カナタガタリ

すごくダメな人がダメなすごい人になることを目指す軌跡

未だ見ぬ明日へ――福岡市博物館特別展「侍」~もののふの美の系譜~The Exhibition of SAMURAI」感想、是非審神者諸賢に見てほしい非「刀剣男士」たちを中心に。

余談

一年近く楽しみにしていた福岡市博物館「侍展」にとうとう行ってきた。

福岡市博物館は、筆者が妻と共に刀剣鑑賞という趣味に開眼した思い出深い場所である。

 

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 その場所にもののふの絢爛たる歴史が武具でもって縁取り、語られるということで開催を知ったときはそれはもう夫婦してワクワクしたものである。

「京のかたな展」を鑑賞できなかったこともあり、ますますその気持ちは拍車がかかった。

購入可能になるとすぐさま買いに行った。

そうして本来ならば、展示開始に合わせて馳せ参じ、あわよくばおっきいこんのすけとの写真撮影も企てていたのだが、コンサートへ集中するため断念してから二週間が経とうとしていた。

前日。明日の天候は、悪化の一途をたどると各メディアは告げていた。台風が発生していたのである。

当初の予定は、早朝に出発、侍展を満喫し、市内を散策、夜の水族館を堪能し、屋台で晩御飯を食べる……と言ったものであった。

が、昼以降はかなり危険であるという。いや、日中も高速道路が封鎖される可能性がある。そうなると、我が家へ帰りつけないことだってありうる。

幸い、侍展の会期は長い。今回は縁がなかったとしてまた次回を期しても良いではないか――。そう考える筆者がいた。

しかし来週以降、我々夫婦は週末がなかなか多忙であり、ここで確実に鑑賞しておきたい、という筆者もまた存在した。

内なる2人の筆者はそれぞれ逡巡し、葛藤し、結論が出ず、とりあえず明日は5時に起きるということを決めて眠りにつくことにした。結論を先送りにしたのである。

5時。の、5分前。筆者はぽつねんと目覚めた。

最近またちょっとご無沙汰していた刀剣乱舞を起動した。

舞台版の応募をしてみようと思ったのである。それには出陣が必要であるらしい。

当本丸の主砲、次郎太刀が吠える。あたしが暴れりゃ嵐みたいなもんさ、と。

なるほど次郎ちゃんが横で暴れてくれているのだと思えば台風はかえって愉快である、という、結論に達し、もちろん当面の安全性を確認した上で、我々は福岡市博物館に向かうことにした。

途中で宮原SAに立ち寄った。パンがとてもおいしいのである。からあげもうまいのだが、あいにくまだ準備が出来ていなかった。

雨はしとしと降っていたが、合間に太陽が顔を出したりもしていた。

何度走っても慣れない都市高速の分岐をこなし、福岡市博物館に辿り着いたのは9:38であった。

本題

強行した理由はほかにもあって、台風接近という状態であれば、鑑賞者が多少なりとも減り、よりじっくりと鑑賞できるのではないか、という下心であった。

結論から言うと、盛況であったのだが、恐らくはご同業の方々がミュージアムショップでお話しされるには「この間より空いている」であったので、筆者は驚きながらも判断が正しかったことに静かにガッツポーズした。

 

ご同業がひっきりなしに来られるので、なかなか全体を捉えるタイミングが難しかった。

ミュージアムショップでは各種限定クリアファイルと大典太日本号の刀剣お守り、図録、缶バッチ2つを購入した(へし切り長谷部と博多藤四郎であった)。特典付き前売り券は、骨喰藤四郎。

音声ガイドをレンタルし、我々はもののふの世界を追体験することとなった。

もちろん、時間帯諸々もあったのだろうが、刀剣乱舞に実装され、刀剣男士として顕現し活躍している刀たちは常に人だかりが途切れず、そうでない刀は比較的観賞しやすい、という傾向にあった。

とはいえおざなりに見ている訳ではなく、いわゆる「推し」への熱量が半端なく相対的にそうでない刀を見る時間がそれほどでもない、という印象だ。もちろん、全ての観賞に来た方の一挙一動二府四十三県を監視している訳でもないからあくまでも印象である。

