カナタガタリ

すごくダメな人がダメなすごい人になることを目指す軌跡

煎じ詰めれば千字になるか・夏物編

今週のお題「夏物出し」

二限目が終わった。

直後、筆者を含め何人かは、わき目も振らず階段を下りる。その突き当りにあるのが、購買部である。

160円の人気商品「チキンロール」は昼休みに買うのはまず不可能。そのボリュームと味、またちょっとお高めの値段から体育やテストなどの勝負事、ちょっと不確かな情報などには「チキンロールを賭ける」ことが一つの風習となっていたりもした。

160円の「チキンロール」に100円の「マンハッタン」を組み合わせるか、

それとも120円の「ツナマヨロール」に110円の「アップルパイ」にするか。

はたまた、「ツナマヨロール」に同じく120円の「ピザパン」だろうか……。

いや、今回はそうではない。

購買部の少し奥、フリーザーを見る。青とオレンジのパッケージ。

――夏が来た。

今日の120円は、「ガツン、とみかん」のためにあるのだ。

例年期末テスト前になると、購買部のアイスが充実しだす。その中でも「ガツン、とみかん」は果肉の満足感があり、コストパフォーマンスに優れていて筆者はよく食べていた。

名前もいい。読点が「満を持している」感じがする。

うっかりアイスを垂らしてしまった数学の提出プリント。

果肉部分に差し掛かったことを目ざとく見つけ奪い取ろうとする悪友。

移動教室だったことを忘れ急いで掻き込んだことにより走る頭痛。

それらすべてはあの教室の中にあって、いつしかそこから倍近い年月を過ごした筆者からはもはや触れることのできない輝きを放っているように思う。

母校の購買部も、筆者の五期後の後輩諸賢と一緒に卒業してしまったらしい。

サラバ青春

サラバ青春

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長じてスーパーの売り場にマルチパックの「ガツンと、みかん」を見かけることがあるけれど、どうにも買って食べようという気になれないのは、あの時と同じ味であっても、違う味であっても、その味を知ってしまうのが怖いのかもしれない。

853字/15分