カナタガタリ

すごくダメな人がダメなすごい人になることを目指す軌跡

「西郷どん」とはなんだったのか――大河ドラマ「西郷どん」最終話「敬天愛人」感想

あたしゃキレました、プッツンします。

最低限やらないといかんだろうことを放棄してしまったらさすがに怒るしかない。 

kimotokanata.hatenablog.com

 もはや懐かしい、大体一年前の第一回の感想記事であるが第一回の冒頭を読者諸賢は覚えておられるだろうか?糸どんの銅像を前にしての「うちの人はあげな人じゃなか」というセリフ…その真意は終盤で語られるだろう……と多くの方は思ったことだろう。具体的には最終回のBパートとかCパートとかであの後のシーンが入り、「あんな高いところに立っちょる人じゃなか みんなと一緒に生きてきた人やっで……」みたいな感じになるとか、そういう感じで。

最終話。特に言及はありませんでした。ええ……一応囲炉裏端で西郷隆盛という人がどういう人かということを糸が言っていたからそういうことだとは思うんだけどそういう処理の仕方ではいかんでしょう。銅像を前に一切が終わった後に言うから意味があるのであって。

先掲した写真は上野の西郷隆盛像を製作中、顔部を未作成の状態のもの(のポストカードを筆者が撮影したもの)である。何気にツンも顔部がないが、これを「西郷どん」展で見た時に筆者は「西郷どん」に関する何かが腑に落ちた。

いや、これが「西郷どん」という大河ドラマが抱える問題をもっとも端的に表しているのだ、と思ったし、西郷隆盛という人をも雄弁に語っているように思えた。

この様なものが残っているということ自体、西郷隆盛の顔を再現するということの困難さを表しているように思う。ひるがえって西郷隆盛という人自体の再現性の困難さも。それにしても西郷隆盛という人は捉えどころのない人で、ある面を見せたと思ったら次の瞬間には豹変している、ということがある。あの司馬遼太郎氏ですら西郷隆盛という人を完全にはとらえきれなかったように思う。

各々が各々に自分の西郷隆盛を見ていた。それを一つの像に結実させるということ自体がそもそも無理難題だったのである。大河ドラマを決定した頃から筆者は強い危惧があった。西郷隆盛という人を描くとき、その外堀から埋めて輪郭を形作ることは出来ても主人公としてドラマを展開させることは困難極まるのではないかと。

それは杞憂であってほしいと思い続けていたが、残念ながらそうなってしまった。

やっせんぼーはやっせんぼーのまま、ぼっけもんにはなれなかったのである。

西郷どん」とはなんだったのか。一言でいうと「西郷隆盛という人を主人公に幕末を描く」という難題に挑み、そして散っていった大河であった。

西郷隆盛という人はこの大河でついに統一したキャラクターとして描かれることはなく、のっぺらぼうの方がまだましな無残なモンタージュとなって死んでいった。

島編以降は一度死んだ男として風格を備えるかと思ったらヘタレるし、思い出したように黒化するし、急に慶喜絶対殺すマンになる。政府に出たり入ったりやっぱり出たり、若者の時代を築きたいくせに若者を死地に導いたり。

唯一ぶれないのが「徹底して人の心がわからない」ってもうなんなんだよこいつ。

もう一つ欠かせないと思っていた「もう、ここらでよか」もまさかのカットかと思ったらさすがに最後の最後に出て来たが、そのあと「完」と出てしまうともう失笑ものなのである。なんですか? BADENDですか?

石橋蓮司さん演じる川口雪篷が隆盛の墓を泣きながら揮毫するシーンとか絶対に入ると思ったのに……これじゃ川口雪篷はただの西郷家賑やかし面白おじさんじゃないか……。

まあ海江田を茶坊主時代から出しておきながら大村益次郎との辛みを一切設けなかった大河ドラマだから仕方ないかもしれないが。

まさか糸関連の伏線で回収されるのが「郷中で一番足が速い」(延岡に単身辿り着けた理由)だなんて思わないじゃないですかぁ。

俳優さんの演技は本当に素晴らしいんです

鈴木亮平さんのウェイトコントロール含む演技はまさに役者魂を感じたし、瑛太さんの最終回の演技はまさに一世一代と呼ぶに相応しいものだった。(鹿児島県の空のブースの後、大久保の私物らしき赤い薩摩切子にフォーカスするシーンなどは演出もいい仕事とをしていた。個人的には最後のスタッフロールは大久保の走馬燈だと思う。)

小栗旬さんのすっぽかした西郷を待っているときの坂本龍馬の静かな怒りのシーンも最高だったし、「逃げればよかったんだ」と最後にいう松田翔太さんの徳川慶喜は幕末の汚れ役を一手に引き受けた後だから響く爽やかさがあった。ハリセンボン春菜さんの演技も素晴らしかった。

藤本隆宏さんの幕臣という概念が形になったような山岡鉄舟の演技もいいし、軽やかな遠藤憲一さんの勝海舟 もたまらない。

文字通り最高の島津久光となった青木崇高さんは終身名誉久光といってもいいだろう。吉之助に発破をかけるシーン、泣いてしまった。なお史実の久光は「やりきった」吉之助に対し鹿児島への多額の寄付による復興の協力という形で応えている。

塚地無我さんの熊吉は終始癒しであったし、柏木由紀さんの演技も及第点であった。

DV彼氏役を演じた時リアルすぎてファンが減ったという噂のある錦戸亮さんの信吾も評判通り鬼気迫る演技だった。

鶴瓶師匠は鶴瓶師匠であった。

結局のところ皆さんが素晴らしかったのできりがないのでこの辺りにしておく。

敗因はあの脚本! 俳優の皆さんは最高の演技をした!

観終えて

少し落ち着いたら空白部分の感想を仕上げていきたいと思う。

このキャストで脚本三谷幸喜さんで全三回くらいの幕末ドラマやってくれないかなあ……

別府晋介は泣いていいと思います。

西郷隆盛について実際の所が知りたい方は、以前もご紹介しましたがこちらの書籍を是非ご参照ください。

 

みんなの西郷さん

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 ほんとは最終回後におすすめなんてしとうなかった……。