いつものやつです。ネタバレです。よろしくお願いいたします。
余談
あの興奮から気が付けば一月が経とうとしている。
バトル曲「Joy for Struggle」及び新曲は素晴らしいものだったが、やはり音源として堪能し、またドラマトラックも確認した上でいわば「本戦」とでもいうべきCD投票にしっかり臨みたいという思いがあった。
そして本日。安定のkonozama。毎度のごとく、サブスクで一足先に拝聴した感想を書き綴っていきたい。
花粉で目がかすみ花はつまり思考がいつも以上にまとまらないが、とりあえず一聴して寝るまでのこの今の衝動を出力しておきたいのでご容赦願いたい。
オオサカドラパ「Aikata(s)Back Again」
いや~~……。めっちゃいいタイトル。オタクは弱いんですよ! こういうリフレインに!
筆者としては是非、全人類、ことにオオサカヘッズには「べしゃり暮らし」を読んでほしいと思っているのだが、
相方。この不思議な存在。相方以外に形容しようのない存在。それこそ親子よりも兄弟よりも夫婦よりもある時は己と近いかもしれない存在。
現実でも「じゃない方芸人」という言葉がある。得てして、コンビが同じように売れるというのは難しい。月と太陽。一度ついた差は雪だるま式に開いていく。あるいは、「じゃない方芸人」のポジションにつくことである種安定すると考える芸人もいることだろう。
でも、そうではなかったはずだ。「俺が一番面白いんや」「俺のことをみんなに認めさせたる」そういう気持ちで入ってきたはずだ。躑躅森盧笙はかつて、その気持ちをプレッシャーに押しつぶされた。思えば、彼の人生は期待に押しつぶされてきた歴史だった。
そこに、白膠木簓が再び現れた。「俺に任しとき」頼もしい言葉だ。そこに不純な気持ちは一切ない。かれは、相方が戻ってきたこと、バック・アゲインしてきたことの喜びに満ちている。
でもそれは躑躅森自身も気づいていなかったが、かれのプライドを痛く傷つけていた。
なぜならば彼らは「相方」だからである。要介護者と介助人ではないのだ。「おれがいちばんおもろい」それはまず隣にいる人間、相方をどうねじ伏せていくか、ということが本来の漫才の真骨頂ではなかったか。
そこはヒプノシスマイクの世界。ラップで二人はぶつかり合い、本音が炸裂して、白膠木の一方的な「Aikata Back Again」ではなく二人ともが同格の相方と改めて認識する――「Aikata(s)Back Again」がそこに成り立ったのだった。
白膠木にとってはこの顛末をPRODUCEしてくれた天谷奴と躑躅森、複数の相方を得た、ということで「Aikata(s)」であったということもできよう。
洗脳は特にそのままであるようだが、しかしチームはさらに打ち解け、「笑オオサカ」や「Joy for Struggle」での絆の描写もさもありなんと納得が出来た。
筆者は「笑オオサカ」の「最後は絶対笑てや」というフレーズがとても好きである。他のディビジョン曲が悲壮な覚悟であったり殺意満点であったり殺伐としていたりする中、どついたれ本舗は観客の方を向いている。そのフットワークでもって天下を取ってくれそうなのがこのディビジョンの魅力である。
イケブクロドラパ「Life is what you make it」
このセカンドバトルにおいて、やはり主人公は山田二郎なのだな、ということが強く伝わるドラマトラックだった。本来であれば、前回のバトルシーズンでイケブクロが優勝し、山田二郎は「兄にチャンピオンにしてもらった」ことに思い悩みながら連覇を目指す中でまずは自分の中の「王」である兄を超えたい……みたいな流れになる予定だったのかな……とつい考えてしまう。
それぐらいポケモン金銀のレッドみたいな前作主人公感を醸し出す山田一郎だがもちろんまだま現役でいてもらわないと困る我らがBBである。
しかし今回、筆者はいやしくも彼と同じ三人兄弟の長男として看過できない事態があった。二次創作でよくネタにされていた天谷奴零の育児放棄疑惑だが、少なくとも彼には三兄弟を養育する意思があったらしいのである。それを一郎は敢然たる意志で拒絶した――のは格好いいのだがしかし結局それが二人を日本の闇の渦中に叩き込んでいるのだから、やはりこれは手放しに絶賛することはできない。
もちろんその決断を下したのはさらに年若きときだったろうが、言ってしまえば自分の意地に弟たちを巻き込んでしまったことは否定できないだろう。
虚像ではなく、そうした等身大の兄と向き合った二郎はもはやライムクローンではないオリジナルである。インターネット上の人物を信頼してはいけませんという教材になりそうな三郎は零を拒絶し、自分自身で真実を見つけると豪語したがその一端を一郎にさらっと言われてしまった時の彼の心境が気になる。二郎に比べるとやはり三郎はまだちょっと、不穏なものが感じられて心配である……。
