カナタガタリ

すごくダメな人がダメなすごい人になることを目指す軌跡

暴太郎戦隊ドンブラザーズ感想?「いとしきとしき」

井上敏樹氏のネタバレがあります

むかーし、むかし。

ある薩摩に、一組の家族が住んでいました。

実父の死を機に大阪の放送会社を退職・帰郷し、医療機関に入職したものの当時希少な「パソコンの知識」があるということで検査職から事務職に配置換えになった父と、小学五年生で両親を失い、夜間高校に通いながら看護師となった母の間には、玉のような男の子がおりました。生まれた時に三千八百グラムありました。母は坐骨神経痛になりました。

男の子は初めての子かつ初孫で、たくさんの愛を受けてすくすく育ちました。それは父母、親戚だけでなく道行く人々からもそうでした。

ある検診を受けるために母子が電車に乗っておりますと、乗り合った見知らぬおばあちゃんから一体のソフビ人形をもらいました。平和な時代でした。

レッドホーク。

鳥人戦隊ジェットマン」の登場人物でした。

色々時期を考えるとどうも二歳半検診の時のような気がするのでつまり時期的には次回作「恐竜戦隊ジュウレンジャー」が始まろうとしていたはず。おばあちゃんは実の孫にプレゼントしようとしたけど孫は既にジュウレンジャーモードだったので受け取ってくれずもてあましていたのでは…?

父は帰宅してその報を聞くと、見知らぬ人から物をもらい、また返礼もできていないことを叱りはしたものの、何日かに分けてジェットイカロステトラボーイジェットガルーダを我が子にもたらしました。

まだ幼い子どもは当然わかるはずもありません。こ…この親父……自分の特撮復帰のために息子をダシにしやがった……!

さておき幼いなり、わからない興味は示していたようで、特撮には疎い母も「あなたはテトラボーイの真似がめっちゃうまかった」と後年よく言っていました。テトラボーイの真似ってなに?

しっかりと見たのは、リアルタイムでは「超力戦隊オーレンジャー」の頃でしょうか。今時系列を確認しますとジュウレンジャー期に相次いで刊行されたというジェットマンの「セルビデオ」は、いつしか家にありました。

その頃、子2が生まれたことにより、家は引っ越していました。

自分で「ビデオをセットし、再生する」ことが出来るようになった子は、家にあるビデオを様々再生するようになり、その中に「ジェットマン」も含まれていたのです。

複雑な人間ドラマ、次元虫の気持ち悪さ、そこここに滲み出るフェティシズム……。まさしく「戦隊適齢期」であったはずの子にもそれは「オトナ」のフレーバーを感じさせるものでした。特撮ルーツの一つに「特捜ロボジャンパーソン」がある子としては、「グレイかっこよ」とも思っていました。

終盤、所詮は流れ星だったトランザがその栄光と共に堕ち、それを皮切りとしたかのように綺羅星のような魅力あふれるキャラクターが散っていく中、それでもジェットマンは青空を守り抜きました。

しかし……。

こころはタマゴ

こころはタマゴ

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最終話の余韻は忘れがたく、それは後年鑑賞する「仮面ライダークウガ」最終話に通じるものがありました。何かを成し遂げたヒーローが見上げるものは青空だというイメージが形作られたかもしれません。

とはいえ世の中(同世代)は現行の「オーレンジャー」一色。ジェットマンの感動を分かち合うことのなどできるはずもありませんでした。ちびっこはいつだって瞬間瞬間を必死に生きており、走り出したら止まらないのです。オーレ!

すこーし、むかし(えっ二十年前!? 嘘だろ…)。

子は中学生になっていました。子3も爆誕し、一家はまたも家を引っ越していました。

卒業するかと思っていた特撮は、「仮面ライダー龍騎」という重力により子を惹きつけたままでした。

話もクライマックスとなる中、放送されたエピソード。

「ガラスの幸福」……その文字通りの内容に子は打ちのめされました。

その頃、インターネット環境が家にやってきていました。

子は早速感想を漁るため各種BBSを巡回します。もう「ジェットマン最終回」を誰にも共有できなかったあの頃とは違うのです。阿鼻叫喚の具現化がそこにはありました。何日か待てばより「濃い」内容が個人サイトに上がることでしょう。

その中で、子は今回の脚本を書いたのが「井上敏樹」という人物であることを知ります。

刹那、まさしく天啓ともいうべき閃きが子に訪れました。

今度は「ジェットマン 脚本」で検索をかけました。

検索結果はいつものように淡々と表示されました。

井上敏樹

井上敏樹……。

井、上、敏、樹。

井上敏樹

「ガラスの幸福」という鋭い太刀によって切り裂かれた子の情緒をその四文字は金継ぎのように接着していきました。

愛しき仇敵の名が心の奥に刻みつけられていくのを子は感じたのでした。

翌年は「仮面ライダーファイズ」。メインライターは井上敏樹氏。

最初から「ヤツ」がくると分かっていればどうということはない……。と高を括っていた子は二話の「かつて幸せだった自らと恋人の幻影を追う木場」によって早々に敗北を喫し、劇薬のような一年が過ぎ、子は高校受験のランクを一つ下げました。

