カナタガタリ

すごくダメな人がダメなすごい人になることを目指す軌跡

やわらか銀行と固ゆで卵

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いらすとやさんの画像を使うと気軽にそれらしいブログ感がでてありがたい


時刻は14時を少し過ぎたところだった。

おれ――ヒッシャー・ウッドブックはひどく腹が減っていた。今日はスタッフが少なく、動くことが多かったうえに、休憩時間がずれこんでしまったのだ。慣れ親しんだ青いコンビニに入ったところで、ワイフからスマホにメッセージが届いた。

ワイフ「いいニュースと悪いニュースがあるわ」

「いい方から聞こうじゃないか」

ワイフ「私のスマホのWi-Fi受信検知は正常に作動したわ」

「Wi-Fiがストライキでも起こしたのかい?」

ワイフ「判らない、突然圏外表記になってしまったの」

おれの家では現在固定回線を止めていて、いわゆるポケットWi-Fiで賄っている。それは丁度ひと月前からで、よく働いてくれていたのだが、どうもその調子が悪いらしい。

荒れ狂う胃袋を(最近とみにベッドがおれを離したがらないので今日も朝食を犠牲にする羽目になっていたのだ)一刻も早くなだめたかったがこの問題を放置するとワイフが胃袋以上にお怒りになりそうだ。

やれやれ。おれはとりあえず思いつく解決方法―充電の確認、再起動、電源オフで暫く待ってからの再びの電源オン――などを提案しつつ、慌てて会計を済ませ、家路に急ぐことにした。電子決済のわざとらしいほどに軽やかな音が皮肉気に聞こえてしまったのもきっと空腹のせいなのだろう。

愛車のスタンリックを転がしてドアを開けるとワイフが盆と正月とGW進行が一度に来たような顔をして待っていた。恐らく先程の対処法はどれも駄目だったのだろう。

確認してみるとなるほど圏外になっていた。自分のスマホを確認してみるとやはりポケットWi-Fiの電波は拾っているものの、インターネットには接続されていないと表示が出た。

となるとやはり本体がおかしいのだろう。参った。代替機が借りられたらいいが――思案しつつサポートセンターにコールする。出ない。旧名:デンデン・カンパニーはサポートに掛けると延々と保留音を鳴らしてしかもだんだんそれが大きくなるというスマホの電池・鼓膜・心証の全てによろしくない効果を上げる戦法を繰り出してくるが、こちらは「一昨日きやがれ」でブツッと切られるので時間的にはかえって良いのかもしれないが、しかし忘れてはいけないのは目の前には問題が未だ転がっている。

実店舗に行くことが最善に思われたが、おれは後30分もしたら再び戦場に舞い戻らなくてはいけない。検索してみるとどの実店舗からもそれなりに距離がある。今のおれには9マイルは遠すぎるし、隣の市となれば尚更なのだ。

とはいえ何かしらの対策を施さねば今すぐこの場が戦場になりかねない。グロック銃口が向けられているようなプレッシャーをワイフから感じながら、藁にも縋る思いで実店舗へと電話をしてみることにした。

ややあって電話はつながった。電話先の女性は少し疲れたような声で、自社製品の使用のお礼、サポートセンターに繋がらなかったことのおわび、そして問題の聞き取りを淀みなくこなしてくれた。

「お客様、それは本体原因ではなく、電波障害かもしれません」

おれは突如稲光に打たれたような気持になった。とうとうワイフがしびれを切らして戦闘が、いや一方的な蹂躙が始まったのかと思ったがそうではなく内から湧き上がる感情であった。

電波障害。即ち、大本がダメ。考えていなかったわけではないが、その可能性は著しく低いと思っていたからだ。(個人的には最近は酷使していたため、充電ケーブルにつなぎっぱなしによる過充電を疑っていた)

やわらか銀行の電話が圏外になってしまっているのだという。このポケットWi-Fiも兄弟会社のものであるから、その影響を受けて使えなくなってしまっている可能性が高い、と電話先の女性は続けた。きっとその問い合わせが殺到して疲れているのだろうな、と気の毒に思いながら、それでも丁寧に対応してくれた彼女に感謝をして電話を切り、ワイフに経緯を説明した。

ワイフ「要するに巻き込み事故ってわけ?」

「兄弟ってのは嫌なところばかり似るものさ」

ワイフ「それにしても不思議ね。我々のキノコは使えている訳だし……」

「ソン・ジャスティス氏が急にソン・ピカレスク氏と化してしまったのかもしれない」

ともかくも現状はどうしようもない、ということの太鼓判を捺してもらったのだからこれ以上は今エネルギーを使うのは得策ではない。ワイフもそのことは判っていてくれていて、また問い合わせをしたことに感謝もしてくれた。

そういえばまだ何も食っていなかったことを思い出し、乱暴に荒野の男よろしくステーキにかじりついた。

おれは今度このドアを開けるときにはWi-Fiが復活していることを願い、またそうなっていたらワイフとティー・リキュールで祝杯を挙げることを約束して道を戻った。

結局のところ、おれが戦場を這う這うの体で逃げ出すまで、やわらか銀行がその電波を回復させることはなく、電子の海には「上場前を狙ったサイバー攻撃」だの「関連業者の逮捕が原因」だの無責任なボトル・メールが流され続けていた。

そして電波障害による悲喜こもごもも。1年ほど前までは、おれと戦場をつなぐ鎖もやわらか銀行製だったわけで、タイミングが違えばなにかしら大変なことになっていた可能性がある。逆に言えば電波障害を盾にうやむやにするチャンスを失ったともいえるかもしれないし、ここでの某かがまた別の出来事に反転することもあるだろう。

結局のところ、サイオー・ホースなのである。

スタンリックのキィを取り出そうとしたときにスマホに通知があった。ワイフからのWi-Fi復旧通知であった。問題の発生は14時前で、結局のところ大体の復旧は20時前後だったというから1日の1/4が、通常の業務時間で考えれば半分以上が障害に見舞われたということになる。

今のところはサイバーテロではなく設備の問題ではないかという噂であるが、しかし陰謀論が今後も盛り上がるかもしれない。

もう少し障害が長引いていればあるいは来年の出生率統計に有意な差が見られたかもしれないが、しかしこの時間で何とか復旧させてくれたことに敬意を表したい。

世の中何が起こるかわからないものだ、とティー・リキュールの入ったグラスを傾けながら使い古されたことを考える。

そうであればこそ、明日起きたら枕元に3億円が置いてあるかもしれないという希望を抱いて眠りにつけるのである。

 

 

 

紅茶のお酒 夜のティー 500ml

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※この物語はフィクションであり、ヒッシャー・ウッドブックは架空の人物です。

(妻の)2018年・買ってよかったもの

今週のお題「2018年に買ってよかったもの」

先週まで読書の秋だった気がするが早いもので2018年も〆にかかっている感じである。

とはいえ、今年は基本的に良かったことはこのブログにて報告しているので今回は妻に尋ねてみることにした。

セザンヌ・皮脂テカり防止下地

セザンヌ 皮脂テカリ防止下地

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 妻「私が下地に求めていることはたった一つ……シンプルなことだ…『崩れない』

この商品はそれを達成してくれているので良い。Tゾーンのテカりをしっかり防止してくれている。欠点はちょっと重いことと私以外の人にも好評なのでなかなか入荷しないこと」

 

スガオ (SUGAO) シルク感カラーベース グリーン SPF20 PA+++ 20mL

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 妻「ということで代替品としてこちらも使っている。自己主張が少なく軽いのが良い」

 

ちょこっと製本工房

妻「200P40冊で17,000円。これは普段使っているところが50,000円と考えると非常に安い。が、安かろう悪かろうということは全くなく誠実な仕上がり。(文字のみで使用した場合の感想)あくまで一般の印刷屋さんなので二次創作やムフフな作品ではなく文集などで特に真価を発揮するのでは」

格安小冊子作成・冊子印刷・制作 ・印刷・印刷通販【ちょこっと(ちょ古っ都)製本工房】

弁慶丸とれとれ直送便

妻「やっぱり今年はこれだね! メールマガジンも毎回楽しみ。無料で読めていいの!? ってレベル」

 

kimotokanata.hatenablog.com

 よろしければ是非お試しのほどを。

 

ジャルジャルの漫才の「ショートコント:漫才」感、あるいはM-1グランプリ2018感想

M-1グランプリ2018の優勝者をはじめ数々のネタバレがあります。

敗者復活戦

筆者が投票したのは以下の三組であった。

さらば青春の光

独りよがりにならなければさらば青春の光はやっぱり面白いんだよなと思った。最初の掴みで終わるのかと思ったらものまねネタで最後まで引っ張るとは。

マヂカルラブリー

確実に去年より進化していた。ツッコミでボケという猛獣をコントロールできるようになりつつそれでもちょっと暴走させてしまうという塩梅でこれからも言ってほしい。スタイルとしては南海キャンディーズに近いのではないかと勝手に思っている。

