※タイトルの通り「ひぐらしのなく頃に業 『郷壊し編』」までのシリーズ全般のネタバレがあります。
余談
「ひぐらしのなく頃に」。筆者と同世代でゼロ年代からサブカル文化、インターネットに触れていた人間であれば恐らくその残滓ですら掠めなかったということはまずなかったであろう作品だ。そうでなくとも、現実の痛ましい事件の「元凶」として槍玉にあげられた報道をご記憶の諸賢もいるかもしれない。
筆者はどうであったか。当時はミステリ、分けても講談社ノベルスを濫読していた頃で、「正解率1%のミステリー」という売り文句に筆者は俄然引き付けられた。だがネタバレを恐れることもあり、聞きかじった情報のみ得ていた筆者はPCでするゲーム=いわゆる「エロゲ」であると思い込み、また当時は今以上にオタク番外地であった鹿児島に居住していたこともあり、「原典」に触れることはついぞできずにいた。
それでもオタクとして過ごしている中で、ひぐらしの「侵食」は進んでいた。巡回するサイトの管理人さんの日記、チャットでの例え突っ込み、ニコニコ動画でのMADやコメント欄、やる夫スレの登場人物……そうした中で筆者は本編を知らないまま、脳内で登場人物たちの人物像を積み上げていった。
いわゆる共感性羞恥を体感する「ひぐらしコピペ」や同じ作者が書いたという「怪談で踊ろう、そしてあなたは階段で踊る」を途中で挫折するという経験を経ながらも、筆者と「ひぐらし」は距離を保ち続けた。もしかしたら筆者がもう少し裕福であれば、講談社BOX版を買い集めていたかもしれない。
今年、ひぐらしが再びアニメ化する、ということも筆者は知らなかった。きっかけは、妻が作業BGMに旧ひぐらしアニメを見ている、ということであった。どうも再アニメ化の宣伝のためにAbemaで無料配信をしているらしい。
どうも妻は、ひぐらしをこよなく愛するタイプの人間であるらしく、筆者はこれはチャンスだ、と思った。無料配信は4日間という制限があるのもいい。背水の陣である。早速夫婦で旧作を見始めた。やはり今や三十路を超えた筆者には当時のアニメのノリは些か辛いこともありながら、しかし散々方々で耳にしてきたBGMが生み出す没入感はすさまじく、食い入るように見た。負のカタルシスが発揮され、不安と不穏を残したまま何事もなかったように新たに話が展開され、頭が混乱していく。一応の推理を試みて、なるほど「信頼できない語り手」の手法が使われているようだ、と分析をしてみるものの、針の筵のような、真綿で首を絞められるような、それこそ夏の寝苦しさのような不快感に悩まされた。
ひぐらしのなく頃に・殴 pic.twitter.com/nWjL0w2srs
— 木本 仮名太 (@kimotokanata) 2020年10月27日
フィットボクシングと組み合わせることで効率的な運動を図ったというより、そのもやもやを発散したいという気持ちで拳を振った。ずいぶんはかどったものである。そうしてそれらが「目明し編」「罪滅し編」で一応の収束を見た……と思ったところからさらにひっくり返してきたのには驚かされた。プライムビデオで続きが配信されていると知り、続けて見た。「解」に至って、妻が筆者の疑問にぽつぽつと補足をしてくれたりもしていた。(祟殺し編の最初の死体も特に説明がないので筆者はずっと悟史だと勘違いしていた)妻は筆者が震えてみている間、「実はこの時……」「さあ、ここ気付けるかな」「これ伏線ね」などという茶々を入れることは全くなく、満点のペースメーカーであったと言える。彼女が筆者に「解」に至る前に問うたのは、「罪滅し編」までがミステリーの範疇だけどここから先も見る? という点だけであった。筆者も何となくひぐらしがその解答に至って「荒れた」というのは聞いていたので了承し、そこである程度の覚悟はしていたのでそういった意味での驚きは少なかった。というか講談社ノベルスでミステリーかと思って読んでいたら最終的に「人類の存亡を賭けた最後の闘いが始まろうとしていた」で〆る作品を既に読んでいたので「あ、そのパターンですか」くらいの感じであった。読んでてよかった講談社ノベルス。鵺の碑は筆者が生きている間に出るのだろうか。
