カナタガタリ

すごくダメな人がダメなすごい人になることを目指す軌跡

審神者諸賢、京都が遠ければ密林へ行こう。あるいは映画 日本刀 ~刀剣の世界~感想

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今年の1月に筆者が撮影したへし切長谷部。撮り方に迷いが見られる。

導入

前回、地方オタクの悲哀を述べた。ことに現在筆者が日々臍を噛んでいるのはその際にも話題に挙げた「京のかたな展」である。めっちゃ行きたいのである。片っ端から友達に借りまくれば決していけない訳でもないだろう京都くらいと吉田拓郎は言うかもしれないが(つま恋版永遠の嘘をついてくれ頼むから音源化してくれ)行くのならば妻と一緒に行きたい、そうなると当然諸々の出費が二倍、しかも休暇のすり合わせも必要、土日は「○○の秋」を安易に標榜する地域のイベントに(職場は別だが2人とも割と公共性の強い仕事をさせてもらっているので)どちらかが駆り出されていることがほとんど(イベント自体は楽しいのだが毎週あるとなかなか体力ゲージが回復しない)、ということで行くことはかなり現実的に厳しいのである。今回は涙をのんで帰省を名目に次はふくやま美術館を狙っているのである。(妻の実家と福山美術館は同じ広島とはいえかなり距離があるのだが、必要なのは大義名分だ)

が、やはり刀剣を鑑賞したい、という気持ちは収まらない。「こんのすけの刀剣散歩」続編が決まり歓喜したが、少し間がある。このようなモダモダとした気持ちでいたところ、Twitterで一つの情報が舞い込んできた。

 

映画 日本刀〜刀剣の世界〜

映画 日本刀〜刀剣の世界〜

 

 こちらの映画がAmazonprimeビデオで配信されたのだという。Amazonprimeと言えば地方オタクにとって必須科目と言ってもよく、筆者ももちろん加入していた。どれもこれも一長一短であることで著名な定額配信界隈であるが、筆者にとってはM-1仁義なき戦いがprime会員見放題であることがかなり重要である。

 特に敗者復活戦が見られるのはかなりポイントが高い。

仁義なき戦い 広島死闘篇

仁義なき戦い 広島死闘篇

 

 仁義なき戦い広島死闘編は本当に名作なのでいつか記事を書きたいと思う。

少し話が逸れた。しかしこの朗報を受け筆者と妻は早速鑑賞することにした。京都まではあまりに遠い、けれどprimevideoの再生ボタンを押すときだけは、東京も、鹿児島も、アメリカも、その距離は平等なのである。有難うジェフ・ベゾス。日本に税金を納めてくれジェフ・ベゾス

が、ここでアクシデントが発生する。我が家では基本的にPS4を用いてprimevideoの鑑賞は行っているのだが、検索が上手くいかないのである。

「にほんとう」で検索すると仁義がなさそうな感じの「日本統一」であったり「ほんとうにあった!」系の怖いvideoが出てくるのである。夜に急に怖いジャケットを表示するの本当にやめてほしい。せめてsnowめいたフィルターをかけてほしい。猫耳とか。

それらを潜り抜けようやく辿り着いた――と思いきやなんと現在再生できません(予告編は再生可能)との表示。ここまでくると時間遡行軍の暗躍を疑わざるを得ないのであるが、そこは刀剣男士に任せるとして、PCでは普通に視聴が出来そうであったので(それでもなぜかパッケージ画像がないなどやはりなんかちょっと変である)もはや一刻も早い刀剣鑑賞の摂取が必要な我々は再生ボタンを押したのであった。

本題

再生が始まると、鳥海浩輔さんの柔らかな声が出迎えてくれる。

本映画は大きく、

  1. 刀剣鑑賞の基礎知識
  2. 刀剣の歴史(権力者と刀剣・刀剣の推移)
  3. 上記を踏まえた上での刀剣鑑賞
  4. 月山貞利氏をはじめとする月山鍛冶道場による作刀作業
  5. 本阿彌光洲氏による刀剣研磨

となっており、その構成に一部の隙も無い。やはり何かを理解するのにビジュアルというのがどれほど効果的であるかということを痛いほど思い知らされる。筆者の世代であればあの国民的漫画、「ワンピース」で「造は黒漆太刀拵・刃は乱刃小丁字」という言葉にわくわくした読者諸賢もいらっしゃるであろう。当時、なんかわからんがすごそう、と思っていたその言葉の意味をSBSからさらに発展して理解するチャンスである。

