カナタガタリ

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スワンソングには早すぎる――IZ*ONEカムバックソング「Secret Story of the Swan(幻想童話)」感想・妄想・考察

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余談

引っ越しもいよいよ佳境となり、明日は今の住居で最後の燃えるごみの日とあってあらゆる不要物を処分場の業火にくべるべく八面六臂の動きを見せなければならないのだが、我々夫婦はと言えば事ここに及んでNijiProjectに夢中である。

やっぱりオーディション系はそれぞれのキャラクターがわかってくると楽しくなってきて、そしてそれだけに別れの辛さがひとしおである。シーズン1を完走した直後、Huluが情け容赦なくシーズン2を流し始めたが、わずかな間にもともと素晴らしい原石たちがひときわ輝きだすのには驚かされる。最終回の配信までに追いつくのは難しそうだが、しばし翻弄されたいと思う。

本題

さて6月も半ばを過ぎて、どころか最終コーナーに突入してしまったがPRODUCE48が2周年を迎えたり、コ・ユジンさんが芸能界を引退されたり、そしてIZ*ONE(以下文中アイズワン)がカムバックを果たしたりと筆者の狭い韓国芸能アンテナからしても盛りだくさんの月であった。

それぞれ語りたいことはたくさんあるのだけれど、早リリースから1週間が過ぎてしまったアイズワンカムバックソング「Secret Story of the Swan(幻想童話)」についていつものように好き勝手話散らかしたいと思うのでご容赦願いたい。3Mを避け、3Sを摂取するのが新しい生活様式のポイントである。

 「あなた」をいつも中心に据え続けてくれるアイズワン

6月15日。今回のアイズワンのカムバック日。

プロデュース先が変わってからの初のカムバックの「ちら見せ」のたび、POP路線か、ガールクラッシュか、と思わせていつもの「エレガント」ももちろん楽勝ですけど? と言わんばかりに見せつけてくれる様子は不安を払拭してくれたようで痛快だった。

そして2年前のこの日は、PRODUCE48の放送開始日でもあった。

このたびのカムバックがどうにも急ぎ足にも見える点が目立ったのは、もちろんコロナ禍の諸々もあったのだろうけれども、ここに照準を合わせるためにバタバタした、というのもあったのではないだろうかと思う。

ではここでMVを見てみよう。

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て…尊(てぇて)ぇ~~~~………。

10年に一度の名曲「La Vie en Rose」。

100年に一度の神曲「Violeta」。

カムバックに至るまでの経緯も含めもはや千古不易の詩となった「FIESTA」。

これらの後に続く曲を提供してくれと言われたら筆者であればその日のうちに高飛びするが、しかし「Secret Story of the Swan(幻想童話)」もまたそのように上がりまくったハードルの中にあってなお筆者を強く感動させてくれる作品であった。

それは良質かつタイトル曲としては新鮮なテイストの楽曲だからというだけでなく、今もなおアイズワンは「あなた」―国民プロデューサー、そしてWIZONE(ウィズワン)をその物語の中心、コアに据えてくれていることがわかるからである。


[ENG sub] PRODUCE48 [최초공개] 프로듀스48_내꺼야(PICK ME) Performance 180615 EP.0

彼女たちが「96名の練習生」として我々の前に現れた時の楽曲、「ネッコヤ」は次の1節から始まる。

I promise I promise I promise……

彼女たちは我々の元へ、約束をしにやってきた。どんな?

ネッコヤの歌詞はこう続く。

2人の果てないストーリー

見せるよ 君のために

翻って最新作では彼女たちはなんと歌っているだろうか。

来てみて あなたも童話の中
Oh 2人だけの
秘密をつくるの

ネッコヤセンター・宮脇咲良さんはそのように歌う。

この時、大きな柱時計の振り子のようなものを避けながら宮脇さんはこちらに向かってくるが、この振り子は彼女たちへの誹謗中傷の比喩ではないかと思う。ある記事によれば、彼女たちに寄せられた誹謗中傷は13GBに及ぶという。どのような保存形式での容量かはわからないが、筆者の手元にある青空文庫に収録されている夏目漱石の作品を全て納めた電子書籍のデータは8MB程度であるからその向けられた悪意がいかに膨大であるかがわかるだろう。

