カナタガタリ

すごくダメな人がダメなすごい人になることを目指す軌跡

僕らが街を出る理由、僕らが街に住む理由。

余談

書きたいことは沢山あって、しかしともすればあのプロデューサーへの恨み言を百万言打鍵してしまいそうなのをどうにか抑えていたら十一月も残り少ない。

業務の方でもバタつきがあって良く言えば充実しているが、端的に言えばなかなかしんどい。

しかしそんな日々でも糧が一つあって、どうにかそこに向かって進んでいる。

それもまた書こう書こうと思って逃していたことであったが、今回お題として良い機会を頂いたので書き留めておくことにする。

それは二十代最後の大きな買い物であった。

そして今のところ人生最大の大きな買い物でもある。

七月の終わり、家を買った。

来年六月に引っ越す予定の新たな街に。

本題

六月ごろから漠然と、このままずっと賃貸と言うのもな、と考えていた。

三十になる、ということは、筆者の勤務先である定年の六十五歳まで三十五年になることを意味していた。

そして一般的に住宅ローンは三十五年ローンである。

となると、買うか、家、と言う話になってくる。

GWに弟とその婚約者さんと会ったことも影響しているのかもしれない。

そんな折にアンケートに答えれば米をもらえるというあからさまな撒餌にふらふらと隣町のモデルルームを訪れた。

担当さんは隣町から来た見るからにお金のなさそうな夫婦にも温かく対応してくれた。

正直なところ、我々は――少なくとも筆者はこの人から家を買うつもりは全くなかった。どちらかと言うと、その前に(クオカードをもらいに)見に行った今住んでいる町のモデルハウスの方が良いのではないかと思っていた。

担当さんは今、筆者たちが住んでいる町にも同様の住宅を分譲しているのにどうして隣町のこちらに?

と至極当然の質問を投げかけた。米が欲しいからです、と素直に言うべきであったのだろうが、しかし筆者は変なところの想像がたくましく、この人は我々が帰った後米だけやって契約も決めずとっとと帰らせやがって……と詰められたりするのではないかと勝手に悲しくなり、なにかしらもっともらしいことを言おうと思った。

この一度でさようならの予定の人が相手だったからか、少し俯瞰的に、現状を整理しながら話すことができ、話ながら自分でなるほどもっともらしい、と納得していった。

大体話したのは以下のようなことである。

今筆者は広義の管理職にある。有り難いことに、地域のあれやこれやに関わらせていただくこともあり、そうなると休日、ショッピングモールやスーパーで「どうもどうも」ということもままある。

実際にそのようにお互いがお互いを認識できているそのような場合ならともかく、地域の人の温かさはしかしそ、そこまでと思わずうなるほどのカバー範囲を備えていることもあり、スタッフ越しにお客様から「木本さんはこの間どこそこで○○されていましたね」という話題もふられることも出て来た。

有り難い。全く有り難い話である。地域の方々の支え合っての仕事である。誇らしくさえ思う。

しかしこの後仮に子どもを授かり、地域と共に育つと考えた時、筆者が、妻が、また子が地域の方に思わぬところで思わぬ迷惑をおかけすることがないだろうかと考えるとひどく恐ろしくなることがある。

プライベートであっても、この地域にいる間筆者は「○○の木本さん」として認識されている。即ち他意なくもしでかしてしまった時、それは勤務先に波及する可能性があるのである。

尊敬するボスにこのような不安を吐露すれば、「お前程度の粗相で影響が出るというその考えが不遜である」と一蹴してくれるであろう。けれどこの気持ちは家をどうしようかと考えた時からずっと抱えていた思いであった。

別に他の地域であれば傲岸不遜な行いができるということではなく、いわゆる「自分のケツは自分で拭く」状態に自分を置いておきたい。

そういったことで仕事をするエリアと休日過ごすエリアを分けたい、故にこちらのモデルルームに足を運んだのであると。

担当の方はさすがに営業マンらしく、納得したような様子を見せてくれ、我々は彼から周辺情報を聞くフェーズに入った。

なるほどおよそ必要とする施設は徒歩圏内にあり、いかにも便利そうである。

続けてモデルルームに通してもらうと、人生の勝利者かよ、と言いたくなるような風景が広がっており、壁付のデカいTVには人生お疲れさまでしたと言わんばかりに某かのエンドロールが流れていた。ベランダもやたら広かった。ペットOKであることも関係しているのかもしれない。

