カナタガタリ

すごくダメな人がダメなすごい人になることを目指す軌跡

【復刻】超人的な経験――「イン・ザ・ヒーロー」ネタバレ感想

今週のお題「復活してほしいもの」

余談

今年の健康診断まで半年を切ったので再び減量を始めた。妻の妊娠中に行ったフィットボクシングを中心とした減量により、娘が生まれた後の不規則な生活でもほとんど変わらなかったのだが、年末年始で一気に半年で減らした分が戻ってきてしまった感じだ。学生時代は仮面ライダーの大人向けでないベルトが巻けたものだったのだが。

あの体型が、せめて代謝が復活してほしい……と思いつつ、お題として真に筆者が復活を求めるのははてなダイアリー時代の下書きである。

はてなダイアリーが消える、ということで特に移行作業もせずwebの海の泡となれ我が駄文たち……と思っていたら、親切なことにはてなブログに移行してくださっていた。しかし、さすがに下書きの方は消えてしまっていたのである。

下書きにはちょうど十年位放置していたバットマンの諸々について語った記事があって、二万字くらいあった。少なくとも今の自分には書けない文章であったはずなので、何かしらに残しておけばよかったな、と今更思うのだから勝手なものである。

さてそういうことで後ろ向きに昔のブログを眺めていると、1つの記事が目に留まった。家族で劇場に足を運んだ映画、「イン・ザ・ヒーロー」である。

巷ではある映画が大いに話題になっているが、今の筆者には劇場へ足を運ぶあらゆるリソースがない。

とはいえ観もせずに賢しら顔でこき下ろすということも避けたい。

そういうことで、筆者がこの十年スパンで一番劇場に足を運んでみた映画で「思てたんと違う」となった映画の感想をこのブログに復刻させてなにがしかの代わりにしておこうと思う。

ということで、「本題」以下は七年前、二十五歳の筆者が書いた文章をそのまま載せてある。もしかしたら誤字もあったりするかもしれないがそのままにしておいた。記事内で高校生である弟が当時の筆者と同じくらいの年齢になっていると考えると恐ろしい。

よろしければ御笑覧のほどを。

 

 

本題

家族で「イン・ザ・ヒーロー」を見に行った。


www.youtube.com


家族で映画を見に行くことが年に何回かはあって、この間は「清州会議」だった。
つまり今回見に行った原因の一つは「清州会議」以降、木本母の中で「寺島進さんブーム」が静かにしかし長々と起きていたことが原因である。
このちょっと前に木本家では「超高速参勤交代」が見たいというムーブメントも起こっていたが、時間がとれなかったため満を持しての映画館と相成った。
ちなみに親父は「ルーシーが見たい」とごねていたが(彼は娯楽大作が大好き)なんだかんだ妻のリクエストにこたえてあげるあたり良い夫婦である。

ぴあの初日満足度一位だったそうだが、二周目ということもあってかスクリーンは小さく、かつお客さんの入りもまばらであった。超高速参勤交代と同じように、やや「渋め」のチョイスだったといえよう。
ちなみに弟二号機の彼女さんは三姉妹そろってホットロードをほぼ時を同じくしてみていたらしい。高校生はそうでなくっちゃ。

さて本題。
いきなり串田アキラの主題歌をバックに戦隊モノOPである。なんだこの再現度は。
左上に時間が出てないか確認してしまったぞ。

勿論、この正義感に燃える若者たちが主人公ではない。
今回はこの中の人たちが、イン・ザ・ヒーローが主人公なのである。

スタント集団HACのリーダー、スタント一筋25年の本城渉と売出し中のアイドル俳優一之瀬リョウが主軸となって話は展開する。

始まりは戦隊モノの劇場版から。
劇場版新キャラとして久々の顔出し出演のはずだった本城。しかしその座は一之瀬によってあっさり奪われてしまう。しかも一之瀬はこの仕事を腰かけ程度にしか考えておらず……。

始めは「中の人業」を馬鹿にしていた一之瀬も、本城の仕事に対する熱意、自分の夢(アカデミー賞を受賞してスピーチする)を馬鹿にしないこと、好きなゲームのモーションアクターをしていたこと……などなどから少しずつHACになじみ、忍者が出て殺すタイプのハリウッド映画、「ラストブレード」選考通過のために努力を重ねていく……。

