カナタガタリ

すごくダメな人がダメなすごい人になることを目指す軌跡

ウロボロスの宴/嘘滅ぼすNon-Target――ヒプノシスマイク -Division Rap Battle- 2nd D.R.B Final Battle 『Buster Bros!!! VS 麻天狼 VS Fling Posse』「SHOW DOWN」感想・妄想・考察

余談

いよいよ結果発表当日、ただいま17時9分である。なんとか18時半までには仕上げたい。

三つ巴の戦い、ひとまず中間発表ではシブヤに軍配が上がった。しかしどのディビジョンも気持ちでは負けていないことはTLからもバシバシに伝わってきた。

あくまで筆者個人の感想として、素直に楽曲を聴き、MVを見た時の気持ちに立ち返って、(今回VRは視聴できなかったのは痛恨である)この戦いの勝利者を妄想し、あわよくば考察につなげたい。

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油断するとうっかり二周三周してしまう名曲である。

特にイントロがべらぼうに良い。

SFCスーパードンキーコング」のラスボス戦の曲が筆者はとても好きで、(任天堂SFC時代のサントラをデジタル配信してくれ……)それまでの旅路を振り返るようなイントロに抒情を感じたものだったが、この曲のイントロにも近しいものを感じる。

どのディビジョンも無傷の勝利ではなく、ボロボロになりながら、それでもなおこのステージへ歩を進めた。

エフェクトがかかりながらのそれぞれのディビジョン名を名乗る、「レぺゼン」するその声の力強さ、それだけで知った時は観音坂独歩と同じ年だったはずなのにいつの間にか32歳になってしまった筆者は涙腺を刺激されてしまうのであった。

本題

ブクロ西口世界の中心!

VSシンジュク

早速バトル内容を見ていく。イケブクロは後攻スタート。対するのは前回王者・シンジュクである。

先鋒は決勝ラウンドオオサカと同じく三郎だが親父相手の時と比べてどうも言葉にキレがない、いや、ラップそれ自体は見事な仕上がりなのだが、まるで書いてきた歌詞のようなそれは「目の前にいる観音坂独歩」へのアンサーとしてはやや弱い。

「自分の状態」を上げ、「相手の汎用的な状態」を下げるのラップというのはつまり「事前の仕込み」が効く。

これはラップバトルでは「ネタ」と言われ、リアルタイムで応酬される「アンサー」に価値を重く見るバトルではやや軽んじられる傾向がある。

この辺り、大舞台に緊張して自分の引き出しで何とかしようとする幼き天才ラッパーとして設定しているなら実に見事だが、しかしその結果はこのハイレベルなバトルの中では「即死ぬ騒動」とまではいかないまでも相手に有効打を与えるのは難しいだろう。

恐ろしいのが二郎である。後述するがヒプマイラップでも屈指ではないかと思われる一二三のラップの後に「経年劣化」と切り捨てるこの切れ味は凄まじい。まさしく一発で打ち砕くヘビー級のパンチ、二郎らしく言えば無中継ロングシュートがキーパーの死角からゴールへ深々と突き刺さったようなラップだった。

これだ、これがシンジュクへのブクロの対抗法だ、と思わず聴きながら身震いした。

おっさん達は庇護者を気取るけど俺たち若者はそんなに弱くないっつうの、というその「若さ」こそがブクロの武器であり、ナゴヤが払拭しきれていなかったそこに付随する傲慢さをストーリに即しつつ、ブクロがブクロであること、二郎が二郎として、一郎の継承者として描写されてきたことを活かしつつ見事にラップの背景に乗せたことでラップに「重さ」が出た。

一二三のラップが見事だったゆえに、カウンターとしてこれも強大に作用した。

一郎はしかしそれを活かしきれなかった印象である。ラップ自体は素晴らしい。

だが、どうしても筆者が山田一郎に求めるものと言うのは恐らくは登場人物の中で一番厳しくなってしまう。

そして今回、それを満たしているようには感じられなかった。

VS乱数と重複しそうな部分は省くが、「新たな時代はここから」と嘯くには「そりゃコトだな」といなすだけでは足りないのである。(相手の「言霊」から拾って「コトだな」「言葉は」「愚かだ」「ここから」と怒涛の押韻返しをするのはさすがのすさまじさだが)何が愚かなのか、何で新たな時代がここからなのかという説得力が一郎には感じられないのだ。メタな話になると、木村昴さんの凄まじいラップスキルは伝わってきても、山田一郎は自分のわがままで兄弟に苦労をかけ、チームを背負う重荷まで二郎に引き継いでもらおうとしているように思えてしまう。

