カナタガタリ

すごくダメな人がダメなすごい人になることを目指す軌跡

最高の瞬間を待ち望んで下されるサイコな審判―アニメ「『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』Rhyme Anima」ネタバレ感想

Straight Outta Rhyme Anima

タイトルが長い……!

二年ほど夫婦してハマっているコンテンツ「ヒプノシスマイク」がアニメ化し、そして最終回を迎え下らない日常が二週間ほど経過した。

本来なら昨年のうちに記事にしておきたかったのだが、気持ちを整理するのにそれくらいの時間が必要だったと思っていただければ幸いである。

何故時間が必要だったか。批判的な内容を含むからである。好きなコンテンツの批判をすることほど筆者にとって悲しく、消耗することはない。

筆者にとって九割五分、理想的なアニメ化だった。

だからこそほんのわずかな筆者にとっての引っ掛かりが今もまだ、胸につかえて取れずにいる。それを文章にし記事にして摘出することがこの記事の狙いである。

ということで以降は批判的な内容を含むネタバレ記事になるのでご留意の上お読みください。

 

第1話 As soon as man is born he begins to die.

第1話 As soon as man is born he begins to die.

  • 発売日: 2020/10/05
  • メディア: Prime Video
 

↑なんだったらアマゾンプライムで全話配信中なので是非見てほしい。 

本題

推しが動く、喋る、ラップする感動。

 待ち焦がれたヒプノシスマイクアニメ化。

山田一郎の片手に始まり、アプリ・ARBの差分絵を経ての完全アニメーションには全ヘッズが熱狂したに違いない。コロナ禍においてドームライブが中止となり、アニメ自体も延期となる中、Abemaでの配信などを経てその期待はいや増していった。

筆者もOPが非常にアニメ主題歌らしいパートに繋がることに不思議な気持ちになりながらも、公式ガイドブックを手に入れたりファンクラブに加入したりしながら幸福な「おあずけ」を食らっていた。 

放映初日。BSによって地方民でも最速同時できることに感謝しながら、妻とライブパーカーを装備して見た。四者四様のディビジョンの様が描かれ、ラップし、爆発した。

 ツッコミ不在で進む、ある種インタラクティブSNS時代らしい実況向きのアニメ(久々にニコニコ動画にログインしてみるコメントつき版も最高だった)という感じで、特に続いての二話はツッコミどころ・ラップ・オリキャラのキャラの立ち具合と完璧だった。それ以降はやや抑えめになってしまったが……(原作を摂取しているからそう思っているだけで初見勢諸賢は(おっと韻を踏んでしまった)よくもこんなクレイジーアニメを! と思っていたかもしれないが……)

作画も崩れず、毎回極上の新作ラップを惜しげもなく取り込んでいくその姿勢には感服させられた。一方で、二話の「俺は一郎」のように既存楽曲のビジュアル化も期待していただけにそちらは少し残念だったが、常に「更新」、今その時が全盛期だというコンテンツとしての矜持を感じたように思えてうれしかった。

二話路線をずっと継続してほしかったという気持ちはあるが、しかし余りに「上級者向け」であると、「ニンジャスレイヤーアニメイシヨン」のように表面の分かりやすいネタ部分だけを面白がって消化されてしまう可能性があり、そうならずに済んだのは良かったのではなかろうか(「マグ…いやタマゴだ」のセリフが忍殺シヨンで抹消されたことを許す気はない)

バトル楽曲ではない「MCバトル」のアニマとしてのアンサーが素晴らしい

かつて四ディビジョンは「バトルシーズン」においてバトル楽曲においてバチバチの戦いを繰り広げた。それは素晴らしい出来であり、筆者もここからこのヒプマイの沼にハマっていったが、しかしあくまでも「楽曲」、やり取りの間にはHook(いわゆるサビ)が存在したし、それぞれのパートごとにバトルビートには「味付け」が存在した。

MCバトルという風習になじみがない層にアプローチするために楽曲にバトルを落とし込むということ自体が画期的である。しかも実際のMCバトルとは違い、勝敗は後になるまでわからないのだから楽曲作成者の心労たるや察するに余りある。