また、大サビではメインボーカルのチョ・ユリさんが

ここに広がる Paradise
2人だけの新しい世界へ
この瞬間 永遠に続くの

と高らかに歌い上げ、「ネッコヤ」で交わされた約束が最新作においても確かに生き続けていることがわかる。

また、個人的には「ネッコヤ」の中でも特に泣きたくなるほど切実なフレーズ

幸せならこの手を握って
離さないで cuz you`re my star
私は君のためのヒロイン
I want you pick me up

 についても、

あなたの手で始まるのよ Fairy tale

とさらにワンフレーズに圧縮させながら呼応させることに成功している。自らの手で「推し」をクリックし切々と投票していたことを思い出させるキラーフレーズだ。

けれど今、この「2人のストーリー」は決して手放しに歓迎されていないことも最新曲では示唆されている。

セクシーキュートの代名詞、チェ・イェナさんが伝家の宝刀小首傾げを炸裂させながら言葉を繰り出す。

誰に何と言われても
君と同じ夢見たい

これは喰らった。既に楽曲が完成、カムバック直前という段階であった時に塩漬けに追い込まれた「FIESTA」は奇跡のカムバックを果たした時にその歌詞の内容がまるで預言のようにシンクロしたことがまた筆者を感動させた。

他方、今回の楽曲は騒動後に収録されたものであろう。つまりオーディション番組という存在そのものの根幹を揺るがしたあの不正騒動を経てなお、彼女たちはこの歌詞を我々に届けてくれた。

前述したように彼女たちが受けたバッシング、誹謗中傷は言語に絶する。これは筆者もこのブログで何度も記してきたことであるが、不正は絶対に許されないことである。しかし現在のアイズワンメンバーを含む当時の練習生諸賢がデビューに向けて取り組む姿勢は嘘偽りない切磋琢磨であり、そこに唾棄すべき「大人の事情」が入り込む余地がなかったことはリアルタイムで見ていた人間として確信があった。だからこそ目先の利益のためにすべての努力を汚い欲望で塗りつぶした「大人」達には本当に失望したし、全ての参加者が心配で仕方がなかった。この件に関してアイズワンは完全に被害者なのである。

あの時の推しに対して「ただ生きてさえくれればいい」と祈り続けた毎日のことを思い出すたびに本当に苦しくなる。

それをすべて飲み込んで、咀嚼して、消化して、彼女たちはそれでもまだ、「同じ夢を見たい」と言ってくれるのである。これが感動でなくて何だろうか。

 いや、あるいはできていないのかもしれない。というかそんな誹謗中傷に対応などせず美味しいものを毎日食べていてほしいが、ともかく彼女たちは「プデュ」を黒歴史にはせず、自分たちのルーツとして今も揺ぎ無くある、それを「夢」と表現してくれている、というのを感じられたような気がして大変うれしく思った。

今なおPRODUCEシリーズすべてが配信停止されているという事実の前ではその夢は幻想の童話かもしれないけれど、101回困難が現れても101回克服して、アイズワンは、ウィズワンは永遠に向かうのである。

輝くあなたの
光に続いて
主人公のように童話の中 Fly away
夢見てきた全てが
手に届くその日まで
あなたのために
優雅に

ガールズグループのアルバム歴代売り上げを12フィニッシュしても、女神の美しさトキシンのパフォーマンス力を併せ持ってもなお、彼女たちは「あなたのために」と言い続けてくれるのだ。こんな推し甲斐のあるグループが他にあるだろうか。

「Swan」は歌詞にある通りの優雅さと、水面下でのすさまじい努力を感じさせる素晴らしい表題だと思うが、他方「スワンソング」は亡くなる直前の最高の歌という意味があり、お願いだからその意味は込めていないでくれ、と切実に思う。

蛇足

でもやはり、虹プロを見た後だと「今年は本家PRODUCE101はガールズシーズンだったのかな…みたかったな…」という亡霊が筆者の中に現れるのを否定はできない。

「CUBE! 『ギャップの女王』の事務所だわ」

「プデュにも出てコンセプト評価まで進んだあの人が再挑戦⁉」

「私たちは幼いチームなんですが『La Vie en Rose』はエレガントな曲なので……」(主題歌ピアノver.)

とか、どうしても幻視してしまうのである。