カナタガタリ

すごくダメな人がダメなすごい人になることを目指す軌跡

寺生まれのTさんVS事故物件、あるいは「怖い間取り」感想―秋の夜長の怖い本その1

余談

9月になった。冷夏が続こうが猛暑であろうが今年もなんだか時が過ぎるのが早い。相変わらず冷房はほぼつけっぱなしだし(先月の電気代は9000円近かった)日中は30度を超えているが、それでも少しずつ過ごしやすい気温になってきている。豪雨の復興を祈念しつつ内田百閒氏についての記事を書こうと思っているうちにひどい台風で大阪が、地震で北海道が被害を受けた。どちらも訪れたことがある場所であり、そこが非日常に陥っているのにのほほんとしていることで勝手につらくなってしまうが当然そんなことは誰も望んでいないので、とりあえず久々にスシローに行って北海道産のものを食べたりした。

ブログに関しても9か月が過ぎ、先月は「注目記事」にランクインする記事を2つ書くことが出来てうれしかった。やはり昨日よりも、明日よりも、今の記事が一番いい、と言えるようになりたいと思う。他方、「西郷どん」記事はちょこちょこ書いてはいるものの下書き状態から抜け出せていない。本日大政奉還という節目を迎えたので、小出しに更新しなくてはと思う。「はきゅー」の時もそうであったが、批判にはエネルギーがいるのである。お待ちいただいている読者諸賢がもしいらっしゃるのであれば、いま少しご辛抱いただきたい。連休のうちに片付けたいものである。

最近は土日も有り難いことにイベントが多く、また寝苦しかったり逆に冷房がハッスルして寒かったりと睡眠が安定しないこともあってか、先日久しぶりに金縛りにあった。

筆者は霊感というものは一切ない。と思う。金縛りについても年に何回かなることはあるが、それは明らかに一般的に言われている「体は疲れているけど脳は起きている時に起きやすい」という条件をバッチリ満たしているからであって、何か超自然的なことは関連していないと思われる。が、毎回金縛りにあった時は念仏は唱える。

始めに金縛りにあったのは大学生の時で、毎回深夜バイトの後、自室で寝ている時であった。昼夜逆転現象により脳が覚醒しっぱなしになっていることによったのであろう。体は動かず(しびれたような感じである)、目は開けられるような気がするが開けることに何故だか恐怖がある。目をつむってそのまま意識を落とすことにたいへん甘美な誘惑があるのだが、一方でそうなると2度と目を覚ませないという確信に満ちた予感もある。呼吸は苦しく、丁度水の中のようなしんどさがある。当時の下宿先は二部屋あり、寝床と隣室は磨りガラスの障子で隔てられていたが、そちらからひたひたと何かが来ているような気配を感じる――と言った塩梅。念仏を唱えつつ(これは魔除けというよりもそれによって落ちそうな意識を保つという意味合いで毎回唱えている)どうにか体を動かせるようになるとぶわっと汗が吹き出し、心臓は早鐘のよう。慌てて障子の方を向くがそこには当然誰もいない。体が一気に脱力し「何かが出て行った」ような感覚に陥るが、緊張していた筋肉が弛緩した故であろう。霊感のない自分でもなるんだなあ、とぼんやり思ったのを覚えている。その部屋では都合3回くらいなったように思い、いつも障子(自分の背中側)に何かが迫ってくるという気配は同様であった。

社会人になってからはこれまた定番の「上に誰かが乗っているような感覚」タイプの金縛りにも遭遇したが、基本的には(この間あった金縛りも)何かが背中から迫ってくる感覚と、眠りにおちたらそのまま死ぬという強迫観念、が筆者の場合金縛りとしてセットで現れる現象であるようだ。金縛りバリューセットである。ちなみに今、金縛りにあった当時多分ツイートしてたよな~とTwilogで検索しようとしたら見慣れない「現在アクセスできない状態です」という画面が出てきてちょっと怖かったです。こんなの初めて。

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ちなみに上記下宿は広島市中心部で6畳+10帖で4万円とリーズナブルであったが特に怪奇現象などはなかった。日当たりが悪いので時々気分が暗く(セロトニン、偉大)なったり一度ドアノブをガチャガチャされたことはあったが。後、入居時はコンロがなかったので退去時に感謝のつもりで購入した二口コンロをそのまま置いていったら(管理会社にはお伝えした)後、処分代を請求されたのはちょっと凹んだ。