しかしある一つの「ビート」を各人がどのように料理し、そしてビートと相手を支配していくのかということにおいては物足りない部分もあった。

アニマではどうであったか。実際のMCバトルと同じく同一ビートをターンごとに回し、ともすれば生まれる単調さを激しい絵づくりとSEで盛り上げてくれた。さすが昔取った杵柄、彼らがダメージを受けるごとにLPの減る「ティリリリリリ」という音が聴こえるようにさえ感じた。碧棺左馬刻様のラップアビリティが発動する瞬間など完全に「リバースカードオープン!」の趣である。

やはり新作のラップ部分も含めて(個人的には三郎の理鶯へのディスが「野郎…タブー中のタブーに触れやがった…」の気持ちそのままになって最高であったし、幾度もヘッズからこすられてきたそのネタについて理鶯が未だもって軍人であるという自負で斬って捨てるアンサーも良かった)「ヒプマイでのMCバトルをアニメ化する」ということに関して素晴らしい回答が得られたことは喜ばしい。


公式ベストバース集/戦極×AsONE 戦クロ4(2019.4.29)

ちなみにダイジェストであるが実際のチームバトル式MCバトルはこんな感じ。この中から次回のバトルシーズンに楽曲提供者が出てくるかもしれない。(既にヨコハマにがっつり関わっているサイプレス上野さんも出ている)本当はここで颯爽とフリースタイルダンジョンを紹介したかったんだけどな……。

クライマックスに向けて大きくなる違和感

伝説のチーム「The Dirty Dawg」のお粗末すぎる戦略

ラップが変わっても勝敗の結果は変わらず、王者が決まり、そして周囲がきな臭く動き出す。風雲急をつける事態において食べ歩きディビジョンだとばかり思われていた三人組がアニメオリジナルディビジョンである「Secret Aliens(シークレットエイリアンズ)」であると判明し、言の葉党に味方する彼らによってディビジョンオールスターズは窮地に陥る。

だが、他方で処刑されそうになった飴村乱数たちに助け舟を出すシークレットエイリアンズ。それはディビジョンオールスターズを助けるために捕まった Fling Posse(フリングポッセ)を人質に、言の葉党無しの正々堂々のラップバトルを行うためであった。

かくして伝説のチームThe Dirty Dawg(ダーティドッグ/T.D.D)が再結成される形でバトルが勃発する!

もとより4VS3であるが更に先攻を譲り、回復までさせてくれるシークレットエイリアンズ。(実際のMCバトルではビートの感触をつかめる、相手の出方を伺えるので後攻が有利であることが多いのはそうなのだが)

シークレットエイリアンズの先鋒・アイリスは恐らくはチーム全体にバフをかけるタイプのラップアビリティの持ち主で、初めに繰り出すことに意味のある采配だ。「デイサービス」というMCバトルで耳慣れないパンチラインも新鮮かつ痛烈である。

これに対抗して出てきたのは碧棺左馬刻様だった。

ん?

アニメでもあったように、彼のラップアビリティはカウンター。ダメージが蓄積するほど反撃を強力に放つことが出来るようになる。どう考えてもダメージが回復した直後に出てくるべきではない。案の定、続けての太郎丸レックスの攻撃を受けての、即席の飴村乱数・山田一郎のタッグも会心の一撃には至らず、トムの「本気」のラップでシークレットエイリアンズは分身…いや万華鏡状態となり(深く考えないように)12VS4で形勢逆転されてしまう。

トムは言う。経験の違いがこの結果なのだと。日本最強MC集団T.D.Dは井の中の蛙であったことを突きつけられるのだった……。

――そうだろうか?

経験がどうとかいうが山田一郎は戦災孤児、碧棺左馬刻様は母が父を殺したのち自殺、妹は失踪中、飴村乱数はいわずもがな、神宮寺寂雷先生は世界中の紛争地を転々としていた経歴を持つ。見てきた修羅場の数では負けないだろう。

敗因は徹底的に戦略の甘さである。先攻を譲ってもらったことを幸い、相手の最初のターンはバフに使うことを見抜けば道中に負った傷を回復する前にまず碧棺左馬刻様のラップアビリティによってカウンターを叩きこみ、次に飴村乱数のラップアビリティ「幻惑」によって太郎丸レックスの攻撃を攪乱した上で神宮寺寂雷先生のラップアビリティにより回復した山田一郎がクリティカルヒットをぶちかませば十分に勝てる可能性があったのではないだろうか。

あるいは、敗れてもいい。敗因を「絆」に求めるべきではなかったか。家族のような絆で結ばれたシークレットエイリアンズに対し、再結成とはいえ互いの溝が埋まっていないT.D.D。それが勝敗を分けたのだ――という展開が、この後の流れを考えてももっともらしいのではないかと思う。

やはり物量……物量はすべてを解決する!

