カナタガタリ

すごくダメな人がダメなすごい人になることを目指す軌跡

オンラインイベントの温度――31歳、同人サークルとして初めてイベントに出展する。

余談

前回、筆者は人生初のサークル出展を予告した。

 

kimotokanata.hatenablog.com

 

果たしてどうであったか、Twitterを追ってみよう。

形から入るタイプなので……。

 

学び:土を買いに行くとパソコンから離れるため、原稿を書くことが出来ない。

学び:カリンバを演奏していると手がふさがるため、原稿を書くことが出来ない。

学び:入浴中はぬれると壊れてしまうため、パソコンを持ち込めず、原稿を書くことが出来ない。

学び:おいしいスイーツに夢中になっているときは原稿を書くことが出来ない。

学び:とりあえず原稿が完成していなくてもお品書きと告知で自分を追い込もう。

学び:パソコンに向かって打鍵すると原稿が出来る(ことがある)。

次回に活かせることばかりで我ながら感心してしまったが、しかし健診で循環器がよう経過観察の指摘を(二年ぶりn回目)受けてしまったので次回はより余裕を持った工程を心掛けたいと思う。

床にはいってもなお遠足前のようなドキドキが筆者を支配し、寝付いたのは二時を過ぎた頃であった。

本題

薩摩隼人のたしなみである日曜早朝の草刈は筆者の執念が通じたのが通常の三倍の人数が集まり、一時間ほどで片が付いた。そのまま帰宅し、体を清め、軽食をとる。心地よい疲れと風呂上がりの爽快さ、小腹が満たされた喜びと朝の丁度良い気温……すべてが筆者を眠りへ誘おうとしていた。

開場まではあと一時間である。ありがたいことに、早朝の飛行機に飛び乗ったり、見慣れぬホームを彷徨ったり、カートをガラゴロ引きずる必要もなく、ボタンをクリックすればこの南の果て、薩摩の地からイベントに参加が可能なのである。素晴らしい。未来である。かがくのしんぽって すげー!

が……罠……!!

クリック一つで(実際にはパスワードも用意してくださっていたが)入場できるということはクリックするその一刹那まで……ダラダラできてしまう……! 本来のイベントであればねぐらから会場まで行動することによって少しずつ「イベントモード」に切り替わる心は……依然……家っ……!!

ステイホームっ……!!

筆者は職業柄コロナ禍にあっても通常通り出勤、無遅刻無欠席一時間程度残業であり、テレワーク勢を大いにうらやんでいたのだが、しかしこの状況で忠勤できる皆々様に畏敬の念を抱かざるを得なかったのだった。今の筆者にとって、会社までの道のりが無ければ「仕事モード」に切り替えることは不可能に近い。

草刈り機の振動でまだ震えの余韻が残る指をほぐしながら、筆者は思案する。時刻は九時。眠気が落ち着いてくると筆者は急に不安になってきた。本当に参加してよかったのだろうか? なんかこう……「いつもの空気」みたいなのがすでに醸成されていて、意図なく変なことをして周りの方を不快にさせないだろうか? 価格設定は適切だろうか? そもそもお金を取れるほどの出来なのだろうか? 「そういうこともある」とわかっているつもりでも、ただただ時間だけが過ぎて悲しい気持ちにならないだろうか?

その不安は、筆者に打鍵させていた。不安を解消するにはただ一つ、不安の素である作品を少しでも煮詰めるしかない。文章を再度見直し、最後に蛇足として「スイカ売り決死隊」のその後について簡単に書き記した。

滑り込みでアップロードが完了したところ、まさに10時であった。このツイートをしながら、筆者は既に自分の中で何かがエンディングを迎えようとしているのを感じた。

大学時代、自由な時間を生かしてコミケに行きたい、ということは幾度となく思ったが、薩摩の長男にとって盆正月に帰省しないということは考えられず、ついぞその野望は叶うことはなかった。

げんしけん」で、「マキとマミ」で、さまざまなイベントレポート漫画で、妻の報告で、筆者も知識としてあった「開幕時の拍手」。

そこに今、筆者は参加しているのである。それは文字列であったけれど、確かに筆者には100スペース分の拍手が聞こえたのである。

筆者は早速自らのスペースで頒布活動へと入った。

 

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ダイマとかいうレベルではない

 パッと見神羅兵が頒布しているような形になり、無骨度が爆上がりしてしまった。

筆者のスペースは一列目と立地が良く、さまざまな様相の人々が通り過ぎていく。筆者はそれぞれの「約束の地」へ向かう諸賢を眺めながら、カリンバをポロポロ奏でていた。カリンバは執筆の妨げにはなるがパソコンの前で手持無沙汰を解消するのには打ってつけであるという学びがあった。

開始十分、一人の方が拙スペースに入られた。

「閲覧中です」

自動メッセージがその上に出る。

カリンバを取り落としそうになりながら、筆者は挨拶しようとする。が、画面をスクローしていて入力ウィンドゥが見切れていることに気付かない。

テンパっているうちに、その方はすごい勢いで垂直に飛び出していった。(今回は人数が多かったこともあるのか、挙動がトリッキーで、話している途中で消えられたり、高速後ろ走りを披露されたり、ずっと「閲覧中です」だったり、抜け殻を残されたりなど、多種多様な事例が見られた。)

