カナタガタリ

すごくダメな人がダメなすごい人になることを目指す軌跡

紀本常務かわいそうです>< 半沢直樹「銀翼のイカロス」編最終話含むネタバレ感想

余談

とうとう「半沢直樹」が最終回を迎えた。

今回も予想を裏切り、期待を裏切らない展開を見せてくれた。

以下、原作の簡単なあらすじと、ドラマ版との違いを比較しつつ、速記的な感想を述べていく。

いつも以上に乱筆乱文となるであろうがご容赦願いたい。

本題

原作「銀翼のイカロス」ネタバレあらすじ

巨額の赤字を垂れ流し続ける「帝国航空」。東京中央銀行では業績不振に陥った取引先を担当する「審査部」が長年担当していたが、その歯止めをかけることが出来ず、中野渡頭取(旧S出身)半沢が所属する営業第二部にお鉢が回ってくる。

もちろん今まで担当していた審査部の曾根崎や審査部を含む債権管理担当常務である紀本(いずれも旧T出身者)は面白くない。

旧T出身者、新政権の人気者、専門知識のない白井大臣が立ち上げたタスクフォース、金融庁の嫌われ者・黒崎――それぞれがそれぞれの思惑で半沢を妨害する。

開発投資銀行の民営化に伴って債権放棄拒否を宣言する半沢。

しかし紀本常務が自らのクビをかけることで債権放棄に行内は傾いてしまう。

が、そのこだわりが半沢に帝国航空に関連する旧Tの暗部に思い至る。

旧知の検査部部長代理・富岡の協力を得て、新政権のフィクサーである箕部と旧Tとの黒いつながり、そして隠蔽されていた多くの旧Tの問題貸し出しについて証拠をつかむ半沢。

他方、紀本と同級生であった乃原はその旧Tと箕部との黒い関係を掴んでおり、紀本が使えないとなると頭取を直接脅しにかかる。

中野渡頭取は紀本常務と直接向き合い、牧野副頭取が選んだ自殺という判断は間違いであったこと、彼は一流のバンカーであった。だからこそ、生きて責任を果たし、今この問題について共に語り合いたかったと涙ながらに語る。紀本はついに観念し、旧Tの問題貸し出しについてコンプライアンス室に証言をすることとなる。

その裏側で半沢は再び債権放棄の拒絶を宣言。自らの銀行の恥部である上記の問題貸し出しについて公の場で発言、乃原以下タスクフォースの面目を潰し、白井、箕部の政治生命を絶つ。帝国航空の再建は企業再生支援機構へとバトンタッチされることになった。

全てが終わった後、中野渡頭取は退任を表明。富岡も関連会社へ出向が決まり、二人の尊敬するバンカーを見送った半沢は、その伝説を引き継ぐのが自らの使命だと胸に誓うのだった……。

ドラマ版感想:紀本常務がさすがに気の毒

以前の感想でも触れたし、上記あらすじを読んでいただいても分かるように原作では大和田が銀行を追われた後旧Tの首魁として君臨する紀本。牧野副頭取の棺に寄り添った腹心として「棺の会」という会を結成し、旧Sへの恨みの炎を燃やしている。

ところが、ドラマ版では元秘書の女将や中野渡頭取も旧T在籍者、棺の会メンバーであり、また牧野の忠実な部下という側面を女将に奪われてしまったばかりか、原作では一切触れられていない口止め料を自らの懐にしまい込むという描写まで追加されてしまった(このパターンは「ロスジェネの逆襲」の三笠副頭取と同じである)。これにより地位と金に恋々としがみつく情けない小悪党に成り下がってしまった紀本が同じ「きもと」としては不憫でならない。

極めつけは演者の年が違うから消滅したと思われていた「乃原と幼馴染」設定が小学生をいじめる中学生という形で再現されてしまうとは……。しかも小学生に手痛い反撃を食らってしまうし。な、情けなや……。

登場時は段田さんのスマートさも相まって、原作の「紀本」ポジションを大和田が引き受け、富岡のポジションを兼務しつつ中野渡頭取の後任を任されたりするオリジナル展開が――? と思っていたことが懐かしい。

ただ、最終話直前のカタルシスには大いに貢献してくれた。地下室での半沢アベンジャーズ勢ぞろいは原作にはないシーンだが、大変良かったと思う。

「信頼の砦」中野渡頭取の矜持

今回の「半沢直樹」は予告の使い方がべらぼうにうまかった。大和田が常務に復帰するのかと予感させたり、箕部に半沢が一喝されるのかと思わせたり――ミスリードが絶妙であった。筆者は先の台風で途中までの録画が吹っ飛んでしまったので、それが今確認できないことが残念である。

その真骨頂が最終回直前の予告。「三人まとめて千倍返しだ!」と啖呵を切る半沢。筆者も含め視聴者諸賢は「箕部と、紀本と……あとは誰だ?」と指折り数えたことであろう。乃原か? とも思ったが、一度はメンツをつぶしている。白井も同様である。と思いながら、本編を見ていくとなんとそのセリフが出るまでに紀本が屈服してしまった!

