これは「孤独のカナタガタリ Advent Calendar 2022」8日目の記事です。
余談
その人は決まって筆者のことを「かなた君」と呼んだ。
近所だった頃によく遊んでいたが、5才の時の引越しによって疎遠になり、それきりだと思っていた。
公立高校の合格発表日。朝のある時間までに担任の先生から電話が無ければ合格、という形式。
その時間から30分が過ぎて、どうやら合格したようだ、という安堵と喜びがじわじわと沁み出てくる。
もう少しすれば高校に合格者の受験番号が貼り出されるということで、筆者は母の車で「母校」になりつつある場所へ向かった。
同窓生となる人々が思い思いの喜びを爆発させており、その合間を縫って母と自らの受験番号があることを確かに確認し、母は親類への連絡に余念がなかった。
母の献身が無ければ決して掴み取れぬ合格であった。多少は恩返しできたろうかと思った。
叔母か叔父かに何かを電話越しにつらつら話していた母は人ごみに誰かを見とがめて手を振った。
そこに、その人とお母様がいた。親同士はなにやら盛り上がっていたが、我々は思春期真っただ中であり、先方は「かなた君、おめでとう」の後押し黙り、筆者も「ァ…ドモ……」みたいな言葉を絞り出すのがせいぜいであった。精一杯すぎてほぼ10年ぶりの再会であるのに名前で呼ばれたことすら帰ってから気がついた。
「幼なじみと高校で再会!」という出来過ぎのシチュエーションはそれを活かせぬ者にとっては無用の長物でしかなかった。
学年は同じでもフロアが異なっていることもあり、日中顔を合わせることもほとんどなかった。
ただ時折、下校のタイミング、お互いの友人を裏門で(部室棟からは裏門の方が近かった)待ち合わせる際に待ち人が来るまで話すことはあった。
内容は取り留めのないものできれいさっぱり覚えていない。
暮れなずむ街を背に、門に続く塀に寄りかかり、ガラケーのパケ死と電池持ちが怖かったので文庫本をぺらぺらと読む。短い時間だからこそ集中できたのか、深く読書世界に入り込める貴重な時間だったが、その時を「かなた君、だからそれはやめないと目が悪くなるよ」と中断されるのを待っていなかったかというと嘘になるかもしれない。けれどもう、その声も忘却の彼方である。
バレンタインデーに義理チョコをもらったときは「ガトーショコラ1/6サイズ…すなわち少なくとも5人はライバルが…いや試作とかお父様の分もあるかも……」
などと試験よりもずっと脳細胞を活性化させたりもした。
遠征中、部活仲間たちとの「なあ木本、お前彼女出来たのかよいいなあ!」「バーカ、〇〇さんの彼氏は木本じゃなくて◎組の木元だよ」「」
という筆者のツッコミが差しはさまる余地のない会話によってこの話は打ち切りめいて終わる。
裏門からではなく、正門から帰るようになり、ふとこちらからだとCDショップが近いことに気がつく。
ふらふらと入る筆者の耳に雑踏をかき分けて涼やかな声が転がり込んでくる。
およそ15年前、「さざなみCD」と筆者との出会いであった。
本題
余談が、ながくなった。
我が家はドラマを見ることは余りなくて、特に今放送中のドラマというといつが最後だったかちょっと見当がつかない。(一緒にサブスクで一気見したのは「透明なゆりかご」を9月ごろ、というのがあった)半沢直樹とか?
