はや5年前、筆者は初めて「プデュ」なるものに触れた。
言ってしまえばAKBグループの総選挙の「オマケ」のような感じで触れた「PRODUCE48」。しかし筆者はその毒牙にすっかりかかり、サバ番熱病に浮かされ、過去番組を視聴し、他のサバ番も数々視聴し、「48」の後継番組「X」のあまりに悲劇的な結末に心を痛めながら、「日プ」両シーズン共に視聴した。
そうして一つの番組が終わるたび、筆者は耐え難い自己嫌悪と喪失感に襲われるのが常であった。あたかも事件を解決した金田一耕助のごとくであったが、いつだって番組の終わりは解決とは真逆のところにあった。
それなのにまた、「PRODUCE 101 JAPAN THE GIRLS」――いわゆる「日プ3」を視聴しようとしている。
なぜか。
閃光少女に目を焼かれたいからだ。
切り取ってよ、一瞬の光を
写真機は要らないわ
五感をもってお出で
私は今しか知らない
貴方の今に閃きたい
――東京事変「閃光少女」より
要するにサバイバル番組とはそういうことだ、と筆者は考える。
前述したはじまりのプデュ、PRODUCE101の感想記事タイトルにも引いたように。
今この時を出演者も視聴者も全力で享受する。まさにライブ感、そして自らがその展開に加担する感覚……なかなか他で代替しえないものだ。
ただ、それ故にサバイバル番組によって誕生したグループも、そのファンダムもその番組の最終回で一度燃え尽きてしまうことが往々にしてあり、(デビューできなかった候補生のいわゆる「太客」が撤退することがままあることも手伝って)セールス的にも苦戦しがちでもある。そこをどれくらい踏ん張れるか、というのも一つの指標となるだろう。
また、グループのメンバー決定までのSNSなどでの高度な情報戦もまたサバ番あるあるである。オタは推しに似るという言葉があるが、サバ番という現代に蘇ったコロッセオ、残酷劇、現代の粋を集めた蟲毒を堪能する層はまた、自分たちも蟲毒を顕現させるという不思議な習性が数多のサバ番において一つの例外もなく生まれているから不思議なものである。
そんな蟲毒の住人から、今回、日プ3に興味が出ている諸賢に簡単な入門というか、案内をしようと思う。一緒に地獄に落ちよう。
百聞は一見に如かず
まずはせっかくなんか夢ならばどれほどよかったでしょうのようなサービスで前シーズンが無料配信されているので、これを見て感覚を掴んでみるのもいいだろう。
レベル分け評価があり、テーマ曲の発表、その習得具合を踏まえての再評価、テーマ曲撮影、グループ評価、ポジション別評価、コンセプト評価、最終評価、合間のおふざけ…基本的には今回もこのような構成になると思うので見ておいて損はない。
本家「PRODUCE101」と「同JAPAN」の大きな違いは基本的に前者は基本的にはどこかしらの事務所に所属しており、後者は逆に応募時点で他のプロダクションに所属・契約(専属・育成問わず)していない、ということが条件となっている点。
このため本家ではその練習生の所属事務所のロゴがスクリーンに映し出され、有名どころではほかの練習生がざわつく…という盛り上がり所の1つが日プではオミットされているのは残念なところであるが、(「乃木坂LLC」や「ワタナベエンターテインメント」のロゴがバーンと出てざわついたりしてみたいもんである)それ故により視聴者と練習生の距離感が近く感じられる効果があったと思う。
「現在所属していない」というのは一方で「これから世に出る前の原石」はもちろん、「各々の理由で古巣を離れ再チャレンジする」人も対象となるため、そのキャリアや価値観の相克や錬磨が一つの味でもあった。これは今回の日プ3でも期待できそうな要素である。
各回ごとに投票できる人数が発表されるので、実際に当てはめながら、どのように推移していくか確認するのもいいだろう。おふざけ企画の後の順位発表(脱落者あり)という人を人とも思わぬ番組構成で情緒をめちゃくちゃにしよう。
「悪編」を知る
我々が目にするエンターテイメントの多くは「編集」されたものであり、編集があるところに必ず意図が存在する。
例えば。
Aがパフォーマンスをする。
Bはスタッフのインタビューに「すごかったです。僕もまだまだですね」と答える。
放送では、Aのパフォーマンスに対してBは「まだまだですね」と答えたことになっている。当然、意味は全く異なってくる。
こういうことをフツーにやってくる番組なので、ムッ……と思ったら少し深呼吸してみるといいだろう。スタッフの盛り上がりを求めての編集に対抗すべく、身につける時計などで時系列を切り張りされたら分かるように対策をしていた練習生も過去一人や二人ではなかったのだから恐ろしい。
