カナタガタリ

すごくダメな人がダメなすごい人になることを目指す軌跡

スタイルウォーズ次第に興奮――ヒプノシスマイク-Division Rap Battle- 6th LIVE ≪2nd D.R.B≫ 2nd Battle -Bad Ass Temple VS 麻天狼-感想

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 第一試合から早二週間が過ぎた。相変わらず、コンテンツの熱気に当てられロクに記事を書けていないが、兎にも角にも苦しみながら筆者は投票先を決定した。

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 そして、本日である。15時半開場。18時半終了。なのに、いつの間にか21時前。

2週間前、初っ端からこんだけかっ飛ばしてると次はかなりプレッシャーだな……と思っていたが筆者が想定したハードルを軽く飛び越えられてしまった。

どころか、開催地はナゴヤだもんで味の濃いの強いのが当然と言わんばかりに、こってり分厚いパフォーマンスをぶつけてきた。もし会場にいたら消し炭になっていた可能性が高い。

いつも通り、その受けたインパクトが少しでも鮮明であるうちの走り書きを残しておきたい。

シンジュク・ディビジョン


シンジュク・ディビジョン“麻天狼”「TOMOSHIBI」Trailer

何度か書いてきたが、我々夫婦強いて言うならばシンジュク推しであり、しかしながらファンになったのは前回のバトル以降であったので「推しがバトルに挑む」のは今回が初体験である。

開幕の神宮寺寂雷先生(速水さん)の本日がバレンタインデーであることを活かしたジョーク、ディヴィジョン曲での玉座から発する圧倒的なプレッシャー、各個人曲の温度差で視聴者の感情を手玉に取り、「パピヨン」では余裕すら感じさせた。

まさしく大人、これは今回も危なげなく連覇か――そう思いもした。

そこに「TOMOSHIBI」である。それは余りにもGADORO。余りにも麻天狼であった。

 

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 「TOMOSHIBI」を作曲したGADOROさんについては以前の記事で述べた。孤高のMCは日本最強のMCを決めるMCバトルKOK(キング・オブ・キングス)において2連覇を成し遂げた後も、その一匹狼を心の中に飼っていた。もはやそれが餓狼と化し、己を、他人を無闇に襲うことはない。だが、豊かになっても、なればなるほど、彼の内面の狼は彼を見つめ続けたのだろう。

前回王者・麻天狼のディビジョン曲を提供するのにふさわしいのはそう考えると彼しかいなかったのかもしれない。一聴してそう思うほど、「TOMOSHIBI」は筆者に刺さった。

前回何故麻天狼は王者になり得たのか。もちろん、彼らが豊かな魅力とラップセンスを持ち、それが投票に繋がったからに他ならない。それは大前提としてある。

その上で彼らの下に栄冠が輝いた理由に、彼らが「カウンターであったから」という一因はやはり外せないように思うのである。投票によって展開される筋書きのないドラマ。とはいえ、「主人公」は山田三兄弟であることは誰もが感じていたことであろう。だからこそ、オタクの性か、ジャイアントキリングを、ブック破りを、逆張りを求める心理というのはあったのではなかろうか。いつだって「白イケ」ではなく「黒イケ」が過熱した人気を持つように。

そうして得た王座にて麻天狼が実に相応しく振舞ったのは、読者諸賢ご存じの通りである。しかしその裏側の苦悩が今回明かされた。眠らない街・病める街シンジュク。もっとも社会に縛られたディヴィジョンはまた、合わせて王者の呪縛を得た。

そして。彼ら自身が痛いほど知っている。追う者は追われる者よりよほど恐ろしいと。連覇。口にするのは簡単だがその道のりは果てしない。連覇できるのは彼らだけ。追われる者は彼らだけ。かつては「運営推しを退け王者となる」というジャイアントキリングを成し遂げた麻天狼は今や、巨大コンテンツに君臨する前回王者という巨人である。

正直なところ、筆者でさえ、「今回はイケブクロでいいんじゃないか」「いうても麻天狼は一回王者になったわけだし」と考えなかったことが全くないと言えば嘘になる。そんな自分を深く恥じた。灯なんかではない、悩める人々を導く大灯台として麻天狼が煌々と輝いてあるよう、応援したいという気持ちを強くした。

