事件編のあらすじ
名探偵・明智ホムとその助手・和都が大雪のため身を寄せた洋館、正方館。
ミステリー愛好家たちが集うその館で開かれたミステリー・ナイトが明け、密室の広間(ホール)で主催の森の他殺死体が発見される。
皆が騒然とする中、明智と和都がその場を取り仕切り、他の愛好家たちに質問やアリバイ確認を行うも全員犯行は不可能と思われた。
折からの大雪で警察の到着も大幅に遅れると思われる中、森の遺体はもともと宿泊していたゲストルームAではなく、元々明智がいたEに安置される。
Aの部屋に手がかりが残っていないか、明智が調べると言い出したためである。
部屋から見つかった森の日記帳には、震える字で「宇宙人」と書かれていた。
その夜、明智が外部からの侵入手段がないか外から検証中に、新たなる惨劇が起こる。
愛好家サークルの紅一点、高手莉愛がやはり全身から血を吹き出す惨たらしい姿で息絶えたのだ。それも、自分の部屋(ゲストルームD)ではなく、森の遺体に折り重なるようにゲストルームEで。Eの鍵は引き続き明智が管理していたが、洋館のスタッフが推定犯行時刻に外を調べていた明智を記憶していた。
つまり、第二の殺人も密室殺人だったのである!
なぜ彼女は自ら鍵を持ち、施錠できる自室Dではなく、Eを訪れ、そして死んだのか?
和都がEで受けた奇妙な圧迫感とは死者の怨念か、それとも宇宙からのメッセージか?
真犯人「白銀の宇宙人」の目的は何なのか?
果たして何者なのか?
その真相を、明智ホムは見抜くことが出来るのだろうか――。
※正方館は二階建てであり、殺人事件に関係しないスタッフの居室(和都が泊まった部屋も含む)やキッチンなどは別階にあり、外階段で接続している。
CM(今回のネタ元/いつもすみません)
解決編
「さて――」
広間に皆を集めた明智が口を開いた。その傍らには助手の和都。そして残り三名となったミステリ愛好家の面々だ。みんな、憔悴しきっている。天気は落ち着き、午後には警察が来るとはいえ、突然仲間を失い、しかもその犯人が今も身近にいるというのだ。当たり前だろう。
「まずは高手さんの事件から真相をお話していきましょう」
そう言いつつ、明智は見取り図を机に広げた。遺体発見時の森と高手だろう棒人間が描きこまれている。
「高手さんの死における大きな謎はひとつ。なぜ彼女はEの部屋で亡くなったか――」
言葉を切り、明智は周囲をぐるりと見まわす。
「答えはシンプルです。彼女はEこそが自室――Dだと思っていたからです」
全員の頭にクエスチョンマークが浮かんでいるのを見て取ったのか、明智は和都を促し、ペンを受け取る。
「いいですか? 彼女は殺害される前、入浴を済ませていた。そしてその時、眼鏡はつけていなかった。気温差で曇ってしまうからです。どうせ自室に戻るまでのこと、と深く気にも留めなかったのでしょう。そんなぼやけた視界の中で、彼女は何をもって自室と認識するか――」
明智は図にペンを走らせる。
「――『広間の扉の手前が自室』だったのではないでしょうか? この館はAとDの部屋の扉のみ重なるようになっているんです。まるでもう一つの仕切り扉のように。そしてこれを『白銀の宇宙人』は利用し――その光線銃(どくが)に高手さんは撃ち抜かれてしまった」
彼女の死を悼むかのように明智は一瞬目を伏せた。
「で、でもおかしいじゃないですか」
愛好家の一人、安荘が口をはさむ。
「Eは密室だったんですよ! 高手さんが部屋を勘違いしたとしても、中に入れなかったら意味がないじゃないですか!」
口角泡を飛ばす安荘を片手で制しながら、明智は和都へ目をやる。
「和都くん、君はEの部屋に入った時、妙な圧迫感を覚えたと言っていたね?」
「ええ、なんかこう、ぐっと――」
自分を無視された格好の安荘は憤慨しているが、明智は意に介さずその言葉を引き取る。
「ありがとう。君は確かAの真上の部屋に今は泊めてもらっているんだったかな。実は、私も同じような感覚を覚えたんです。そしてそれは安荘さん、あなたもそうだったんじゃないですか?」
そこで安荘ははっとして、ええまあ、とすこしばつが悪そうにうなずいた。
「そしてもう一人――あなたもだ、縦溝さん」
不意に声をかけられ、生来気の小さいだろう縦溝はあからさまにびくっとしたが、やはり否定はしなかった。