その我が家が今期は「PICU」と「エルピス」をほぼリアルタイムで見ている。妻はともかくとして筆者の処理能力ではこれが限界なように思えたが、TLと世間の盛り上がりに土曜の妻と娘が寝てしまっている間の暇つぶしにと、うっかり見逃し配信を延長してくれていた「silent」の1話を見た。
もう、ボロボロに泣いた。
目黒蓮さん演じる佐倉想君が最後のクライマックスで川口春奈さん演じる青葉紬さんに感情をぶつける。言葉はなく、荒い息遣いと身振り手振り、表情が織り成すそれは間違いなく「叫び」であり、その発露と、その様子に驚きながらなんとかコミュニケーションを取ろうとする紬さんの姿に筆者の琴線は震えまくってしまったのである。
結局4話まで本編を鑑賞し、スピンオフも見た。
泣いて、箱ティッシュを2箱消費してしまった。
同時に、想君と、鈴鹿央士さん演じる戸川湊斗君を知れば知るほど、
「こ…こんなにスピッツを煮締めたようなキャラクターが生み出せるのか…それも複数…」
と驚嘆することしきりであった。よく考えれば佐倉君からしてスピッツどころかJ-POPの金字塔である「チェリー」からきているであろうし、そうなると湊斗君は「みなと」であろう。夏帆さん演じる女性は奈々さんだというからこれまた「ナナへの気持ち」…とスピッツへの目配せを感じてしまう。
劇中に出てくる曲も「楓」はいかにもな別れのナンバー…という感じであるが、キラキラ眩しい「魔法のコトバ」の活用の仕方がまたいい。
魔法のコトバ
口にすれば短く
だけど効果は凄いものがあるってことで
「魔法のコトバ」は恋い慕う人たちがお互いに呼び合うファーストネームなのではないか、と発売当時、リアルタイムで聴いて思ったものだ。
かつて忌み名という概念があったように、更に昔は名前を呼び、そしてそれに答えることが求婚の証であったように、ファーストネームで呼び合う、ということは特別な意味がある、少なくとも思春期パーソンにとっては――と、そういうことを33歳、どこに出しても恥ずかしくないアラサーになっても考える。
想君は耳が聴こえなくなる前に自分の名前を紬さんに呼んでもらえた。たった一度だったけれどその一回を心のうちにしまって、時々はこっそり取り出して思いに浸るということがきっとあったんではなかろうか。
(「silent」制作者が目配せをしている羽海野チカ作品――「ハチミツとクローバー」には「声っていつまで覚えていられるんだろう」というエピソードがあったりもする)
だから、最終回は多分想君が自分の声で「紬」と呼ぶことになるのだろう、と考えるけれど、そういう「ドラマ的」なこと、「ご都合」の薄皮を一枚剥がしてくれるのがこのドラマの魅力だと思うので筆者の想像を超えてきて欲しい。
ただ、最近の展開はそういう「ドラマ的」に沿っているようなことが多いようにも思えてちょっと視聴意欲が落ちつつあるのも事実である。
スピッツへの言及がドラマ内で減ってしまったからというのもあるかもしれないが……。
ということで(ということで?)「silent」からスピッツに興味を持たれた方に、スピッツというバンドが内包する奥深さ、バラエティの豊かさ、おもちゃ箱をひっくり返したかのような様々な曲をご紹介したい。
安易に選ぼうとすると結局「全部聴いて!」となるので、せっかくなので制限を設けたい。
・アルバム曲から選ぶ(カップリング集(花鳥風月、色々衣など)もアルバムとしてカウントする)
・1アルバムにつき1曲までとする
・公式プレイリストにある曲は除く(選曲が素晴らしいので是非聴いてみてください)
・柚木ログさんのPodcastで間借りした時の曲は除く
・想君が確実に聴いていただろうアルバム(小さな生き物)までにする
では、やっていきたい。
スピッツ/うめぼし
1stアルバム「スピッツ」からは「うめぼし」。「silent」主題歌「subtitle」では「正しさより優しさが欲しい」という正直な叫びが歌われているが、この曲では、
知らない間に僕も悪者になってた
優しい言葉だけじゃ物足りない
とさらに自分に正直になっている。正直すぎて不安になる。
奥田民生が自分のツアーで我がもののように歌っていたことでもおなじみ(本人談)。
彼のcoverが収録されたアルバム「一期一会」は残念ながら配信されていない。
椎名林檎の「スピカ」、中村一義の「冷たい頬」など垂涎の曲が他にも目白押しなのだが……。
番外にはなるがつじあやのさんcoverの「猫になりたい」は配信されているので是非ご一聴いただきたい。
