余談
相変わらず体調が悪く、天気も悪い。どうして24℃の次の日が3℃なんだ。
そんな中の楽しみ、IZ*ONEのカムバックがとうとうやってきた。
仕事が終わったのは19時半。既にメンバーからの「MVどうだった?」のメールが山と届いていた。が、確認はまだできていなかった。
せっかくだから居間のテレビで妻と一緒に鑑賞したかったのである。
自宅に到着し、テレビでMVが見られるようにセッティングをする。
しかし妻は料理に更なる創造性を与え続け、結果20時からのカムバック・ショーが開幕し、我々はその美しさの多様性に打ちのめされるまま、MVを見る機会を逃したのだった。
そうしてようやく今、見ることができた。
出口の見えない苦しみに囚われながら、それでも自らを美しく錬磨し続けた結果が見事に花開いており、まさしく音楽、そして映像の新たな金字塔がダース単位で打ち立てられたことが感じられた。
その美しさをただ愛で、拝めばいいものの、やはりなにがしかを考えずにいられないのが筆者の悪癖である。
なるほどティザーで予感されたようにオリンポス十二神がそのモチーフの一つであることは疑いはないのだろうと思う。
ただ――それだけで終わるMVでもないのだろうな、とも考えた。
祝宴の座興にでもなればよいが、感想とも妄想とも考察ともつかぬ文字の群れを吐き出すことをしばしお許し願いたい。
本題
いかんいかん、またぼーっと五周くらいしてしまった。
そもそもなぜFestaじゃなくてFiestaなのか
曲名発表時、読者諸賢は思わなかっただろうか。「あれっ俺『フェスタ』の綴り長年間違えて覚えていたのかな」と。未だに水曜日の英語を思い出すとき脳内で「うぇどねすでい」ととなるタイプの筆者は思った。辞書を引いた。
Festa――祭り。祝祭。
Fiesta――(スペイン・ラテンアメリカで宗教上の)祝祭、聖日。
というわけでスペイン・ラテンアメリカの神話をちまちま調べてみると、今回のMVとアステカ神話には、いや、MVにとどまらずアイズワンというグループや今回のカムバックを含め、不思議と符合する点が多く見られるのである。
「第五の世界」になるはずだった?「Fiesta」と滅んだ「かつての世界」について
アイズワンのリード曲は日韓合わせて現在六曲。
「La Vie en Rose」
「好きと言わせたい」
「Violeta」
「Buenos Aires」
「Vampire」
そして「Fiesta」である。
このうち「Buenos Aires」と「Vampire」は日本曲が続けてリリースされたことで、日韓関係の影響があったのではないかと当時ファンならず世間の間でちょっとした話題になったものだ。
どうしてそんな話をするのか。アステカ神話の話に戻ろう。アステカ神話によれば、現在の世界は第五の世界なのだという。そしてそれ以前の世界は大災害によって滅んだのだとか。
そこを踏まえてみていくと、このMVにはかつてMVで出てきた場所を彷彿とさせる箇所がいくつかある。冒頭の場所は「La Vie en Rose」の美が展開される部屋、その次のカラフルな場所は「好きと言わせたい」のラストシーン、「Violeta」のようなガラス製のものに覆われた場所やスクリーン、「Vampire」の二つの衣装を合わせたような衣装……。それはしかし不穏さをどれも宿しているように思える。それこそが滅んだ場所、世界であると示しているからだとしたらどうだろう。
そして日韓関係のごたごたがなければ五番目のリード曲となるはずだった曲だから第五の世界を重視するアステカ神話と関りがあるとしたら?
また現在の第五の世界を守ったのは「最も小さき神」であるとアステカ神話は言う。最年少にしてセンターのチャン・ウォニョンさんを彷彿とさせるではないか。その神は現在は太陽へとその姿を変えているという。
ここでFiestaのサビの歌詞を引用しておく。
Fiesta
내 맘에 태양을 꾹 삼킨 채
私の心に太陽をぐっと飲み込んだまま영원토록 뜨겁게 지지 않을게
永遠に熱く 負けないから
IZ*ONE「Fiesta」より
また創世神話として双子の神が地球を生み出したとも語られている。ここに冒頭のアン・ユジンさんとキム・チェウォンさんを重ねてしまうのは筆者の妄想の暴走だろうか?
