ドラマ金田一少年の事件簿(堂本版及び道枝版)ネタバレがあります。原作学園七不思議殺人事件のネタバレもあります。
金田一少年の事件簿。幼稚園児時代に出会った筆者にとって、恐ろしくも魅惑的な赤い夢の導き手となったその作品から筆者のミステリ好きは始まったと言っていい。
今般、5代目の映像化にして初のリメイク、「学園七不思議殺人事件」を視聴したので端的に感想を述べたい。
学園七不思議殺人事件。ミステリ研究会がテーマとして扱う学校の七不思議には全て知ると放課後の魔術師に呪い殺されるという曰くがあった。その通り、七不思議に深入りしたミステリ研究会の部員たちは次々と惨禍に見舞われていく……。
令和の世において一つ間違えばチープになるオカルトな雰囲気づくりは舞台設定の確かさもあり、かなりいい感じだったのではないかと思える。
一方、ストーリーはやはり駆け足が目立つ印象を受けた。それでも1時間半と言う時間を感じさせない圧倒的なストーリーテリングであったが。やはりおなじみのSEやBGMが聞こえると胸の高鳴りを抑えるのは難しい。
それでも気になった点をいくつか記しておく。
まずは、鷹島友代の不在。高校生作家真壁誠のゴーストライターにしてミステリ研究会部員の彼女は今回のドラマに未登場である。堂本版では原作の他の登場人物の役割を回を跨いで吸収し、不動高校のある種の特異点と言える存在になった彼女。堂本版でも初回だった学園七不思議殺人事件から、2期最終回の墓場島殺人事件まで、ある意味堂本版金田一は鷹島友代クロニクルとでも言うべき構成になっている。
が、今回は登場しない。
極端……!
あるだろうもっと……ちょうどいい塩梅が……!
100か0かみたいなポジションにしなくてもいいだろう鷹島友代を……!
と最初の場面で思わず考えてしまったが、ある意味これでやっと鷹島友代はドラマの呪縛から解放されたのかもしれない。
次に、今回のメイントリック。鏡を使った殺害場所の誤認だ。そんな…生物室の字が反転したシール…! これは気づかないわけだ……!
仮面は?
ギョッとする不気味さのあるドラマオリジナルの仮面は左右非対称な造形だ。これ、鏡で逆になったら気がつくのでは……?
原作では左右対称だったものをわざわざ改変してツッコミどころが生まれてしまうのはちょっといただけない。
このトリック周りで言えば、原作では魔法陣も単にオカルトな演出ではなく炎のゆらめきで鏡像の不自然さを誤魔化すというロジカルな理由が用意されていたのにそこに言及されていなかったのも残念だった。
そもそも、原作ではハジメの奸計によって塞がれるが、この状態では犯人はいや、そんなことやってませんよと言われたら逃れられる状態なのでは……。
原作でもドラマでもキーポイントとなる桜樹の残した暗号だが、視聴者への提示の仕方が限定的で、解き明かされてもカタルシスがない。高校生クイズのなんか難しい数式がバーッと出てきて参加者が回答して合っててもなんか盛り上がりにくい時と同じような心境であった。
最後に、犯人・的場の人物像が大きく改変された。筆者は小物の保身の末……という金田一少年の事件簿では珍しいこの男の哀れさが結構好きなのだが、(原作の自白シーンでの「私は『魔術師』になった……」の述懐や、死に至る時の惨めですらある物悲しさ、解決後のハジメの桜樹先輩へのモノローグで『放課後の魔術師』なんていなかったというシーンがめちゃくちゃ好き)ある意味ありがちな犯人になってしまった。筆者であれば、青山ちひろは庇った作業員の孫娘だった、くらいの改変をするかもしれない。(あのおじいちゃんどうしたんだろう)
他方で、そんな改変を受けたからこそ命を存えたのは良かったと思う。しっかり罪を償ってください。六不思議の原因となった死体が生まれた原因も改変されたが、ますます不動高校の呪われている度が補強されたのは面白い。
ついつい文句も出てしまったが、令和にこの外連味を出す演出をしてくれるのは嬉しいし、道枝駿佑さんのハジメが魔術師の仮面を外した時の色気にはドキッとさせられた。また、上白石萌歌さんは個人的には今までで一番原作の美雪の雰囲気を感じられた。沢村一樹の剣持警部もなかなかハマっている。これからどう崩れていくのか期待したい。というか、鹿児島率が高いキャストだ。
次回、聖恋島は原作未読なのでまっさらな気持ちで楽しみに見たい。
ところで放課後の魔術師よりも恐ろしかったのは、「10年前の資料」として出てくる部誌が「2012年度」のものであったり、「25年前」の事件が起こったのが「1997年(平成9年)」だったりと劇中でこともなげに提示されることであったりした。いつの間にそんな時が流れていたんだ……えっ山田きゅんがハジメをやったのが8年前? ウソだろ……。