インディアンス

ネイティブアメリカンスでなくていいのだろうか。アンタッチャブルを彷彿とさせるけれどもやっぱり本家と比べるとツッコミに物足りなさがある。けれども3分漫才らしいテンポで昨年同様面白かった。

結果はミキ。最初の方の出番で不利かなと思ったけどさすがであった。

次点のプラスマイナスも面白かったけどもうまいなあ、という感心が先に立ってしまったのが敗因なのかなと思う。

 

勝戦

見取り図

初出場の一発目なのにそれを感じさせない面白さだった。「架空の人を繰り出してくる」というのはお笑いの一つのパターンではあるけれども笑ってしまった。でも仕込みがいる行為なのでその分笑いの数で言うと少なくなってしまったのが残念だなあと思う。

スーパーマラドーナ

ラストイヤー。頑張ってほしかったが……筆者がスーパーマラドーナを好きな理由の一つに伏線回収力があったのだが、このネタではそれが発揮されていなかったようで残念だった。落ち武者がいた時の衝撃、キリッとした田中さんが出て来た時の感嘆をもう一度味わいたかった。家族の写真があとあと活きてくると思っていたのだが……。

その後の武智さんのコメントは万感迫るものがあっただけになおさら後悔が募る。

かまいたち

ネタのスケールとしてはコンパクトな、そこを拾うのかという部分を展開してどんどん面白くしてしまうのはさすがの手腕である。妻と話していてなるほどと思ったのは、ボケを説得しようとしてだんだんツッコミの論理が極端になっていってボケが急に冷めて冷静にツッコむというのはブラックマヨネーズっぽかった。

ジャルジャル

去年と同じで沢山練習したんだろうなあという感心が先に来てしまって素直に笑えない。

一張羅の銀はがしみたいなスーツも目にちらちらして気になってしまう。ジャルジャル自体は全く悪くないのだけれど明日の朝テレビの影響を如実に受けるタイプのイケイケ男子が日本各地でドネシアドネシアウエーイしそうな感じで暗澹たる気持ちになる。

妻「ゴールデンでチンチンを繰り出してきた胆力は評価したい」

ギャロップ

一番漫才らしかった。逆にその漫才過ぎるのが良くなかったのかな……と思わせるのがM-1の難しいところである。「安心してみていられる」「安定感がある」というのが純粋な加点要素ではないからだ。(とはいえ銀シャリのような優勝者もいるのだけれど)新春演芸とかで出てきてほしいタイプのコンビである。

ゆにばーす

普通に面白い。けれどやはり普通に面白いだけではこのステージで、このキャラクターでは厳しい段階にこのコンビも来ているのだろう。オール巨人師匠も指摘されていたけれど、あまり強い言葉を使い過ぎないことが次の段階に進むために必要なのかもしれない。

ミキ

ちょっと攻めた感じだなという感想。面白いけどやっぱりルックスネタ1つでずっと展開していくのはうーむ……。といった感じ。敗者復活戦に続き、言ってしまえば「版権ネタ」を使ってきたのも個人的にはあまり好きではなかった。ジャニーズの番組に出演されたことがあるんですね。

トムブラウン

子どもはやりたがるネタだろうなと思った。審査員の方々も触れていたがいちいち観客にふる律義さがじわじわ面白い。でも一番面白かったのは加藤一二三九段のネタ紹介の下りだった。Gyaoで見られるらしいので見てみたい。

霜降り明星

昨年敗者復活戦で見た時はツッコミがイマイチ…(毎回ツッコミの時に取るポーズがなんかイラッとするのと言葉が乱暴なのに面白さに繋がらない)だったのだが今回は滅茶苦茶面白かった。舞台を広く使えていたし、こっちが予想しているところにちょい足ししてくるツッコミが素晴らしかった。

和牛

トリのプレッシャーを全く感じさせない貫禄の漫才。正直最初は大丈夫か……と思ったけれど今までとは違うパターンでしかし、期待通り終盤の畳みかけを見せてくれるのだからやはりこれが常連の力かと改めて思わされた。それだけに「殺す」以外の言葉が何とか見つからなかったものかなあとも思う。

最終決戦

ジャルジャル

面白かった。多分ジャルジャルファンが好きなジャルジャルと一般受けするジャルジャルをすり合わせていくとこういう感じになるのだろうかと思う。それでもやっぱりジャルジャルの漫才から感じてしまう「ショートコント:漫才」は一体何なのだろう。ジャルジャルは懸命に漫才と向き合っている。それは判るのだがなぜか漫才師としてのジャルジャルは薄皮一枚を纏っているように感じてしまうのである。血のにじむような練習が起因する「作り上げた」感じがそう思わせてしまうのだろうか。ラストイヤー、残念であったが肩の力を抜いてもらうことでさらに漫才師として一段階レベルが上がってくれると信じている。

和牛

三組すべて見た時、今年は和牛だな、と思っていた。去年も和牛だな、と思っていた。正直なところどちらともに獲得していても全くだれも驚かなかったろうと思える。

こうなってしまうと来年以降ももちろん出場してくれると信じているが、並み居るライバルに加え、過去の自分が審査員の中で自分の敵になってしまうだろうから年々獲得は厳しくなってしまうだろう。来年は是非獲得してほしい。

とりあえず警視庁は一刻も早くオレオレ詐欺撲滅大使に任命してほしい。

霜降り明星

勝戦の方が好きだった。が、昨年の敗者復活戦のネタをリメイクしたものであるので、それでリベンジを果たしたことがなかなかエモーショナルであったと言える。

幅広い層に受けるコンビだと思うので年末年始が楽しみである。

観終えて

全体的に外れがなく、面白く観られた。スーパーマラドーナだけが残念。勿論、M-1だけがお笑いではない。また別の所で二人の漫才を観たいと思う。もしくは謎の新人ウルトラマラドーナが来年出てきてもいい。

予想検証

筆者の予想は

1位 スーパーマラドーナ

2位 和牛

3位 ジャルジャル

であった。霜降り明星に完全にまくられた感じである。

見事的中させたというDJ Kooさんは来年是非審査員として参加していただきたいと思う。

しかしM-1って昔はもうちょっとクリスマス前後っぽいイメージがあったのでなんか感覚が妙な感じになる。

 

 

君の孤独もすべて映し出す秋、あるいはkindleで買った電子書籍1600冊くらいから選ぶ1冊完結の漫画10選

今週のお題「読書の秋」

余談

 読書の秋である。明々後日は師走だが読書の秋なのである。

読者諸賢であれば、筆者がこのブログにて立てたある誓いを思い起こされるかもしれない。

 

kimotokanata.hatenablog.com

 早半年が過ぎた。果たして積読本はどうなっているのか……

その成果が……これだッ!!

 

1(ワン)

 

 

2(トゥ)

 

 

3(スリー)

 

……はい。すみません。一冊しか積読は減っていません。でもこの後書籍で五冊ほど読んだし、電子で買った本もそのまま積まずに三冊ほど読んだのでなんだかんだで半分くらい積み本を減らしたといってもいいんじゃないだろうか。駄目ですか。はい。

 

おいしいロシア (コミックエッセイの森)

おいしいロシア (コミックエッセイの森)

 

 ということで唯一積読本から崩された本はシベリカ子さんの「おいしいロシア」であった。コミックエッセイは肩がこらず読み進められるのでつい優先的に崩してしまったり、再読してしまったりする。実はこの本も三回くらい読み返した。帯の通り素朴でやさしい(そしてダイナミックな)家庭料理を中心に等身大のロシアが柔らかな筆致で語られる。スメタナ食べてみたい。

この本でとりわけ「おっ」と思ったのは、「ウハー」の紹介。ロシアの温かい汁もので、魚を主体にしたものが多い。この紹介を聴いておや、と思った読者諸賢もいることだろう。そう、このブログでも何度か紹介した「ゴールデンカムイ」でもお馴染みオソマ…いや「オハウ」こそは同じような「温かい汁もの」をアイヌの言葉で意味する。

「ウハー」と「オハウ」は語感も似ているし、語源は一緒なのでは!と閃いた筆者は感動のあまり入浴中の妻に報告に行ったら「それ昨日私言わなかったっけ?」と一蹴された。ともあれ常々言っている自分の人生の伏線が回収されていくように過去の読書体験とリンクするという読書の醍醐味が味わえて楽しかった。