最後に、アステカ神話の重要な神として「ケツアルカトル」が存在する。この神は白く羽毛のある蛇であるという。随所に現れる純白で羽の生えたクォン・ウンビさんは天使という単純なモチーフではなく、もしかしたら……。
蛇足であるが、キム・ミンジュさんをぐるっと包む大きな円は「銅鏡」に見え、それを従える日本神話の神のように思えるし、宮脇咲良さんの頭飾りはその託宣を伝える邪馬台国の巫女のようにも思える。
もちろんこれは妄想に過ぎないが、今回の曲が一つの神話だけでない重層的なスピリチュアルに縁どられているのは事実ではないかと考えている。
戦争はIZ*ONEの顔をしているか
もう一つ、このMVに織り込まれているモチーフは「戦争」だと筆者は考える。神々の介入したトロイ戦争、民衆を導く女神、抽象画も戦争モチーフでああした作品があったように思えるがどうにも思い出せないのがもどかしい。
そしてカン・ヘウォンさんのかわいらしいけれどあまりに幼さを感じさせるあの格好と風船。そしてスクリーン=壁に投影されるという手法。
筆者はバンクシ―の風船と少女を連想してならないのである。
(しかしバンクシ―の正規ライセンスってなかなか皮肉が効いていていいと思う)
ただそうした結果がどうであったか。先ほどの神話の解釈を踏まえれば、それまでの世界はことごとく滅んでしまっていたように思えるのだが……。
いつ咲き誇る? いつか咲き誇る、いつも咲き誇る。
IZ*ONE (아이즈원) Concept Trailer : When IZ your BLOOMing moment?
100日間、穴の開いたほど見たコンセプトトレイラー。今回の解釈を踏まえてみるとまた感じ方が違ってくるし、MVと合わせてみることで腑に落ちる点も多々ある。
眠り姫のようなウンビさんが目覚める。すまんがその前髪をしまってくれんか……わしには少し強すぎる……。ともあれ彼女が本当にケツアルカトルであるとするならば、ある時は嫉妬深き神々として、ある時は不毛な現代戦として、あるときは革命という美酒の元に争ってきた彼女たちはようやくその武器を捨て、咲き誇ることが許されるということになる。
ケツアルカトルは平和の神であり、人身御供を辞めさせたといわれている。コンセプトトレイラーで白装束で横たわっている彼女たちは生贄にささげられた成れの果てではないだろうか? そしてMVでハデスめいた本田仁美さんの前のワイングラスにはその死から絞られた魂が時間を追うごとに溜まっていったのではないか。
もうひとつ、トレイラーとMVで象徴的なのが扉だ。それは心の距離。世界の距離。選択肢の数。迷いの数。戸惑いの数。開き、閉じ、怯え、竦む。
悲劇の平行世界。一度は滅んだ。二度、三度、四度。美の女神たちはその美しさゆえに表情が読み取れない。何度かの転生を経て、どうしたいのかもはや答えが見えてこない。しかし大丈夫だ。この世界には、第五の世界には最年少の神がいる。最年長の平和の神がいる。MVで最後まで(右側のリンクが邪魔すぎるんですけど⁉)踊り続け、最前線とセンターを務める二人がいる今度こそは大丈夫なはずである。
「Fiesta」とは100日の間彷徨い続けたミス・パラレルワールドたちが自分を、仲間を、そしてウィズワンを再び見つけるまで物語であった――ということに筆者の世界線ではしておいてこの御粗末な考察を閉じたいと思う。そんなこといいから美にひたすら打ちのめされるんだよ! という世界線もまた、ハデスの前に注がれた魂のワインほどには甘美に違いない。
蛇足
ひみつの組織が来て
8時のニュースは大変
【筆者注:中略】暇ならわたしときて
こわれた世界を体験
時代の危機がせまる
稀代の事態になる【筆者注:中略】
十日も思いつめてジェラシー(くやしい)
わたし 遠い未来にあなたとまた出会う【筆者注:中略】
あなたはちょっと開けた
わたしの心のドアを
あなたはドアを開けたまるで世界はパラレルワールド
おかえりなさい。