カナタガタリ

すごくダメな人がダメなすごい人になることを目指す軌跡

学校に泊まろう!――「ユクサおおすみ海の学校」体験記

今週のお題「下書き供養」


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それは五日ほど前のことであった。

深夜。我々夫婦は各々の端末を前に作業をしていた。

そこに自分の作業が一段落した妻が、一つの情報を持ってきた。

なんとあるところに泊まることができるという。

それは我々にとってかつてとても身近であり今はとても縁遠い場所……。

果たしてそれは一体……と引っ張らずとも読者諸賢はそこが学校であることは先刻ご承知の通りであろう。

へえ、面白いね、といまだ作業中の筆者は答えた。

それが生返事に思えたのか、妻は続けてLINEを投げて寄越した。


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ブログネタまで気にかけてくれるよき伴侶である。そして記事を読み、筆者は妻の狙いにも気づいていた。

こいつ……うまい魚を食いたいのだな……と。

妻は前世が猫だったのかというくらい気まぐれで生魚が好きだということは既に述べた。近頃ますますすさまじく、中一日くらいで食卓には刺身が並ぶ。

だのにまだ追い求めるというのか。この求道者は。呆れは突き詰めれば畏敬となる。この情熱、妻が仕事を頑張ってくれていることによる家計の余裕、そして筆者自身の興味と休日の兼ね合いから、自分の仕事が一段落した勢いのまま週末に予約してしまった。深夜テンション、恐るべしである。大正琴の稽古を受けて後、夕方に出発することとした。

当日。昼食。妻はスーパーのパック寿司を食べていた。今日の夜は刺身定食だって言ったじゃないですかァーッッッ(AA略)と数年前だったら思っていたかも知れないが、今の筆者は理解している。妻は「刺身腹」を構築しているのだと……。

恙無く稽古を終えると、我々は一路大隅半島を目指すこととなった。


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いつもと違う角度から見る桜島(撮影:妻)が「お先」とばかりに今から行く場所へ灰を送り込んでいるのをまざまざと見せつけられることとなったが、しかし国道220号線は海に程近く、走っていて気持ちがいい。わき見運転に気を付けなくてはならない。

「まさかり」というユニークな分岐で別れた以外、さしたる複雑な道もなく我々は目的地に辿り着いた。


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愛車スタンリック君のカーナビは平成23年生。今回宿泊先の前身である菅原小は平成25年閉校であるから、カーナビ上はまさしく我々は小学校に宿泊することになる。

ちなみに菅原小学校のホームページはまだ生きている。

鹿屋市菅原小学校トップページ

校長先生の挨拶は永遠に工事中なのだろう。閉鎖前に駆け込みで開設したように見えるホームページはテン年代製とは思えぬあたたかみに満ちており、往時の姿を僅かに確認することができる。


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時刻は五時過ぎ。「下校時刻」になってから学校に入る、というのはなんとも不思議な気持ちであった。


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校章を眺めながら校庭へ向かう。
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いやオシャレか。美しい風景は撮る人間の技術など関係なく美しいものである。

校庭でキャンプをすることも可能であるらしく、テントが張られていた。シンボルであろう大木の周りでキャンプにきた子どもたちが鬼ごっこをしており、心なしか木も嬉しそうであった。


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なんとツリーハウスもある。我々はナントカと煙のナントカの方であるので、登るのは無理からぬことである。


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右手に燃えて上がるはオハラハー桜島である。


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そして左手には薩摩冨士・開聞岳。鹿児島の誇るこの二大ランドマークを手中に収めることができるとは興奮を禁じ得ない。フォトジェニック!

そうこうしているうちにチェックインの時間が近づき、我々は「登校」することにした。

 

――と、ここまでを書いたのが2019年の11月のこと。その後、年末でバタバタしたり、Googleフォトと連携が出来なくなったり、コロナ禍に突入して宿泊施設を喧伝するのもな、ということになったままずるずると時は過ぎていった。冒頭、黒板に「カナタガタリvol136」とあるが、今回の投稿は216記事目であるからどれだけ寝かしていたかがわかろうというものだ。

しかし今回記事を書くのに写真を見返して、細部はやはり忘れてしまっているものの、素晴らしい体験をした記憶がまざまざと蘇ってきた。やはりこれは記事として残しておきたいと思ったので、以下何事もなかったかのように続けて書きたい。

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玄関の廊下にいきなりこんな自虐ポスターが張ってあったりする。大隅半島は「竹亭」「マルチョンラーメン」を生み出しただけでもすでに偉大であることを付記しておく。

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元・靴箱がオシャレに活用されていた。

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懐かしい感触のリノリウムの床をキュッキュと言わせながら歩いていく。雰囲気のいいBGMが流れている。受付は食堂を兼ねているので、先に食事を頂くことにする。食堂は元・理科室である。

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あの「理科室特有の銀枠に黒天板の机」の上にこんなごちそうが広げられると誰が想像しただろうか。今もホカホカのご飯や漬けにされたカンパチの程よい歯ごたえとうまみ、漬物のほろ苦さやふろ吹き大根の滋味、エビ入りみそ汁のいくらでもお代わり出来そうな(ご厚意で3杯もいただいてしまった)だし加減は思い出しては腹を鳴らしてしまう始末である。

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妻もほくほく恵比寿顔であり、泊りのうれしさ、久しぶりに2人ともアルコールを摂取したりなどした。学校で飲酒……インモラル!