ゴヤ・ディビジョン


ナゴヤ・ディビジョン“Bad Ass Temple”「開眼」Trailer

麻天狼を応援したいという気持ちを強くした。直後にこんなものをぶち込んでくるのだから……もう……運営のバカ!(賞賛)

筆者は優れたキャラクターがどういうものが考えた時、その人物の背景が書割かどうか、ということ考える。現実世界の人間において、筆者がその人と初対面だったとしても、それまでのその人の人生が存在する。厚みがある。そういったものが創作において感じられるかどうか。筆者の目にはそういう人物として現れたけれども、その範囲外でも起きて、仕事をして、飯を食って……ということを経てきているかどうかを。

ゴヤ・ディビジョンは筆者の眼前に他のディビジョンより遅く現れた。ただそれは、それがたまたまその時だったからであって、彼らには彼らの人生が分厚くそれまでにしっかりあったのだ、ということを初対面でありながら強く伝えてくれた。

 

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 自分の痛みすらも自分のものだという天国獄。

ナルシストめいて何度も自分を見てきたから一番わかっているのだという四十物十四。

神や仏ではなくただのお坊さんであり家族だという波羅夷空却。

三者三様の脱皮を経た彼らの力強さは圧倒的だ。そのまま一気に頂上をかっさらってしまいそうな力強さを感じる。

しかし「開眼」、ドラマトラックで波羅夷空却の洗脳は解けたりするんだろうか。

前後するが、特典CD曲の「R.I.P」も素晴らしく、ここに至る経緯が特典ドラマトラックで明らかになると思うと待ちきれない。ディビジョン曲については口上がオリジナルだったが(これは麻天狼の一二三パートもそうでとてもよかった)気迫が伝わるが、四十物十四はいじめという卑怯なものをサバイヴしているからこそ「正々堂々」にこだわっているのかなと思っていたのでここが変更になったのは少し残念だった。

個人曲は激情の乗せ方が一年前より段違いにうまくなっているし高度に発達したぎゃらんBAMの後半歌詞は文字化けと見まがうばかりであり、マイクスタンドの取り扱いの切れも良くなっており、ダンスのツイストも腰が入っていた。

相手が前回王者という気負いを微塵も感じない恐ろしい3人である。

ゴヤVSシンジュク

バトル曲が始まれば甲乙を決めなければならない。聴きたくないが一刻も早く聴きたい。そのアンビバレントな感情の中「Light&Shadow」が開幕する。

作詞が前回「BATTLE BATTLE BATTLE」を手掛けたケンザさんということもあってこれまた今までのバトル曲とは一味違う、しかし間違いなく極上のスタイルに仕上がっている。

伝説のMCバトル番組「フリースタイルダンジョン」でも一貫して審査員を務めた(歌詞にダンジョンと出てくるのはその辺が理由?)ケンザさんがプロデュースするのはスタイルウォーズだ。とはいえ実際のMCバトルのようなパンチラインタイプとフロータイプとかそういった次元のスタイルウォーズではない。

その名の通り流儀だ。生き方だ。

ゴヤは「克己」。己に克つ。己を超える。あの頃の俺じゃない。過去の自分は踏み台であり、レベルアップした自分としてシンジュクに対峙する。ディビジョン曲で「見て見なほら悪くないmy face」なんて控えめなセルフボーストをしていた彼らはもういない。今の自分が最上だという自負に満ちている。Shadowは消え、Lightとなった。それはまるで荒行によって自己変革を起こす密教の修行めいて――。

対してシンジュクは「共助」。過去の自分を、弱い自分を自分の核であると肯定し、他人のそれも同様に受け入れ、共に歩んでいく。否定しない。受け入れる。ShadowもLightもそこにある。そうあれかしと祈って歌えば世界はするりと片付き申すとでもいうように――。

紡がれるリリックはその一つ一つがパンチラインでどれか一つを引用して語ることなどおこがましい。

あえて言えば、最後のリーダー対決は自己犠牲の精神が先行するあまりやや危うさのある寂雷先生のリリックをひっくり返して見せる空却のロジックの方が筋は通っているように感じた。だがそれくらい自分の「スタイル」を前面に出してバチバチに殴りあえるくらい独歩と一二三が成長したと思えば、ヒーラーに徹していたであろう前回を思うと感慨深くもある。

やはり今回も結論は出せていない。また期限ぎりぎりまで悩み続けることであろう。