「昨日、痛ましい犯行があった時、私は外で調査をしていました。図面通り、この館の縦横の寸法は完全に同じだった。それはおかしいんですよ」
その言葉を一座は理解することが出来ないようだった。それも織り込み済みだったのか、明智はリアクションを待たずに、広間の端のクローゼットの方に歩みながら少しずつ語調を強めて話し続ける。
「ゲストルームは全て同じ内装です。しかし、玄関から向かって左側の部屋で過ごしていた人たちは右側の部屋に立ち入った時、圧迫感を覚えた――そして図面通り、この館の縦横の寸法は一緒だ」
クローゼットに辿り着いた明智は扉を開け放つ。普段使わないだろう座卓などがこまごま収納されていた。
「そうであるなら! 「答え」はひとつです。右側の部屋は左側の部屋より狭い。そして、その分の余ったスペースは――」
明智の去就を見守っていた一同は息をのんだ。
彼が、クローゼットから消えたのだ。
和都が慌てて走り寄ろうとすると、明智は悪戯っぽい笑顔を浮かべて再び現れた。
「――隠し通路です。狭いが、人一人なら楽に通ることが出来ます。これが第一の殺人にも、第二の殺人の前準備として『もう一つの仕切り扉』を作るためにDの鍵を開けるのにも、第二の殺人で高手さんをEに招き入れ、その後密室にするにも使われた訳です」
埃がついたのか、上着をぱんぱんと払いながら、広間の中央へと明智は再び戻っていく。
「この隠し通路がつながっているのはこの広間とD、E――」
そこで明智は深く息を吸い込み、
「そしてF。畔田韻斗! あなたこそが残忍な殺人鬼、『白銀の宇宙人』だ!」
Fへ泊っていた私へビシッと指を突きつけた。
――え?
―――私?
――――やってないよ?
あまりの事態に頭が回らず、言葉にならない言葉がちびちびと漏れ出る。
安荘や縦溝が信じられないという目で私を見ている。私だってそうだ。だってやってないんだから。毅然として否定しなくては。
「面白いですね、探偵さん。だがミステリーなら三流以下だ」
なんでこんなこと言っちゃうかな~~。あからさまに犯人の悪あがきみたいなセリフはいちゃったよ。あえて探偵が残した隙に縋り付いたらそれが罠でどうあがいてもチェックメイト決められる流れだよこれ。やってないのに。
なんか助手が後ろでごちゃごちゃやってるかと思ったらなんか悲しげなジャジーなBGMをプレーヤーから流し始めたもん。これ真犯人が真相を自白するときのやつじゃん。あれ助手が手動で流してるんだ。
いやいや。やってないんだって。隠し通路とかも今知ったんだって。そもそも二人にもなんも怨みないし。
――というか、「もう一つの仕切り扉」普通にへーって思ったけどあれって明智が自分の扉を明け放ってないと成り立たないのでは? こいつ、結構ずぼらなのか? もしかして、Eの部屋も最初から鍵かけ忘れてて、密室でもなんでもなかったんじゃないか?
そもそ、最近使ったばかりのはずの隠し通路から出てきてなんであいつはあんな埃まみれだったんだ?
隠し通路はあったけど、この連続殺人においては使用されてないんじゃないか?
明智が自分の扉周りのミスを隠蔽するためにたまたま見つけた隠し通路を使ってうまくつじつまを合わせてるんじゃないか?
これだ! これで反論しよ「いけない!」う?
――血?
急速に意識が遠のく。意味が解らない。私は死んでしまうのか。
「『白銀の宇宙人』! 『白銀の宇宙人』! しっかりしろ! 生きて罪を償うんだ!」
探偵の叫び声が聞こえる。エコーがかかったようにぼんやりとしている。
最期の力を振り絞り、私は叫んだ。
「畔田韻斗(ばんだ・いんと)です」
そのクソださ怪人ネームみたいなやつで呼ばないでくれ……。
※ ※ ※ ※ ※
イレギュラ星人・ベイトは浮かない顔で報告書の追記を記していた。
「△☆▲※◎★●○▼※△☆▲※◎★●○▼※△☆▲※◎★●○▼※△☆▲※◎★●○▼※△☆▲※◎★●(訳:森の遺体に人目を盗んで取りすがろうとした高手(恐らくは密かに森と特別な関係にあったことが推察される/その関係性から今後森の遺品等から我々に迫る危険性が喚起された)及びそれら二人を処刑した罪のスケープゴートとして畔田を処刑した。今回の偵察任務の成果と処刑ビームのコストを比するに過剰であるという指摘があるかもしれないが、ザボツヅテはチョを狩るのに手間を惜しまないという言葉を実践した結果である旨ご容赦願いたい)」