そして食後の我々は鍵を受け取り、今夜の寝床へと向かう。

そこは――

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校長室であった。

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はい黒板がドーン!

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誰かしら中に悪ふざけして隠れるやつ!

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からの対面はベッドである。夜はテンションが上がっていたので朝爆睡してベッドから落ちかけた時ビビッて心を落ち着けるために取った写真を使います。見苦しくてすみません。

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あぁ~ッ 黒板のここの「この感じ」……。懐かしい。

もちろんベッドもふかふかである。我々は「学校に泊まる」という体験にワクワクしっぱなしであったがふと落ち着けば「よくよく考えれば校長室にはそんなに思い入れないな……」とも思った。歴代校長先生の肖像がある訳でもなく、ある種綺麗な黒板のある部屋という感じでもある。そんな部屋はふつうないが。

ともあれ我々は風呂上がりでもなお、「夜の学校」を更に深く味わいたいという気持ちが高まるのを抑えきれず、いよいよ探検に出かけることとした。

もちろんBGMはこれである。

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燃え盛るあの場所で出会えるなら
Sexy Sexy,

Sexy Sexy,

  • provided courtesy of iTunes

 

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今夜は2階は宿泊者がいない。人の気配のない2階に足音がやけに大きく響く。

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沢山の人々の喜怒哀楽が重ねられた場所はその思いが質量となって残っているようで、侵しがたい荘厳な雰囲気がある。因みにこれまた定番の25mプールが窓から見えて感動のあまり写真を撮ったのだが今カメラロールを振り返ったら何故か残っていなかった……。

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帰りも行きと段数が違うということはなかった。

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そのまま外に出た。遮るもののない月と星が美しく、いいカメラが欲しいなあと思ったりもした。

そのまま玄関ロビーのソファに座り、妻と2人、それぞれ読書をした。宇宙開発にも縁深い大隅半島に来て、美しい夜空を見たこともあって、筆者は「宇宙兄弟」を再読していた。

妻は昭和初期のレシピ本を見ていたが時代特有のエスプリが効いており、大変良かった。

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時折、校庭でキャンプをしている子どもたちがお手洗いにやってくることもあり、女子小学生らしい3人組が「じゃあうちがこっちに連れてくるからさ、話せばいいじゃん」「でもあいつ今男子で鬼ごっこしてるから来ないよ……」

みたいな話が漏れ聞こえてきて、おお……小学生……とその小さな恋のメロディにくらくらとした。

ちなみにその後も筆者は2時間ほどそこで読書を続けていたが、「あいつ」が来た気配はなかった。ちょっと男子ー! そういうとこだぞ!
そのうち自然な眠気に身を任せ、心地よく眠りにつくことが出来た。なれないベッドに落ちかけはしたが。

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目が覚めて窓を開けると校庭。ソテツ。朝から非日常前回という感じだ。朝食までしばし時間があるので周辺を散歩することにする。

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夜の妖艶さはどこへやら、健全120%、我々のよく知る「学校」そのものというたたずまいが、なおさらそこに泊まっているおもしろさが際立つように感じられた。また、手前勝手に怖がったりしていた自分を恥じたりもした。

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朝食は理科準備室であった。(写真は夜撮ったもの)野生のアインシュタインがいたらしいことが確認できる。

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しらすだし茶漬けは優しい味ながらしっかりしたボリュームであっという間に食べてしまい、その勢いを気に入っていただいたのかまたもお代わりを頂いた。

そのままチェックアウトを済ます。-完-

と行きたいところであるが、筆者は来たときから気になっていることがあった。

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確かに海が見えるが、「日本一」とは過言では……?

という思いがあったのである。が、校庭の隅、うっそうとした木々の隙間を縫うような道を降りていくと――

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青い海、白い砂浜、赤褐色の岩肌、チェックシャツのオタク。

海、近い。なんだこの最高のプライベートビーチは。

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潮だまりもあったりして、いつまでも佇んでいたい感じだった。

漁村出身の妻も血色がよくなったようである。

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鹿屋市立菅原小学校。明治25年開校。平成25年3月、120年の歴史に幕を下ろし閉校。

校訓「明るく・かしこく・たくましく」。

きっとこの環境であれば校訓は達成されたに相違あるまい。

とても貴重で楽しい体験であった。

校庭でのキャンプなど密は避けやすいと思うので、ぜひ興味がある方は訪れていただきたい。

 

yukusa-ohsumi.jp