カナタガタリ

すごくダメな人がダメなすごい人になることを目指す軌跡

柳に風、桂に歌。あるいは定額音楽サービスで落語を聞くという選択

いずれ人は死ぬ

関さんがおいらに言った最初の言葉さ

存在がでけえとついつい忘れちまうことだがな

――講談社刊・王欣太先生著「蒼天航路」より 

余談

人が生き物として人生を送るとき、「赤ちゃん」として生まれ、「こども」になり、「若者」になり、「おっさん(おばさん)」になり、「おじいさん(おばあさん)」になっていく。0歳と20歳と40歳は明確に違うが、60歳と80歳と100歳はみんな「おじいちゃん(おばあちゃん)」なんだなと考えると、「おじいちゃん(おばあちゃん)」の守備範囲ってそれまでと違ってだだっ広くそして終わりがないんだなと思う。当たり前のことなんだけど、なんだか本日しみじみそう思った。「おじいちゃん」まで生きられるかな、と思ったりとかして。

ひかりTVを休会した。スカパーと被りまくりだからである。ひかりTVの偉いところはネットで簡単に契約の0円塩漬けが出来るところである。電話は全然つながらなくて引越ししたての家具のない部屋で昼休み中ずっとだんだんとでかくなる保留音と熱を際限なく持ち出すスマホを思い出しちょっと暗澹たる気持ちにもなるがそれはそれとして食券制だから松屋大好き(頼むから早く鹿児島に進出して)という筆者にとって大変ありがたかった。

一方で困ったのがひかりTV休会とともに問答無用でひかりミュージックも塩漬けになってしまったことだ。「かってに改造してもいいぜ」があったり坂道シリーズの配信が速かったりとなかなか筆者の好みにフィットしていてすっかり音楽を購入しなくなって久しかったので一気に音楽から遠ざかり、通勤中はyoutubeを音声のみで聞いたりし、たちまち容量が圧迫されたりした。っていうかいつの間にかパケット繰り越しが出来なくなっている気がする。

二年ほど前に引っ越してから勤務先まで車で十分程度になってしまい、朝は大体ニュースを聞くし、遠出の時はDJ妻に任せるので、余り自分の娯楽としての音楽を意識しなくなったかのように思ったが、やはり選択肢が減ってしまうととたんに息苦しさを感じるようになってしまった。意識しなくなったのは必要性が薄れたからという訳ではなく、空気のように必要不可欠だったかららしい。

仕方がないのでGoogleplaymusicのお試しに入ってみた。前も入っていて、ひかりミュージックと駄々被りなので解約した記憶がある。こういうことばかりやっているのである。spotifyはpremium三か月無料の間にライフイズストレンジの楽曲をひたすら聞いていたのだがいつの間にか「keystone」がなくなっていたので解約してしまった。Amazonprimemusicは既に利用しているが、やはりこれだけでは痒いところに手が届かない感じがある。かといってアンリミテッドまでするかというと……Googleplaymusicとちがってlifelog(Xperiaのアプリ)との連携が弱いのもつらい。audibleはさすがに月四桁は高すぎたので司馬遼太郎先生の短編をざっと聞いて解約した。でも銀河万丈淀殿を熱演するのは多分audibleだけ!

本題

落語に興味があるけど敷居が高くてなかなか、という人は多いのではないか。実は上記の定額音楽サービスには全て落語が収録されているのである。

落語というのは勿論演者の所作も重要であるのだが、音声を聴くだけでも存外楽しめる。音声のみであるから想像がより広がり、かえって落語を身近に感じることもあるかもしれない。

既に上記サービスを利用されており、かつ落語に興味のある方は是非ご一聴をお勧めしたい。検索に「落語」と入れると思いのほか出てくる。

悩ましいのはあっちにあるけどこっちにない、というものが多いところ。

初めてでも聞きやすい「井戸の茶碗

「井戸」で「茶碗」というとすわ番町皿屋敷のようなホラーものと思われるかもしれないがさにあらず、ここでいう井戸の茶碗とは高麗茶碗ともいわれる名物のことである。この話のいいところは、

・悪人が登場せず、ハッピーエンドで終わる(優しい世界)

・三十分前後で終わり、落語の中では比較的短く聞きやすい

・登場人物が少なく、展開が追いやすい

というところで、筆者も大好きな噺である。大定番ということで、演者こそ違うがどの配信サービスにも収録されているようだ…と思ったがprimemusiにはなかった。(アンリミテッドにはある)

特に筆者は古今亭志ん生師匠の「井戸の茶碗」が最高なのだが、ひかりミュージック以外では筆者が好きなバージョンは配信されていないようである(Googleplaymusicでは以前配信されていたのだが……もしかしたらひかりミュージックでも配信停止されているかもしれない)audibleでは別バージョンが配信されているようだ。その噺し方は強烈に「江戸」を感じさせ、とはいえ横文字だって使うしちょっと話を端折ったりもする。飛ばしたりもする。その空気感自体がなんだか大師匠にこんなことを言うのも失礼な話だが、可愛らしくて面白いのである。それがこの井戸の茶碗という優しい話に何ともマッチしていてよい。

桂歌丸師匠の「井戸の茶碗」も聞けるが、歌丸師匠の演目でおすすめは「宿屋の富」

Googleplaymusic、audible、spotifyには桂歌丸師匠の「井戸の茶碗」も収録されている。ちょっと硬い声質が武士のプライドを表しているようでまた違った味わいがある。

ちなみに桂歌丸師匠の演目の中で定額サービスで聞けるものでは「宿屋の富」が筆者としてはおすすめである。ちょっと高飛車な感じが圓楽師匠をあしらったりあしらわれたりの在りし日の師匠をいい具合に思い出させてくれる。

先代圓楽師匠の演目も収録されていて、同じく筆者のおすすめは「あわびのし」ボケとツッコミの温度差が面白い。「大山詣り」もいい。 

定額で物足りなくなったなら

ここを訪れるような読者諸賢においては新作落語も是非お勧めしたい。筆者のおすすめは何といっても立川志の輔師匠。ぜひ「ディアファミリー」を映像でご堪能いただきたい。落語は古臭いものではなく、現代に通じるエンターテイメントであることがきっとわかっていただけるはずである。

 

現在配信されている落語の音源は、筆者どころか筆者の父すら生まれていないときに収録されたものもある。師匠たちの噺にあわせて、多くの笑い声がかぶさる。老若男女がいることがわかる。その声の主の多くは今は生きてはいまい。けれど彼ら彼女らのその日その時の声は、欠かせないスパイスとして今後も生き続ける。無論主役としての師匠たちの噺も。

人はいずれ死ぬ。それまでに何をどれだけどのように遺せたかが人というものの一つの指標となるのならば師匠方のそれは最高の一言に尽きるのであろう。