二郎ならば、このアンサーで良いだろう。しかし一郎だからこそ、もっと背景の見える、感じられるラップをしてほしい、と言うのは正直なところVSオオサカからずっと思っているところである。

「忖度抜きのそんな空気」ではなく、「主人公格チームのブクロを優勝させたい」というムーブメント、言うならば忖度を貪欲に活用してでも勝利を奪い取りたいという姿勢がもっと感じたかった。

VSシブヤ

再び切り込むのは三郎。やはり見事ながら目の前に相手がいなくても、例えば相手か毒島メイソン理鶯であっても通用しそうなラップは感心はしても感動はさせられない。

後述するが、相手のラップがあまりに凄まじかったのも三郎にとっては不幸であった。

で、この日の二郎はマジでキレッキレである。そうだ、お前が大統領だ!と歓声を上げたい。完全にチームのエースに成長した二郎もしかし前方の敵への的確な攻撃であったとは言い難いラップだった。

相手もまたエモエモであるがメタ的であったので二郎にクリーンヒットしたとは思えず、痛み分けとなっただろうというのは幸いだったが。

一郎……。相手が死を背負ってきているのに彼にとっての未来の象徴が「まだ読んでないラノベが沢山ある」というのは勿論彼のキャラクターの側面から言ってわからないこともあるのだが、これまで「山田さん兄弟の長男」であり、「ブクロの顔役」であることが売りだったはずの一郎が急に未来図として等身大のオタクをお出ししてしまうのはもうちょっとなんとかならなかったのだろうか。

あの時から敗北を受け、諸々を見つめなおしたのは分かるが、一郎は筆者としては「誰もが世界の主人公」なんて言わず「俺が一郎」、オンリーワン、ナンバーワンであってほしいと思ってしまうのであった。

残念ながらこの一郎から筆者は「威信」を感じられない。

シンジュク:痛みに打ち克つGroup

VSブクロ

やっべ18時だ。サクサクいきたい。

観音坂独歩は前回バトル初戦から見たらこんなに立派になって……と感慨もひとしおである。「ちょっと」であっても安穏であることなんて観音坂独歩の人生にどれだけあっただろうか。バトルに適応する会社員は自分自身をレぺゼンできるまでに強くなった。白黒はっきりしてるしな、バトルは。

伊弉冉一二三のverse(ラップ)はちょっとすごい。病める街シンジュク、不夜城の明かりを航空灯火になぞらえ、行き場のない若者たちの安息場であろうと自らとシンジュクを定めるその覚悟は痛切であり、綴られるリリックは美しい。ナゴヤまじちゃんと襲撃の件謝ってくれよな。

一方で他の表現もいくらでもあるだろうにわざわざ暮夜(ぼや)を使ってくるのは小火(ボヤ)を連想させ、「歯型の火傷」と読み合わせるとやはり一二三の過去に家を燃やされたか何か、火に関するトラウマがあるのではないか……と思えるラップでもあった。

しかしバトルにおいてはこれをさっとちゃぶ台返ししてくる二郎のアンサーの方がパンチラインとしては強いだろうというのは前述したとおりである。

神宮寺寂雷先生のラップは通常運転であり、戦場を見てきた重さがリリックに乗ってきて総合的にVSブクロは判定勝ち、というところではないかと思う。

VSシブヤ

ブクロに続けて独歩がしっかりビビらず「大人の対応」していて小気味がいい。奇しくも暮れのシーズンに差し掛かってきていることもあり、幼馴染との連携も決まってここは独歩の勝利としたい。

続けても夢野幻太郎の殺意満点のラップを煙に巻いてんのはどっちだよ、という感じでいなす一二三が気持ちがいい。しかしこの一二三、多分怒っている。それだけ彼にとってホストクラブというのは大切な場所なのだろう、ということが伝わってくるのは積み重ねをしっかり活かせている。

