余談
平成の世にこんな記事を書いた。
まだ妻が「ヒプノシスマイク」の一端に触れたところまでで止まっており、そのうち筆者自身がハマる過程を②として書くつもりだったのだが、その間に令和になり、ライブの先行抽選があり、外れ、先着購入があり、外れ、ライブビューイングがあり、夫婦して参戦が決定した。日曜日は別の用事があり、土曜日のみの参戦となる。こんな時に限って日曜日のライブビューイング席が余っていたりして、臍を噛む思いである。
ともあれその間に筆者は30才になり、妻の一推しである観音坂独歩君が永遠に29才である中(彼もまた作品が長期になるにつれて生まれが平成から昭和にスライドしてしまったと聞く)中で順調に老いさらばえていく一歩を踏み出したが、しかしどっこい生きている。とはいえこのヒプマイ界隈においては妻という導き手がいなくては一寸先は奈落である。
本日。ライブビューイングを含めた土日のイベントに備え、「果たして我々の状態は推しに見せて恥ずかしくない状況だろうか? 否である」という考えの下、我々はファスティング――プチ断食を行っていた。(9/3~9/5まで)月見バーガーの解禁日。しかし筆者は耐えた。体重は1.5kg減っていた。常日頃の妻の料理がおいしいのがいけない。
丸1日以上たつと、空腹の向こう側というべきところに行きつくのだが、ふとした食べ物の情報でグッと食欲が沸き起こる、その高低差に筆者がタービンであれば発電ができるほどであった。「夜マック」――蠱惑的な響き。しかも、マックナゲットが安いのは今日までだ。とうとう、安い期間にマックに行くことがなかった。マック者として恥ずかしくはないのか――自責の念がよぎった。
いいじゃないか。闇・筆者がささやく。
「断食に挑戦したけどマックの魅力には逆らえず月見バーガーとマックナゲットにおぼれました」
これでいいじゃないか。二重の意味でオイシイじゃないか。食べればいい。ブログ記事をエントリすればいい。
なるほど魅力的な提案に思えた。しかし。筆者は横を見た。
妻がいる。リビングでは、番組やCMで魅力的な食べ物が次から次に出てくるテレビは消していた。それぞれのPCからの打鍵音やクリック音、時々妻が巡回先の「尊み」の過供給に「ヌォッフ」と謎の音声を漏らす以外は静寂が横たわっていた。
妻は耐えている。料理を作るのが好き、食べるのはもっと好きな妻が。
筆者は通勤し、妻は在宅で主に業務を行う。通勤ルートには誘惑が多いが、一度出勤してしまえばあれやこれやの業務で気がまぎれることも少なくない。
妻は筆者のいない間、1人で耐えていたのだ。
ああ、筆者も妻と推しには嘘はつきたくないのだ。戦うしかないのだ。空腹と。筆者の脳内では夢野幻太郎先生が坂口安吾先生の「不良少年とキリスト」を高らかに朗読していた。
戦いぬく、言うは易く、疲れるね。然し、度胸は、きめている。是が非でも、生きる時間を、生きぬくよ。そして、戦うよ。決して、負けぬ。負けぬとは、戦う、ということです。それ以外に、勝負など、ありやせぬ。戦っていれば、負けないのです。決して、勝てないのです。人間は、決して、勝ちません。たゞ、負けないのだ。
そうして2人で戦っていると、妻が今日一番の「ヌオッフ」を放った。「ンヌンヌオッフ」であったかもしれない。
妻は静かに、しかし手早く幾らかのウィンドウを閉じた後、自らのPCの画面を筆者に見せた。
ヒプノシスマイク Division All Stars 「ヒプノシスマイク -Alternative Rap Battle-」
このタイミングで新曲が叩き込まれるとは。
我々はそのまま妻のPCで一度視聴し、おもむろにTVにHDMI接続し、今8再生目位である。
空腹を忘れることは簡単である。
より夢中になれるものを見つければよいのだ。
それが食物の代わりに大いなる昂ぶりを胃の腑に放り込んでくれるものであればなおさらである。
本題
余談が、長くなった。
MVを一見して、新規絵の多さに慄いた。これまで少ない既存絵をなだめすかし使いこなしてきたことを比べれば恐ろしいまでの大盤振る舞いである。っていうか皆着替えないんだな。
驚いたのは、動くのである。いや、今までのMVも動いていたがもはや拡大・縮小・スライド・色調整にとどまらずキャラクターが動く。
ヒプノシスマイクにおいてアニメ化は山田一郎君の手首くらいだった時代はもはや終わりを告げたのである。表情差分といえばたったの4文字だけれどそこには年単位のヘッズたちの思いが乗っているのである。
おめでとうアニメ化。君たち、そんな表情するんだね。知らなかったよ。
ビート自体も今までとは少し毛色の違う静かだが有無を言わせない迫力がある、嵐の前の静けさを感じさせるような感じでとても良かった。
以下、それぞれのverseの簡単な感想。
山田一郎君
ゲームの主題歌ということで「PLAY the gameだぜ」で開幕させるのはさすがのラップ巧者。坂本龍馬とアーサー王を並列に語る器のデカさ、スケールのデカさがさすが長男の魅力だ。キャラクター的に考えたら英霊が集うソシャゲの影響だったりするのかもしれない。「パイセン」は直後の彼のことだろうか?