とはいえモデルルームは最上級versionをモデルとしているので当然我々には雲の上の存在であるのだが……。

そういうことで話が前後したが、ここはマンションのモデルルームである。

多くの人がそうであるように、筆者もまた一戸建てかマンションか、ということも悩みの種であった。

気が付けば四時間もモデルルームにいた。これは今までで最長記録であった。

帰り際、もともとの目的であったはずの米を置き忘れて担当さんを追いかけさせてしまうほど、物件に夢中になっていた。

隔週で物件に行くようになっていた。一戸建ての物件もチェックしているものの、しかしオープンワールドでいきなり放り出されたらどうしたらいいのかわからないように、一戸建ての場合吟味するもの、決めるものが多過ぎてワクワクよりも面倒くささが先に立つようになってしまっていた。ある程度間取りなどの「縛り」があってそれをどう活かしたらいいか考える、と言う方がゼロから作っていくより自分の性に合っているようにも思えた。

また、街自体にも愛着が芽生え始めていた。元々、外食などの際に週末訪れることがあったがいざ住むと考えると、特に物件周りはコンパクトにまとまっており、機能性が高く、成熟している。

妻のことを考える。家に一番長くいるのは妻である。とすると、良い家というのは妻にとって良い家と言うことであり、良い街、住みたい街というのは妻が住みよい街であるということになろう。

妻は車を運転しない。(免許は持っている)つまり徒歩圏内に色々な施設がある方がよいだろう。キッチン回りもだいぶ気に入っているらしい。また、生魚好きの妻としては回転寿司が近くにあるのも見逃せないポイントであろう。

他方、先のことも考える。筆者はローンを払いながら老いていき、払い終えた後も老いていく。払い終えず死ぬこともあろう。賃貸であれば引き払わねばならないが、持ち家であれば妻に財産を残すことができる。無事払い終え、二人して老醜を晒していくときも、諸々の施設が近いことは返納しても夫婦比翼の烏として過ごしていくことにおいても助けとなるであろう。

また筆者は長男であるから、実家をどうするか、と言う話にもなる。そうなった時、マンションであれば一戸建てよりも一時的に賃貸に出し、実家の後始末をして自分の老後はさっきの様に便利の良い土地で暮らす、という方法も考えられる。

そうこうするうちに最初に検討していた角部屋が売れてしまった。(別に押さえたりとかはしなくていいですと伝えていた)どうしたものか考えたが、角部屋以外の部屋であれば更に求めやすい価格になっており、ローンの事前の審査も通った。角部屋では現在の家賃よりちょっと頑張って、という感じであったが、新たに提案された部屋であれば今の家賃と同程度になるよう担当さんに色々調整して頑張ってもらった。その男気には男気で答えなければなるまいと、七月の終わり、久々に実印を使うことになった。

不思議なことであと半年ほどと思うと今の家も急にいとおしくなり、寒くなるにつけ通勤時間が伸びる、即ち起床時間が早くなることを後悔したりもする。比較対象にしていた勤務先近くのモデルハウスはまだ売れていなかったりして、今住んでいる街なのに、あの場所に限ってはここは筆者にとって「住みたかった街」もになるのだな、と不思議な気分になったりもした。

もうちょっと背伸びして上の階の角部屋を買った方がいいのではと思ったりもするが、しかし未来のことを妻と考えるのは楽しい。とりあえずIHになり、食洗器もつくのでキッチン回りが目下の思案どころである。

もう一つ、田舎の悩みと言えば外食でも酒を飲まないか、代行代を払うか、という二択を迫られる点があるが、(そして妻と二人で外食をする時は代行にお金を出すよりはその分おいしいものを食べたいという理由で筆者がハンドルキーパーをすることがほとんどである)駅からも近く、徒歩圏内には評判の店も多いので初めて妻と「飲み歩く」ということが出来そうで、密かに楽しみにしている。

そういえば折角なので人生初の通勤電車も体験してみたい。住みたい街が住んでいる街になった時、この記事の続編を書いてみたいと思う。

書籍化記念! SUUMOタウン特別お題キャンペーン #住みたい街、住みたかった街

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by リクルート住まいカンパニー