名前をつけてやる/恋のうた
あれ? この猫去年の今頃テレビで見た…という方はかなりのお笑いフリーク。
ハライチの岩井さんがこの柄のシャツでM-1に臨まれていた。
そんな初期の名盤と名高い「名前をつけてやる」から「恋のうた」である。
きのうよりも
あしたよりも
今の君が恋しいから
コンパクトで可愛い曲調にスッと普遍的な言葉を入れ込んでくる、いい意味で小さくまとまった佳曲である。スピッツの中では割かし歌いやすい歌でもある。
「惑星のかけら」は実に「silent」味が強いアルバムで(が、公式プレイリストには一曲も入っていなかったりする)、表題曲「惑星のかけら」や「日なたの窓にあこがれて」など「ドラマ見てた?」と尋ねたくなるくらい解像度の高い歌詞で合わせて聴いていただきたいが、なんといっても「アパート」である。
誰の目にも似合いの二人
そして違う未来を見てた二人
小さな箱に君を閉じ込めていた
壊れた季節の中で
湊斗編じゃん…。
Crispy!/クリスピー
「ブレイク前夜」感がひしひしと漂い始めた「Crispy!」からは「クリスピー」。表題に恥じずサクサクとテンポよく進んでいく曲にマサムネ節とでもいうべき歌詞の配置がたまらない。
輝くほどに不細工なモグラのままでいたいけど
なんてどんな食生活を送っていたら浮かぶフレーズなのだろう。
聴き終わった後なんかサクサクしたものを食べたくなっていること必至である。
空の飛び方/恋は夕暮れ
「空の飛び方」の名前にふさわしく、スピッツが初のオリコン一位を獲得することになるシングル「空も飛べるはず」(ただ、発売すぐではなくドラマ主題歌に採用されての2年遅れのヒットだった)が収録されたアルバム。布陣に隙が無く、個人的にスピッツの曲で一番好きな「スパイダー」が収録されていたりと、(のちにシングルカットされる)「スピッツらしいアルバム」を聴いてみたいならまずはこれか「さざなみCD」と言った感じの名盤となっている。このアルバムこそ超メジャーバンドへと飛び立つスピッツの跳躍台と言ってもいいかもしれない。
「恋は夕暮れ」は「スパイダー」がシングルカットされる際にカップリングとして収録されたことからもわかるように、その中でも個人的には頭一つ抜き出た名曲、とりわけ歌詞がいい、と思う。
恋は昨日よりも美しい夕暮れ
恋は届かない悲しきテレパシー
恋は待ちきれず咲き急ぐ桜
恋は焼きついて離れない瞳
(筆者注/中略)
恋は迷わずに飲む不幸の薬
恋はささやかな悪魔への祈り
額に入れて飾っていたい歌詞である。これが金管楽器を交えて夕暮れに染まる街の様子が見事に描写されたメロディに乗るのだからたまらない。途中に挟まる切れ味のいいギターも最高である。
ハチミツ/あじさい通り
やってきました「ロビンソン」を擁する大アルバム「ハチミツ」もまた「ロビンソン」一強ではない、バンドがノリにノッていることを感じさせてくれるアルバムである。ここからは「あじさい通り」をおすすめしたい。
だって信じることは間抜けなゲームと
何度言い聞かせたか 迷いの中で
ただ 重い扉押し続けてた
だからこの雨あがれ
あの娘の頬を照らせ ほら
寄せ集めの花抱えて
こういう視点人物は花屋で花を買ってきてはいけない。そうなのだ。
どことなく霧雨のロンドンに現れたフランケンシュタインの怪物、のような物語を夢想してしまう、静かな温かみのある悲劇が迫っているような雰囲気がすこぶる好きである。
インディゴ地平線/バニーガール
またまた誰もが知る大名曲、「チェリー」を収録した「インディゴ地平線」である。「インディゴ地平線」。いい言葉だ。筆者ならこの単語を思いついたらそれだけで3日くらいニヤニヤ出来る自信がある。indigo la End がバンド名の元ネタにしたのもむべなるかなという感じである。
「silent」登場人物の名前のインスパイア先?「ナナへの気持ち」はこのアルバム収録。
劇中では想君と紬さんが学生時代ファミレスで話し込んで……というエピソードがあるが、「ナナへの気持ち」では視点人物がナナとロイホで夜明けまで話し込む描写がある。狙っているとしたらなかなか残酷な対比をするよなあ、という感じだ。
「ハチミツ」の「ロビンソン」の溶け込み具合に比べて、このアルバムではチェリーの浮きっぷりがすごい。というか最後におまけみたいな感じでえいっと入っていることからして、嫌々入れたんじゃないか、というゲスの勘繰りすらしてしまう。
