映画名探偵プリキュア!のネタバレがあります
余談
筆者が自分で覚えている「鮮烈な読書体験」というのはいくつかあって、
幼少期の「きんぎょがにげた」
小学校の「そして5人がいなくなる」
中学校の「魍魎の匣」
高校の「重力ピエロ」
がその代表である。こう書き連ねると幼少期の「きんぎょがにげた」によって何かを解き明かすことに強い興味を惹かれるようになったと言っていいかもしれない。
そういうことで今年度のプリキュア、「名探偵プリキュア!」についてはそのタイトルが明かされたときから楽しみにしていた。
が、正直なところそこまで熱心には追えていない。理由の1つは我が家のメイン視聴者層である5歳児がそこまでハマっていないこと。
前作「キミとアイドルプリキュア!」においてキュアズキューンという「推し」を見つけた我が子は番組終了後も彼女が一番にあり続け、「名探偵プリキュア!」放送開始直後、おもちゃ屋さんに行っても当然欲しがると思った名探偵プリキュアへの変身グッズではなく安くなっているズキューンモチーフのグッズを欲しがるという具合。
名探偵プリキュア!においてもズキューンと同じくお姉さんルックスのキュアエクレールに惹かれるも本編にはなかなか出てこない、次に刺さっているキュアアルカナシャドウは「でも、わるものだから……」と葛藤がある様子。
これに昨今の猛暑と本人の自転車に乗りたいという意欲が合わさって、日曜日早朝は少しでも気温が低いうちに自転車練習をする時間になり、結果視聴頻度が激減してしまったのだ。このため、自然、ハマり方も去年よりだいぶ浅くなっているようである。
とはいえキュアミスティックモチーフのワンピースは持っているし、ジュエルキュアウォッチもいつの間にかじいじ(筆者父)から買ってもらっているし、地元の祭りでは炎天下に耐えてショーも鑑賞した。映画の前売券もテンション高く一緒に買いに行った。
エクレールが本格参戦しアルカナシャドウがアルカナへBLEACHされたことで本編への興味も少しずつ出てきているように感じる。
少し涼しくなって自転車も補助輪付きならかなり上手に乗れるようになり、早朝練習が落ち着けば前作のようにハマり出すかもしれない。
もう1つは筆者が言ってしまえば「名探偵」強火勢だからである。
謎を解くのが名探偵
―なぜ?謎?!ANSWER より
違うでしょっツッツ うのみにしてはだめ! だめ!とはまさにこのことである。もちろん、
笑顔の答え見つける
――同上
というフォローがあるのはわかる。しかし前段のワードが強すぎる。筆者の中の名探偵観は前述した「そして5人がいなくなる」によって決定づけられた。
ぼくは名探偵です。犯人をつかまえるだけの警察とはちがいます。きっと、みさちゃんがいちばん幸せになれるように、事件を解決しますよ。
――「そして5人がいなくなる」はやみねかおる先生著/講談社青い鳥文庫より
人が抱える謎を解くというのは、一種暴力でもある。謎というのは往々にして秘密であるからだ。クイズのように答えを出して終わりではなく、その先に続く人生があり、残された人々がいる。
「真実を突きつける」という麻薬――例えば「春期限定いちごタルト事件」をはじめとする「小市民シリーズ」の小鳩常悟朗くんはこれによるトラウマを抱えているし、金田一耕助はその後のことを恐れて結局全てが間に合わないことがしばしばあったりする。
その恐ろしさを子ども向けにどこまで伝えることが出来るのか、伝えようとする覚悟があるのか?
歌詞やクイズめいた本編からは「名探偵」を冠するに足るかどうかは判断できず、視聴意欲が鈍るうちに上記の子の事情もあり乗り切れず、継続しての視聴をしていなかった。
とはいえエクレールの正体推理など「界隈」を飛び出して届いてくる仕掛けは流石だと思ったし、なぜ?謎?!ANSWERが名曲であることは議論の余地はない。
本題
余談が、ながくなった。
ということで、映画を見た。1歳半児が荒ぶり3時起床から1日を駆け抜けての夕食まで済ませて夜7時から上映開始。正直寝落ちしてしまうのではないかとドキドキしていたが、土曜のうちに見なければニチアサリアタイ5歳児の「これ昨日見に行ったねえ!」(劇場版連動OPを観ながら)が聴けないのでね……。
結論から言うと杞憂であった。
艶っぽい作画で、幕が上がる。
街を騒がせる「☓印事件」。ダメダメという謎の生き物がはびこり、☓印をつけられたものは(人であっても)動かなく――ダメに――なってしまう。
ダメダメが街より先に発生していたらしい「かりんの庭」を助けてほしいという妖精レインの依頼により一行は一路そこに向かうが……。
レインは恐らく探偵「ドルリー・レーン」がその名の引用元と思われる。かつて世界一の推理小説とも称された「Yの悲劇」に登場する探偵としても有名であるが、登場作品には「Xの悲劇」もあり、「☓印事件」を連想させてくれる。
現在ではエラリー・クイーンが生み出した探偵として知られるレーンだが、当時はバーナビー・ロスという別名義で作品が発表されていた。この理由についてはそれすら一種伏線という凄まじさなのでぜひドルリー・レーン4部作をお読みいただきたいが、いわば「一人二役」だったわけである。公開討論でエラリー・クイーンはバーナビー・ロスを、バーナビー・ロスはエラリー・クイーンをお互い罵っていたという徹底ぶりであったらしい。