命運尽きたかに思われたかと思った時の「ちょっと待ったー!」的王道展開により、集結したディビジョンオールスターズ!

聞こえてくるのは聞き覚えのあるあのイントロ……これはヘッズが大好きなOPを最終盤に持ってくる……!!

「「「サイコな審判!」」」

ん?

炸裂したのは二番であった。2番手、3番手のディビジョンを超えた共演などとても熱かったのだけれど、やはり「文脈」として考えた時、それぞれのチームの名前を叫ぶ1番を歌ってほしかったなあと思う。もはや青春の影となったT.D.Dではなく今はそれぞれのリーダーとして、ディビジョンをしょっていくことで口から湧く力、それこそがシークレットエイリアンズを打倒せしめたのだ…と思いたかったのである。12VS3(+9 万華鏡)だったからとかじゃなくて。この辺、万華鏡状態になった時点でポッセ組が「こんなの4VS12じゃねーか!」とかフォローを入れてくれてたらよかったのになあ。

で、山田一郎はトムに対して勝因を「ラップを楽しんでいたか否か」というのだが、確かに「ラップってたのC~!」がヒップスターの合言葉であるのだが、バトル編に入ってから山田一郎がラップを楽しんでいたとは全く思えないのである。碧棺左馬刻様への復讐心、敵対心が彼を突き動かしていたはずだ。

逆に言えば、万華鏡されて絶体絶命の時に「俺はこのところずっとラップを楽しめていなかった……だからこんなことに……」みたいなシーンがあればすべてが美しく繋がり、より納得度が深まったと思うし、前バトルシーズンの総括にもなっていたはずである。

キャラクター崩壊が著しい勘解由小路無花果

とはいえシークレットエイリアンズとの決着もつき、大団円……と思いきや内閣総理大臣補佐官兼警視庁警視総監兼行政監察局局長である勘解由小路無花果は再び数多の部下を引き連れて立ちはだかる。シークレットエイリアンズへの協力を強いる勘解由小路無花果だが、山田三郎がそれまでの言の葉党の乱行を録音しており、世界へ拡散すると脅すとそれによって再び日本が混乱すると説得を試みる。山田一郎他が更なる反論をしようとすると激昂、手を下そうとするも言の葉党党首・東方天乙統女の鶴の一声によって「今日はこれくらいにしといたる」といわんばかりに引き下がるのだった……。

が、原作を参照すれば山田三郎がアクセスしている一見非合法のディープなインターネットすら言の葉党の管理下であり、事前にアップロードすることが分かっていればその妨害は簡単そうだ。そこに執着する小物ムーブは今まで築いてきた勘解由小路無花果像が揺らいでしまったようで遺憾である。まさかのすごすご退散よりは、圧倒的多数の戦闘員VSシークレットエイリアンズも加わったディビジョンオールスターズでのラップバトル(ここで二番がかかる!)の方がカタルシスもあったと思うのだが……。

男は結局争う愚かな生き物、バトルはこれからだEND

 そしていよいよエンディングに突入するが、先ほど大見得を切っておきながら男たちは争う愚かな生き物であることを全力で証明する結果となってしまった。どことなく尺のない打ち切り感があるが、それ以上に残念なのは「次」の布石が打たれており、碧棺合歓が登場しておきながらナゴヤ・オオサカ勢が一人しか出てこなかったことである。せめて顔見せくらいはあるのかと思ったが……。

繰り返して言うが、個人的にほぼ完璧なアニメ化だった。それだけに、最後の最後ですっきりしない、御馳走の残りの一口を頬張ったら口の内側をガリっとやってしまったような切なさがある最終話であった。

とはいえ配信ライブ、バトルシーズンと加速していくヒプノシスマイクを引き続き追いかけていきたい。

ラップってたのC~~!!