カナタガタリ

すごくダメな人がダメなすごい人になることを目指す軌跡

マキさんとマミさんと妻と私――社会人でもオタクであり続けること、あるいは「マキとマミ」最終回読了後の感謝と感想

余談

とうとうカラッとした晴れ間が見え始めた。こうなると雨雲が恋しいねえなんて軽口が県下各地で生じたかは定かではないが、またもなかなかな雨が降り続いており、警報まで出た。新居は防音はしっかりしていてありがたいのだが、その分(基本カーテンは喚起する以外締めているので)いざ外出となった時にドアを開けて雨が降っていることに気付き慌てることが多い。

今日は二つ目の本棚が来た。幅1200×高さ1800×奥行200のそれは妻の蔵書(CD・DVD含む)用である。大判のものも多いので、夫婦して一緒に詰めていく。事前に判型ごとに蔵書を分けていたのでスムーズだった。矢ですら三本集まれば折るのは至難であるが、これまで押し入れの中で衣装ケースの中に封印されていた薄い本も開放してみれば棚一列を埋め尽くすほどの厚さ・重さとなり、その存在感をアピールするのであった。

そうして出来上がった本棚はどんな履歴書よりも雄弁に「その持ち主がどういった人物であるか」を語り掛けてくる。また持ち主自身にはその一冊一冊が、あるいはその背表紙だけで、トリガーとなって過去の思い出を再生し始める。本を読むのは勿論のこと、暫くは「本棚を眺める」ことが我が家の贅沢な時間の過ごし方の一つになりそうである。

本題

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pixivコミックの人気連載、「マキとマミ ~上司が衰退ジャンルのオタ仲間だった話~」(以下文中「マキとマミ」)が完結を迎えた。連載開始から約三年。筆者が作品を知ってから一年半ほどのことであった。

一年半前、どこからか筆者のTLに流れてきたのはこちらの回であった。

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それを読んだのは、弟の下宿。そう、妻が東京に「戦」に出ていた時であった。

 

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 実は中高とバスケに打ち込んでいた筆者と違い、広島の高い文化度の中でJK時代からサークルとして出展をしていた妻(合同参加したラクガキ本からプロが輩出され某所で高騰してるってマジ?)。しかしブランクとその規模の違い、そして見知らぬ地への一人参戦ということから前夜はとても不安そうであった。その不安は筆者にも伝播しており、早朝からそれを緩和するためにTwitterの海を泳いでいたのである。

そうして出会った「マキとマミ」はまさに筆者にベストマッチ。余りにも勝手ながら妻と、そしてオタクとして「即売会」にあこがれながらついぞ参加したことのなかった筆者さえも救済していただいたようで早朝からじんわり心を温めて頂いたのだった。

そうして筆者はその後、無事シンジュクの女となって帰ってきた妻と共に妻の「ホーム」広コミにて即売会初参戦を果たすのだった……。

 

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現在、マキさんが初めて同人誌を出すエピソードの後編はサイトでの掲載期間が終了しているが、「いい最終回だった……」と思わず読んだ瞬間つぶやいてしまうような素晴らしさで、ぜひとも未読の方はご一読いただきたいところである。三巻に収録されているが、それまでの積み重ねを経ることでまた「クる」ものがあるので是非一二巻も読んでいただきたいし、おや……四巻も絶賛予約中ですよ? 今から頼めば発売日に届くのでは? ということで是非全巻購入していただきたい……と筆者が鼻息荒くせずとも、大盤振る舞いの無料掲載分を読めば紳士淑女たる読者諸賢は知らずス…と購入ボタンに手が伸びていることであろう。実際、筆者は最終回直前の話をツイートしたところ、フォロワーさん(中学生のお子さんをお持ちの主婦の方である)から「こんなに面白い漫画を初めて知って一気に全部読んでしまいました。教えてくださってありがとうございます」という言葉を頂いた。

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個人的には特に上記の話など、オタクであればどこかしら刺さるのではないか、と思う。最強の布教はサブリミナル布教、痛いほどわかるのである。(ツイステをオートで回しながら)