金縛りという名の筆者の生理現象の話だけで終わっても仕方ないのでせっかくなので物件に関する怖い話を一つしておく。筆者の持つ数少ない自らが体験した出来箏である。

バイトを始めて暫く経った頃、もう季節さえあいまいだがバイト仲間が急病のため、深夜自転車をバイト先へ走らせていた。と、車道を挟んで向かい側の建物に目がいった。白い服を着た黒髪の女性――ようなもの――が建物入り口、集合ポストの横で体育座りなのか、しゃがみこんでいるのか、そういった姿勢をとっていた。髪で顔が隠れていたのか、それとも顔を伏せていたのか、とにかく顔は記憶にない。白い服は薄手で、病院服のような印象があった。明らかに異質だった。生身の人間だとしても、そうでなくても不気味だった。バイト後に恐る恐るやはり反対側から確認したが、その時は影も形もなかった。ちょっと心が不安定な痴話喧嘩カップルだったと思いたい。

 

本題

余談が、ながくなった。読書の秋である。ということで本日、3冊の本を購入した。(kindleの積み本については今は不問としていただきたい)これにもう1冊先日購入した本を加えて、今月は毎週「秋の夜長の怖い本」と題して本を紹介していきたいと思う。

ということで第1回は松原タニシさんの「事故物件怪談 怖い間取り」である。妻がTwitterで話題になっていることを教えてくれ、早速探したのだがなかなか見つからず、本日ようやく手にすることが出来た。あんなに見つからなかったのに、見つかるときは何冊も平積みされているのだから本の縁というのは不思議なものである。

既に8刷まで刷られており、各所で話題であるので今更筆者が言及するのも読者諸賢にとっては釈迦に説法であるが、松原タニシさんは本業は松竹芸能の芸人さんであって「事故物件に住む」という虎穴に入らざれば虎子を得ずを実践されている方である。実家はお寺ということで筆者は「寺生まれのTanishiさん…実在したのか…」と謎の感慨を抱いたりした。

内容は大まかに

・タニシさんの住んだ事故物件

・お知り合いの事故物件

・出張! なんでも事故物件鑑定団

(分類は筆者による)といった感じになっており、ボリュームもあってまた事故物件に住む者同士は引かれ合うなどスタンド使いめいた展開を見せながらアプローチにも変化がつき、飽きさせない。

本書の特色は何といってもタイトルにあるとおり「間取り」であろう。各エピソードには間取り図(時々物件ではなくスポットのことがありその場合は周辺図)が冒頭に挿入され、一見すると普通の間取り図なのだが「黒いシミ」「塗りつぶされた鏡」「歪んだ外枠」「墓石」などしれっと不穏な情報が書き込まれており、ツカミが完璧である。

途中、「どこからでも死ねる部屋」「2年に1回死ぬ部屋」など闇のビフォーアフターかよと言いたくなるようなキャッチフレーズのついた「事故物件間取りギャラリー」もあり全国の間取り図ファン必見である。

文体は淡々としており、シンプルでありながら読みやすい。さすが長年話芸を鍛えている芸人さんだな、と感じる。「話を盛る」ことの逆、無駄をそぎ落とすことで要素が際立ち、間取り図と相まって読者の脳裏にかえってリアルに出来事が立ち上ってくる。怪異に対して推測、考察が最後に入ることもあれば、そうでないこともある。初期の耳袋をイメージして頂いてもいいかも知れない。余韻を残す、というよりは突然ロウソクをふ、と吹き消されたような話の閉じ方はいい具合に不安感を煽ってくれる。

事故物件である、ということは間違いなくそこに死が介在している。その厳粛な事実とライトな文体のギャップが何とも言えず、怪談のような、ドキュメンタリーのようなとにかく他に分類しがたい体験をさせていただいた。因みに筆者が一番ゾッとしたのは「井川さんの部屋」。読者諸賢も是非お読みいただき、「推し間取り」を教えていただきたい。続編の上梓及び松原さんの今後のご健康を祈って結びとする。

事故物件怪談 恐い間取り

 

事故物件怪談 恐い間取り

事故物件怪談 恐い間取り

 

 ちなみに間取り愛好家諸賢(本書を読まれてその傾向が芽生えてきた方を含む)にはこちらもおすすめである。怖くはないです。

間取り図大好き!

 

間取り図大好き!

間取り図大好き!