そんなアルバムからは「バニーガール」にご登場願おう。「チェリー」のカップリングでもあるが、「チェリー」よりだいぶアルバムに馴染んでいる。
俺もまたここで続けられそうさ そんな気がした曇りの日
Only youの合図で回り始める
君と落ちてく
ゴミ袋で受け止めて
やはり世間的にあまり歓迎されてなさそうな視点人物である。
だから快晴ではないし、受け止めるのはゴミ袋だ。
だけど軽快なメロディは愚かでも瑞々しい恋の喜びに満ちている。
フェイクファー/仲良し
前述の公式プレイリスト、一見して「フェイクファー」から「フェイクファー(曲のほう)」を引っ張ってくるあたり、マジで「理解」ってる……と唸ったものである。
他方、「仲良し」と向き合え!と言う気持ちもまた、偽らざるものであった。
いつも仲良しでいいよねって言われて
でもどこかブルーになってた あれは恋だった
時はこぼれていくよ ちゃちな夢の世界も
すぐに広がっていくよ 君は色あせぬまま
悪ふざけで飛べたのさ 気のせいだと悟らずにいられたなら
「もう許してくれ」と言いたくなるような幼なじみ特攻ソングである。君の好きな作品の関係性にぶち込んで「もう許してくれ」と言ってみよう。
花鳥風月/俺のすべて
大ヒット曲ロビンソン、そのカップリングが「俺のすべて」である。
残り物探る それが俺のすべて
ルララ宇宙の風に乗っている陰でこんなことを宣言してしまう、スピッツの機智と稚気にあふれたリリックの妙味とバンドサウンドの楽しさが味わえるナンバーとなっている。きっと当時は「ま、俺はロビンソンよりカップリングの方が好きかな~」みたいな「俺はわかってる」みたいなパーソンが大量にいたと信じたい。
ハヤブサ/さらばユニヴァース
いわゆる「スピッツ的なもの」からの脱却を目指したであろうアルバム「ハヤブサ」。そのどれもが新鮮な驚きに満ちているが、「さらばユニヴァース」はリアリティある手触りの歌詞と、どういうこと?という歌詞が混在しており、過渡期の具体化のような曲になっており味わいが深い。
君が望むようなデコボコの宇宙へ繋ぐ
からのギターソロの謎の壮大さ、遠大さはまさに宇宙であり、むやみに感動する。
三日月ロック/ミカンズのテーマ
遠大な宇宙の次は四畳半ロックである。「三日月ロック」からは「ミカンズのテーマ」。急に現れたミカンズに読者諸賢も驚かれたかもしれないが、ミカンズの方も自覚的で
はじめましてのご挨拶 余計なことも紹介しよう
から始めてくれるので親切である。親切か?
コミカルなサウンドと裏腹に、
当たり前すぎる人生を 切り張りしてこのざま
好きだと言えたらよかった そんな気持ちでいっぱいだ
結構胸に来ることを歌ってくれる。
ミカンズ 甘くて酸っぱい言葉かますぜ
青春は柑橘類なのである。知らんけど。
色々衣/大宮サンセット
これまた等身大の曲をスペシャルアルバム第二弾、「色々衣」から「大宮サンセット」という形でお届けしたい。
この街で俺以外
君のかわいさを知らない
自信満々の宣言からこの歌は始まる。
今のところ俺以外
君のかわいさを知らない
と思えば、早速「今のところ」と予防線を張り始めた。大丈夫か。
はず……
ダメだった。どんどん弱気になっている。お前は関白宣言のさだまさしかという感じだが、この愛しきひ弱っぽい姿を幻視させてくれるスピッツにこそ、筆者は全幅の信頼を置いてしまうのである。
あの大宮サンセット
妙にでかいね
ぜっっったいデート中に言うことじゃないと思うのだが、この「らしさ」が、いい。
ちなみに筆者は暫くの間、母の車で曲だけを聴いていたので曲中繰り返される「大宮サンセット」を「おお、見やしゃんせ」と聞き取って、どっかの方言で「あら、ごらんなさい」みたいなことを言っているのかなあ……と思っていた。
スーベニア/みそか
「みそか」の名の通りアルバム「スーベニア」のラストを飾る曲だ。全曲「会いに行くよ」もアルバムの終わりを穏やかに予感させる曲なのだが、「みそか」はもう一度最高潮に引き上げてやる! という気概を感じるめちゃくちゃ格好いいバンドサウンドでそのまま眠りにつきそうだったキッズたちは思わずこぶしを突き上げてしまうことだろう。
再び羽海野チカ作品で言うと、現在では短編集「スピカ」に収録されている「イノセンスを待ちながら」という押野監督の映画「イノセンス」公開前の短編にこんなセンテンスがある。
別れ際に人の心を引き裂くのは「再会の約束」です
―― しかも素子はその約束に
「いつか」という言葉をつけました
「いつか」…なんてくるおしい響きでしょう