現LE SSERAFIMのホ・ユンジンさんもまた、PRODUCE48出演時にバッシングを受けた経験を持つ。(番組内でのメンターとの会話で涙を流したことも……)彼女はその不屈の精神で今またスターダムで輝き、かつての理不尽を話すことだってできるけれど、日プの場合はほとんどが脱落者は一般人へ戻る。即ち弁明の機会が永久に与えられず、傷ついたままになってしまうことも大いに考えられる。ライブの熱狂を大切にしながらしかし煽られた気持ちが本当に正しいか客観視する気持ちもまた尊びたい。
「牽制PICK」を知る
PRODUCEシリーズでははじめ規定メンバー数、段々と狭まり、最後には一人を選んで投票するスタイルが一般的である。
つまり。初めは気になる練習生だったり自分の推しと友人知人の推しやTLで見かけてちょっと気になる子に投票して…としていたが段々と推しとその仲良し(ケミ)に、最終的には推しのみに……と文字通り身を切るような決断を迫られていく。
この仕組みによって「誰にでも愛される練習生」や「生まれるグループにはなくてはならないから誰かが投票するだろう、自分は落ちそうな推しに投票しようと後回しにされる練習生」がまさかの脱落をするところを筆者は幾度となく見てきた。
そういった葛藤をさらにかき乱す戦術……というのも憚られるのが「牽制PICK」である。
PRODUCEシリーズの場合、前述したように最終盤までは視聴者は複数の投票権を持つ。
あなたが5票持っていたとしよう。
Bが推しである。デビューして欲しい。
Aは人気練習生でBのライバルだ。C~Fはなかなか成績が振るわず、気の毒だが次で脱落の公算が高い。
Aに投票せず、B~Fに投票する。
何が起こるか。ヤマオー、自信喪失ではない。
ライバルAを阻むばかりか、本命のB以外をいわば死票にすることで、他の練習生の上昇も防ぐこの手法を「牽制PICK」という。その推移に一喜一憂する練習生自身やファンダム(そう、どの練習生にも必ずファンはいるのだ)を弄ぶ下劣な手法であるが、推し以外目に入らない人々が幾人もその魔道に堕ちていった。
日々の投票だけでなく、グループ内で個別の順位を競う場合にも用いられる場合があり、このパターンは現場に行ってわざわざそういうことをしているのである種ホンモノである。
推しに恥ずかしくないオタクでいよう
関連して、いわば擬似牽制PICKというべき事象が起こりうる。サバ番において重要なのは浮動票の獲得である。いわゆる48系のように精鋭が資金投入によってガンガン投票するというものではない分、それはより切実である。(といって、過去シリーズでは投票してくれたら高級家電や食品などをプレゼントします! というような実質票をカネで買う動きも見られたのだが…)しかしてその練習生のファンダムが凶悪であったり醜悪であった時、いかに練習生が素晴らしくとも投票には結び付きにくいものだ。あいつ(オタク)の悔しがる顔が見てえ、と自分の推しが票を得るチャンスを逃し、他練習生が票を獲得する。いわばマイナス2票の働きを自分がしてしまわないように心がけたいものである。
どうすればいいんだよ、と思ったら何も言わず黙々と投票やRT(RP)をしたり再生回数を稼ぐのがいいだろう。半年ROMってろの昔に戻ればいいだけだ。
まさか今回いないとは思うが順位発表で脱落してしまった練習生のファンダムに自分の推しをプレゼンしにいく行為だけは絶対にやめた方がいい。喪中にクラッカー鳴らして転がり込んでくるやつを受け入れる人間なんてどこにもいない。
一つ筆者の考えを述べれば、基本的にサバ番好きというのは反骨精神がある人が多いと思う。既存のグループでは飽き足らない、という層には押し付けすぎるのは逆効果だし、「推され」に対して反発することも多いだろう。
終わりに
さあ、プデュが始まる。日プ3が始まる。運営が素晴らしい練習生を揃えた。怒涛のように供給が訪れるだろう。 素晴らしいパフォーマンスが、努力が、友情が、熱意が見られるだろう。あらゆる判断材料が与えられるだろう。だが投票するのはあなたの意思だ。誰が強制したのでもない。そこは桃源郷か。またはラグナロクか。その両方か。誰も知らない。見届けるのはあなたの眼なのだ。
まだ筆者は「推し」(今回便宜上沢山使ったがなかなかなじまない言葉である)を決めていない。
ただ、かつて筆者はサバイバル番組において華やかなりし青春時代をかなぐり捨てて10代をアイドルにささげた花の名をもつ練習生を応援し、彼女が鹿児島の、いやアジアの、いやいや今や世界の誇るべき金字塔と成長したことを思い、同じような経歴・お名前・境遇にある人がいることを知ってしまって、興味が尽きず困っている。