カナタガタリ

すごくダメな人がダメなすごい人になることを目指す軌跡

出会いは悲哀・別れ・透けた布キレ――シンジュクドラパ「過去からのchaser」ネタバレ感想・妄想・考察

ヒプノシスマイク シンジュク・ディビジョン 「麻天狼 -Before The 2nd D.R.B-」

臨戦態勢――と見せかけて多分観音坂独歩だけ「あれ? 俺取引先にメール返したよな……」ということを考えていると思います。

余談

妻の誕生日である。Twitterでつぶやいたところ、たくさんの方から「めでたいいね」をいただき夫の筆者としても大変ありがたい気持ちになることしきりであった。

しかし時勢が時勢、本来であれば一泊二日の温泉旅行でもと考えていたのだが断念し、迅速にちょっといいテイクアウト料理を最小限の接触で回収し、しばしドライブの後家で過ごすことにした。

桜はまだ五分咲きもどうか、という感じであった。一方桜島は昨日に引き続き大きく噴煙を噴き上げていた。わざとらしいくらいに快晴で、しかしやはり道行く人々は少なく、それゆえに暖かな日差しがありながらも随分と寒々しい光景に感じられた。

それぞれの持ち場で頑張るしかない。もう少ししたら一度緩んでしまった連休の時のつけが弾け出すフェーズとなることだろう。少しでも被害が少なく済むことを祈る。

来年も妻の誕生日を一緒に祝いたい。できれば、いい方の「非日常」を味わいながら。

本題

さて、そんな妻がヒプマイと出会って以来ずっと「推しディビジョン」であり続ける麻天狼の新曲&ドラマトラックが世に出て少しの時間が経った。その前後でライブの中止やその代替であるアベマライブ、前回のライブ円盤、アプリの配信など盛りだくさんであったり筆者の業務多忙によってタイミングを逃してきたが、妻の誕生日に捧ぐという意味でも今日のうちに感想他諸々を残しておきたい。

以下、ヒプノシスマイク全般に関するネタバレが含まれます。

感想

今回の半年間という怒涛の連続リリースの肝は「バトルシーズン前夜」――即ち恐らくは次回のバトルシーズンで初めに戦うであろうディビジョン同士がドラパでバチバチになる、という構図であろう。

そうしてオオサカはイケブクロに酒盛りをしたりカチコミをしたりし、シブヤはヨコハマに対してカミングアウトをし、(どう考えても妹にお兄ちゃん嫌いされたほうでダメージを受けていたようであったが……)因縁がちょっと強引さもありながらも深まったりしていた。

ゴヤとシンジュク。既にナゴヤのドラパで神宮寺寂雷と天国獄の因縁は仄めかされており、そして筆者も含めヘッズたちはもう一つ因縁を感じる組み合わせもあった。(後述)。すっかり釣り糸が馴染むようになったチームメンバーたち。

しかしシンジュクが他のディビジョンと異なるのは、その年齢層の高さ。そしてそれ故に持つそれこそ釣り糸が絡まったかのような複雑な過去だ。その過去が、彼らに迫る。ミヤモトマサシの有名なコトワザの「過去が今私を収穫に来た」とはこのことであろう。コトダマに包まれてあれ……。

神宮寺寂雷は飴村乱数の豹変とそれにより現在昏睡状態となった神奈備衢について告白し、また天国獄の鬱屈した積年の感情と向き合う決意をした。

伊弉冉一二三は自らを女性恐怖症に至らしめた旧知の女性と改めて話をしたいと考え、前に進む決意をした。

そして――観音坂独歩は最初のドラパから「弟が高校受験に失敗したのも自分のせい」と鬱々とするほど気にしており、恐らくは受験の失敗により希望した高校に進学できず、そこでひどいいじめにあって地区外に引っ越し、親戚か誰かの姓を名乗ることになった実弟、ナゴヤディビジョン二番手、四十物十四と――。

――えっ他人?