永遠かと思うくらい果てしなく横たわる
時間の重さ 仄暗さ…
誰しも誰かとしていそうな「いつかの約束」をこのように落とし込み「ぐわー」という気持ちにさせてくれる羽海野先生の描写力に感銘を受けながら、読んだ時に思い出したのはスピッツのこの曲だった。
約束1つを抱きしめて
テレパシー野晒しあきらめず
というフレーズがそんな気分にさせるのかもしれない。
スーベニアのアルバムカラーは「晩冬~初春」だと勝手に思っているが、まさにそのキワを責めるようなエッジの効いた歌詞とメロディが最高の調和を出した曲だと思う。
さざなみCD/点と点
さざなみCDは初めて自分で買ったスピッツのアルバムで、思い入れもひとしおである。その中でも自分の人生哲学の一つの柱とも言える「桃」を入れてくるあたり返す返すも公式プレイリスト選者に嫉妬と羨望の念を禁じ得ない。
全体的に「お求めのスピッツはこちらです」とでも言うようなキラキラあたたかなスピッツ感が強い、それだけに初めてスピッツを聴く方にも勧めやすい「さざなみCD」の中で、鋭いサウンドから始まる、全編尖った「点と点」はやや異質な存在だ。
昨日の朝飯も思い出せそうだし
一緒に行こうよ
ただ、それだけでは終わらない。息が詰まるような音のせめぎあい、サビの最後でスッと出される「昨日の朝飯」。この絶妙な抜け感がスピッツの真骨頂である。
こういうタイミングでこういうことを言う人間こそ、信頼に値するし一緒についていきたい、と筆者は主張したい次第である。
とげまる/恋する凡人
シングル「つぐみ」に収録されているLIVEバージョンが最高なのだが残念ながら未配信。しっかりレコーディングされることでこの曲の持つ粗削りな疾走感がやや失われてしまったのは残念だが、それでもこのアルバムで一番好きな曲である。
進化する前に戻って何もかもに感動しよう
そのまなざしに刺さりたい
「そのまなざしに刺さりたい」……数多くあるスピッツ流アイラブユーの中でも筆者ベスト3にランクインする好きなフレーズである。この後に入るギターソロもまた「刺さりたそうすぎる」という感じでよい。
走るんだ土砂降りの中を ロックンロールの微熱の中を
「ロックンロールの微熱」というフレーズも好きで、確か伊坂幸太郎先生も似たような言葉を使っていたような覚えがあり、そういう訳で筆者のかなり上位の褒め言葉のボキャブラリーとして「微熱のロックンロール」というものがラインナップされている。
本人たちも気に入っていたのか、30周年記念写真集のタイトルが「ロックンロールの微熱」だったりもする。
走り続けるこの曲が最後の最後どこへ着地するのか、ぜひご一聴いただきたい。
おるたな/三日月ロックその3
スペシャルアルバム第3弾、カップリングに加えてカバー曲まで収録した豪華仕様の「おるたな」からは「三日月ロックその3」である。
ん? と思った読者諸賢は鋭い。さっきありましたね、「三日月ロック」というアルバムが……。そのタイトルトラックになり損ねた曲が「三日月ロックその3」である。1と2は今なお謎に包まれており、2はどうやら暗い曲であるらしい。いつか聴いてみたい。
ストレートなロックチューンに叙情と哀愁、というバンドの熟練を感じさせる曲に仕上がっている。こんなにかっこいいサウンドなのに視点人物は甘えん坊のわがままでしかも自己評価は低いという「ス、スピッツ~~」な仕上がりである。
泣き止んだ邪悪な心で
ただ君を思う
ただ自分の邪悪さに気がつけているだけ昔よりもマシになっている気はする。
小さな生き物/小さな生き物
いよいよ最後、「小さな生き物」からはタイトルチューン「小さな生き物」をご紹介しよう。社会人になってから初めて出たアルバムで、先行シングルはデジタルで購入した。ちょうど今のパートナーと本格的なお付き合いがはじまったりした時期で、そういう意味でも思い出深い曲である。ちなみに妻はスピッツは全く聴かない。
負けないよぼくは生き物で 守りたい生き物を
抱きしめてぬくもりを分けた 小さな星のすみっこ
そう思える人が自分出来るとは思わなかった。実際、そこからほぼ10年、守られてばかりなのであるが。
実はこの後筆者自身、スピッツを聴くことは激減してしまう。
今、振り返って、たぶん、「大丈夫」になったからなのだな、としみじみ思った。
「silent」でスピッツに興味を持った人に…といいながら、大分偏った選曲になってしまったかもしれないが、機会があればどうぞお聴き願いたい。
プレイリストも作ってみました。