これからの季節にお勧めの一冊である。

本題

ということで読書の秋、ガッツリ読書ももちろん素晴らしいのだが、一冊完結のコミックもおすすめしたい、ということで千六百冊近く電子の海に漂わせている筆者が、その中から拾い上げた十選をご紹介したいと思う。

こちらである。十選なのに十二冊あるとかそんなことはいいのです。竜造寺家とか軍艦四天王とか、あるじゃないですか。最初三十八冊あったのを頑張って減らしたので許してください。

十選選出基準

①一冊完結であること

大前提としてこちら。また、一冊完結であっても連作であったり続編が出ているものも涙をのんで対象外とした。

②同じ作者の重複はしない

ちょっとグレーゾーンが一例あったがまあグレーゾーンということで

③すでに取り上げた本、今後取り上げる予定の本は除外

これはかなり悩んだ。選ぶくらいだから当然どれも単独記事を書けるくらい思い入れがあるのだが。紹介済みの「ミュージアムの女」「おいしいロシア」や紹介予定の「ヒャッケンマワリ」他はしぶしぶ除外することにした。

オンノジ 施川ユウキ先生

 えっもう五年も前の本なの……といきなり落ち込んでしまったが、もちろんそんなことは微塵も感じさせない傑作である。

そこにあるのは優しいポストアポカリプスである。何があったのかはわからないが、しかしいつの間にか終わってしまったような世界で、少女は一人暮らしている。イレギュラーな世界観で、しかしほのぼのと過ごす少女の日々はある出会いから変わり始め……。

バーナード嬢曰く。」からもSF好きが伝わる施川先生だからこそ描き得た作品であろう。静かに転がり始め、終盤怒涛の展開を見せるこの作品がどのように着地するのか、是非見届けていただきたい。飛行場のシーンが筆者はとても好きである。

 

大斬 西尾維新先生(原作)

西尾維新――ゼロ年代に青春を駆け抜けたサブカル男子が胸をざわめかせるこの四字熟語。色々言われていたけれどめだかBOXも筆者は大好きである。完全に球磨川先輩が主人公だったけどなあの漫画! でも好きだよ!

ともあれそういったところから原作者として存在感を発揮してきた西尾先生が「めだかBOX」でコンビを組んだ暁月あきら先生、「うろおぼえウロボロス」でコンビを組んだ小畑健先生を初めとした名だたる作家諸賢を向こうに回し、原作という名の挑戦状を叩きつけたルール無制限反則なしの真剣勝負(セメントマッチ)――それが本作品集である。

それぞれの話は正しく西尾維新的であるのだけれど、その見せ方が漫画家先生方の面目躍如といった感じで素晴らしい。最後には西尾維新先生の解説もついていてお得である。筆者が一番好きなのは福島鉄平先生の「ハンガーストライキ!」サムライうさぎを初期の感じで二十年くらいやってくれないかなあ……。

8bit年代記 ゾルゲ市蔵先生

8bit年代記

8bit年代記

 

例えばこんな風に気軽に貼る画像と同じ、あるいはそれ以下の容量に死に物狂いでゲームを組み込んでいた時代があった。それは決して古き良き時代ではなく、子どもからガンガンに搾取する詐欺まがいのものであったり、未完成であったり、受け手の想像力に丸投げしたものだってあったりしたけれど、しかし間違いなく熱があった。そんな時代に生きた一人の男の半自伝である。ファミコンになれなかった諸々の仇花への愛情ゆえの辛辣なレビューはネットで聞きかじったその辺の評とは重みが違って読みごたえがある。

そして特筆すべきは主人公が高校時代自主制作したアニメの顛末であろう。少しでも創作に携わった人々であればきっと心に刺さるはずである。

創作を「継続する」上で大切なことは一度「折れ切る」ことではないか、と筆者は考える。何かしら大きなものにぶちのめされ、このままじゃ駄目なんだ、と考え直して、自分を再構築していくことが出来るか否かが、創作人生の寿命を決めるのではないかと。勿論、最初からずっとトップスピードで駆け抜ける天才もいるのだろうけれど。

また、最後に紹介されていた「寿屋」はかつて南九州に存在していたデパートで、店舗こそ違え筆者にとっても思い出の場所であった(かつて筆者にクリスマスプレゼントや、おいしいお肉や、かいけつゾロリを与えてくれたその場所も、今はもうない)ので画面の向こうとつながったような不思議な感じがあった。

因みに作者さんはあの「セガガガ」の発案者である。

成程 平方イコルスン先生

成程 (楽園コミックス)

成程 (楽園コミックス)

 

世の中には「なんじゃこりゃあ」が褒め言葉である作品というのがあって、この作品集はまさにそういうたぐいであると思う。「え、なにこれは(困惑)」といった昔懐かしい語彙も飛び出すかもしれない。

タイトルは「成程」だけど全然成程じゃないんである。どちらかというと真逆なのである。いや、ちょっと待って一から説明して? といった感じなのである。基本的にはスタンダードな女子高生やそのあたりの年代の人々が、しかし何かミョーなシチュエーションに身を置こうとしていたり、置いていたりする。けれどそこにあるのは奇妙な「リアルさ」である。読みながら自分の常識が揺らぐ感覚があるかもしれない。気づけば思わず「成程」と声が漏れているかもしれない。

えっなんで俺この展開で、文章で感動しているの? という事態が発生するかもしれない。他の漫画で例えるならば「ヤクザウィングである」のような不思議な余韻を残す短編がたっぷり収録されている。筆者の一押しは「とっておきの脇差」。

異郷の草 志水アキ先生

絶対滅茶苦茶難しいだろうといわれ続けて来たし筆者も思っていた京極堂シリーズのコミカライズを最高の出来で提供し続けてくださる志水アキ先生。もうすぐ完結の鉄鼠の檻は坊主が多すぎて困っていたけれどコミカライズされるとかなり判り易い。刀剣乱舞ファン諸賢においては南泉斬猫公案が出てくるのも見逃せない。しかし講談社で言うとアフタヌーンがあっていそうなんだけどな。

閑話休題。そんな志水先生の作品で今回ご紹介するのは三国志をテーマとした連作集だ。主人公が黄忠甘寧、鐘会、孟獲、簡雍というのだから渋い人選である。しかしそれぞれの作品の人物はみずみずしく、また力強く我々の前で立ち回ってくれる。乱世というのは即ち、己の業を突き詰めやすい時代だといえるが、それぞれの志、言ってしまえば野望や業と表裏一体のそれらが内側から人物を振り回していく様は時に痛快で、時に哀れで、時に滑稽だがしかし土臭い生の力強さに満ちている。読了後は真・三國無双エンパイアーズシリーズを起動したくなってしまう一冊である。

 

散歩もの 谷口ジロー先生、久住昌之先生

散歩もの (扶桑社文庫)

散歩もの (扶桑社文庫)

 

孤独のグルメコンビの送る、文字通り散歩がメインの漫画。因みに筆者が初めてkindleで買った漫画は孤独のグルメである。

谷口ジロー先生の精緻な筆致で描き込まれた風景にはため息が漏れる。散歩している今をベースに、様々な過去が重層的に重なってエピソードを形作る様は圧巻である。筆者が初めて読んだのは二年前の連休真ん中の真夜中で、収録作の「真夜中のゴーヤ」に特に心を打たれた。ただいま時刻は零時四十分であるが、むかしはこんな時間に活動するなんて思いもよらなかった。大学でバイトを始めて、深夜二時帰宅するとき、まだ明かりがぽつぽつとついていて、こんな時間に起きている人もいるんだ、自分は世界のほんの少ししか知らなったんだな、と思ったことを思い出す。

散歩こそは正しく自分の感受性を開拓していく過程に他ならない。

さよならタマちゃん 武田一義先生

アザラシではない。あのタマである。GANTZで著名な奥先生のアシスタントとして辣腕を振っていた主人公にあるとき難病が降りかかる。時折不意打ちの様に漫画家さんの訃報があるけれど、やはり過酷なお仕事なのだ、と思う。優しい絵柄だが、その内容は重々しい。(この絵柄に落ち着く過程も必見である。)

忙しかったのはホントだけど

命より大切な用事なんて一つでもあったのかな

という登場人物の言葉がじんわりとしみこむ。筆者にとっては妻との入籍を決意させたきっかけのひとつでもあり、思い出深い作品である。

主人公やそれを取り巻く人々の話がメインであり、もちろん面白いのだが、妻に先立たれた主人公の父が僅か四コマで最終盤に描写され、今までこらえていた筆者の涙腺が決壊した。妻、長生きしてくれ。