筆者も審神者のはしくれとして、刀剣男士となった刀の数々を見て胸が躍った。

天下五剣・大典太のこれが太刀だと言わんばかりのがっしりとしたたたずまい。

博多藤四郎のスマートさとチャーミングな朱。

五虎退の拵のかわいらしさと守り刀としての安心感。

物吉貞宗の神々しさすら感じる風貌。

宗三左文字の金で刻み込まれた銘の業深さ。

江雪左文字の豪壮と繊細が絶妙に同居したすがた。

骨喰藤四郎の彫りの見事さと薙刀直し刀ゆえのフォルムの味わい深さ。

へし切長谷部の「黒田筑前守」という銘の重みと蒼刃、独特の浅反り。

そして常設展示となるがまさしく文字通りの日本を背負って立たんばかりの豪放さの日本号

本日正式に刀剣男士としての顕現が明らかとなった桑名江のすらり洒脱な刀ぶり。

それらは素晴らしく、ある時は並び、ある時は遠目から、何度も見させてもらった。

 

けれどだからこそ、それらの刀と比べ寂しげな他の刀たちも、是非もっと熱視線を浴びてほしい、と思ったのである。

刀剣乱舞付喪神の物語であるとすれば、今のうちにより多くの人間が愛でておくことによって、後顕現した際、より力を得ている事であろう。

と、いうことで、以下は今回の展示において、刀剣男士として顕現した刀たちを除いて特に記憶に残った5振を……と思っていたが絞り切れず10振になってしまった。それぐらいみんな魅力あふれる刀なのである。これ以上いくともうすべて語ってしまいそうなので、泣く泣くこの辺にしておく。

重要文化財] 毛抜形太刀【伝菅公遺品】

八月、蛍丸の写し目当てで行った太宰府天満宮にて出会った毛抜型太刀。(写真はその時の物)成るほど毛抜き型としていいようのない形が刀のあり方を模索しているようで面白さを感じる。天神さまゆかりの太刀というのもありがたみがあって良い。

[国宝] 太刀 無銘【名物 日光一文字】

日光一文字はへし切り長谷部と並ぶ福岡市博物館の顔であり、なかなか同時に見ることがかなわない。今回ようやくその姿を拝むことができた。ライティングの妙、視線をスライドさせることで華やかな煌めきにめくるめく刀剣鑑賞を味わうことができるだろう。日がな一日見ていても飽きることはなさそうである。

[重要文化財] 太刀 銘 一【号 姫鶴一文字】

戦国無双シリーズの上杉謙信の愛用武器としてもお馴染み姫鶴一文字は、同じく鶴の名を冠する鶴丸国永(筆者の観賞したのは写しだが)とおなじくシュッとして優美なすがたをしている。こちらもライティングでその刃の煌めきが判り易くなっており、日光一文字が「華」でありとすれば「妖」とでも言うべき美しさがあると感じた。

[重要美術品] 刀 二字国俊 切付銘 黒田甲斐守所持之

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前回福岡市美術館を訪れた時、筆者が撃ち抜かれたのがこの刀である。直刃が好きなのである。歴戦を潜り抜けた佩刀という所も良い。名将が信頼していた刀、という言葉に決して負けない説得力のある美しさと誠実さを感じられる刀であると思う。

[重要文化財] 刀 無銘 正宗 【名物 石田正宗】

他の刀もしばしば欠けがあるが、これは特に本展示の中では判り易い場所に欠けがあり、「切込正宗」という異名すらあるのである。武をもって主張するタイプではなかった石田三成が切込をそのままにしていたのは、しかしそのような危険に身を置く武士であるのだという自負の表れであったのか……。個人的には欠けていることでいわば破調の美とでもいうべきものがうまれ、より味わい深い刀になったと思う。

[国宝]  大太刀 銘 備州長船倫光/貞治五年二月日 附朱塗野太刀拵

デカァァァイ説明不要! と言った感じで展示を見た瞬間思わず息をのむ。

大体妻の身長と同じ全長を持つというから驚きである。元々は実戦用の拵であったというから、本当に使っていたのだとするとやっぱり中世武士ってBANZOKUだな……と思わざるを得ない。どでかい刀身に緻密な彫りのコントラストが美しい。