というのが本筋であって、こういう舞台立てならこういう展開だろうなというとこから特に外れることもなく話は進んでいく。

特によかったのが中盤、寺島進さん演じるベテランスーツアクターの結婚式。
結婚式の余興でアクターたちが戦隊に扮するのだが、その際、寺島さん演じる海野氏はレッドで登場する。
普段は彼は(本人いわく、「タッパが足りない」ため)ピンクを演じている(女性より女性らしいとの評判で)ため、マスクを外さずにレッドが新婦へ向かうとき、周りは「ちょっとちょっと違うでしょ(笑)」みたいな空気になるが、新婦はそれ以前、戦隊が決めポーズをとった時点で(彼女は特撮番組のスタッフである)すべてを察し、泣き出してしまうのだ。(ちなみに寺島さんは事実、女性役のスタント経験がある)

余談になるが、「仮面ライダーを作った男たち」という漫画がある。
最近、と言っても二三年前だが、新装版も出た。
その中には「大野剣友会」――仮面ライダーの「中の人」たちのエピソードがある。
わけても「いつも改造人間役だった役者が引退の時にはなむけとして仮面ライダーの中の人となった」という挿話が筆者はとても好きで、見ながらつい思い出した。

さてそうこうしながらついに一之瀬はハリウッドへの切符を手にし、すべては万端と思えたとき、それを起点として本作はクライマックスへ舵を切り始める。
一つは、はた目にはとんとん拍子に出世していく一之瀬を目の当たりにして自分との違いを思い知り、限界を悟ったHACの中堅どころの退職。
そしてもう一つは「ラストブレード」監督の暴走(NOCG、NOワイヤー!)によるアクションスターの逃亡。(による、本城へのオファー)

これら二つがHAC代表としての本城と、アクション俳優としての本城それぞれに大きな衝撃を与える。
そしてそれは、一つの結論となって彼から吐き出される。

「俺がやらなきゃよ……誰も信じなくなるぜ!? アクションには夢があるって」

そういうことなのだ。
イン・ザ・ヒーローとはスーツの中の人ではなくて、誰かの心の中でいつまでも生き続けるヒーローのことだったのだ。

かつての妻の制止を振り切り、
一之瀬の遠慮(彼のアカデミー賞でスピーチがしたいとは、生き別れの母にお礼を言うためであり、本城がこのオファーを断ると映画自体がぽしゃってしまうのを本城が気にして受けたのではないかと彼は思っている)も退け、
おお……見よ! 死に装束めいた純白のシノビ衣装を身につけダーク=ニンジャ100人と凄絶な斬り合いに臨む本城を!

 


といった感じの映画であった。
身もふたもないことを言ってしまうと予告編通りの映画であって、
それを裏切ってくれるのは基本的に変にメタな(EDロール最後の監督の独白とか)悪い方向にくらいで、予想した通りの展開が現れては消えていった。
そういった意味で着眼点は素晴らしいが、脚本には新鮮味はあまりない。
キャラクターもせっかく個性的なのにもったいないと感じる部分が多かった。
(例えばハリウッド礼賛のプロデューサーが序盤で特撮現場をさんざんバカにして帰っていくのだが、ラストブレードのオファーに来るのは同一人物である。ここにあいつがついに認めてくれた! というカタルシスは全くなく、ころころ態度を変える都合のいい大人へ不快感を覚えるだけであった。たとえばこいつが実はすごい特撮マニアだったとか、本城と付き合いのあった一之瀬のマネジャーから話が行くようにするとかしてくれたらよかったのになあ。ちなみにこいつの連れているアイドル? 女優? もステレオタイプなもの知らずでイラつくだけで映画に何ら寄与することはなかった。こいつが惚れるんだけど一之瀬は夢のために全く相手にしない、それを見て本城は「ただちゃらちゃらしてるだけじゃないんだな」と認識を新たにする、くらいしてくれてもよかったのになあ)

かといって面白くなかったわけでは決してなく、俳優陣の演技は素晴らしかった。特に福士君いい役者になったなあとフォーゼから見ている身としては感慨深いものがある(ちなみに彼はバイクアクションだけはやたらうまいという設定があって笑える)
またクライマックスの100人斬りは圧巻……なのだが、劇中の設定に反して(CGなんだろうなあ……ワイヤーなんだろうなあ……)と思える部分がちらちら出てきてしまったのはいただけない。

個人的には大スクリーンで見るよりは、ソフト化されてから特撮映画の前に見ることによって本作品、そして特撮映画が相乗効果でよくなる、というのが正しい視聴方法のように思えた。