シンジュクびいきということもあってこのままジュク二冠か……と思いかけた筆者を絶望させたのが神宮寺寂雷先生のverseだった。

「君の嘆きを見逃しかけた」

これはいけない。シンジュクは有象無象の区別なく、森羅万象を救い殺すとでもいうべき覚悟を決めたディビジョンだと筆者は感じていた。

それは過去の過ちを踏まえて、そしてそれを乗り越えた――「痛みに打ち克」ったからこそできるのだろうと。

しかし、「かけた」はいけない。神宮寺寂雷先生はかつて、飴村乱数の嘆きを「見逃して」いるのである。荒れ狂う海、彼の心が差し出していた手を倫理観というカルネアデスの板でもって彼は拒絶した。

それが本能的なものだったから本人もカウントできていないのか、それともあえて無視しているのか……。

それはわからないが、筆者としては「かつて見逃してしまったが今度こそ容赦なく救う、相手のことなど考えずエゴと言われても救う」という姿勢を見せてほしかっただけに残念であった。少なくとも、VSシブヤは落とした、と確信した。

永久に語り継げFling Posse

VSシンジュク

うおー18時20分!

有栖川帝統のラップは相変わらず小気味がいいが、独歩はそんなことしません、という返答で終わってしまうのはいただけない。本質的にアンサー、対話型ラッパーなので先攻が得意ではないのかもしれない。

「夢野幻太郎」も恐らくは兄への侮辱絶対許さんマンと化しているのでその殺意は特級であるが、(帝統の「ナンマイダー」の煽りも最高!)それだけにラップは闘牛士に突進する闘牛よろしくひらりとあしらわれてしまった。本来夢野が得意な領分なのだが。

前回のバトル再びか……と思った時に出てくるのは飴村乱数。決勝ラウンドでの「絆の強さが違うんだよ」を体現するかのような華麗なラップはしかしよく見れば痛み(Hurt)を心(HEART)でつぎはぎした歪なもので、だからこそ一層輝いて見える。

かつてアイデンティティの海で溺れていた時、引き揚げてくれるはずの手は振り払われた。今更その相手は自分を海で探しているが、もう遅い。

自分は今の仲間たちと空高く、宇宙の果てで光り輝いているのだ。

だから、無視。一筋の哀しさを満点の絆で彩ったそのverseは、余りにも重いパンチラインだった。

VSブクロ

18時33分になってしまった!

さてここまでで筆者の感想を曲の展開で追うと、

シンジュク〇ーブクロ×

シンジュク×ーシブヤ〇

という形で勝負はシブヤとブクロがどうなるか、ということになってくる。

ここで筆者的にはヒプマイ屈指の名リリックが飛び出す。

「いいか全額出して 天が下した お膳立て茶化すが一生よ!」

これはめちゃくちゃ喰らった。車中で一人口ずさみながら帰路を急ぐ時、いつもここで鼻がツンとして言葉が詰まってしまうレベルである。

天(中王区)に運命を操作されたものが集うディビジョン、Fling Posse。そのメンバーである彼らは「運命を変える」とは言わない。「微調整する」「茶化す」それが彼らのスタイルだ。

刹那的で、退廃的、まるで一過性の流行ファッションのように。突発的ベストセラーのように。奇跡的大フィーバーのように。瞬間的に輝き、そして消えていく。

たぶん、彼らは、それでいいと思っている。

「証明していく存在を」

それが出来れば。Fling Posseというチームがあるとき存在した、その事実を、誰かが「永久に語り継げ」ばいいと。

そこに自分が、自分たちがどうなっているかはない。刹那。この一瞬。この1verseがほんの僅かでも先に相手の胸元に届けばいい。そこに全力を注ぐ、それだけに賭けている。全額BETしている。

これは、勝てない。

シブヤの優勝――これが筆者の結論である。

乱筆乱文であるが、結果発表もますます近づいたのでこの辺りにしておく。

非対称(Non-Target)な男たちがしかしウロボロスめいて、あるいは蟲毒めいて繰り広げられる闘争は経歴も何もかも嘘だらけの、しかしラップでむき出された魂だけは嘘をつかなかったディビジョン、Fling Posseが制することになるのか、筆者も座して待ちたい。

ヒプノシスマイク -Division Rap Battle- 2nd D.R.B Final Battle 『Buster Bros!!! VS 麻天狼 VS Fling Posse』