四年前、こんな記事を書いた。
kimotokanata.hatenablog.com
審神者としても相変わらず近侍に尻を叩かれながら、ちまちま本丸を運営している。
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そして再び、刀剣乱舞が映画化されるという。この四年間の間に筆者も成長した。ムビチケを買い、視聴は日曜日になりそうだが前回のようにパンフレット売り切れの悲劇に合わないよう公開初日にパンフレットだけ劇場に買いにも行った。かつて鹿児島で上映先が限定されていた刀剣乱舞映画は、今回上映劇場が拡大していた。それはそのまま前回の映画の素晴らしさと、今回の映画の期待値の高さを証明しているといってもいいだろう。
そして本日、鑑賞した。以下はその記録である。
※映画刀剣乱舞のネタバレがあります
安穏とする元凶
冒頭のワクワク感と言ったらない。「関ケ原」の秀吉の三献茶の逸話辺りをやっているときと同等のワクワク感である。
安倍晴明の見立てによれば大江山に酒呑童子という鬼が巣食い、人々は恐れおののいているという。時の摂政・藤原道長はそれを討たせるために源氏の棟梁・源頼光とその四天王を向かわせる――が、それは「茶番」。大江山に鬼などいない。いたのは朝廷にまつろわぬ民たち――道長たち権力者たちにとって邪魔なものたちに鬼というレッテルを張って排除する極めて政治的な行いに過ぎなかった。その駒として使っている源氏たちにいずれ権力の座を追われるのが歴史の皮肉であるが、頼光以下四天王は正義の行軍と言うにはあまりにむごい殺戮を行っていく。大将・酒呑童子以下腹心は頼光四天王筆頭である渡辺綱の策略によって毒入りの酒を盛られ、既に半死半生の状態にある。
伝説によれば酒好きである酒呑童子の隙をつくための見事な作戦であったというが――。
ここに歴史のまやかしが、早くもある。
歴史は勝者によってつくられる。因果が逆なのだ。
勝者がそう記録することによって。
渡辺綱がこの道中にわざわざ人の腕を斬り飛ばしているところなど、示唆的である(綱には鬼の腕を斬り落とした逸話がある)
「正しい歴史」は「真実」とは限らない。
酒呑童子が無念の思いを抱えて真実と共に散ろうとしたとき、時間遡行軍を追いかけてきた刀剣男士・山姥切国広が居合わせる。
酒呑童子の怨念は鬼を生み、山姥切国広はそれに巻き込まれ――。
実に魅力的な導入と言えるだろう。
そしてこの物語のラスボスは、酒呑童子となる。
安倍晴明とか藤原道長とか源頼光はもう出てこない。お疲れ様でした。
筆者はてっきり、この「正しい歴史」に抹殺された弱き者たちにどのようにまなざしを注ぐか、歴史の守護者としての刀剣男士や審神者(仮の主)の苦悩や葛藤がメインになるのかな、と思っていたので意外であった。今回の事態を引き起こしたいわば元凶どもは特にお咎めもなにもなく元の時代にて過ごしているのだと思うとなんだかすっきりしない。
それとは別に酒呑童子にもっと悪逆成分をつけるというか、現代の依代となった伊吹(これは酒呑童子伝説が大きく分けて大江山の他に伊吹山に伝説が流布していることが、元ネタのネーミングだと思われる)を絶望させるために弟の事故とかは酒呑童子が仕込んだんだよ、くらいはしてもよかったんじゃないか、とも思う。
仮の主たちの不遇さ
2012年。この時代の刀剣男士たちは自分たちとこの時代を繋ぎとめるための仮の主を必要とする。三日月宗近は高校生・琴音にその名を呼ばれることで弱っていた力を若干ながら取り戻し、時間遡行軍を退けることが出来、以後彼女と行動を共にすることとなる――。
クライマックス。人々の想いを酒呑童子が吸い上げることによって、想いの積み重ねで力を得る刀剣男士はその体を保つことが危うくなる。未来の本丸との繋がりも薄れていく。このまま時間遡行軍に蹂躙されてしまうのか――。
いや仮の主が名前を読んでパワーアップ(力を取り戻す)展開じゃないのかよ!!!!