さよならもいわずに 上野顕太郎先生

さよならもいわずに (ビームコミックス)

さよならもいわずに (ビームコミックス)

 

前述の「さよならタマちゃん」とはある種、対になっている作品。どこまでも個人的であるがゆえにかえって普遍性をある部分で持ちえたように感じられる作品。今回、久しぶりに再読したがやはり更なる再読は相応の時間を置くことが必要そうであると感じた。それほどこの作品に込められた熱量はすごい。冷たすぎて火傷をしそうな矛盾した熱量はしかし、矛も盾も突き破って読者の喉元に突きつけられる。

愛というのはどこまでも主観的なものであるのかもしれず、さよならもいわずに去った人のそれを推し量るのは残された人々のエゴでしかないのかもしれないが、しかし人はせずにはいられない。それはもしかしたら他の誰かが、また別の誰かを見送るための準備として見せてくれているものであるのかもしれない。

絶対に活用したくない予習本として稀有である。妻、長生きしてくれ(二回目)。

粋奥 日本橋ヨヲコ先生

粋奥 (IKKI COMIX)

粋奥 (IKKI COMIX)

 

 パーフェクトな奥様が愛する旦那さんの為に行動していくと、いつの間にか世界が優しく回り始める、という一見すると都合が良すぎる展開も先生の説得力ある画面展開により納得してしまう。

特に一話目は伏線の貼り方も見事で、あ、あんたは…そういうことか! と膝を打ちたくなること請け合いである。二話目は年末の話で今からの季節にぴったりなのも嬉しい。

極めつけはこの漫画が出来るまでが日本橋ヨヲコ先生の解説付きで見られるおまけがついているところ。漫画家志望者諸賢必見である。

シブすぎ技術に男泣き! 見ル野栄司先生

シブすぎ技術に男泣き!

シブすぎ技術に男泣き!

 

 続刊があることに商品詳細を張ろうとして気づいた(番外編まで買っているくせに…)でも是非読んでいただきたい作品なのである。プロは何故すごいのか。妥協しないから。そういうプロもいるだろう。でも本当のプロは、落としどころを間違えないところなのだ……と学んだように思う。そして、立志伝中の人物はたいていねじが二三本外れているということも学んだ。

中小企業の悲哀、意地、工夫……日本スゲー番組なんか見ている場合ではない、これを読もう。

 「設計は思いやり」……「次工程はお客様と思え」の極致である。

 

と、ここまで書いたところではや深夜二時が近くなってしまった。あと二作残ってはいるが、一応十作品はご紹介できたので、残り二作は明日の更新とすることをお許し願いたい。ハブアナイス読書の秋!

(ここから11/29更新分)蛇足・残りの二冊

ということで残り二冊である。前提条件にやや触れるところがあったため、(本当はスゴすぎ技術もそうだったのだけど)後回しにさせていただいた。決してすでに紹介した本に劣るという訳ではない。(もっと言うと先の十冊も紹介した順番が面白いと考えている順番という訳でもない。)

黒博物館 スプリンガルド 藤田和日郎先生

黒博物館 スプリンガルド (モーニング KC)

黒博物館 スプリンガルド (モーニング KC)

 

からくりサーカスがアニメ化されているらしい。封神演義のアニメ化によって心に深い傷を負った筆者は観る勇気が持てないでいるのだが、その分量なら本作を代わりにアニメ化してくれたらいいのに……とは思った。結構ちょうどいい感じになるんではないかと思う。

魔都ロンドン。ジャックと名づけられた怪人物はジャックザリッパーに留まらない。ジャックザストリッパーなんてのもいる。そしてこの物語で言及されるのは「バネ足ジャック」である。以前書籍版を紹介したオカルトクロニクルさんでも記事になっていたりする。

okakuro.org

 かつては他愛もないイタズラに思えたバネ足ジャック。ある時忽然と活動をやめた彼は最近復活し、過激化し、ついには死人が出る事態に至る。

FBI心理分析官を読んだ読者諸賢であれば犯罪は頻度が短くなり、そしてエスカレートするのが常であるのは御承知の通りであろう。今回もその例外に漏れないのか? バネ足ジャックは最悪の殺人鬼に堕してしまったのか?

 イタズラ時代の捜査主任であった「機関車男」ロッケンフィールド警部は当時目星をつけていた男の元へ殴り込む。男の名はウォルター・デ・ラ・ボア・ストレイド。侯爵である。絵に描いたような放蕩貴族の彼がバネ足ジャックなのか?

一触触発の警部と侯爵。そこにメイド・マーガレットが現れるや一変する侯爵。そんな侯爵をやさしいと評するマーガレット。彼女が雇用された三年前はバネ足ジャックが一度活動をやめた時期と符合する。そこに何か秘密があるのか?

犯罪の証拠が集められるという「黒博物館」を訪れた彼は、そのバネ足ジャックを巡る物語をキュレーター(かわいい)相手に語り始める――。

ここから先は敬虔で善良なるもの以外立ち入り禁止だ

……オレたちは入れない

余韻が美しい一編の映画のような物語である。

かっこいいスキヤキ 泉昌之先生

かっこいいスキヤキ (扶桑社コミックス)

かっこいいスキヤキ (扶桑社コミックス)

 

 小学校~中学校の一時期、古本屋でやたらVOW系統を読み漁っていた時期があって、そのころからちょっとずれた感じにひねくれていたのだな、と思うのだが、その時に出会ったのが収録作品である「パチンコ」であった。当時、こんなくだらないことを力いっぱい描けるなんてすごい、と思ったものである。後年、孤独のグルメの原作者であると知り、なるほどそのイズムが生きている、と納得した。

本作に収録されている「夜行」は「孤独のグルメ」と「食の軍師」に分離する前の(他にも色々とグルメ漫画の原作はされているけれども両巨頭として。うさくんは関係ないだろ! いい加減にしろ!)原作者のむき出しのスタンスが垣間見られるようで面白い。(筆者は未見だが世にも奇妙な物語で映像化もされたらしい)

全編くだらない、くだらないのだが一本筋の通ったくだらなさがありどこか哲学さえ感じさせる。

やっぱり男はキンピラゴボウよ!

 そう断言できる人生はきっと豊かであるに違いない。

以上蛇足でした。御笑覧、感謝。

 

 

 

あなたの「今」に閃きたい。あるいは今だからこそ観るべきPRODUCE101について

 

 

I.O.I 2ndミニアルバム - Miss Me? (リイシュー)

I.O.I 2ndミニアルバム - Miss Me? (リイシュー)

I.O.I 2ndミニアルバム - Miss Me? (リイシュー)

 

 

余談

IZ*ONEが無事日韓共にデビュー1位らしく大変めでたいことである。

IZ*ONECHUもリアルタイムで全話見た。結論としては時々字幕バーにWindowsの画面が出現したりメインボーカルが麺ボーカルだったり日本側練習生が韓国語でアピールするところは「日本人がしゃべってるしええやろ……」とばかりに翻訳を放棄したり大体1時を過ぎると中の人がおねむなのか精度が更に低下していた逐語訳であっても、あるだけで大変ありがたいものだったのだな、というのがまず第一に来た。

もちろん12人の美少女がわちゃわちゃやっているだけで大変眼福ではあるのだが、こちとら96人の美少女がわちゃわちゃやっているところを忍殺感が漂いながらも字幕付きで12話見せてもらっていたわけで、その後に生のままお出しされてももうちょっとこう……手心というか……といった心持になってしまうのである。

他方、PRODUCE48でもトレーナーの指導などは通訳さんが訳してくれても練習生同士の会話は通訳なしだったということで、彼女らはこういう環境に飛び込んだのだな……と改めて畏敬の念を禁じ得なかった。

そしてその橋渡しを特にしてくれていたであろう、イ・カウンさんや宮崎美穂さんの不在が改めて感じられ、しみじみと悲しくもなる。かといって今の12名から誰を入れ替える? となっても途方に暮れてしまうのが現状なのだが。

日本語字幕付きは年明けからということで、暫くはこの状態で内容を推測しながら待機したい。

彼女ら12名を見出した「PRODUCE48」がAbemaTVで12/19より無料放送されるという。今まで見たことのない読者諸賢は是非ご覧いただきたいと思う。お世辞抜きに近年まれに見る極上のエンターテイメントである。

PRODUCE 48 | AbemaTV「韓流・華流チャンネル」公式サイト

IZ*ONEから入った読者諸賢もいらっしゃるかもしれない。筆者も基本的には現在最低1日1ラビアンローズしている。(運営はラビアンローズGoogle検索すると吉原の高級ソープさんしか出ない状況を早急になんとかした方がいいと思います)今のキャラクターに落ち着くまでの経緯を見られる絶好のチャンスである。

