カナタガタリ

すごくダメな人がダメなすごい人になることを目指す軌跡

帰ろう、帰ればまた近侍に会えるから あるいは5/3刀剣乱舞宴奏会(刀オケ)福岡の感想

本格的なオーケストラアレンジを加えた「刀剣乱舞-ONLINE-」の楽曲を「和楽器」と「オーケストラ」で演奏

大迫力の生演奏の音が響き渡り四季を織りなす光に包まれる空間で
あなたの本丸が今、ここに
いざ、『刀剣乱舞』宴奏会へ

刀剣乱舞 宴奏会 公式HPより

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S席見切れ席をどうにか入手出来、駆け込みで参加することになった。見切れ席というから覚悟していったのだが、全く影響なく鑑賞することが出来た。

静寂の中、尺八の音が響き、そして指揮者がダイナミックな動きを見せメドレーが始まった。各初期刀が語る。そうだ、選んだのだ彼らの中からただ一振りを。共に歩む者を。

和洋の楽器はそれぞれの個性を消さずしかし見事にハーモニーを奏でていた。個人的には三味線と二十五弦筝のロジカルを通り越してむしろリリカルですらある奏法と音色、コーラスの方々の笑顔と深みのある声が特に印象深い。ああ、声って、音って、空気の振動なんだよな、圧なんだよな、としみじみ五感で感じた。こればかりは生演奏の特権であろう。
鍛刀のBGMが流れ、短刀が顕現したときに何故か瞳が潤んでいる自分に気が付いた。やばい、なんだこれは。戸惑いながら隣の妻に目をちらりとやると、妻はじっと目尻にハンケチを押し当てていた。反対側のお隣さんが肩を震わせているのが視線の端にとまった。

あ、大丈夫なんだ。この反応でいいんだ。安心しながらも、しかし筆者は音を立てないようにしばし涙の表面張力の限界に挑まねばならなかった。

スクリーンが戦闘画面に移行し、初期刀を部隊長に先程顕現した面々が懸命に敵と戦うところで涙腺は決壊してしまった。

先に引用させていただいた通り、この会のコンセプトは「あなたの本丸が、今ここに」であった。いやいや、それは無理だろ、と筆者は初見一笑に付した。刀剣乱舞の魅力のひとつは審神者の数だけの多様な本丸があることである。初期刀を選ぶ段階で既に五通りに別れるのだ。そうであるのに「あなたの」即ち審神者それぞれが納得しうるような本丸を表現することなど出来るはずがないーーと。

そうではなかった。会場の雰囲気が僅かながら湿り気を帯びているのを筆者は感じた。心の汗のせいであろう。それが答えだ。

福岡シンフォニーホールを埋める審神者諸賢はこの会に確かにそれぞれ自身の本丸を見出だしている。

何故か。まずは初期刀メドレーにてそれぞれの顕現台詞を流したことが大きいだろう。今回の部隊長は山姥切だが、各審神者はここで各々の初期刀を強く想起したはずである。

その後、会は審神者全員に流れる通奏低音に着目した。

初めての鍛刀。装備作成、部隊の結成、出陣……まだぎこちないいびつな部隊が序盤ステージを満身創痍になりながら進軍していく姿……。

それはかつてどの本丸でも見られた光景。それが数多聞いたBGMがより厚みを増した楽曲と同時に届けられる。

刀剣乱舞は繰り返しの必要な根気のいるゲームである。会に参加するほど気合いの入った審神者諸賢はそれこそ耳にタコが出来るほど聞いた楽曲、審神者DNAに刻み込まれていると言ってもいいほどだ。だからこそ強烈にそれぞれの本丸のあの頃を思い起こさせる。あの頃の必死さに、気づけば重ねた研鑽に感無量となる。あるいは黎明期はあれほど頼った刀剣男士を待機させ続けていることへの罪悪感が心の汗をかかせたこともあるかもしれない。いずれにせよ、初期刀メドレーからの本丸→鍛刀→作成→結成→出陣という流れによって各審神者諸賢に各々の花丸を幻視せしめた構成の妙と演出の説得力には頭が下がった。

引き続き夏のアレンジが施された本丸の曲が奏でられる。アレンジでここまで違う顔を魅せてくれるのかと驚かされる。

続いてへし切長谷部が顕現し、近侍曲が始まった。一月に鑑賞して以来愛着が強まり、現在妻の主な近侍であるので家でよく近侍曲を聞く機会もあるので自然のめり込んでしまう。

へし切長谷部だけでなく、近侍曲演奏時は顕現時、戦闘開始時のイラストがスクリーンに映される。刀剣乱舞の公式イラストは多くはない。そのイラストを寄り代として各々の審神者が想像し、創造して各々の花丸を唯一無二のものにしていったことに思い至りまたしても筆者は目頭を熱くするが三味線とストリングスの和洋のせめぎあいつつも調和する見事さ、熱気にいつしか蒸発していた。

その後一度の挫折を経て、内番の曲でクラップによる会場の一体感を噛み締めたところで、恐ろしいほど短い体感時間で第一部が終了した。

第二部に至ってはもはや完全に演奏に身を委ね、圧倒された。まさしく真打登場といった彼の顕現、その存在感にはやはり嘆息が漏れた。

演奏終了後、拍手はいつまでも鳴り止まなかった。筆者もいつまでも拍手をし続けたいと思った。拍手をしすぎて二の腕が痛くなるという経験を初めて味わった。

最後に山姥切からの言葉があった。多くの審神者が一分一秒一刹那も早く己が本丸に戻りたいと思わせる言葉であった。

妻は一番くじで得た刀剣乱舞コスメでメイクアッブするつもりが家に忘れて大変落ち込んでいたが、どうせ涙ですべて流れてしまったろうからかえってよかったかもしれない、と述べた。

九州交響楽団様による演奏は勿論のこと、審神者諸賢の鑑賞姿勢も大変素晴らしく、会場全体が一体となった素晴らしい時間を過ごすことが出来た。

再び味わいたいし、他会場の様子も拝見したい。一刻も早い円盤化を望む。近侍曲集の第二段や、宴奏会の第二段も。

しかしひとまず筆者は久方ぶりに本丸に戻り、池田屋を今度こそ突破するためひとつまたひとつ積み重ねていかなくてはなるまい。頼れる近侍と共に。