言ってしまえば「オタクあるある」漫画である本作はしかし、美しい描線とそこから描き出される美男美女が抑制の利いた上品かつ洒脱な文章でしかししっかり趣味道という修羅の道を歩んでいる、というところがとてもとても好きだ。マミさんが主に画面に「動き」を与えてくれるけれど、それが騒々しいとかではない、紹介文にあるように(基本的には)節度あるオタトークであるところがそれを外側から覗き見る我々に更に一段上のあるときには「シリアスな笑い」をもたらしてくれるのである。

「追いブロ(マイド)」「オタクの日焼け跡」「オタしぐさ」などといったパワーワードがスッ……と出てくるのがたまらない。

「マキとマミ」において、マミさんはマキさんにおいて「救い」であると作者の町田先生は述べる。前述の通り筆者は「マキとマミ」自体に救われた人間であるが、ふと顧みると、妻にも「オタク」として救われているのだな、と思う。

昨年末、三十路記念として中学校の同窓会があったが、据え置き型ゲームをやっている層というのはもうほとんどいなかった。(もちろん、それほどの「濃さ」を持っているオタクはそういった場での「擬態」を心得ていただけかもしれないが……)

衰退ジャンルではないが妻と筆者の「オタク」として特に深い部分に根を張っているものの一つに歴史ジャンル、分けても「無双シリーズ」がある。現在もなお盛んなジャンルであるが筆者は二十年近く前(ウッ…頭が……)巡回していた数々の素晴らしい個人サイト様を思い出すにつけ、あの文字通り無双の勢いを思い出し涙する。プレイ漫画やレポートサイト、攻略情報、SS、なりチャ、クロスオーバー漫画、お絵かき掲示板……その大半はInfoseekやYahoo!ジオシティーズの消滅と共に運命を共にしてしまった。

そういった中で「夷陵の戦い馬超が紙過ぎる」「拠点兵長が固すぎてほとんどバグ」「南蛮夷平定戦で苦戦と聞くから急ぎ向かったら毒沼でどや顔で佇む諸葛亮諸葛孔明諸葛亮というと無双ファンみたいな時代がありませんでしたか?)」「合肥新城はトラウマ」などを今もなお共有できる人がパートナーとして横にいてくれることは何にも耐えがたいありがたさがある。そんな妻でさえ「無双スターズ」には匙を投げてしまったが……。ちなみに古くは「立志モード」を文字通りコントローラーのパッドが擦り切れるまでやりこんだ彼女は現在は五年程前に発売された「戦国無双4エンパイアーズ」をプレイし続け、二年前に当時獲得率2.3%であったプラチナトロフィーを獲得して以降も「難易度地獄で回りが軍備を整えてから一国ずつ切り取る」「国を滅ぼして婚姻関係を解消した武将を嫁がせる」など第六天魔王自由奔放に楽しんでいる。

本当は筆者のレジェンド推し「夏侯惇」についても語りたいところであったがあまりに脱線が過ぎるのでこの辺りにしておこう。

「マキとマミ」が教えてくれるのは「好きなものはずっと好きでいいんだよ」「好きなものがあるということは胸を張っていいことなんだよ」「それをわかちあえることはとても素晴らしいことなんだよ(抱え込むことが悪いことではないよ)」というポジティブなメッセージだ。

まだまだ社会人でありながら「オタク」を周囲に公言して生きていくことは(残念ながら、一部の「あまりにオタクであることを誇示する人たち」の振る舞いも影響して)難しい世の中であり、「マキとマミ」は「優しい世界」に過ぎる……と思う人もいるかもしれないが、一話以前のマキさんのような人々が読むことで少しでも救われてほしいと思うし、彼女ら、彼らにとっての「マミさん」に出会えることを願ってやまない。それは現実世界であったり、SNS上であったりするかもしれないが。

しかしこういった日常物の終わりはいつも、これからも続く彼女たちの日々に一人だけ取り残されたような気持ちでさみしくなる。完結後のアンジェリーク新作(奇しくも無双と同じコーエーテクモ製である。コエテク様……無双の新展開も待ってます……)宣伝漫画もキレッキレであったので、出来ればこのような形でこれからも時々また出会いたいな……と思う次第である。町田粥先生、連載お疲れさまでした。8月からの新連載も楽しみです。

マキとマミ~上司が衰退ジャンルのオタ仲間だった話~ (4) (コミックエッセイ)