[重要文化財] 刀 銘 備州長船祐定/大永二二年八月日 金象嵌銘 あたき切 脇毛落【名物 安宅切】

脇毛wwwwww落としwwwwwwボーボボじゃないんですからwwwwwおっと失礼……いやでも……脇毛って……と思っていたら脇毛というのは人間の両脇を結んだ線のことであり、そこから人体をストンと試し切りで切り落とすことができた刀ですよ、という意味の銘(試切銘)であるらしく、一気に体感温度が下がる思いがした。

また安宅切というのもそのまま「安宅」という将を斬ったことが由来ということで、改めて刀というのは人を斬るための道具なのだなあということを思わせてくれる刀である。因みに安宅を斬ったのは黒田官兵衛その人らしいのだが、別の史料とは矛盾するとも言い、ともあれ「実績」のある刀であることは間違いないだろう。

[国宝]  小太刀 銘 来国俊

今回の展示で筆者が一番きれいだ、と思った作品。もし筆者が刀匠であれば、この作品ができた段階で作刀を止めてしまいそうだな、と思う。小太刀という大きさに刀の美しさがグッと凝縮されているように感じる。その密度の高い美しさは必見である。

[重要文化財] 太刀 銘 山城国西陣住人埋忠明寿(花押)/慶長三年八月日他江不可渡之

埋忠明寿といえば坂本家の重宝(この太刀ではないらしい)の作者であり、肥前忠広の師匠である。そして先程の安宅切の拵も彼の監修に拠るらしく、(もともとは代々そういった仕事が本業であったようだ)その拵を参考にしてへし切長谷部の拵が作られるのであるから数奇なものである。この刀は太刀を摺り上げたような反りの浅さが特徴の一つとしてあるが、これは埋忠明寿の好みであると言い、そのすがたは実際に摺り上げた刀であるへし切長谷部と相似性があるのもまた不思議な符号である。そういうことを踏まえながら鑑賞するとまた楽しいかもしれない。

[重要文化財] 太刀 銘 波平行安 附黒漆太刀拵【号 笹貫】

とうとう来たなこの時がと言った感じである。筆者の生まれ在所は、笹貫である。

そう、この笹貫が鍛えられた地は、筆者の故郷なのである。レペゼン笹貫なのである。とはいえ引っ越してしまっているのだが、それでも筆者にとって笹貫というのは特別な思い入れがある場所である。その笹貫が、筆者にとって刀剣鑑賞始まりの地である福岡市博物館にて展示される。勝手ながら感慨深くなった。

また、波平というのは刀を海にささげることで波を平らかにしたという逸話から来ているが、その波を鎮める刀に悪天候の中会いに行くというのもなかなか乙なものではないか、というのも今回の旅を延期しなかった理由の1つであったりする。

天下五剣・大典太の横の展示ケースに笹貫は鎮座していた。直刃調にどっしとした刀身。丸に十の字の島津紋が散りばめられた拵。薩摩刀らしい武骨で誠実な清々とした美しさのある紛れもない名刀であると感じた。

 

鎧に関してはまさか埴輪の時代から遡って来るとは思わなかったので意表を突かれた。時代とともにいわば生きるための技術が蓄積し、そして収束していくのは面白いものがあったし、やはり当世兜の百人百色ぶりは戦の花であるなと感じた。しかし一の谷兜は何度見ても空気抵抗が凄そうである。

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長政「めっちゃ向かい風で首がもげそうになる……泣きたい……」

 

 

立花宗茂の鎧は某ゲームで見ていたので本歌を前にして興奮したし、家康も南蛮趣味の甲冑があったのは意外であった。

感想ノートも拝見したが、老若男女の熱い思いが迸っており、勝手ながら嬉しくなってしまった。

余りの密度の濃さに、鑑賞後もしばらくぼうっとしてしまっていた。

日本号というその名に恥じぬめちゃくちゃおいしいどら焼きがあるのだが、それを買い逃してしまうほどであった。(帰宅直前に気づいて舞い戻ったらすでに売り切れていた)妻がちゃんと買ってくれていた。結婚してくれ。してたわ。