「へえPRODUCE48またやるんだー でも最終的に誰が残るか知っているしなあ」

とどちらか、あるいはどちらにも属さぬ読者諸賢は思われるかもしれない。そうではないのだ、と筆者は言いたい。大切なのは結果ではなく過程だ、という言葉を使うつもりはない。むしろ結果の恐ろしいまでの大切さをまざまざと突きつけるのがこの番組であった。最終的に選ばれた12人は間違いなく逸材である。しかし他の練習生がそうでなかったわけでは決してない。お互いに文字通り切磋琢磨したからこそ、デビューした12人はデビュー時点で既にあそこまで輝いており、だからこそデビューから1位獲得までの記録を塗り替えるほどの結果を残せたのだと。「この手を握って」と差し出した手は空を掴んだけれど、それでもなお「君の星になる」ためにもがき、あがき、そして輝き続けたその魂の記録、煌めきを是非目に焼き付けていただきたい、これが見納めかもしれない練習生さえいるのだ、と。

「えーでもお……」

と未だ踏ん切りがつかぬ読者諸賢もいることであろう。

そう言ったわけで、同じように「結果を知った上で観た」PRODUCE101(シーズン1)の感想を今から綴っていきたいと思う。

※という訳で以下、PRODUCE101全編のネタバレがあります。

本題

余談が、ながくなった。

PRODUCE48をBSスカパー!でリアルタイムに視聴していた時、各話の初めには「ネッコヤ」が流されていた。毎回の放映ごとに少しずつ把握する顔が増えていくことに喜びと悲しみ(既に脱落した練習生も出てくるので)がこもごもだったわけであるが、ある時それが別の曲に変わった。何やら練習生諸賢も雰囲気が変わったような……

変わったどころではない、彼女らは別人であり、曲は「PICK ME」であった。即ちPRODUCE101字幕版の宣伝だったのである。


[Produce 101] 101 Girls are back AGAIN! Opening Ceremony! ’PICK ME’ EP.11 20160401

しかも後から101を見て分かったが、なんと最終話verであった。Mnetはすぐそういうことする。練習生と直接関係ないDJのお兄さんが途中めちゃくちゃフォーカスされる辺りも最高にMnetだ。

そんな彼女らを見た時の率直な感想は「でも全体的にPRODUCE48の練習生の方がレベルが高いな」であった。実際問題、PRODUCE101が爆発的人気を読んだ影響でPRODUCE48には事務所の一線級を出してきているように思うが、PRODUCE101時点では海のものとも山のものとも知れぬ新番組に対して事務所側は結構探り探りだったのではないかと思う。

PRODUCE101の字幕版再放送もBSスカパー! ではなくMnet、即ち別チャンネル契約が必要ということで、じゃあいいかな……といった感じであった。

PRODUCE48序盤ではシーズン1、シーズン2の最終1位が登場するし、途中でも比喩として(PRODUCE48以降韓国の番組を見ていて思ったのだが、あちらは「既存の芸能人である○○さんに似ている」というのを結構重視というか、話題にする傾向があると思う。101のオーディション履歴書にも「ロールモデルとする人物は誰か」という項目があったりする。この辺りコンセプトをがちがちにする韓国と日本の違いが出ているようで面白い)シーズン1の誰のようだ、という言及がちらほらあるし、回想でエピソードに触れられたりもする。グループバトルではシーズン1でデビューしたI.O.Iの曲が使用されている。最終話では、発表の場に立ち会ってさえくれるのである。別に見なくていいんじゃないかな……度は視聴の度高まっていった。

しかしPRODUCE48が大団円を迎え、Mnetでオリジナル字幕付き放送があると知った。本来であれば、全話録画しているし、当たり前だが字幕が変わったところで結果は変わらない。それでも筆者と妻は熟考の上、Mnetを契約し、改めて視聴することにした。楽曲の韓国語部分が翻訳されているのがありがたい。特にラップはこんなこと言っていたのか……という感じである。ミョーな中毒性が薄れたのは残念ではあるが。

ともあれ折角契約したので、ということでPRODUCE101を観てみよう、ということになった。その時は丁度10話、佳境の段階であった。夫婦して朝、録画したものをぼへーっと観た。うーん、やっぱり引っ掛かりが少ないな……という意見が一致した。

それで終わり……であればこんな記事は書かない。

MnetにはMnetsmartというサービスがある。スカパーでMnetを契約していれば、追加料金なしでPC,またはスマホでMnetのリアルタイム放送や過去作品のオンデマンドを観ることが出来るサービスである。

このオンデマンドサービスに、PRODUCE101も対応していた。「プデュロス」に陥っていた我々夫婦は、改めて1話から観るとまた違うかもしれない、と鑑賞することにした。そしてそれは大正解だった。いや、ある面では「また推しが落ちる」という虚無感を再び味わうことにもなった訳であるが……。

バチバチな練習生たちと悪魔の編集

PRODUCE48は基本的に、和やかに進行していった。だからこそ今でさえ「Short hair」2班における「センターじゃんけんで決めればよくない?」事件や、ユンジンさんと矢吹奈子さんとの「センター泣きの一回」事件が取り沙汰されてしまうわけだが、PRODUCE101シーズン1を観た後だとくだらなすぎて失笑レベルである。まあそんなこともあるでしょうね、くらいの感じである。二週間前の晩御飯の献立くらいのどうでもよさであるとまで言っていいかもしれない。

シーズン1の練習生たちは凄い。グイグイである。ガツガツである。バチバチである。

もとよりここは鬼の棲家

火の玉みたいに傲慢で気の強い人間しかおらんのにな

――羽海野チカ先生著:「3月のライオン」5巻131Pより

これってもしかしてPRODUCE101のことでした? とさえ思う。他人の失敗を願うし、実際失敗すると喜ぶし、番組に愚痴るし、ふてくされて練習しないし、「私の方が上手くやれます」といってはばからない。対立も日常茶飯事である。こりゃあ炎上するぞ、と思ってみていると、実際したみたいで後日該当者が謝罪していたりする。

が、これは俗にいうMnetの悪魔の編集によるところも大きいという。放送局側としてはドラマが欲しいし、反響も欲しい。その「シナリオ」に沿って編集が行われる。別のシーンでの発言を被せられたり、感じの悪い表情を抜き出されたり、言動を切り取ったりと。それで実際よりも大げさに見える側面もあったようだ。また、後述するが、「お前さん……そら行くっきゃねえよ! ぐいぐいいくしかさあ!」という今だからわかることもあったりする。ある意味彼女らがこの様に犠牲になったおかげで、PRODUCE48出演者は予習復習し、あのような和やかな空間が形成されたのだと考えられる。

キム・シヒョンさん、パク・ミンジさんエピソード0

PRODUCE101にはPRODUCE48に後に出演するメンバーが2名存在する。

キム・シヒョンさんはPRODUCE48ではグループバトル評価時にはリーダーとしてチームを取りまとめ勝利に貢献し、コンセプト評価の際センターとして抜擢され、「ガールクラッシュ」「振り付けを担当したヨンジュン先生の脳裏のコ・ユジンの幻影」という2つと戦いつつも見事その難題をこなし、センター曲「Rumor」は配信売り上げでは見事1位を獲得した。


PRODUCE48 [단독/직캠] 일대일아이컨택ㅣ김시현 - ♬Rumor @콘셉트 평가 180817 EP.10

PRODUCE101当時は個人練習生。当時から美人さんであるがやや丸い。PRODUCE48でも取り上げられていたが出番の少なさに不満を漏らすなど、御多分に漏れずバチバチであり、いやいや姐さん十分にガールクラッシュですやん、といった面持ちである。やはり一定の評価はされていたのか、個人練習生ではあるもののカメラに抜かれることも多く、最終話でも話を振られたりしているし、番組終了後は事務所入りを果たしている。

もう一人パク・ミンジさんはPRODUCE48ではグループバトルでメインボーカルを担当。前回脱落のトラウマからか声が今一つ出し切れず、それをトレーナーに叱責され涙を見せる。本番では見事高音を出し切り、(本編ではここの「出せるかな~どうかな~?」と言わんばかりの意地悪編集がまたひどい)その後明らかにノリノリになっているところがかわいい。(1:35~あたり)


PRODUCE48 [단독/직캠] 일대일아이컨택ㅣ박민지 - 카라 ♬맘마미아_1조 @그룹 배틀 180629 EP.3

PRODUCE101では最初の評価で最上のA。その後の再評価も見事守り切り残留を果たしたのだが、ろくに触れられず、続いて臨んだグループバトルでもろくに分量をもらえず、大した失敗もしていないのに最初の順位発表であっさり脱落という結果に終わってしまった。Mnetもさすがに罪悪感があったのかどうかわからないが、なぜか最終話の投票方法のナレーターに抜擢されている。聞きやすく可愛らしい声である。