報連相の大事さを思い知りつつ、その大団円にはやはり熱い気持ちになった。「ひぐらしコピペ」も適材適所であればしっかり感動させてくれた。平成ライダーの登場人物たちは今すぐひぐらしを履修するべきである。戦う前にちょっと話したら避けられそうな戦闘が多すぎる。
勢いで漫画版も全巻買い、その後奥付で発行ペースを見て驚き、こればかりは一気読みできるのは後発組の特権であるな、と思った。
そしてそのまま、夫婦で新作も視聴することになったのだった。
本題
余談が、ながくなった。
「ひぐらしのなく頃に業」1話。やはり「ひぐらしのなく頃に(曲名)」は偉大だと思いながら、妻は既に「コト」の重大さに感づいたような顔をしていた。
それからは毎話、驚かされている。
恐らくは意図的に、我々は古手梨花の疑似体験をさせられている。知っているけれど少し違う世界。必勝法などない、「勝ちパターン」に入ったと思ったことを何者かが嘲笑うかのように「反転」する結果。
竜宮レナは言う。
「見かけとは逆が真実かもしれないよ」
裏目に出続ける出来事をメタ的に俯瞰するかのような言葉を裏付けるようなその言葉。旧作では発症しなかった人物が発症し、援護してくれた羽入はもうおらず、オヤシロソードも不完全である。
それでも繰り返し続ける悲劇。それはかつて100年の時を経て得た「祭囃し編」のその後だということがとうとう確定し、筆者はひどく落ち込むのであった。
「猫騙し編」は特につらい。突破口となりそうな人々が丁寧に発症させられている。それでもあがく古手梨花はトラップマスター・北条沙都子にトラップを仕掛け、それを指摘された彼女は古手梨花に銃口を向ける――。
そして現在「郷壊し編」として「祭囃し編」のアフター、「猫騙し編」の前日譚が語られている。市内に進学し祭りの日にも来ない魅音、部活を開かれた場所として後輩に道を示す圭一とレナ。御三家としてもオヤシロ様の祟りを否定し、症候群も消滅に向かうなど良い方向に向かっていくように見える未来。
そんな中、古手梨花も「外」聖ルチーア学園を共に目指さないかと北条沙都子を誘うのだった……。というのが現在のところの最終話である。
ここから恐らくは北条沙都子が暗躍する今回のループに繋がる訳であるが、しかしまだまだ謎が多い。多くの人が北条沙都子の受験失敗を前提として考えているのがおかしいやら悲しいやらである。
北条沙都子が単独でループできるとは考えづらく、となればやはりミステリとしては禁じ手であるけれども何かしら人外のものが黒幕として関わっていると考えられる。例えばピッコロ大魔王のようにかつて切り離された「ダーク羽入」みたいなものが郷を捨てようとする巫女に罰を与えようと結託したのか、それとも羽入を討った実の娘である桜花がなにかしらの理由で介入しているのか、はたまたより未来の古手梨花が自分を懲らしめるために過去の自分を翻弄しているのか……。いずれにせよ筆者はともかく長らくこのコンテンツを愛してきた人たちが必要以上に心に傷を負わないような終わりになることを祈るばかりである。24話で完結するのか、それとも更に解答編としてもう1クールあるのか……(「卒」の存在が噂されるが、それは次のクールとなるのか、今クールの残り話数で新EDに絵が付くとともに明かされるのか……)
あるいは「うみねこのなく頃に」と接続し、終了後うみねこアニメ放送決定!なのか……
個人的には北条沙都子の持っているリボンが詩音のものであるとして、それがどのような経緯を経て彼女の手に渡ったのかが気になるところである。二人は共闘するのか。そうであれば、古手梨花&竜宮レナコンビと対立することになるのか。
であれば、彼女の狂気に至った理由は昏睡状態にある北条悟史に何かしら関係があるのか。(兄のことを心配する彼女に古手梨花がうっかり地下にいることを告げて信頼関係が崩れるのか、受験の時に急変しその時に立ち会えないのか……)鉄平がしょっぴかれたとして、恐喝の実刑は10年未満であるので合格のタイミングで娑婆に出てきて全てが台無しということもあり得る。もしくは聖ルチーアで真のお嬢様たちになんちゃってお嬢様言葉を悪意なくいじられて落ち込んでしまうのかも……。
と、興味は尽きない。妻は言う。風呂敷を広げているときのひぐらしほど面白いものはないと。プライムで既放送分は全て視聴可能であるので、ぜひ読者諸賢もこの体験をリアルタイムで味わっていただきたい。