カナタガタリ

すごくダメな人がダメなすごい人になることを目指す軌跡

そんでもってほんでマイナ保険証

読者諸賢はもうご自分のマイナンバーカードを「マイナ保険証」にアップデートされただろうか?

その名の通り自身のマイナンバーカードに保険証機能を持たせることで、期間中に登録するとポイントが付与されるから決行された方もいるのではないかと思う。

なんかそもそもマイナンバーカードってそんなに気軽に持ち歩いていいんだっけ? という気がしないでもないが、まあ処理水をコントロール下にあると豪語していた国だし気にしなくてもいいか……。(急に思想を強くするな)

ともあれ、医療機関というのは毎月10日までに国へ保険診療の内容をまとめて請求し、その内容は審査され、2カ月後に振込まれる、というルーティンがある。コロナで大混乱の2020年3月も10日までという期日は揺らがなかった。確定申告は延期してくれたのにな~。

その請求書(レセプトという)の審査で弾かれることが多く、かつ医療機関ではどうしようもないのが「保険証の喪失」である。

本来、退職・転職または扶養関係の変化によって無効になった保険証は直ちに返還せねばならないが、どういった理由からか本来無効な保険証で診察を受けてしまう人というのは存在する。

市町村などが発行している国民健康保険は保険証に期限が記載されているものもあるが、社会保険の場合は記載されていない。窓口で患者さんに「これが有効な保険証です」と言われたらそれを信じ、その保険証で請求するしかない。

そして間違っていた場合、国から「てめえ嘘ついてんじゃねーよ嘘つきにお金は払いませ~ん」と審査で弾かれ、正しい保険証で請求し直すまで国からお金はもらえないのである。

すぐに請求できればいいが、風邪を引いてふらっとやってきたサラリーマンなどの場合連絡を取るのはなかなか困難であったりし、こうして未請求で眠っているレセプトは各医療機関でそこそこの数に上ることであろう。

これはオンライン請求の整備によって幾らか改善された。請求時の簡易審査で「この保険証は有効じゃありませんよ」というのが分かるようになったのである。

そして2021年のオンライン資格確認制度により、導入した医療機関は患者さんが保険証を提示したタイミングでその保険証が有効かどうか分かるようになった。この段階で無効な保険証の場合は10割負担してもらい後から有効な保険証を提示してもらったら差額を払い戻す……。という医療機関の負担を軽減できる方法が取れるようになったのである。

これはなかなか画期的な制度だと思ったが、実はこれは保険証の記号番号が分かればいいのでマイナ保険証にする意味は全くない。

マイナ保険証のメリットとしては薬剤情報や特定健診の情報が確認できるので、そのために他の医療機関をはしごしたり、紹介状を書いてもらうという手間が省ける、というところだろうか。

このオンライン資格確認制度は当初2021年3月に大々的に始まる予定だったのだが、しれっと本格運用が10月に伸ばされた。流通の混乱で機器の納品が大幅に遅れており、本格運用開始に間に合わないと冷や汗を流していた筆者であったがこのグダグダぶりには大丈夫かこの国、という不安をぬぐえなかったりもした。

翌年、すなわち今年は医療機関が患者さんにお金を請求する際のルール、診療報酬が改定され、オンライン資格確認もその活用が盛り込まれた。

以下、引用。

厚生労働省】診療報酬の加算を算定できます!(4/27更新)
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■令和4年度より、オンライン資格確認を「導入」していれば診療報酬で加算を算定できます

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オンライン資格確認の導入に関して、厚生労働省からお知らせです。

日頃よりオンライン資格確認の運用及び導入・運用開始に向けて、ご準備いただきありがとうございます。

下記【詳細案内】のとおり、令和4年度より、

〇 初診時にオンライン資格確認システムを通じて患者の薬剤情報又は特定健診情報等を取得した場合は、7点が加算されます。

〇 再診時に患者の薬剤情報又は特定健診情報等を取得し、当該情報を活用して診療等を実施することで、月1回、再診料(外来診療料)に対して4点が加算されます。

 ※ オンライン資格確認を導入しているが情報を取得困難な場合等については、初診に限り初診料に対して3点を加算することができるようになります(令和6年3月 31 日まで)。

オンライン資格確認の導入を検討している医療機関・薬局の皆様におかれましては、機器の調達状況、導入作業者となるシステム業者の対応体制等によっては、ご希望の導入時期に沿えない可能性がございますため、ぜひお早めに機器の調達、また、システム業者へご相談し、導入作業を開始くださいますようお願い申し上げます。

【留意事項】
電子的保健医療情報活用加算については、令和4年診療報酬改定に伴い新設されたところですが、初診時の7点及び再診時の4点(保険薬局の場合は、3点)の加算点数については、オンライン請求を行っており、受診した患者に対して、健康保険法第3条第13項に規定する電子資格確認により、当該患者に係る診療情報等(保険薬局の場合は、薬剤情報等)を取得した上で算定できる加算となります。
別に厚生労働大臣が定める施設基準を満たしていても、当該患者に係る診療情報等を取得(マイナンバーカードにより受診し患者が診療情報等の取得を同意した場合に限る)していなければ算定することはできませんので、レセプトの請求の際にはお間違いのないようにご留意願います。

【厚生労働省】診療報酬の加算を算定できます!(4/27更新) - オンライン資格確認・医療情報化支援基金関係 医療機関等向けポータルサイト

そう、患者さんはマイナ保険証を提示することで、初診なら20円、再診なら10円、マイナ保険証ではない人より自己負担額が増えるのである!

ば~~~っかじゃね~~~の????

しかしこれは当初、あまり問題にならなかった。それくらいマイナ保険証自体が認知されていなかったんじゃないかなと思う。

しかしあちらこちらで「なんか変だぞ」という指摘が出始め、各医療機関の受付では罪もないスタッフたちが負担増を責められることもあった。

国はあっさり方針を転換した。

2022年8月10日中医協総会資料

今までマイナ保険証を使う初診の患者さんは20円、そうでないときは10円だった負担額がみんな一律基本は10円になり更に+αで情報を活用する場合は負担増、ということになったのである。っていうかお薬手帳は持ってないと負担増になるんだからそっち方向で最初から調整すればよかったんじゃないの……?

そしてこの改正された報酬を満たすためには(満たさないと物価が上がっているのに医療機関の収入は減ってしまうので必死である)問診票の改定などをせねばならず、コロナが盛り返していたところにまたも負荷がかかった。

現場は今まで頑張って「マイナ保険証だとこういうことが便利だからその分高くなってしまうんですよ」と説明してきたので本丸がこんな風に朝令暮改されるといい面の皮であった。

フルカラーA2サイズのマイナ保険証推進ポスターが国からプレゼントされ、こんなものを刷る金を医療従事者給付金に回してほしいと思った。

レスポンスが悪いオンライン資格確認は来年には原則義務化となり、マイナ保険証も再来年にはこちらをメインとするという。

他方で、国は訪問診療の充実も推進しているはずなのだが、お家に訪問してマイナンバーカードという個人情報の塊を取り扱うというのは今から考えても気が滅入るし、そもそもポータブルオンライン資格確認マシーンみたいなやつをこの国は絶対用意してくれていないんだろうな、訪問診療の患者さんのこと考えていないんだろうな、という諦念がある。

今のところ一番いい活用方法はマイナポイントが付与されたらそっと引き出しにしまうことである。あーあ。

この記事は「孤独のカナタガタリ Advent Calendar 2022」5日目の記事でした。