見ず知らずの人が、自分の作品を手に取ってくれた。その時筆者は確かに自らが作った冊子をはじめましての方がぺらりとめくるその音、そよぐ風さえも聞こえ、感じられたように思えた。

さほど間を開けずして、また新たな方が訪れ――

「購入しました」

今度は筆者は、お礼を言うことが出来た。打鍵しながら、声も漏れていた。昨日一瞬、「と、ここまで書いてきましたがカリンバが弾きたくなったのでここまでです」でぶん投げて終わらせようかな、と思ってしまった自分を恥じた。日が替わっても黙々と作業を続けた自分をほめた。

 

kimotokanata.hatenablog.com

 以前も書いたが、少なくとも筆者にとって、創作というのは孤独な作業だ。書くこと自体は好きだ。自分の中に流れる気持ちをうまく言語化できた時の快感は代えがたい。他方、この世の中、時間は有限でありながら無限と言ってもいい娯楽が存在している。ただただ、それを享受し続ければよいではないか、仕事で疲弊した脳に鞭打ってなんになるのか、と思ったことも一度や二度ではない。お前が何か作ったところでそれが何か意味があることなのかと。

意味はあるんだ。

あったんだよここに。

筆者が作らなければこの世に存在しなかったものを求め、対価を支払ってくれた方がいる。何の利害関係もない、縁もゆかりもない方が。そしてまたしばらく時間をおいて――

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アバターは伏せさせていただきました

ああ、おれは創作をしていて良かった。このイベントに出て良かった。

オンラインでよかった。リアルイベントであったら、醜態をさらしていたことであろう。

コアタイムが過ぎると流れもだいぶ落ち着いてきて、今度は買い物へと繰り出した。橋のサークルまで移動しても全く疲れない。お目当てが幾つか売り切れており、残念ながら自分の目の確かさを喜んだりもした。主催の方に開催のお礼を伝えることもできた。スペースもオンラインならでは、筆者はデフォルトの飾り気のない形だが、色々な創意工夫が凝らされていて見るだけで楽しい。

クレジット決済であることとイベントの興奮が購入欲にブーストをかける。これが頭の上のほうが開いている感覚……。会場を二周ほどしたところでさすがに三時間睡眠の限界、どっぷり眠りについた……と思ったが、一時間半程度むくりと起きてしまった。よほど興奮しているのである。その間も何冊か購入いただいており、現実の離席中には絶対にありえないオンラインイベントの利点であるな、と感じた。

その後もゆるゆると掲示板などで交流をさせていただき、厚かましくもTwitterをフォローさせていただいたりもして、フィナーレを会場で迎えることが出来た。

時間が来ても退出しない限りは一定時間はいられるようで、祭りの後をぶらぶらと歩いているうちに、既に自分が「次のイベント」を求めていることにも気が付いた。

なるほど、妻がのめりこむわけだ、と納得した。完全にネットミームであるところの「一時的に欲求は満たされます」のあれじゃん……と思った。

ふたを開けてみると、筆者の想定よりずいぶん多く購入いただいていて驚いた。

ありがたいことに最終的には無料配布、メインの頒布物合わせて34冊も巣立っていたことが明らかとなった。また、対面(オンラインではあるが、筆者は上記のような出来事を対面と呼びたい)、メール、掲示板、リプライ、DMなど様々なアプローチで温かい感想を頂いた。本当に創作者冥利に尽きることである。

その日の筆者は久しぶりに、深くゆっくりとした睡眠を味わうことが出来た。

オンラインイベント(ピクトスクエア使用)雑感

アバター、スペース共に拡張性があるのは素晴らしい。デフォルトでも種類が豊富であるのがうれしい。次回は自分もカスタマイズを挑戦してみたい。

・今回は女性向けの作品も多く、筆者としてはそういったものも特に抵抗なく読めるのだが、リアルイベントでは作者様の方が気にされる場合もある。しかし、今回の場合はアバターであるので作者様にとっても抵抗が少なかったのではないか……と信じたい。

・本文中にも述べたがコミュニケーションをとるのに多様なアプローチがあり、離席することのデメリットが売り手買い手共に軽減されているのが良い。

・オンラインならではの挙動は愉快でもあるが、やはり安定するに越したことはない。

・それこそRPGのウィンドウ的な感じで「戦利品リスト」を作れるとありがたい。(実体がないと情けないことにちゃんと買ったかどうかわからなくなってしまうことがあった)

オンラインイベントでありながら、確かに人の温かさ、温度を感じることが出来た「レキソウオンライン」が初めてのサークル参加で本当に良かったと思う。主催様、参加者の皆様お疲れさまでした。ご来訪いただいた皆様誠にありがとうございました。

pictspace.net

会場で頒布させていただいたものに加筆修正を加えたものをお値段据え置きで頒布しております。よろしければご笑覧ください。

(現在ファイル名が文字化けしてしまっておりますが中身は問題なくお読みいただけます)