カナタガタリ

すごくダメな人がダメなすごい人になることを目指す軌跡

リスタート期す胎動――ヒプノシスマイク-Division Rap Battle- 6th LIVE <<2nd D.R.B>>「1st Battle -どついたれ本舗 VS Buster Bros!!!-」感想

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余談

近頃の筆者は幸福な悩みに苦しめられていた。

刀剣乱舞にて特命調査「慶応甲府」。

ツイステッドワンダーランドにて「5章後編2」。

FGOにて「いざ鎌倉にさよならを」。

ひぐらしのなく頃に業において「猫騙し編」。

アイズワンにて「D-D-DANCE」。

示し合わせたかのように追っているコンテンツが新展開を見せ、確定申告も迫る筆者は青色吐息、二兎を追う者は一兎をも得ずどころの騒ぎではなく、多方向から迫ってくるコンテンツをきょろきょろとするあまり目を回してその場に倒れ伏してしまうような有様であった。

三十路の旅路はオフロードとは白膠木の個人曲を提供したHIDADDYのパンチラインだが、まことそのようにごとごとと綺麗に咀嚼しきれないまま走り出してしまっているオタク人生の今日この頃である。

が、今回、自らの考えを咀嚼し、舗装し、何なら手すりでもつけてみる前に、とにかく今日、今、この気持ちをこのブログにぶつけておきたいと思える出来事があったので、ここに残しておきたいと思う。

ペンは剣よりもヒプノシスマイク。

かつて彼らはこう歌った。なんのこっちゃと当時思ったし、今でもそう思っているが、しかしペンで、あるいはキーボードで紡ぐ言葉の数々は自由で強靭だ。盾にも勝れば矛にも勝ろう。その特性は確かにただ斬りつけるのみの剣よりも、さまざまなラップアビリティを発揮させるヒプノシスマイクに近いのではないか。

筆者には、およそ才と呼べるものはなく、しかし幸いなことに生まれた時から言葉は身近にあった。それを用いて今、電脳の海においても実生活においてもささやかな居場所を築けている。であるならば、と続けるのもおかしい論理の飛躍であるが、このペンを、打鍵をヒプノシスマイクを追いかけるために使うのは至極全うではなかろうか。

筆者がヒプノシスマイクに出会った時のことについては、既に述べた。

 

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 その時、バトルはすでに終わっていた。筆者が初めてリアルタイムで購入したヒプマイの音源は「Champion」である。ちょうど妻は、今ははるか遠き東京・新宿にて街宣車の音をその耳に聴いていた可能性がある。今のハマり具合であれば、絶対に追いかけていたことだろうが……。

妻に遅れて興味を持った筆者は、公式サイトをチェックした。妻が買ってきたCDに麻天狼のものが多かったのはそれが彼女の「推しディビ」だからであろうと。ホワイトデーも近づいていたので、他のディビジョンのCDを買ってみよう、自分も聞いてみたいし――と。

なかった。

チャンピオンである麻天狼は4枚。決勝トーナメント初戦敗退の2組は2枚。

そのディスコグラフィーの淡々とした残酷さは筆者に「恐ろしい界隈に足を踏み入れてしまった」と感じさせるに十分だった。

余りにロジカル、資本主義的、「CD」という形で明確に分かたれる勝者と敗者。

それ以前より筆者はいわゆる48系アイドルに親しんでいたから、CDを積んで殴り合う文化には慣れていたつもりであった。

ただ、彼女らはたとえ敗れても、ランクインできなくても、ファンに声を届ける場所がある。SNS、メール、ブログなどによって。もちろん、メディアに取り上げられることは難しくなるかもしれないが。

ヒプマイでは最もメインであるCDという舞台において、それがあっさりとなくなる。

とはいえそれはバトルシーズン中のこと。その後アルバムが発売され、そこでは新たな物語が全員揃って展開された。それぞれに新曲も割り振られた。

が、その特典としてついてきた以前のライブDVDにおいて筆者は再び慟哭させられる。

「Buster Bros!!!」と山田一郎、木村昴さんのこのコンテンツに与えた影響の大きさを否が応もなく認識させられたからである。定期的に再度視聴するが、今でも結果発表のシーンは二度目を見ることはできていない。浅沼晋太郎さんのMTCのリーダーとしての気持ちと木村昴さんをそばで見てきたものとしての葛藤あるコメントがまた、沁みた。

ヒプマイというコンテンツはますます隆盛を極め、アプリも出来、ラジオやコミカライズなど多方面に進出した。そしていよいよ、12人全員が勢ぞろいするライブが開催された。大阪にて。