「PRODUCE48にも出演している」という事実は、即ち「PRODUCE101では脱落している」ということである。(他のサバイバル番組で勝利したけど参加したチャン・ギュリさんのようなケースもあるが)少なくとも彼女ら2人について、筆者夫婦は敗北へと向かう物語として観ていたことになる。2年後再びサバイバルに挑む彼女らを、彼女ら自身は知らない。知るはずもない。

大丈夫、その時あなた達は再びたくさんの仲間と多くの人気を得ることが出来る。同じく届くはずもない、そんな声を投げかけたくもなってしまう不思議な感覚であった。

イ・ヘインさんの受難の始まり

いま1人、その敗北を知っている練習生がいた。イ・ヘインさんである。評価ではAをキープし、既に貼った「PICK ME」でも何度もカメラに抜かれるなど注目度の高い練習生であった。

グループバトルでは高順位のため自らが他のチームメンバーを選抜。その上自分がリーダー、メインボーカル、センターを務めるなど強権を発動するが、まさかのミス。それがどこまで影響したのか、なんとチームメンバーは自分以外全員脱落という事態を招いてしまった。(後謝罪している。次の課題曲ではセンターを譲り、自身は寝ずに編曲を行うなど、献身的にメンバーを支えた。)しかしその後も安定したパフォーマンスを見せ、最終メンバーまで勝ち残る。が、一歩及ばずデビューはならなかった。

その後、所属事務所とのいざこざがあり同じく番組に参加していたイ・スヒョンさんと共に移籍(番組出演中既に事務所の宿舎を追い出されたりしていたという。先程の強権もその不安からの必死さであったのかと考えてしまう)、最終脱落したメンバーで構成された、スピンオフチームとでもいうべきI.B.Iにてデビューする。


[MV] I.B.I(아이비아이) _ MOLAE MOLAE(몰래몰래)

ところで筆者はこのデビュー曲のMVはいわゆるアイドルのMVとしてかなり高水準であると思うのだがいかがだろうか(17秒くらいで一番最初に単独で映るのがイ・ヘインさん)

報われた……と誰もが思ったに違いない。ああしかし、筆者はこのタイミングで視聴したがゆえ、イ・ヘインさんが今も受難の中にあることを知っている。知ってしまっている。

2017年3月、イ・ヘインさんは所属事務所をパニック障害のため退社する。一緒に移籍したイ・スヒョンさんと同じガールズグループとしてデビューを準備しているさなかの出来事であった。

その時発表されたファンへのメッセージでは、心配をかけたお詫びはもとより、イ・スヒョンをよろしく! 新しいガールズグループをよろしく! と言ったものであり、こちらが彼女の本質なのだな、と思わせる優しい文章であった。

その後、初夏。彼女は再び表舞台に姿を現す。PRODUCE48にも多数出演者を出した、「アイドル学校」の候補生として。

イ・ヘインさんは常に高い順位にあった。誰もが「今度こそ」と確信していたに違いない。今までは長い長い悪夢だったのだ。でも大丈夫。覚めない夢はないのだから――

最終順位は11位。奇しくも、「PRODUCE101」ではギリギリでデビューできた順位は、アイドル学校ではデビューの範囲外(9位まで)であった。

その後落選についてイ・ヘインさんはコメントを発表。関係者への感謝、デビュー組へのエールを送っている。また、ファンたちは投票に不正があったとして番組側へ抗議をしているようだ。

「アイドル学校」は最終脱落者はその後もトレーニングを重ね、新たなデビューへ向けて協力している、というが、今の所(筆者の観測域では)表立った動きを確認することが出来なかった。

また、追い打ちの様に先述したイ・スヒョンさんを初めとした本来一緒にデビューするようだったガールズグループ(DAYDAYDAY)はまさかのデビュー前に解散となった。イ・スヒョンさんも男性アイドルとの逢瀬をFridaydaydayされたりした。

あんまりではないか。今はただ彼女の、「もう一度充電して走ってみます」という言葉を信じるしかない。(インスタグラムは更新されているようだ)

初代国民プロデューサー代表・チャン・グンソクさん

今回の国民プロデューサー代表はチャン・グンソクさんが務めた。筆者でも名前を知っているくらいの韓流のビッグネームであり、キザなあんちゃんというイメージであった氏だが、思いのほか親しみのある言動、行動、いい意味での「残念なイケメン」ぶり、家族が困窮していた時代に下着広告モデルとしてお金を稼いでいたというエピソードなど、なぜかつてお姉さま方が魅了されたのか分かった気がした。もっと知りたいな……グンソクのこと……という気持ちになったりもした。元祖?「イッツ・ショータイム」はやはり決まっている。

「Mnetをオとした女」キム・ソヘさん


[Produce 101][Full] REDLINE Kim So Hye - ♬Somehow EP.01 20160122

ある種PRODUCE101の代名詞とでもいうべき練習生、それがキム・ソヘさんであろう。俳優事務所出身の彼女は、ダンスが全くできなかった。歌もそんなにうまいという訳でもない。ただ、彼女にはほっとけない何かがあった。それこそがアイドルに最も必要とされる素養であった。「俺が、私がいないとダメなんだ」と思わせる何か。どんなに血まみれ汗まみれの練習をしても決して努力だけではたどり着けない天賦の才、アイドル力としか言えないものを彼女は持っていた。

そしてそれは恐らく「番組発のゼロから這い上がるアイドル」を作り上げたかった番組側とも利害が一致し、彼女に尺は相当割かれた。

クラスこそ最下位のFのままであったが、彼女はその期待によく応えた。スキルはスポンジに水がしみこむようにどんどん上昇し、順位は常に高く、無事デビューまで果たした。

しかしやはり批判も相当あったようで、番組内でも「私はスタッフの娘ではありません!」と弁解(?)したりしている。また、他練習生から「あんなに短期間で成長するなんてありえない! (俳優事務所出身だし)演技なのでは?」と冗談交じりに言われたりもしている。


Produce 101 [직캠] 김소혜 - ♬WHATTA MAN @아이오아이 컴백 카운트다운 160808 EP.20

デビュー後の彼女の雄姿からしてそのように思われるのも無理からぬことかもしれない。けれど口を開くと相変わらずのとぼけた言動で、だからこそ彼女は「アイドル」の一つの到達点だと思うのだが、I.O.Iの期間終了後未練なく女優業に再び戻ったことまで併せ考えると、「やっぱり、もしかしたら……」と思わせるそれ自体が彼女の魅力なのだろう。

そういえばPRODUCE48では鬼トレーナー・ユンジョン先生が彼女に対して言った「ソヘ、歌手になりたいの?」という言葉が練習生たちに「PRODUCE101の中でもインパクトのあるシーン」として取り上げられていたが、筆者はてっきりこれを「ソヘ、(ダンスが出来ないならアイドルを諦めて)歌手になりたいの?」ということなのだと思っていたが、本編を見て「(本気で)歌手(広義のアイドル)になりたいの?」という、キム・ソヘさんへの覚悟を問うている質問だということが分かったのは収穫であった。

PRODUCE101での筆者の「推し」


[Produce 101] [Teaser] ′You and I make a good couple.′ - ♬24hrs @Concept Evaluation EP.09 20160318

カン・ミナさんである。(上記動画のセンターを務めているお団子ヘアーのお嬢さん)見た目通り快活な性格で、でも実はそれをいつも求められることに疲れていたりもする。こっそりお菓子を食べてもりもり成長(横に)して怒られたりもしているがその健康的な感じが魅力的である。「24Hrs」もハマっていて、PRODUCE101の楽曲では一番好きだ。(前述した先に観た10話でこの曲がかかったら突然司会の女性が踊りだしたので面食らったのだが、通してみたらもともとこの曲のチームメイト(先に脱落)だったとわかって感慨があった)無事デビューを果たした後のMVでも完全に胃袋キャラであった。そんなまだまだあどけなさも残る彼女は、PRODUCE48にもちらりと顔を出す。果たしてどのように成長しているのか……それを読者諸賢は嘆息とともに確認することになるだろう。

因みに妻はハン・ヘリさん。可愛い声とさばさばな性格のミスマッチが最高である。この見た目で成人済みなど、もはやギャップのデパートである。


[Produce 101] 1:1 EyecontactㅣHan Hye Ri – GFRIEND ♬Me Gustas Tu @ P.E(RAP) EP.07 20160304

