カナタガタリ

すごくダメな人がダメなすごい人になることを目指す軌跡

虎狼の心は残忍でも貪欲でもなく――ミュージカル『刀剣乱舞』~幕末天狼傳~初見感想

余談

ということで神企画に合わせて拙ブログも連続更新である。

その日のうちに更新を目標としているのでどうしてもいつも以上につたないところがあるかもしれないがご容赦いただきたい。

幕末――歴史好きにとってたまらない時代の一つ。幕末オタは最初に見た創作を親と思ってしまう傾向があるが、筆者にとってはやはり「お~い!竜馬」史観が強い。読者諸賢も機会があったら是非読んでみてほしい。

本題

新選組が嫌いな男子なんていません! ということで筆者も当然好きなのだが、しかし本作もめちゃくちゃよかった。刀剣男士諸君は勿論のこと、近藤勇、(なんと本日が命日、役者の方はお誕生日という不思議なめぐりあわせ)土方歳三沖田総司の三人の熱演にはたびたび目頭を熱くさせられた。

相変わらず一人「ハズした」ような編成をする審神者。筆者本丸では蜂須賀虎徹はあまりキラキラきらびやかでなんだか気後れしてしまって、しっかりと経験を積ませてあげられず、そのせいもあり天保江戸でも十分な活躍をさせてあげられなかった(このままでは慶長熊本での歌仙兼定もどうようになってしまうのでなんとかしてあげたい)ことを悔やむ日々でもある。

そういったことでイメージとしては「花丸」で培ったものが大きかった。別にそれで嫌いになったとかではなかったが、本作を通して蜂須賀虎徹がめちゃくちゃに好きになってしまった。天保江戸をなるはやで復刻してほしいという審神者は筆者以外にも大勢生まれたことであろうと思う。

 

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 前作の今剣たちがそうであったように、今作も刀剣男士は様々なジレンマに悩まされる。

今回、新選組の愛刀の中に一人放り込まれた蜂須賀虎徹。他の刀剣男士が刀としての本領を存分に発揮し、その持ち主の個性を色濃く受け継いでいるのに対して、「蜂須賀家の重宝」としての属性が濃い彼の在り方は対照的だ。重宝というプライド、虎徹というプライドへの自負は実戦において活躍できなかったという後ろめたさと鏡合わせである。そんな彼にとって偽物の「虎徹」である長曾祢虎徹――源清磨の刀という己を捨てて主が「そうあれかし」と願った振る舞いをし続ける――の存在は尊敬と畏れが入り混じるものであったろう。かくして他ごとにおいては極めて優等生な、酒だってジョッキでイケてしまう彼の長曾祢虎徹への対応は傍目には悪態という形で出力される。

終盤。歴史修正を回避するためには誰かが近藤勇を「斬首」(当初は切腹が予定されていたが斬首に変更になったという。近藤はその人生の終局において、ついに手に入れた武士としての面目を剥奪されたのである)しなくてはならない。そんなときにおいてすら、全てを自ら背負い込み、刀剣男士の役割を全うしようとする長曾祢虎徹を前についに蜂須賀虎徹は激昂し、その気持ちをぶつける。そして長曾祢虎徹の代わりに近藤勇の首を落とすのである。

「人間を斬る」という刀としての使命を、ずっと果たしたかったはずのそれを全うした時彼が果たして何を思ったのか。それはその鮮やかな太刀筋のように物語も断ち切られてしまうのでわからないけれども、一つ言えるのは長曾祢と蜂須賀、二人の魂は分かち合うことでそれまで以上に強固になったであろうということである。

そして近藤勇という壬生狼の長にして虎徹を愛した男、虎狼でありながらもしかしどこまでも懐大きく優しかった男が刀剣男士を未来からの存在を見抜いた眼力や、長曽祢虎徹を信頼のおける(自分の首を斬らせるほどに)と認めた気持ち、そして憧れの「真作虎徹」に初めてその肌で触れるその時が命の終わるときであったということを考えるに、役者さんの熱演もあって筆者はやはり涙なくしては観劇できなかったのである。

今一人、選ばれなかったことに思い悩む刀剣男士がいる。大和守安定である。筆者が刀剣乱舞の世界に深く耽溺するきっかけとなった「花丸」でそうであったように、どうも彼は「池田屋事件の時の帯刀が自分であったら」という思いが強いようである。どんどん限界沖田オタクと化す彼は、ついには新選組隊士として潜入してしまう。一歩間違えれば歴史改変につながることであるが、相方・加州清光は信じている。その絆の強さと加州自身の胆力は前作から地続きであることが感じられる。潜入時に名乗る偽名・奥沢は池田屋事件で亡くなった隊士として実在しており、この世界線では池田屋事件の際にフェードアウトしたということになっているのだろう。

そうして大和守安定は、選ばれた側、事件に居合わせたものだからこそ「大切な人が大変なことになっていてもどうすることもできないという辛さ」を味わうことになる、ということを痛いほど感じ、薬瓶を使うことはなかった。同時にそれを体験させないがための加州清光の配慮に改めて気づき、そしてその相棒と出会わせてくれた元の主・沖田総司にも感謝することで「選ばれなかったもの」という呪いを彼もまた断ち切ることに成功するのである。

その沖田総司は黒猫=時間遡行軍にそそのかされ、その身を乗っ取られて刑場へ向かわされる。

前作の義経VS今剣の件もあるのでハラハラしていたが、局長の偉大さで乗り切れてよかった。蜂須賀と安定、それぞれで一編が成立するのに実に贅沢な作りであったといえよう。そうなってくると土方歳三と土方刀のエピソードも欲しくなってくるのだが……。

しかし舞台の公演時は観劇後、空を見上げると天狼星が瞬いていたかと思うとやはりリアルタイムで体験できた先輩審神者諸賢にうらやましさが募ったりもするのであった。

第二部

太鼓は労咳に効く。みんな知ってるね。

やっぱり漢道が好きです。

前作で覚悟はできてると思ったら開幕ロボットダンスマスカレードで覚悟の足りなさを痛感する次第であった。また明日。

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