刀剣鑑賞においてもさすがプロの仕事、筆者など現場に赴いても刀剣のオーラに気おされぶれてしまったりぼやけてしまったり面白味のない構図になってしまったり……と散々であるのだが、しっかりと見どころをHD画質でとらえてくれている。今後鑑賞のチャンスがある場合は予習にも最適である。しかし途中、他の刀剣と並べて映るシーンがあるのだが、へし切長谷部の頭一つ抜けた刀身の青光りした姿には驚かされる。

因みに本映画で鑑賞できる刀剣は以下(公式の紹介順番によりますが、必ずしもこの順番に登場するわけではありません)

01:明石国行
02:三日月宗近
03:鬼丸国綱
04:姫鶴一文字
05:謙信景光
06:景光
07:へし切長谷部
08:義元左文字
09:一期一振
10:日光助真
11:日向正宗
12:中務正宗
13:丙子椒林剣
14:童子切安綱
15:虎徹
16:名物 金森正宗
17:太刀 銘 備前国住人雲次
18:刀 銘 陸奥大掾三善長道
19:刀 銘 阿州吉川六郎源祐芳
20:刀 銘 大和守源秀国
21:寸延短刀 古月山
22:刀 銘 村正
23:刀 大和国住月山貞利彫同作(花押)
24:刀 大和国住月山貞利彫同作(花押)
25:刀 銘 備前国住長船勝光

 

圧巻は作刀と研磨、二つの名人技である。

まずは作刀。十トンもの砂鉄を用いて活用できるのはその十分の一という気の遠くなる精錬作業すらスタートに過ぎず、ひたすら鍛え続ける。そのうちに現れてくる月山の特徴である「綾杉肌」の美しさときたら。是非その眼で御覧じられよ、というしかない。そしていよいよ刃紋が決まる焼きの作業……水の沸き立つ音がまるで刀剣の誕生した産声の様ですらある。人間国宝を父に持ち、自らも奈良県無形文化財、最近では白鵬関土俵入りの太刀も鍛え上げた当代の名人貞利氏ですら「技術を超えた神秘的な某かが介在するように思う」と言わしめる刀をつくる、という作業。暫くは手伝い札を用いず、じっと見守ってみようかと思う次第である。1時間半やましてや20分なんて実際の鍛刀の過程に比べれば瞬きのようなものであるのだから……。

刀剣は当然、作ればそれで終わりというものではない。本来の「用途」があり、その後のメンテナンスを怠れば当然、いかな名作であれどたちまち無粋な鉄の塊と化してしまう。それを甦らせるのが研磨という作業である。その名の通り教科書上の人物・本阿弥光悦氏の系譜を継ぐ人間国宝・本阿弥光洲氏によるそれは傍から見れば、くすんだ錆びた棒からかぐや姫よろしく光り輝く刀剣を取り出して見せるほとんど奇跡の領域に見える技術である。かつてミケランジェロが石自体の持っている限界を引き出そうとしたように、氏の研磨は刀剣がかつて輝いていた時のことをやさしく撫でながら刀剣自身に思い出させようとしているかのようだ。その劇的なビフォーアフターはやはり自らの目で見ることに意味があるだろう。これを見た後だと、すべての刀剣は作刀した鍛冶職人はもとより、現在我々の目に映る状態を保ってくれている研磨職人も是非併記すべきではないか、と考えてしまう。

鑑賞後余韻に浸っていると、作成協力者に審神者の文字。先輩審神者の正しい経済活動により良い映画を堪能でき、感謝の気持ちでいっぱいである。

ああ、見たかった銀幕でこの映画を! となってしまうと最初に立ち返り、地方オタクの悲哀、ということになってしまうのであるが、この様に様々な形で救済があるのが現代のオタクの有り難いところなのだなと思う。いかんともしがたいことを知ってしまう可能性もある、というリスクと隣り合わせなのも事実ではあるが。

ともかくも審神者ならば必見、そうでなくとも鑑賞すれば人生有数の濃厚な一時間になることは間違いないと保証できる。安易な「日本スゲー」番組が氾濫しているが、過剰なテロップもワイプ芸もひな壇いじりもないこの映画を鑑賞するだけで、日本の文化の奥深さを』味わい、何かしら創作に携わる諸賢にとっては大きな刺激となることであろう。是非ご鑑賞頂きたい。