ということでPRODUCE48を観てみてくださいね。

なんとここまでで8000字を超え、文字量最多の記事となってしまった。この辺にしておこう。あいつPRODUCEシリーズのことになると長口上になるの気持ち悪いよな……と言ったところであるが、それだけのものがあるんだと思っていただければ幸いである。現在はシーズン2をポジション評価の途中まで観たところ。観終えたらまた感想を書きたい。

今年の6月までk-popなんて少女時代とKARAぐらいしか知らなかった10年前からタイムスリップしてきたような人間が韓流専門チャンネルを契約している、というこの事実からその中毒性を思い知っていただければ幸いである。ちなみにMnetの番組だと他に「水曜美食会」とかが好きです。

ということで折角、素晴らしいエンターテイメントを無料で体験できる機会を逃していただきたくないし、観終える頃にはきっと課金してでもPRODUCE48の「0章」としてPRODUCE101を読者諸賢は観たくなっている、と筆者は考える次第である。

きみのためなら死ねる [完全版]

きみのためなら死ねる [完全版]

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ミュージアムのアラサー、あるいは晴れた休日の朝鹿児島市立美術館へ行った話

入館まで

丁度一週間前、「ミュージアムの女」を再読した。

 

ミュージアムの女

ミュージアムの女

 

 KADOKAWAお得意の「一風変わったお仕事の人の実録4コマ」といった趣のこの作品はしかし確かな画力と構成、作者の方のやさしさ、仕事への矜持と愛が満ち満ちており、その枠にとどまらず筆者に高い満足感を与えてくれた作品であった。

優れた作品というのは人に影響を与える。そもそもがミーハー体質であった筆者はがぜん美術館へ行きたいという気持ちになっていた。とはいえ出不精の筆者も並列して存在し、均衡状態が続いていた。

均衡を破ってくれたのは妻であった。妻は鹿児島市内において友人と会う約束をしていたのだが、踏切のタイムロスを見誤り、タッチの差でJRに乗り損ねたのである。これにより筆者は妻を友人の元へ送り届けるという大義名分の下、鹿児島市内へ向かい、そのまま鹿児島市立美術館へ入館することにしたのだった。時間は十時二分。開館より二分、恐らくは純粋な(展覧会の関係者などを除く)入館者としてはその日初めてであったかもしれない。館内は新しい朝の爽やかさと収蔵室で待ち構えている作品たちが放つ重厚さがセッションを繰り広げているような面持ちであった。

小学校以来、何度も訪問しているはずなのだが観覧料を支払う場所が2Fであるのに間違えて1Fのインフォメーションを尋ねるという失態を犯してしまった。

秋の所蔵品展

若干赤面しながらまずは秋の所蔵品展に臨んだ。ルノアールセザンヌピカソ、ダリ、ウォーホルの作品はやはり覚えがあり、その再会に懐かしい気持ちになりつつも、一つの展示作品に驚かされた。

オディロン・ルドンの「オフィーリア」。

www.digital-museum.jp

既読の読者諸賢には判り切ったことを書くことをご容赦願いたいが、先述した「ミュージアムの女」において声に出したい芸術家ランキング上位ランカーは間違いないであろうオディロン・ルドンは重要な立ち位置にある。その本を読んで美術館に行きたくなり、そしてその作家の作品に出会うというのは、ちょっと出来過ぎていて冷め始めていた頬が再びぽっぽとしてきてしまった。

ちなみにオディロン・ルドンと言えばバックベアードのデザインのルーツとも目されており、このロリコンどもめ!そういえば最近視聴できていないゲゲゲの鬼太郎が思い出されたりするのであった。バックベアード田中秀幸さんなのか……。

www.toei-anim.co.jp

ちなみにルーツ云々についてはこちらの説明が判り易い。

blog.goo.ne.jp

またその時の筆者は「ミュージアムの女」表紙の絵もオディロン・ルドン作であることをすっかり失念しており、オディロン・ルドン(打鍵しながら脳内で音読すると大変気分がいいので今後もフルネーム表記のままでいきます)といえば「黒」というイメージがあったので(実際に同じく展示されていた「聖ヨハネ黙示録『日を着たる女…』は黒い版画作品であり、パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ファン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソオディロン・ルドンとの公平性の為に一回こちらもフルネームにしてみました)の青の時代の様にオディロン・ルドンには黒の時代が存在する)その鮮やかさに再び驚かされてしまった。悲劇のヒロインが鮮やかに活写され、その表情は様々なものを含んでいるようである。色の説得力が炸裂しているように思えた。

 この他所蔵品展の中では、電話で名前を相手に伝えたら聞き返されそうな芸術家ランキング常連であろうデュビュッフェの「都会脱出」に描かれているキャラクターが筆者は非常に好きで、勝手に市立美術館のアイドルに認定しているのであるが、著作権の関係上上記の様にデジタルライブラリーではご紹介が出来なかった。是非ご訪問いただき、その何とも言えない力の抜けたキャラクターを見ていただきたい。

特集:世を動かした薩摩

続けて特集「世を動かした薩摩」を鑑賞した。西郷隆盛(南州)書の「敬天愛人大久保利通(甲東)書の「為政清明」をはじめ、幕末・明治を彩った薩摩に関する作品が展示されている。特に川口雪蓬の書では書題の李白に影響されたような豪放な書きっぷりにくわえ、いわゆる「エモい」史実を知ってこれが大河で再現されるのかという楽しみが生まれたりした。

大河と言えば、政府にブチ切れ腹切りマンと化した横山安武を惜しんで西郷が書いた弔旗も展示されていた。実弟である森有礼(日本最初の文部大臣)の書もあった。

かつて多くのお嬢さん方をロスに誘った五代友厚の書画もあったりする。素朴である。

島津斉彬公・久光公の歌もそれぞれあるのだが、筆者は久光公の方が好きであった。武骨さとスケールの大きさがうかがえてよい。

西南戦争を報じた錦絵もあった。昔よりメディアはいい加減であったことは以前も書いたけれど、西南戦争においても西郷は「悪者で大物っぽくするため」実際を捻じ曲げてぼうぼうのひげをどの錦絵においても生やされていて「君なんか錦絵と違わない?」と城山で言われなかったかいらぬ心配をしてしまった。

当時の鹿児島城下、すなわち今美術館のあるまさにこの辺りをよく知ることが出来る「天保年間城下絵図」はインフォメーションで販売しており、先程の失態を取り戻すがべく購入した。大ボリュームである。

小企画展「彫刻家の版画」

様々をゆったりと鑑賞し廊下にて「忠犬ハチ公」(渋谷のものの原型)越しにかつて就活であのあたりをぶらついたことを思い出したりしつつ、所蔵品展と共通で観覧できる小企画展「彫刻家の版画」も鑑賞することにした。筆者は芸術作品の中では彫刻が好きで、それはその量感に説得力があること、ものによっては触れてより身近に感じられることによる。

版画というものについて考えるとき、確かに立体と平面の狭間のものであるという事実があるのだが、筆者はそれについて考えたことがなかった。それぞれは(企画展の解説にあるように)アプローチが異なり、独立したものであると考えていたからである。しかし並べてみるとマリノ・マリーニの版画はその動きと周りに配置された鮮やかな色が彫刻へ結実したときにその躍動感へとつながっているように思えるし、ヘンリー・ムーア(名前に聞き覚えがあると思ったら広島にて「ナチスに退廃の烙印を押された作家たち」展にて作品を鑑賞したことがあった)の象の頭蓋骨に対するアプローチは版画が狭間であるからこそ成し得たもののように思えた。一方でアルベルト・ジャコメッティに関しては、メインは版画であるとはいえ、彫刻作品は写真での出典であったので少々寂しかった。とはいえ、ジャコメッティが病を得、自らの死――終わり――を猛烈に意識しながらも「終わりなきパリ」という名の連作を精力的に行っていること、そしてそれには題名とは裏腹にやはりどこか終わりの影を感じてしまうことに対する作家と作品との関係性について思いをはせるだけでおなか一杯ではあるのだけれど。

鑑賞を終えて

何度も行った美術館ではあったのだけれど、なんとか今のところ日々新しく物事を脳みそに蓄積して生きているので、例えば今回のオディロン・ルドンであったり、ヘンリー・ムーアであったり、「キャンバスを切り裂くだけで作品って気楽でいいな」と見るたびに思っていたフォンターナの「空間概念(期待)」が立体と平面の概念という意味で革新的な作品であると小企画展を通して見方が変わったりなど、新たに仕入れた知識と慣れ親しんだ作品がつながるというカタルシスを十分に味わえたので大変有意義な時間を過ごせた。こんなにいい作品がいっぱいあるのにほぼ貸し切り状態だったのは嬉しくもあり、悲しくもある。是非一度足を運んでいただきたいと思う。

