カナタガタリ

すごくダメな人がダメなすごい人になることを目指す軌跡

再生と破壊、泰平とかはない――ヒプノシスマイク-Division Rap Battle- 6th LIVE ≪2nd D.R.B≫ 3rd Battle-Fling Posse vs MAD TRIGGER CREW-感想

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kimotokanata.hatenablog.com

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いよいよ2nd D.R.B初戦も最終戦。初めての既存ディビジョン同士の対決である。

即ち、かつて「一度負けた者たち」同士の戦い。

それも、どちらも麻天狼に。更に、Fling Posse (フリングポッセ/以下FP)はMAD TRIGGER CREW(マッドトリガークルー/以下MTC)に票数で勝りながらもルールの関係で決勝に勝ち上がれなかったという因縁を持つ。

「負けたことがあるということがいつか大きな財産になる」

その古の言葉通り、彼らは一皮も二皮も剥けて帰ってきた。

もとより前回の勝敗の差も刹那ほど、僅かに引き金が狂っただけでどう転ぶかわからなかったものだ。

結果、決勝と見まがうほどの熱戦が繰り広げられることになった。こうして筆者は三度幸福な苦悩を味わう羽目になったのである。

シブヤ・ディビジョン


シブヤ・ディビジョン“Fling Posse”「Black Journey」Trailer

開幕「Stella」という全体バフをかけてくる本気度。(一部ではシブヤ推しのヘッズの視界に尋常ならぬデバフをかけるハマの策略ではという声もあったが)どのディビジョンよりもこのバトルにかける思いは切実だ。もちろん優勝したねー、えらいねー、飴あげるねなんてうまい話になる訳はないのだが、それでも歪な軌跡を刻み輝くことこそが今の彼らの生きる意味なのだから。

個人曲においてもカメラワークまで味方につけたエモーショナルな動き、とうとう失敗を完全に排除したスリーショット撮影などまさにトリッキーなシブヤの面目躍如といった見事なライブコントロールだ。

そして満を持して放たれた新曲。「Black Journey」もまた変幻自在な捉えどころがなく、しかし変化するたびに加速度的に聞くものの感情の揺さぶりを大きくさせる恐ろしい曲である。白井さんの表情管理の素晴らしさもさらに上があったのかと驚かされる。「シブヤ」に「ぼくりり」なんてマーケティングが完璧すぎる。命を掴む旅は最後でも、命を掴んだ後の旅路が果てしなく広がっていることを信じている。先へ。

ヨコハマ・ディビジョン


ヨコハマ・ディビジョン“MAD TRIGGER CREW”「HUNTING CHARM」Trailer

完全に「ご本人登場」だった三人。バトルの熱気の高まりに連れて少しずつ服を脱いでいく碧棺左馬刻様が最終的に全裸になったらどうしようかと思ったが思いとどまってくれて良かった。ハマにはめられた我々が出来ることはもう何もない。圧倒的な「ファミリー」の圧力にずぶりずぶりと沈められていくだけである。

そして脳天目掛け撃ち抜かれる新曲「HUNTING CHARM」。それは余りにもヨコハマ、あまりにもICE BAHN(アイスバーン/以下IB)であった。なんと今年活動二十周年、ハマのリビングレジェンドであるIBがのっけから放つのは「零、四、五」。もちろんハマの市外局番である。ラッパーが地元をレぺゼンする時市外局番はしばしば用いられる。IBがMTCに「ハマ」を背負わせた。これは大げさではなくHIPHOP史に残る「事件」である。かつて「フリースタイルダンジョン」においてハマの気鋭のラッパーDragon Oneに対して「まあ何を言うかはお前に任せるよ だがあの時代なら一週間以内に刺されるぞ」とこともなげにベッタリ踏んでハマの治安の悪さを筆者に刻み付けて切り捨てたあのIBが。FORKが。

それから後ももちろん凄い。怒涛だ。煮えたぎっている。ライム至上主義の名に恥じずIBの魂そのままに怒涛の押韻が成される歌詞は青い炎だ。この歌詞に負けることなく飼い慣らして自らの武器として扱うMTCの照準は既に優勝にしか向いていない。

シブヤVSヨコハマ

いや~……バトル曲三曲全部違って全部良いなんて金子みすゞもびっくりである。

オオサカVSイケブクロは王道VSエンタメの戦いであった。

ゴヤVSシンジュクはスタイルウォーズを超えた宗教戦争ですらあった。

果たしてシブヤVSヨコハマは――互いにとっての「壁の超え方」であった。

「Reason to FIGHT」。とはいえそれまでのバトルにも戦う理由はある。が、この二ディビジョンは特に重い。文字通り命がかかっている。

ヨコハマは1+1+1は3ではないという。十倍だぞ十倍

増幅される力。その力でもって彼らは拳を上げる。握りしめるうちにも更に脈打ち力強くなる様子が分かるようだ。そして振り下ろすのだろう。打ち砕くのだろう。壁を。その先へ向かおうとするのだろう。

他方シブヤは、自分たちは3で割れないという。大きな1。分かちがたき1。引っ張ってもちぎれない。伸びる。その柔軟さ。柔らかさ。とても柔らかいということはある種、何よりも固いということ。そのバネでもって彼らは飛び跳ねる。壁を超える。その先へ向かう。

「再生のverse」を経たFPはそうして凹んでは戻り、飛び跳ねる柔軟性で、引き金を引き続けるMTCは破壊によって壁に相対する。それはリーダー対決でも同じだ。

碧棺左馬刻は飴村乱数を絶対に許せないという。ぶん殴るという。一方で飴村乱数はそれをひらひらとかわす。実際のところ、神の視点を持つ視聴者はそれが誤解であることが分かっているが、あくまで彼は「みんなの知る飴村乱数」を演じ続ける。弁解をしない。恐らくそこには後悔もない。この悲しい訣別がこの後解消されることを祈るが、さておきその対決においては筆者は闘牛と闘牛士のごとく、飴村乱数が一枚上手であると感じた。

特に以前二試合と比べてバトルらしいバトルであったから、他二人も実際のMCバトル的な粗が気になる。理鶯の食事云々はステージの下のことをごちゃごちゃいうつまらないMCのようでいつもの彼らしくないし、入間巡査部長の「ナイトメア」と「泣いとけや」は踏みしだかれ過ぎて新鮮さの感じない押韻だ。

また、MTCの「死ぬときは前のめり」や「覚悟が違う」もこれまた神の視点から見てしまうと今まさに覚悟完了して前のめりにバトルをしているのがFPであるのでその後のFPのアンサーに素直にうなずいてしまった。

という訳で今回は特に悩みもせずシブヤ……としたいところなのだが今回、あまりにもお膳立てが良すぎて素直にそうできない「逆張りオタク」な自分がいることも確かである。こんな据え膳みたいな感じでいいのか!? シブヤ!? という思いがある。もちろん、彼らが望んでそうなったことでないことは分かっているのだが。運営はオオサカVSイケブクロを今回のテクニックを使って再編集して再配信してくれ。

そういうことでやっぱり悩んでいる筆者である。ていうかそろそろナゴヤVSシンジュクを決めなくては……。