ドラパ中、一二三の店にカチコミをかける波羅夷空却と四十物十四。筆者はなるほど、ここで独歩と十四が対面し、ひと悶着あるのだと考えた。しかし全くそのような気配はなく、単に厄介者として勃発するラップバトル。(選択肢はいらねえな作れを実践する波羅夷空却)というか初対面宣言をしてしまうナゴヤ・ディビジョン。筆者の頭は混乱したまま、警察が来たことでうやむやになり、神宮寺寂雷が「ディビジョンバトルか……!」といつものいい声で呟いてドラパは幕を閉じるのであった。

先ほど(後述)とした――筆者が、恐らくは少なくないヘッズが予想したナゴヤとシンジュクのもう一つの因縁――「観音坂独歩と四十物十四兄弟説」はここにもろくも崩れ去ったのである。そんな……それじゃあこのドラパで観音坂独歩はいつもの社畜芸を披露して、神宮寺寂雷に「飴村乱数と話したほうがいいと思う」と女子トークみたいな話をして、無水カレーを美味しくいただいたりで全然過去から追跡されてないじゃないですか……ある意味一番瞬間瞬間の過去に強迫されているのかもしれないが……。

完全に二人が兄弟というのは天谷奴零が山田父くらいのガチガチに鉄板のヒプマイ得意の「布石」だとばかり思っていたので考察厨としての筆者のショックは結構デカかった。おいは恥ずかしかっ 生きておられんごっ!

……ま、まだ真正ヒプノシスマイクで記憶を封じられているかもしれないし……ないか……。

考察・妄想

神奈備衢 悪玉説

神宮寺寂雷が信頼していた神奈備衢。彼を昏睡状態に追い込んだ飴村乱数。それによいって二人はその絆を分ってしまった。しかし、そもそもなぜ飴村乱数はそのようなことをしたのだろうか? TDD解散のため? 「飴村乱数」の秘密に神奈備衢が感づいてしまったから? 真正ヒプノシスマイクの試運転?

恐らくそれもあるのだろうが、コミカライズをFP&Mしか追えていない筆者の妄想として神奈備衢が悪玉であった、という説を上げておきたい。

神奈備――カンナビス。すなわち大麻である。麻薬が蔓延してしまっているヒプノシスマイクの世界観においてこの苗字はいかにも不穏である。その名の通り彼が医療関係者という立場を利用して麻薬の流通に関わっていたとしたら? それを知った飴村乱数が神宮寺寂雷を傷つけないように文字通り自らを犠牲にして彼を告発ではなく昏睡状態にすることで世間からは被害者扱いされ、かつ麻薬の蔓延を食い止めていたとしたら? こんなに悲しい友情はないではないか。(そして今の「飴村乱数」にはその記憶はなく、神奈備衢を昏睡状態に追い込んだことによって神宮寺寂雷から向けられた怒り、憎しみだけが共有され、結果として彼を嫌うようになったとしたら辻褄が合う)もしくは飴村乱数は中王区より中王区謹製の麻薬の流通を任されており、マーケットの被る神奈備衢を潰した、ということも考えられるかもしれない。ともあれ一癖も二癖もあるヒプノシスマイクの世界の住人たち、神奈備衢にも何か秘密があるのではないかと筆者は考える次第である。

伊弉冉一二三の「伊弉冉」姓の業


ヒプノシスマイク「パーティーを止めないで」/伊弉冉一二三Trailer

初めて「イントロで爆笑する」という経験をしてしまった。MVも最高である。余りにもゴールデンボンバーなこの曲は、しかしフルで聴くとあまりにも伊弉冉一二三なのである。鬼龍院翔さんの器用さ、作品への向かい合い方に畏敬の念を感じざるを得ない。

各種定額サービスでも絶賛配信中であるので是非フルで聴いていただきたい。そこで歌い上げられているのはドラパとも呼応する過去への対峙、そしてシンジュクの夜ごとのパーティーでナンバーワンホストという布キレ――スーツを纏い続ける伊弉冉一二三という一人の人間の悲哀である。

はじめ筆者が彼を知った時、名前に違和感があった。「伊弉冉イザナミ)」は読者諸賢もご存じの通り、国生みの神であり、「伊弉諾イザナギ)」と対になる女神である。なんで男神の「伊弉諾」にしなかったのだろう、と思った。ナンバーワンホストということだったので後に常世の神、黄泉津大神となる=夜のイメージだから、なのかなと思ったがそれだけだったらまんんま夜の神、月夜見でもいいじゃないかとも思ったのである。