 

 

10日はたそがれの街、あるいは黎明館特別企画展「西郷どん」展に行った話

本編の感想がなかなか追いつかないうちに「西郷どん展」が来週までであったので、おりよく市内に出向く用事があったので訪れてみた。

瑛太さんが音声ガイドをされている、ということで今回音声ガイドデビューもしてみた。

 

西郷隆盛展」ではなく「西郷どん展」であるがゆえか、まずは幕末、特に薩摩の時代背景を来場者に丁寧に説明していく。洋風で開明的なイメージがある斉彬公の大鎧が大々的に展示されているのは新鮮であった。

城下絵図、錦江湾(薩摩潟)の屏風など、大づかみな薩摩がビジュアルで展開され、示現流の解説も交えつつ、劇中でも印象深いアジア図が視界に飛び込み、目にも美しい薩摩切子を初めとした斉彬の事業の成果物が並ぶ。続いて篤姫に関連する様々な資料が展開される。特に白眉は雛調度と言われるミニチュアの薩摩切子であろう。クリアファイルになっていたので妻へのお土産にした。これが原寸大なのだから圧巻である。

続いていよいよ西郷が政治の表舞台に……と思いきや早速島流しにされてしまう訳であるが、大久保が丁寧に当時の情勢を伝える手紙が残されており、女房役の健気さがしのばれる。また、島にいる間愛用していたという酒器はなかなかのインパクトで、その大きさからまた西郷という人の規格外さをしのぶことができる。

イムリーなところでは維新後の愛佳那への手紙もあった。菊次郎のアメリカ留学のほか、娘を上京させるようアドバイスしている。間違いなく娘のことは考えているのだろうが母の気持ちについての機微は今一つなあたり、大河ドラマはリアルなのかもしれない。

二度目の完全に罪人として流された沖永良部島でのゆかりの品も数多く残っており、西郷という人が幻想の中の人物でなく、確かに島の人に愛されていたのだということが外堀からわかったような気がした。

沖永良部では西郷は疑似餌を手作りしてイカ釣りを行ったといい、その疑似餌も見ることが出来た。本土の方では南方の木で作るイカ釣りの疑似餌は最上とされていた、というが、島の人々はそのように疑似餌を使ってイカ釣りをする西郷を奇異に見ていたというのはなんだかおもしろい。

そしていよいよ中央復帰、禁門の変へ繋がっていくのだが、今度は大久保へその情勢を西郷が手紙で細かく伝えていることが立場の変遷が分かって興味深い。

幕末全体のファンとしては新選組関連の展示(袖章、英名録)にテンションが上がってしまう。英名録は島田魁筆ということで、巨漢のイメージのある島田が端正な筆致だったのが失礼ながら意外であった。ゴールデンカムイを読んでいるものとしては「松前 永倉新八」にピクッとしてしまうし、単に折り目の部分だからかもしれないが、武田観柳斎の名前だけぐちゃぐちゃに滲んでいるのにメッセージ性を感じてしまったりする。

また、にわか刀剣好き、陸奥守吉行好きとして見逃せないのが「竜馬を斬ったかもしれない刀」京都見廻組桂早之助所用刀である。武骨な造りがいかにも「実用刀」――人を斬る(斬った)刀という風情で凄みがあった。

進んでいくと実物の「錦の御旗」が鎮座ましましており、その荘厳たる姿、当時のピカピカの状態であったらばよりオーラがあったであろうと感じた。

明治天皇が下賜したという「必勝祈願セット」もあり、その中に入っている「勝栗」でそろそろ聚楽第を攻略せねばと思う筆者であった。(刀剣乱舞の話が多くてすみません)

ここから会場は向かいの特別室に移る。

 

最初の特別室には西郷を演じる鈴木さんのパネルが、

向かいの展示室には大久保を演じる瑛太さんのパネルが向かい合わせに配置されている、というのもなかなかメッセージ性が強いと深読みをしたりした。

こちらの展示室にも西郷が薩摩最後の藩主より拝領した「太刀 額名 雲次」があり、その直刃調の小丁子乱れの刀身は刀剣好きとしては来歴も含め垂涎である。

ここからは幕末の英雄西郷隆盛が明治政府の重鎮となり、またそれを捨て去ろうとし、しかし捨てきれず、(が、その合間に確かに憩いの時間はあり)賊軍の総大将となり、その後文字通り星(西郷星)となり、「上野の西郷さん」となるまでが語られる。

明治天皇から下賜された刀装具(繊細な装飾が施された目貫・縁頭)を優れた猟犬を借り受ける質草代わりに人に渡してしまう、というエピソードがなんとも西郷を象徴しているように思えてならない。(この刀装具は子孫の方が大切に保存されていて、今回初めて公開されている)

西郷という人は、己のことであればそのようにバッサリと切り替え、捨て去ることが出来る人であって、また本当に隠居を望んでいたんだなということが伺いしれる。

しかし私学校設立他も二心があるように疑われ続け、ついに私学校生徒は暴発する。この手法は鳥羽伏見の際に西郷印の旗の下で薩摩が使った手法であるのが歴史の皮肉であろうか。

西郷は熊本城に、清正公に敗北し、かちあい弾をも生んだ田原坂にも敗北し、とうとうこの展示会場である黎明館の目と鼻の先、城山を士の山にし、死の山にして果てる。

しかし明治天皇のお気に入りだったことも手伝って(刀装具のこと知らないんだろうなあ)名誉回復し、「上野の西郷さん」として文字通り鎮座している。

この展示の最後の最後に、筆者が「西郷どん」を総括する最後のピースとなるような資料と出会った。これは「西郷どん」感想シリーズの最後に記したいので、今回は保留とさせていただきたい。

西南戦争辺りからは、「ああ、こうなってしまうのだよなあ」と胸が苦しくなりながらの展示であった(最初の展示室の人物相関図の没年が1877が多数あったことがリフレインされた)が、それだけ感情移入が出来るようなつくりとなっていたということであろう。「上野の西郷どん」ではなく、京都に西郷像を造る計画があったというのには驚いた。西郷像まわりの資料は充実していたので、翻って最終話であるであろう除幕式が楽しみである。

特に印象に残った展示

あんまりいい展示だったので図録を買ってしまった(トートバッグとセットでお得!)。この写真ではわかりにくいがメタリックで格好いい。解説も充実している。

が、筆者が特に心に残った二つの展示はどちらも未収録なのが残念であった。

どちらも特別展示であるからであろうか? 県のHPに案内が掲載されていたので引用させていただく。

「西郷午次郎武小学校入学誓約書控(西郷家萬留二〇七)」

西郷隆盛の息子・午次郎は,西南戦争の前年にあたる明治9年(1876),武小学校(明治8年(1875)12月創立,現在の鹿児島市立西田小学校)に入学することになりました。
資料は,入学に当たって小学校に提出した誓約書の控えです。父親としての隆盛の姿を感じ取れます。
盛は午次郎の名を書くべきところに自分の名(吉之助)を誤って書き,黒塗りした上で書き直しています。
お,隆盛は午次郎の通った武小学校門札も書きました(太平洋戦争で焼失)。

西郷の「父」らしさ、愛嬌のあるうっかりさなど、西南戦争の前年、貴重な心やすらかな時間を過ごせたことが伝わり、心に残る資料であった。

刀:銘州住守次藤原是利治二年十一月吉日」(伝・桐野利秋所用刀)

本資料は,桐野利秋が愛用したと伝わる長さ98.5センチメートルの長い刀です。
野利秋(中村半次郎1838年~1877年)は,剣術に長け,「人斬り半次郎」の異名をもっています。西郷隆盛のもとで国事に奔走しました。篠原国幹村田新八らと共に私学校の設立に関わり,西南戦争では,薩軍の隊長として活躍しましたが,城山で戦死しました。

見廻組の刀とは対照的に長く優美で、これで本当に示現流が使えるのか、一回で折れてしまうのでは、と思わせる刀。しかし確かに殺気は纏っていたように思う。

↓引用元

鹿児島県/黎明館「西郷どん」展(鹿児島展)限定関連資料の特別展示について

 

ミュージアムショップで購入したこの飴も素朴な味でおいしかった。

特にお気に入りはこのクリアファイル。デザインはもとより、実用性が普通に高い。

ポスターは無料なのでもらってしまった。西郷どんもいよいよ最終コーナー、特別展でのあれやこれやは大河ではどう描写されるのか。最後まで楽しみに待ちたい。