驚く我々をさらに驚かせるのはラスボスと目される箕部に取り入っているように見える大和田と中野渡の姿。さすがに半沢も動揺が隠せず、しかし信念を曲げることもせず、その場にいる箕部、大和田、中野渡に向かって言い放つ。「三人まとめて千倍返しだ!」と。まさかの引きに先週は動揺させられたものである。

が、真相は自らを犠牲にして証拠になり切らない書類を餌に、敵の懐に潜り込むのが目的であった中野渡。大和田はその駒となり本当の証拠探しに奔走していた。お前は小林靖子脚本の主人公かというくらい全てを背負った男、中野渡はその顛末を牧野の墓前で見届け、銀行を半沢に託して去っていく。原作でもそうだったように、この「銀翼のイカロス」編のもう一人の主人公と呼ぶにふさわしいラストシーンだった。

オリキャラ」大和田取締役の奮戦

散々書いてきたが今期のドラマ原作において大和田は一切登場しない。が、香川照之という稀代の俳優の恐ろしさ、今回もトレンドに入るのは大和田発信のものがほとんどであった。筆者としても彼がどう話を転がすのか、というのがドラマを見続ける一つの吸引力となったことは疑いがない。

原作の富岡の役割を補填しつつ、半沢とはトムとジェリー的な「仲良く喧嘩しな」なやり取りを終始続けてくれた。会議のたびに席次が上がっているのがポイントである。

頭取とは出身行が異なり、また平取締役であることからドラマオリジナルの展開として中野渡に後のことを託される、頭取じゃなくとも「大和田常務」に最終話で復帰するのでは、と考えていたが中野渡に殉じて銀行を去ることになった。原作と違い銀行を去ろうとした半沢へ最高の発破を残して。

彼とのやり取りから、本当は半沢の父を死に至らしめてしまったことをずっと気にしていて、そのためにがむしゃらに出世に突っ走ったようにも思えたのは筆者が今期のオリジナルキャラクターである大和田にほだされてしまった結果なのだろうか。

逆に言えばこれで原作とドラマ版の大和田の道は再び重なったわけで、今後の原作に行外の人間として登場することがあるかもしれない。

個人的には「頭取になったら土下座してやるよ!」が振りとなって、

CM明けにジョジョ5部のラストシーンみたいに椅子に座る半沢、目の前で土下座する大和田、みたいに時が飛んでいても良かったのだが。(窓を開けるのは渡真利)

白井大臣、笠松秘書、花。半沢世界の政治の希望。

原作では中身も知らずズケズケ物をいう素人上がり、という鼻持ちならない役割に終始する白井大臣だが、ドラマ版では自らの理念を持ち、花という「有権者」の後押しもあって「誠実」に振舞い、視聴者の留飲を下げてくれた。花も原作では登場しないが、誰も彼もが半沢にメロメロになる中、まさしく「本妻の貫禄」を見せつけてくれたし、テレビの向こうで政治を見ている有権者としての立ち位置が原作にはないものでドラマの厚みを増したように思う。彼女が白井大臣に託した「桔梗」は「麒麟がくる」の主人公、明智光秀とも縁深い花であり、そちらに出演していた内藤部長こと松永久秀吉田鋼太郎さんや、近藤こと足利義昭滝藤賢一さんへのエールでもある……というのは深読みしすぎだろうか。

笠松秘書も男気を見せてくれた。せいぜいセリフ一言二言、あっても「秘書が勝手にやったことです」で罪を着せられてフェードアウト……くらいに思っていたのでまさか大島さん、いや児嶋さんがここまでの活躍をしてくれるとは思わなかった。さすが名作保証人である。ラスト、ゼロからの出発となった白井元大臣と笠松のコンビは半沢世界の政治に希望を持たせてくれるいいシーンだった。

トミさんがいい味が出ているだけにもったいなさも

原作では筆者が一番好きなキャラクターがトミさんこと検査部部長代理・富岡である。さえない窓際行員だが半沢も一目置く優秀なバンカー、その実態は頭取の懐刀であった……というまさにサラリーマン水戸黄門的な設定を背負ったキャラで、原作では頭取とサシで飲むシーンなど実に味わい深いのだが、他のキャラクターに押されてしまった形なのが残念。頭取が去るシーンなどいてほしかった……。半沢は頭取とトミさんを銀行員の「光と影」であり、しかしどちらも彼が心から尊敬するバンカーとして原作では見送っているので、ラストに特に言及がないのはもったいないなあと思う。(誤解は解けたのだろうか)出てくるシーンはまさに筆者が思い描いていた「トミさん」だっただけに、ますますその思いは募るのであった。

黒崎と渡真利の女房役デッドヒート

原作より大幅に直樹…半沢に肩入れし、調査官を追われてしまった黒崎。部下に慕われていたこともわかるラストシーンは半沢の最敬礼も合わせ、忘れがたいシーンであった……としみじみしていたら紀本を追い詰めるために参戦してきたのには喝采であった。最終話でも箕部の資金を抑えるのに大いに活躍。役を外れたということで原作で最終的に帝国航空を引き受けることになる企業再生支援機構に収まるのかな? と思ったが特に言及はなかった。だったら最後に調査官に戻って部下が大はしゃぎしている(間につかまれる)シーンとかがあっても良かった。

こちらも原作以上に危ない橋を渡らせられまくる渡真利。半沢を頭取になるべきだという説得はしかし愛情の欲目で、筆者的には渡真利のようにバランス感覚がすぐれている人間が頭取には適任だと思うのだが……。

二人とも今回もキャラが大いに立っていたので今度スピンオフでもやってほしい。(半沢の最新刊「アルルカンと道化師」はもともと渡真利のスピンオフだったらしいし)

苅田

なんでいたのかよくわからない。近藤が役者さんが大河出演で出られないからバーターだったのだろうか。役者さんは良かっただけにもっとうまい使い方がなかったものかと思う。

見終えて

来週から暫く「半沢ロス」に陥ると思う。筆者がついていけるだろうか。半沢のない1週間のスピードに。

ドラマ「半沢直樹」原作 銀翼のイカロス: 2020年7月スタートドラマ「半沢直樹」原作