しかし前回、そして今回の伊弉冉一二三の個人曲を聴き、彼のホストとしてのスタンスを見るにつけヒプノシスマイクの運営が彼に「伊弉冉」と名付けたその罪深さ、それによって深まる彼のキャラクター性に慄いたので書いておくことにする。完全に筆者の妄想であるのだが。

伊弉冉伊弉諾の国生みは初め、失敗する。生まれた子・蛭子は骨がなかった。その後もうまくいかない。さらに上位の神に相談すると、神は「伊弉冉から声をかけるからいけない」という。そこで伊弉諾から声をかけるとなんということでしょう、元気な淡路島が生まれました――というくだりが国生み神話の初めのサビといってもよかろう。

ここで分かるのは現・淡路島の主、上沼恵美子氏の偉大さ――ではなく前時代的な価値観でも(そりゃあ何世紀も昔ですから……)なく、「伊弉冉から声をかけると二人は幸せになれない」ということである。

即ち運営は女性をいたわり、またある時は積極的に行動していくナンバーワンホスト・伊弉冉一二三のままでは彼は幸せになれません、という呪いをかけているのだ。

そしてその姓の由来が「黄泉津大神となったから」つまり死者の国の神となったからということであれば、「一回死ね」とも言っているわけでキャラクターとして生まれながらに背負った悲哀がとんでもないことになっている。

更に今回のドラパで女性恐怖症の決定的な原因となった女性がいることも明らかとなった。果たして何が起こったのか。妄想を続ける。伊弉冉は火神、加具土命(カグツチ)を生むとき、自らの体をも焼かれて死に至る。ここから考えると、ひどい火傷を負わされたのではないか、と予想できる。

そう、あのほのぼのディビジョン曲「パピヨン」で歌われた伊弉冉一二三の姿。

海パンにジャケット 大胆なセット

正気じゃない 興味深い

―麻天狼「パピヨン」より

神宮寺寂雷にこう歌われた完全にギャグなその姿も、子猫ちゃん対策の他に上半身に負ったひどい火傷を隠すためと考えれば納得ができる(真っ先に咎めそうな独歩も何も言及していないことも辻褄が合う)のである。

脱線

ちなみにこの加具土命、父である伊弉諾に追いかけられ、切り殺されるがその時にその血から生まれた神々に石析神根析神など八柱がいる。「イワサク・ネサク」というとはっとする読者諸賢もいることであろう。


ミュージカル『刀剣乱舞』 歌合 乱舞狂乱 2019

脱線なので八柱を漢字を確かめつつ打ち込むのは省略させていただくが、「刀ミュ」歌合のこの動画の謎かけを解くと現れる刀に関わる神々が加具土命を斬った時に顕現した神なのである。神が神(しかも実子)を殺すことで生まれる神に司られる刀…これまた業深いものを感じさせてくれる。

伊弉冉一二三は麻薬の売人なのか?

根強く語られている考察の一つに「伊弉冉一二三は麻薬の売人なのではないか?」というものがある。筆者としては願望も込めてそうではあってほしくない……と否定的な立場ではあるのだが、新曲にも特に後半に「ドラッグでハイになっている状態」の隠喩と考えても差し支えない場所というのは確かにあるし、伊弉冉が黄泉平坂で伊弉諾と別れる時に言ったという「一日に千人を縊り殺す」という言葉が中毒患者を生み出すことを意味しているのではないか、と考えられなくもないが……。筆者は伊弉冉一二三のホストとしての矜持を信じたいと思う。

脱線2

今回のようにある知識が好きなジャンルと意外な化学反応を起こす、というのはやはり読書の醍醐味である。「古事記」はいろいろな本が出ているが、筆者は原文を注釈付きで用いつつ、こうの史代さんのまんが形式で語られる下記の本が内容が頭に入ってきやすかった。全三巻、揃えても三千円と少しと専門書と考えれば破格である。戦国無双プレイヤーであればユニーク武器の元ネタもわかってお得かもしれない。

 

ぼおるぺん古事記 (一)天の巻

ぼおるぺん古事記 (一)天の巻

 

 伊弉冉一二三の「いつか包まれたい」という願いが叶う時が来るのだろうか。

秘密のベールではなく、暖かな愛が生身の彼を包んでくれることを願って。