この時の子は「夢の守り人」という「時限式の呪い」が将来たびたび発動することもまだ知りませんでした。

おととーし、おととし。

それからいくつものニチアサと昼と夜が過ぎ、子は家を出て、自らも家庭を持ち、そして子を授かりました。

子はいつの間にか父になっていました。

果たして自分は父としてどのようにこれから生きていけばいいのだろう?

そう思案する元・子の前に現れた作品がありました。

鉄甲機ミカヅキ」。親愛なるフォロワーに勧められた作品は雨宮慶太井上敏樹という元・子にとっては実家のような安心感のある布陣でした。こんな漆黒の実家があってたまるか。

開始五分で濃厚な「雨宮・井上」を浴びながらもそれ以上に濃厚な「求めていたドラマ」が展開され、特撮は盛りだくさんで、火野アカネさんはたいそう愛らしく、そのとんでもないカロリーに元・子は一話から二話を見るまでに暫くインターバルを必要とするほどでした。

世の中には視聴に「覚悟」を求める作品というものがありますが、「ミカヅキ」はまさにそうでした。

濃厚なしかし芯としてはシンプルな父と子のラブストーリーが父として初めての夏を駆け抜けていきました。

素晴らしいが、育児の参考に――父としての指針に使うには危険かもしれない。

元・子はAmazonプライムにリクエストを書きながらそう思うのでした。

ことーし、ことし。

そして、暴太郎戦隊ドンブラザーズが完結しました。

元・子は正直なところ、発表当初は複雑でした。

悪乗りが過ぎないかと思いました。ゼンカイジャーが良かったから調子に乗ってやしないかと。というか、神輿に乗っていました。

ミカヅキ」という二十年前の精力満タンギトギ敏樹エキスをゼロ距離で注入された直後であり、また最近の特撮においてピンポイン敏樹で投入される形での氏の「おはなし」はあまり肌に合わなかったという感じもあり、かつて自分が子として仰ぎ見た偉大なる先生のままで、思い出のままでじっとしていてくれ、かつて俺を打ちのめし、救い、導き、今また俺の前で神を気取るのか!?とさえ思いました。

視聴開始した時の気持ちは正直、「大先生(この愛称? もあんまり好きじゃない)の最期を看取ってやらねば……」くらいの覚悟でさえあったのです。

元・子は忘れていたのです。かつて今と同じように戦隊ヒーローが崖っぷちの際に井上敏樹氏が果たして何をしたのかを。

数字で見れば間違いなく今回も井上敏樹氏は救世主だったと言います。

おはなしに関してはどうだったか。少なくとも最終話を見た元・子は己の視界がにじんでいるのを感じました。

井上脚本が目に沁みやがる……。

30分前に「最終話の敵は井上敏鬼かもしれない。やりかねない」と思っていたことを恥じました。

「それでも、生きていく」「されど、日々は続いていく」

異形の花々を咲かせることにおいて一流の井上敏樹氏が伝えたいことはしかし、そういうことなのではないかと、そのことを通じて道端のすみれの素晴らしさ、日常のおかしさ、いとおしさをこそ思い起こさせたいのではないかと、元・子は思います。

心地よい敗北感と、余りある寂寥が残る最終回でした。

ところで元・子の子(娘)にとっては、初めての井上敏樹作品となりました。

初めはオープニングに合わせて手をひらひらさせていた娘は、年末になると回転するようになり、イヌブラザーを指さして「わんわん!」というようになり、キジブラザーを指さして「わんわん!」というようになり、オニシスターを指さして「ブーブー」というようになりました。

年が明けるとイヌブラザーは「わんわん!」キジブラザーは「ぴっぴ!」雉野は「あ~あ」になりました。

青色はどれ? と尋ねるとサルブラザーを七割指さすようになりました。

三歳で幼児の記憶はリセットされるといいます。

娘のこのドンブラザーズと過ごした一年間もそうかもしれないけれど、

はちゃめちゃに暴れ野郎どもに合わせてテレビの前で存分に暴れてなんか楽しかったな、ということはどこかに残っていればいいな、と思う元・子なのでした。

果たして三歳以降の娘と井上敏樹脚本の作品を追いかける日が再び来るのでしょうか。

縁が再びつながるときが来るのでしょうか。

その時は是非、お手柔らかにお願いしたいものです。

という、おはなし。

めでたし、めでたし。