碧棺左馬刻様
一郎君の煽りを「まちゅねぇ」と一刀両断というかワンパンの力強さ。多分全国の「ハマの女」はここで一度輪廻転生を経験したと思われる。左馬刻様のライムで吐かれる英単語はエッジの効いたカタカナに聞こえるところが魅力だと思うのだがカタカナがいっぱいで嬉しい。「まだやるか」の駄目押しオーバーキル具合もいい。
飴村乱数君
可愛い声とフローに惑わされそうになるけれど言っていることは順調に相手の意識改革というか洗脳というかまさしく「ヒプノシスマイク」していてビビる。今後の展開で間違いなくキーキャラとなるであろう彼の展開のヒントがここにも散りばめられているのかもしれない。
神宮寺寂雷先生
「涙目のクランケ」のラインをセルフで引用していてお気に入りなのかなと考えるとちょっとかわいい。ルイ17世に関してはWikipediaによると人の悪意を煮しめたようなものを見ることができてさめざめ悲しくなるが、創作もあるらしくこちらの記事がとても参考になる。
しかしこうなるとドラマCDで独身男性の家からスッとこどもが好きそうなジュースが出て来たことが意味を持ってくるような……。
山田二郎くん
相変わらず攻撃力が高くかつ兄への愛をにじませるライム。こんなに舌を出してるのにハーレムを築いていないどころか彼女もいないなんてそんなことあります?
入間銃兎巡査部長
ちょっと落ち着いたかと思ったが依然せっかちさんであるようである。その弾丸のごとき押韻から一度あえて間延びするフロウで外してからの再びの長めに踏む絨毯爆撃ライムはとても気持ちがいい。
夢野幻太郎先生
流れるような元号ライミング。諸君はH歴では? とかそういうことは些細な問題である。あまりラップに使わないようなボキャブラリーを躊躇なく投入してきてそれがまたキャラクター通りトリッキーに幻惑させながらも面白く作用している。
伊弉冉一二三君
よくとおる歯切れのいい声でえげつないことを言う。観客は絶対に盛り上がる。もし実際にオーディエンスがいるバトルで勝ち負けを決めるなら、彼が一番強いのではないかとさえ思う。
山田三郎クン
多分ロールモデルはLick-Gベースの高ラのいいとこどりだと思うのだが、それが更にいかんなくブラッシュアップされている。小憎らしさがラップとしてのうまさにつながっているのが素晴らしい。
毒島メイソン理鶯元軍曹
いきなりの元ネイビーアピールが可愛い。三郎クンの法律の話題に対して弁証法で切り返してくるのが面白い。アウフヘーベンは声に出したい単語。今までと比べて熱さがよりラップに乗ってきて火力が上がっている感じがする。
有栖川帝統君
いつ聞いても完全に本職な音の波の乗り方が凄い。急にションベンとか出てきてキャッと思ってしまった紳士淑女諸賢もいるかもしれないが、これはチンチロリンにおいて無条件で負けになる器からこぼしてしまうことであることをいうので安心して欲しい。それはそれとして12人の中で一番立小便しそうな彼ではあるが。他方、その歌詞の端々からやはり「没落した名家」出身の予感がしてならない。
観音坂独歩君
「食えてるならいいか」というポジティブさが意外だがよく考えてるとこれをポジティブに感じるくらい今までがやばかっただけのような気もしてきた。差分の恩恵をとても感じる後世になっているように思えた。サラリーマンは、勤め人は歯を食いしばって頑張っているんです。
書き終えて
以上、聞き込むうちに日付が変わってしまったが、解禁日の印象として残しておく。一発書きなのでいつも以上に拙い点はご容赦願いたい。
ゲームの解禁もとても楽しみだし、週末のライブで「あの曲もう聞いてくれたかなーー?」からのこの曲をやってくれるととてもうれしい。
あとみんなの名前がとても難しい。次の機会までにIME辞書に登録しておきたい。