ともあれラップパートはさすがにどちらも珠玉の出来、ブレない芯の強さが感じられた。
オオサカVSイケブクロ リリックをロジックに考える
そしてバトル曲、「Joy for Struggle」である。ライブの熱気と殺気溢れる競演も良かったが、職人芸で仕込まれた音源も聴きごたえがあった。
ではこのバトル、どちらの勝ちなのだろうか。
もちろん、その勝敗は投票に委ねられているのだが、筆者なりにリリックをロジックでもって分析して、「曲の上での勝敗」を考えてみたので投票の参考になれば幸いである。
バトル曲ではお互いの陣営が相手の陣営を交互に攻撃しあう形式をとっている。
例えば先にどついたれ本舗からBuster Bros!!!の攻撃を分析してみよう。
1回のパート(verseという)で攻撃対象が1人の場合を1として、対象が2人なら1人当たり0.5、3人なら0.3がその対象に対してダメージとして蓄積するものと考えた。
まずは零が「3兄弟調子はどない?」から始まる攻撃を繰り出すので三兄弟にダメージが均一に入る。
その次は躑躅森先生が学生二人を説教するので(足らん知能は本当はタランティーノで踏みたかったんじゃないかなあ)二郎三郎に半分ずつダメージ。
お次は白膠木がボケナスカスに対して苦笑交じりのオオサカの民にとって最大限のDIS「おもろない」を繰り出しやはり全員にダメージを分散させる。
三人揃ってのパートでは「ほんわかぱっぱ」や零のうっさんくせえ関西弁などイラつきゲージを効果的に挙げながらやはり三人同時の攻撃に成功している。
漫才パートにおいては再び二郎三郎に半分ずつダメージ。
最後に零が一郎に自らの覚悟の後に我が子の覚悟を問い直して終了。
こうしてみると図ったかのように綺麗に全員に均等にダメージが入っている。陽気ではっちゃけているように見えながらこの冷徹な計算が働いていたのかと考えると恐ろしい。
他方のBuster Bros!!!はどうだろうか。まずは零を三郎が詐欺師と斬って捨てる。
続けて二郎が躑躅森先生を「鼻毛以下」とこれまたバッサリ。
満を持して登場した一郎は「ささらんやつはおらん」と自負する白膠木を「刺さらない」と断言し、最後のフレーズで「お前ら」と全体攻撃。これは例外としてポイントを白膠木が多く引き受け、躑躅森先生、零にも少し分配した。大将を引き付けておいて周りにも煙幕を巻くようなビッグブラザーの面目躍如の働きである。
三人揃っての攻撃では相手に均等にダメージを与え、漫才に対しては兄弟二人で辛辣な批判。
最後に実の父へのアンサーを返してバトルは終了。
相手のそれぞれに与えたダメージの推定は上記の通り。こう見ると恐らくダメージが「2」蓄積すると気絶の可能性がありそうに思える。となると零は最後の攻撃が通っていればダウンすることになる。
「通っていれば」というのは、ドラパ感想でも述べたように零は恐らく養育の意思があり、またバトル曲の零パートも素直に読めば息子たちへのアドバイスでしかなく、これに対して一郎の最後のパートは「イケブクロのBB」であることのレぺゼンではなく兄弟愛に逃げ、またそれは自分のよく言えば覚悟、悪く言えばエゴでありながら「自分勝手」と零を非難するのは少し違うように思える。少なくとも立ちはだかるものに対して粉砕の意思を持つ零には通じないのではないか。
そう考えると、最後一郎の攻撃は無効とまではいかなくとも半減する。となれば零の合計ダメージは1.9となり、持ちこたえている可能性が高まる。
バトルのルールを考えると、全員あと一息のところを持ちこたえているBuster Bros!!!は本来有利なはずの後攻であるから、この次の延長でどついたれ本舗が全体攻撃を繰り出した時敗北する可能性が高い。
以上のことから、筆者はオオサカVSイケブクロはオオサカの勝利ではないかと考える。無論、このダメージ計算式自体が筆者の妄想に過ぎないし、零への最後の攻撃が反撃するにあたっては「だいじょうぶはねかえした」みたいなもう全部お前のルールじゃないか、という心持も我ながらしないでもないが、一定の理屈は取っているのではなかろうか。
あと、単純にBuster Bros!!!のDISが芸人さんを馬鹿にし過ぎている感じがしてあまり好きではなかった。「板の上」に立っている漫才師をなめてはいけない。
イケブクロ、オオサカ、どちらもバトル前夜とは違う顔を見せてくれた。それはまさしく改革ともいえる出来事であったが、それが一足飛びに栄光に繋がるかというとまだまだ煩雑な過程が必要そうだ。しかしその過程すらも彼らの糧になるという革新が得られる良いドラマトラックであったと思う。