 

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 筆者は、ライブビューイングにて参戦した。12人最高!不仲説抹消!みんな…ズッ友だょ……というところに現れたのは、言の葉党の面々。続けて呼び出されたのは会場のあるオオサカをホームとする「どついたれ本舗」であった。ヒプノシスマイクというコンテンツは、それに関わるものに足踏みを許さなかった。賛否両論が巻き起こる中、どついたれ本舗は傑作をリリースし、その騒動を黙らせた。ヒプノシスマイクの面目躍如たる展開であった。

 

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 他ディビジョンも続けて怒涛のリリースが続き、いよいよ今度は18人揃ってのライブが告知され、我々夫婦は幸運にもそのチケットをつかみ取った。そして、コロナ禍において他のイベントがそうであったように、そのライブもまた中止となった。

それでも彼らは我々にそのリリックを届けてくれた。なんと無料配信ライブという形によって。 

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 画面越しでも伝わる熱さはいつかの再会を前向きに考えるのに十分であった。
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満を持して放たれたアニメもエネルギッシュな作品。その最終回にてとうとう、2nd D.R.Bが告知された。

ついに。

ついに自分が、当事者となるときが来た。

仕事でも感じぬ双肩にのしかかる鉛のごとき重圧を感じながら、妻と共に筆者は、ライビュ配信もあるらしいことを喜んでいた。踊る阿呆に見る阿呆。同じ阿呆ならせいぜい運営の手のひらで踊り狂ってやろうではないか――。そういう決心があった。

遺憾ながらコロナ禍は益々の拡大を見せ、またも無観客配信という形になった。

今回は有料という形を選んでくれたこと、まず感謝したい。綺麗ごと結構であるが、やはりコンテンツに対する賛意を示すことで金銭を支払うことが少なくとも筆者にとってはかなり納得のいく方法であるからである。

筆者もまた臨戦態勢を整え、アベマTVにログインした。待機時間もリミックスで飽きさせない。「泣く子も黙る一郎のビート」に「どついたれ本舗」の曲が挿入されてバチバチ感を高める中、ついに決戦の火ぶたは切って落とされた。

本題

ということでここからはヒプノシスマイク-Division Rap Battle- 6th LIVE <<2nd D.R.B>>「1st Battle -どついたれ本舗 VS Buster Bros!!!-」(長い!!!)のネタバレしかありません。

余談が、長くなった。

いつもライブがそうであるように、圧倒された。

逆に言えば、2ディビジョンであってもいつも通りの熱量を叩き込んできてくれた。

2ディビジョン分であっても「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-+」も「ヒプノシスマイク -Division Battle Anthem-+」はいい曲だな…としみじみしてからの「ヒプノシスマイク-Glory or Dust」にはドキリとさせられた。

そうだ、ここからは誰も知らない、未知数が始まる。2nd D.R.Bが。


ヒプノシスマイク-Division Rap Battle- ≪2nd D.R.B≫開幕TRAILER

 躑躅森先生のフォローが早速入りつつ、どついたれ本舗、Buster Bros!!!がそれぞれ楽曲を披露する。それはかつて、同じように無観客での披露となったライブのセットリストとほぼ同じではあったけれど、それぞれがより楽曲を自らのものとして消化し、昇華したことがまざまざとわかる仕上がりになっていた。カメラワークも素晴らしすぎる。

筆者が偏愛する梅田サイファーが楽曲提供した「なにわ☆パラダイ酒」が聴けたのは嬉しい驚きであった。最後の辺りの酔っていく感じなどやはり声優さんはスゴイと思わされる。しかし河西さん美肌が過ぎませんかね……。

DJの切れ味鋭いプレイすら難なく乗りこなすダンスに唸らされた後、いつもの音楽で出てきたいつものロゴ。「お知らせ」のタイミングが今回は早いな――と思えばサプライズでかまされたのは『Femme Fatale』。


中王区 言の葉党『Femme Fatale』Trailer

丁度本日手元に届いた会報でたかはし智秋さんが「言の葉党のラップ」の重要性について語っておられ、シンクロして驚いた。「言の葉党のラップ」は勝者のラップ、権力がラップの形をしている、というものである。その説得力を持たせるのは容易ならざることであるが、しかししっかりそうなっているのだから彼女らの力のすさまじさたるや想像を絶し、その「壁」の分厚さが空恐ろしくなる。もし今回の投票先に「中王区」があったとしたら、どんな結果が出たものか……。