なぜこうした事が可能だったか――実はエラリー・クイーンはいとこ二人の合同ペンネームであり、「二人一役」だったからなのである。(なので、正確には先程の「一人二役」は「二人一役」である)
本作のレインがいわば「分身」であったこと、また探偵が作中で導き出した「真実」が本当に真実であるのかという後期クイーン問題などを踏まえるとかなり巧妙な名付けであり、ミステリ好きの端くれとしてはそれだけで本作を傑作認定したいところである。
もう1人のゲスト妖精であるアランはそうなるとエドガー・アラン・ポーが引用元であろう。主人公の明智・小林コンビの引用元を生み出した江戸川乱歩の筆名の引用元でもある。
唸らされたのがアランがかりんを守ろうとして城に閉じ込め出入り口をすべて塞いでしまうシーンで、エドガー・アラン・ポーが生み出した世界最初の探偵オーギュスト・デュパンは自らの屋敷の鎧戸を日中締め切って思索にふける人間であるし、彼の初登場作品――すなわち世界最初の推理小説は「モルグ外の殺人」という「密室犯罪」であるからだ。
更に言ってしまえば「少女の願いを周囲が拡大解釈して『結界』を生み出し、守ろうとするが外部からやってきた同年代により決壊する」というのはクイーンの影響も色濃い新本格世代のあの……! とも思ってしまうが流石に作品名までは挙げないでおく。
こういう「作者の人そこまで考えてないと思うよ」みたいな妄言を打鍵しているときが一番楽しいのだが、しかし筆者が我が子とともに大満足で劇場をあとにしたのは当然そればかりではない。
キュアアンサー・明智あんなさんがしっかり名探偵としての地歩を固めていることをしみじみ感じられたからである。
中盤、かりんがダメダメを生み出していたという「真実」をつきつけるアンサー。しかし良かれと思ってかけた「わかる」によってかりんは感情がreflection頼りないemotionしてしまい彼女を拒絶してしまう。
他方でアランも自らの力がなければかりんがここまで苦しみ閉じこもってしまうことにはならなかったのではないかということをつきつけられてしまい、彷徨うのもサガ愛のマンダラとばかりに暴走、かりんも取り込み超巨大ダメダメとなってしまう。
対話することの大切さを説くわんぷり、人の思いを受け止めて輝くキミプリたち先輩の助けを借りながら、アンサーは超巨大ダメダメ内部に突入、震える本音を俺に曝してくれ!と気持ちをぶつけることで事態は打開に向かう。
それはまさにみんなを幸せにする――「犯人」であるかりんやアランを含めて――名探偵の姿であった。
また、子を持つ親として、夏休みが明けたこの時期にこういう内容をやってくれるととてもありがたいな、となった。
新学期が始まり、連休前。二学期こそはと思っていたことが上手くいかなかった少年少女たちもきっといることだろう。連休明け、体が重く感じるかもしれない。学校へ足を踏み出したくなくなるかもしれない。
足踏みをしたっていい。ゆっくり休んだっていい。でも、停滞や先延ばしは最適解であることは、稀である。優しい言葉をかけてくれる他人は、あなたの将来を誰も保証してくれない。(とはいえ、厳しい言葉をかけてくる人が保証してくれるかというとそうでもないのが世の中を複雑にしているのだが……)
新しいフォームが「フューチャーフォーム」という名前で、挿入歌が「First Step」というのもとてもいい。偽りの楽園である箱庭には未来がなく、踏み出すことで獲得できるものだからだ。(一歩踏み出す、というのは前述のなぜ?謎?ANSWER!でも言及されており、名探偵プリキュア!を通貫するテーマの1つであるのかもしれない)
先輩プリキュアの客演について。初めて子と映画を一緒に観たプリキュア、わんプリは昨年もそうだったが映画で扱うテーマについて特効を見せており、昨年見られず残念だった悟くんと大福のプリキュア姿がまた見られたのは嬉しい驚きだった。
キミプリについても持ち前の明るさで場を明るくしてくれたがやはりカイト様が出演されなかったのが残念であった。
アクションシーン自体は大変見応えがあったが、不在の間に何をしていたのか特に説明がなく、それぞれワンシーンだけでも彼女たちなりに真相に迫る様子があってもよかったかな、とは感じた。
一点どうしても気になるのは、かりんさんの親は何をしているんだ? というところ。叱られることを危惧していたように思えるので健在ではあると思うのだが……。共働きかつ出張などで不在がちなのだろうか?
「かりんの庭」が異空間あるあるとして経過時間が外の世界と違うという可能性もあるが、にダメダメが出現したタイミングからして一週間以上は滞在していたと思われる。
筆者が親であれば気が気ではないが……それとも朝夕学校に行くふりをして抜け出していた(学校にはアランが上手く言いくるめた)のだろうか。
ともあれ「名探偵」への気概が感じられ、嬉しい映画であった。「キュアアルカナは着替えを早くしてきれいなキュアアルカナシャドウになった」と好意的な評価をする5歳児と共に本編の展開も見守っていきたい。



















