ずっとへし切長谷部を「へっしー」と呼んでいたがここぞという時に「へし切長谷部!」と呼びかけ、
名前を兄に覚えられないことが悩みの膝丸を「膝丸様!」と鼓舞し、
山姥切国広を過剰にニセモノ呼びすることが自分への自信を持ちきれないことを感じさせる山姥切長義に「山姥切殿!」と叫ぶ、
そういう仮の主を、それによって力を取り戻す刀剣男士を、生まれる信頼関係を筆者は期待していたのである。
ギャルを仮の主として認めた証拠として「主に仇なすものは斬る!」をへし切長谷部に言って欲しかったんだよ……。
垂涎の刀剣男士大集合
前回の映画での数少ない不満、それは登場刀剣男士のほとんどは出血大サービスの顔見世にとどまったことであった。
今回は終盤、多くの刀剣男士が出演し、あらゆる場所で殺陣を繰り広げるはちゃめちゃに贅沢なつくりになっている。
陸奥!出るんならちゃんと先に教えてくれ!!!!
嬉しいサプライズであったが確かに「春映画」味が高まったのは仕方がないかもしれない。
いきなり特撮界隈のスラングを繰り出してしまったが、こういうキャラクターが沢山出てくるお祭り映画を春にやるという奇祭があるんです。今まで知らなかった方は今後も知らなくて何も影響なく生きていける知識です。
ちなみに
・過去の時代のことがテン年代の出来事に影響を及ぼす
・味方が敵の幹部っぽいポジションに収まっている
・へっしーLet's Go TOKYO♡
これらから春映画の中でも「オーズ・電王・オールライダー レッツゴー仮面ライダー」のオマージュであることは間違いないだろう(ぐるぐる目)
追加刀剣男士出現せず
予告により酒呑童子の登場が明らかになった時から、筆者だけでなく多くの人々が思ったことであろう。
「満を持して『童子切安綱』の登場ではないか!?」と。
天下五剣。
三日月宗近。数珠丸恒次。大典太。鬼丸国綱。その四振りは既に、刀剣乱舞ゲームにて実装された。
が、童子切安綱はリリースから八年を迎えようとする現在も実装されていない。
文字通り酒呑童子を斬ったという逸話から、童子切安綱。しかも今回フィーチャーされてる東京国立博物館所蔵。
映画という特別なイベント。舞台は整い過ぎているといってもいい。
が、伊吹と融合した酒呑童子を斬ったのは山姥切国広。空中に浮かんだ怨念体の酒呑童子を切り裂いたのは三日月宗近だった。(このじじい…また知らん技使っとる……)
ここで出なかったらいつ出るのだろう、他人事ながら心配になってしまう。実装されたらされたでサービス終了が近いのではないかとビクビクしてしまいそうではあるが。
刀剣乱舞という題材の柔軟さを改めて知る
正直なところ前回映画と同じものを想定して観ると戸惑ってしまう映画になっていると思う。しかしよく考えれば刀剣乱舞という題材はアニメだけでも「花丸」と「活撃」という全く毛色の違う作品を生み出している万華鏡のような題材であり、今回は「こう」だったのか、という納得もある。
ただやはり筆者としては、かつて大和民族に滅ぼされ、あるいは同化していった隼人の末裔としていつの時代もいる「正しい歴史」からとりこぼされていくもの、まつろわぬ、まつろわれぬ者たちの末の光明を示してほしかったといいう願いがあり、それがかなえられなかったのは残念であった。次回、琉球刀にスポットが当たればそういった角度の話も生まれるだろうか。幕末の話も見てみたい。こうやって次々与太が尽きぬあたり、刀剣乱舞が魅力的なコンテンツであることはやはり間違いがない。