「権力」が去り、いよいよライブはラストスパートである。


イケブクロ・ディビジョン“Buster Bros!!!”「Re:start!!!」Trailer

「Re:start!!!」の作詞者の一人、WILYWNKAさんはかつてMCバトル「高校生ラップ選手権」に複数回出場し、間違いないスキルを持ちながらも組み合わせに泣かされ、バトルMCとして不遇な過去を送ってきた方である。そんな彼だからこそ敗北の物語を背負わされたBuster Bros!!!の心情をここまで細やかに形にできたのだろう。

浮かび上がるのは特に二郎の成長である。もう一郎のトレースである彼はいない。兄を超えようとし、弟を助けようとする次兄の青い炎の揺らめきはその優しさゆえに、強い。

負けたからこそ、こんな素晴らしい曲が生まれた。翻って、もうこれ以上、敗けた時の曲は必要ない。彼らの道にあるのは勝利しかない。最初から主人公が大勝利のストーリーではすぐに終わっちゃうからフックを作っただけ。当たり前のように勝ち上がるだけ。そんな力の抜けた強さを感じた。


オオサカ・ディビジョン“どついたれ本舗”「笑オオサカ!~What a OSAKA!」Trailer

対するどついたれ本舗の「笑オオサカ!~What a OSAKA!」は実にファニーで視聴者参加型作品といった趣。この曲で凱旋して、沢山コール&レスポンスしたかっただろうと思うと大変悲しい気持ちになるが、彼らの笑顔を見ればそんな気持ちも吹き飛ばしてくれるようだ。

そう、Buster Bros!!!の三人が常に矢面に立たされてきた代わりに様々な露出機会があったのと対照的に、どついたれ本舗の三人はそのお披露目において「この人たち誰?」という視線を受けた以外はコロナ禍の影響で観客の前に立ち、喝采を受けるチャンスを射ことごとく奪われているのである。これが彼らに課せられた物語であるならば、勝ち上がって決勝、コロナ禍においてもその共存が見えた頃に、観客がいればいるほど強くなりそうな気さえする彼らに会場がオレンジ色に染まる景色を見せてあげたい。そう思った。

……

………(三点リーダー症候群を実感する)

決められない!

とはいえいよいよ、バトル曲が始まる。一部で話題になった今回の「どついたれ本舗 VS Buster Bros!!!」という表記であるが、どうやら先攻後攻を現わしていたようである。

「Joy for Struggle」は陽気でありながら殺気を秘めた、前回のシーズンとはまた毛色の違うバトル楽曲だ。互いのディビジョンカラーが色濃く出ながらも、しかし現実のMCバトルにおいて後攻が有利であるのが反映されているかのように、先攻であるどついたれ本舗の「茶化し」にBuster Bros!!!が小気味よく反撃していく。

個人的に圧倒されたのは山田一郎VS天谷奴零の親子対決。ラッパ我リヤのMr.Qを思わせるフロウですべてを重戦車のごとく押しつぶしそうな零のパンチラインは単なる詐欺師ではない、信念を持って実の息子とさえも対峙する姿勢を感じた。他方、山田一郎は圧倒的なライミングながら「アンサー」としては「兄弟のため」と逃げを打ってしまっていて、もちろんウソはないのだろうが、また「自分勝手」な零とは違うということなのだろうが、ディビジョンを背負う自分自身としてどうなのか、言う部分では些か説明不足なように感じた。また、個人的には三郎が「詐欺師」と斬って捨てたのとは裏腹に「親父」と認めてしまったのもまた彼の(やさしさに起因する)「弱さ」に思えた。

恐らく「一郎の迷い」「二郎の成長」「三郎の不安」が前回の(びっくりするくらいどついたれ本舗の酒盛りの記憶しかない)ドラパから更に膨張しどう解決されるか、が今回のドラマパートの鍵だと思うのだが、この「弱さ」はどうなっているだろうか。

個人的には声の仕上がりなども含め総合力ではBuster Bros!!!だが、最後の最後で天谷奴がヘビー級をズドンと打ち込んできたな……という印象である。

他方、もちろん勝ちたい気持ちに嘘はないのだろうが、どついたれ本舗はやはり勝ちへの「飢え」が見られないのが投票への決断を迷わせる。Buster Bros!!!にもうあんな歌を歌わせたくない、という気持ちが時間を置くごとに強くなる。

結局のところ、我々夫婦はこの問題にまだ結論を出していない。

2nd D.R.B。ヒプノシスマイクのリスタートはこの葛藤を踏まえるに大成功と言っていいだろう。その胎動はますます大きくなっていくはずである。