部分もある。(他方、権利関係の問題かメガテンの「あの場面」が収録されていなかったりなどすることもある。また、諸兄連合にとっては溜飲を下げる画像が収録されていないことに憤りを覚えるやもしれない)

「怪奇秘宝」は筆者が居住している近辺の書店では取り扱いがなく、もだもだしているうちに本書に収録が決定したので購入するタイミングを逃したのだが、(今見たらAmazonで取り扱いがあるじゃありませんか買おうかな)筆者のような人間や、ムックサイズはなかなか置き場が……という方にもおすすめである。オカクロ読者で「ワラビ採り殺人」や「セイリッシュの怪」に全く興味がありません、という方はあまりいないのではないだろうか。

勿論、本書書下ろしである「赤城神社主婦失踪事件」も力作であり、ネットの「定説」を現場検証により覆していく様は推理小説さながらの読み応えである。

また、個人的にはオカルト・クロニクルさんの記事のサムネイル画像がとても好きであるので、裏表紙や帯、白黒ではあるが各章の表紙で物理的に存在している、というのがなんだかとてもうれしかった。オカクロサムネ画像トレーディングカードとかあったら買います。永谷園のお茶漬けに封入してくれたりしないだろうか。

個人的には「熊取町7人連続怪死事件」のサブタイトルはWeb版の「初七日に友が呼ぶ」の方が好きだったなあ、ということ以外は大満足の書籍化であった。是非第2弾、第3弾と続刊を希望したい。

松閣さんは本書にて現実にはアリアドネの糸が、あるいは蜘蛛の糸が存在しないと嘆かれていた。しかし、筆者のようなともすればすぐにドラマチックな仮説に流されがちなオカルト好きにとってオカルト・クロニクルさんはまさしく警鐘を鳴らし、導いてくれるアリアドネの糸であるし、それは書籍化という形で具現化したことで、より存在感と説得力を伴ったように感じる。

蛇足・ぼくのかんがえるオカクロ記事BEST3

ところで今回の出版にあたって収録記事を参照したとき、筆者の考える「オカクロBEST3」は実は井之頭公園の事件以外収録されていなかった。別に異端アピールをするわけではないが、その記事ももちろん素晴らしい記事だと思うので仮に未読の方がいるとするならば是非ご一読いただきたい。そして多数いると思われるWeb版を制覇した読者諸賢においては是非、諸賢の考える「オカクロ記事BEST3」をご教授いただきたい。

第3位(次点より繰り上げ) 毒ガスの香る町―消えた怪人マッド・ガッサー

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スレンダーマンのような「欧米のそういう創作モンスター」と思われがちなマッドガッサー。日本では悪魔絵師金子一馬氏デザインの印象が強いこのマッドガッサーは実在の不審人物であった。マッドガッサーは誰なのか。そのガスの正体は。魅力的な謎が推論の果て恐らくは真実であろう結論に辿り着く記事。

第2位 誰も知らない、世界最長の物語―ヘンリー・ダーガーの秘密

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NHKあたりでやっていそうな重厚なドキュメンタリーを観た気分になる記事。筆者は書きたいものを書きつつ、やはり他者の反応が大好物というか、重きを置いてしまう人間であるので、一人の創作者としてその熱力に敬服させられた。

第1位 青ゲット殺人事件――都市伝説となった事件

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筆者がオカルト・クロニクルさんに辿り着いた思い出深い記事。「赤毛布の男」と聞いてピンとくる方もいるのでは。青ゲットはなぜ赤毛布となったのか。彼は何者で、どこへ消えたのか。はるか明治の事件の資料を収集し、分析し、考察する。自分がただ「こわいなあこのコピペ」と思っていた話に対してそのように向き合う方がいると知って深夜、事件の恐怖に震えながらも敬服したことを覚えている。事件の夜のように寒々とした気分になったところに、結びの一言が刺さる。

以上。そういえば、UFO記事は一切収録されていなかったのでUFO単体の書籍の話が進んでいるのでは……と淡い期待をしてしまったりする。陰鬱な記事を見た後にはヘッチャラ星人に限りますね。(記事アドレスがhead-cha-raなのもポイント)

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オカルト・クロニクル

 

オカルト・クロニクル

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 特撮秘宝もまさに新刊が出ているではありませんか。